日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第二章:偉大なる称号

062:私は宿屋の娘である、守銭奴ではない

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 早朝にもかかわらず、昼から享楽亭の従業員は今日も快活に入口を掃除していた。
 そんな宿屋の娘に流は片手を上げながら挨拶をする。

「お~い、おはよう宿屋の娘(掃除中)」
「あ! お客さーん。朝帰りとはいい御身分ですね? そしてなんか語尾に違和感が……」
「俺も何か変な感じがするが……何だ? まあ気にするな。それよりこれから寝るから絶対起こすなよ? お兄さんと約束だぞ? 絶対だぞ?」
「はいはい、ではごゆっくり~」

 部屋に戻るとカーテンを閉め、出来るだけ部屋を暗くして寝る用意をしてから共同浴場へと向かう。
 この価格帯では珍しいと聞いたが、この宿屋自慢の浴場はそれなりに広く、清潔であった。

「……どうしてこうなった? ギルドに冒険者登録へ行っただけなのに、命の危機にあい、SAN値を削られ、気が付けば大金持ちで称号付きだ」

 そんな事を考えながら、共同浴場にある熱いシャワーを浴びて部屋へ向かう。
 すると仕事熱心な宿屋の娘(不審者)が流の部屋の前にいた。

「お客さーん、朝ごはんですよ~」

 そう言うと宿屋の娘はドアを軽快にノックする。
 背後から近づく流、しかしそれを宿屋の娘(業務中)は気が付けない。

「お客さー。あ痛ダッ!? 何をするんですかお客さーん」

 流はごく自然に、宿屋の娘(困惑中)の後頭部にチョップをビシッと叩き込んでいた。
 そして向き直った宿屋の娘の正面へ、無表情でチョップを叩き込む。

「お前は、(ビシッ)何度、(ビシッ)言ったら分かるんだ!?(ズビシッ)」
「だって、(イダッ)今日、(イダッ)お小遣い無いんです!!(アイダッ)」

「お前は宿屋の娘として自覚を持て」
「お小遣いが無くなる悲劇なんです」

「え?」
「え?」

「悲劇なのは俺だ、寝るから来るなと言ったろう」
「自覚がないのはお客さんです、ここは宿屋です」

「え?」
「え?」

「ごめんな、あれか? チップを払わない俺に不満があると?」
「違いますよ、個人的にお小遣いをいっぱい欲しいだけです!」

(ニッコリ)
(にっこり)

 ズビビビッシ!!

 宿屋の娘(がんばってる)に、チップをあげない事に一瞬罪悪感を感じた流だったが、やっぱり宿屋の娘は宿屋の娘(守銭奴)のままだったので、安心して眠りについたのだった。


◇◇◇


 ふと目を覚ます、カーテン越しから差し込む光は柔らかくなっており、正午は過ぎている感じの背徳感の中、流はやっと起床する。

「ふわ~。……何時だ? もう日が高いな。さてまずは……」

 流は枕元に置いてある美琴を見る、何故か嬉しそうにしている感じがした。

「やっぱり美琴の手入れだな。美琴、昨日は本当にありがとうな。またお前に命を救ってもらったよ」

 美琴は嬉しそうに、ふるりと揺れる。
 流は荷物から美琴用に持ってきた、海島綿セントヴィンセントのタオルで優しく汚れを落とす。

 刀身は相変わらずの光沢で、刃毀はこぼれれは無論、傷一つ無い美しいままだった。

「う~ん。地面に突き刺したり、巨滅兵の大剣を弾いたりしたのにこの美しさか。美琴、お前は本当に美人で品があって最高にうつくっしいい!!」

 そう言うと流は美琴に頬ずりをする。誰が見ても相当危ない奴であった。
 もし宿屋の娘(仕事中)が見たら、憲兵隊への通報待った無しだったろう。

「しかし因幡が言っていた通り、本当にメンテフリーなんだな……打ち粉も、拭いも必要なければ、丁子油をひく事も要らないんだからなぁ。凄いよ美琴」

 まじまじと悲恋美琴を見る、すると刃紋の天女が恥ずかしそうにしていた。

「本当にどうなっているんだろうなこれ……。生きてるのは分かるが、天女はまた別の命があるようにも見える。そう言えば〆が言っていたな、悲恋美琴には『めい』と『命名』があると」

 通常、刀は銘が刀の名前になる事が多く、刀自体に名付けはほぼしないが、号としての「二つ名」的な物を付ける事がある。

 例えば一番有名な刀剣の代表格と言えば「草薙くさなぎの剣」だろう。

 その草薙の剣は本来「天叢雲剣あめのむらくものつるぎ」と言う。
 伝承では日本武尊ヤマトタケルが大火に襲われた草原を、天叢雲剣で薙ぎ払った事から、号としての二つ名である草薙の剣となった。

「そう考えるとやっぱり命名って不自然だよなぁ。まさか二つの魂があるとか……なのか?」

 不思議そうに天女を見ると、彼女はにっこりとほほ笑んでいた。

「うーむう、見れば見る程不思議だ。刀匠美琴か、こんな刀剣を創造するなんて一体どんな娘だったんだろうな」

 まるで恋に恋する乙女のように、流は刀匠であった頃の美琴への思いで一杯になる。
 それはどんなに美しい娘だったのだろうか? その死に様を思うと、せつない気持ちで胸が締め付けられる。
 だからこそ思うのだ、刀匠である美琴と――。

「会ってみたいな……」

 現実の娘より、過去に生きた娘に思いを馳せる流に、美琴も〝ぷるぷる〟と妖刀なのに震えていた。
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