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第三章:滅ぼす者と、領域者との出会い
067:たぬ爺は博識なのです
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「――と、いう訳なんだよウサ衛門」
「よく分からないけど、お客人お帰りなさいなのです! 心配したのですよ」
「しかし因幡って凄いウサギさんですね。一体その体はどうなっているんだ?」
流は因幡を抱っこすると、膝の上に乗せてお腹をモフモフしながら聞いてみる。
「ひゃあああ!? くすぐったいのです! 恥ずかしいからやめてほしいのです」
そう言うと因幡は顔を真っ赤にして照れているようだが、モフモフなので分からなかった。
「でも因幡って一番不思議だよな~手乗りサイズになれるし、今位の大きさ……あれ? 何かこう、大きくなってないか?」
じっくりと因幡を見ると、以前よりかなり大きくなっている気がした。
そこで椅子から立ち上がり、因幡を床に下ろして良く見る。
因幡も流を見上げるが、どうやら違和感があるようだ。
「え? ボクは何時もと同じなのですよ? ほえ? でもお客人の顔が近いのです」
「やっぱりお前大きくなってるよ、横にも大きくなったけど、縦の長さが大きくなった」
以前の因幡なら、顔の部分が流の膝上程の身長だったが、今は顔の部分が流の腰のあたりまで来ていた。
「やっぱり大きくなってる……」
「なのです……」
二人で顔を見合わせて不思議そうにしていると、風呂場からあの男、たぬ爺が姿を見せた。
「なんじゃ~? いつまでも来んから迎えに来たわい。ん? どうしたんじゃ?」
「実は――」
因幡と流はたぬ爺に不思議な事を説明すると、たぬ爺も不思議そうに首をひねる。
「ほんに大きくなっとるのう、成長期か?」
「成長期って、何百年生きてるんだよ」
「あ~、レディに向かってそう言う事を言ってはいけないのです! 失礼なのです」
「おっと、すまんすまん。で、たぬ爺分かるか?」
たぬ爺はしばらく考えていたが、やがて思い出したように腹をポンと叩く。
「そうじゃ~! これは間違いなく成長期じゃな。しかも特殊な」
「ほえ? そうなのです? こんな事は今まで一度も無かったのです」
「ほんにそうかの? 因幡は以前ムチムチのお嬢だったんじゃろ? その時はどうやって大きくなったんじゃ?」
そう言われて因幡も考えて見る、すると数百年前の出来事を思い出す。
「あああ!! 思い出したのです!! あの時も何か視点が上がったと思ってたら、いつの間にか綺麗なおねいさんになってたのです!」
「じゃろう? わしが思うに、因幡の成長の鍵は小僧、お主が原因じゃな」
「俺? 何でだよ?」
「まあなんじゃ、何時までも脱衣所で話していても仕方あるまい。湯に浸かりながら話してしんぜよう。因幡も来るがよい、別にモコモコなのだから恥ずかしくなかろう?」
「そ、そういうセクハラは良くないのです! ボクはここで待っているので、何か分かったら教えてほしいのです」
「相変わらず面倒な言葉を知っているウサギさんですね。じゃあ分かったら後で教えてやるから、〆の所で待っていてくれ」
そう言うと流はタオルを小脇に抱え、たぬ爺と四阿温泉郷へと向かう。
因幡はその後ろ姿を、なんとなく不安げに見守るのだった。
かけ湯をしてから、流は信楽焼のつぼ型の湯舟がある所へ来る。
今日の気分は青い釉薬が芸術的な色彩を放つ、コンセプトは「霧の海と日輪」と言う題名の風呂に入る事にする。
因みにその名称は流が命名した。
「ふぅ~、風呂の淵から望む景色の何たる絶景か……異世界で死にそうになっても、四阿温泉郷に来ると生きててよかった! と心底実感する」
「何を涙目になっとる小僧。ほれ、最近ワシのお気に入りの銘酒じゃ。呑んでみろ」
たぬ爺が持ってきた酒は甘口だったが、米の旨味が濃密に凝縮した酒だった。
「そのまま呑むのもいいが、ちと振ってから呑んでみい、その方が今日は良いじゃろうて」
おりがうっすらと沈殿した酒からは、とても甘くフルーティな吟醸香が立ち上っていた。
「これは……もち米か? なんと言うふくよかな味わいと香りだろう」
「じゃろう? そしてその喉越しの重厚感と言ったらたまらんわな」
「以外だな、たぬ爺はイメージ的に端麗なのが好みと思ってたが」
「ハッハッハ、何を言う小僧。それはそのまま呑むと端麗と感じる者も多い。それにな、ワシはどんな酒でも等しく愛でておるよ」
たぬ爺の「プロの酔っぱらい」の感性に感心しながら、流は銘酒を味わう。
「それでこの酒の銘柄は?」
「うむ、東北の銘酒で一〇万と言う。小僧が呑んどるのは正月になんかに販売するやつじゃな。今の小僧にはぴったりの味だろう?」
「ああ、そうだな……疲れた体が細胞から癒されるかのようだ……」
しばらく銘酒を楽しんでいると、たぬ爺がぽつりと話し出す。
「以前……と言うにはいささか時がたったが、今から三百年ほど前じゃったかな。因幡は人化した事がある」
「……そうなのか」
「驚かんようじゃな?」
「何だろうな、いつも因幡がそう言ってるからか、あまり驚かないと言うより、むしろ得心が行った感じだ」
「なるほどの。それで続きを聞くかね?」
「ああ、教えてくれ」
「うむ。ちと長くなるが、まあ聞いてくれ……」
そう言うとたぬ爺は浴槽の縁に座ると、滾々と語り始める。
「よく分からないけど、お客人お帰りなさいなのです! 心配したのですよ」
「しかし因幡って凄いウサギさんですね。一体その体はどうなっているんだ?」
流は因幡を抱っこすると、膝の上に乗せてお腹をモフモフしながら聞いてみる。
「ひゃあああ!? くすぐったいのです! 恥ずかしいからやめてほしいのです」
そう言うと因幡は顔を真っ赤にして照れているようだが、モフモフなので分からなかった。
「でも因幡って一番不思議だよな~手乗りサイズになれるし、今位の大きさ……あれ? 何かこう、大きくなってないか?」
じっくりと因幡を見ると、以前よりかなり大きくなっている気がした。
そこで椅子から立ち上がり、因幡を床に下ろして良く見る。
因幡も流を見上げるが、どうやら違和感があるようだ。
「え? ボクは何時もと同じなのですよ? ほえ? でもお客人の顔が近いのです」
「やっぱりお前大きくなってるよ、横にも大きくなったけど、縦の長さが大きくなった」
以前の因幡なら、顔の部分が流の膝上程の身長だったが、今は顔の部分が流の腰のあたりまで来ていた。
「やっぱり大きくなってる……」
「なのです……」
二人で顔を見合わせて不思議そうにしていると、風呂場からあの男、たぬ爺が姿を見せた。
「なんじゃ~? いつまでも来んから迎えに来たわい。ん? どうしたんじゃ?」
「実は――」
因幡と流はたぬ爺に不思議な事を説明すると、たぬ爺も不思議そうに首をひねる。
「ほんに大きくなっとるのう、成長期か?」
「成長期って、何百年生きてるんだよ」
「あ~、レディに向かってそう言う事を言ってはいけないのです! 失礼なのです」
「おっと、すまんすまん。で、たぬ爺分かるか?」
たぬ爺はしばらく考えていたが、やがて思い出したように腹をポンと叩く。
「そうじゃ~! これは間違いなく成長期じゃな。しかも特殊な」
「ほえ? そうなのです? こんな事は今まで一度も無かったのです」
「ほんにそうかの? 因幡は以前ムチムチのお嬢だったんじゃろ? その時はどうやって大きくなったんじゃ?」
そう言われて因幡も考えて見る、すると数百年前の出来事を思い出す。
「あああ!! 思い出したのです!! あの時も何か視点が上がったと思ってたら、いつの間にか綺麗なおねいさんになってたのです!」
「じゃろう? わしが思うに、因幡の成長の鍵は小僧、お主が原因じゃな」
「俺? 何でだよ?」
「まあなんじゃ、何時までも脱衣所で話していても仕方あるまい。湯に浸かりながら話してしんぜよう。因幡も来るがよい、別にモコモコなのだから恥ずかしくなかろう?」
「そ、そういうセクハラは良くないのです! ボクはここで待っているので、何か分かったら教えてほしいのです」
「相変わらず面倒な言葉を知っているウサギさんですね。じゃあ分かったら後で教えてやるから、〆の所で待っていてくれ」
そう言うと流はタオルを小脇に抱え、たぬ爺と四阿温泉郷へと向かう。
因幡はその後ろ姿を、なんとなく不安げに見守るのだった。
かけ湯をしてから、流は信楽焼のつぼ型の湯舟がある所へ来る。
今日の気分は青い釉薬が芸術的な色彩を放つ、コンセプトは「霧の海と日輪」と言う題名の風呂に入る事にする。
因みにその名称は流が命名した。
「ふぅ~、風呂の淵から望む景色の何たる絶景か……異世界で死にそうになっても、四阿温泉郷に来ると生きててよかった! と心底実感する」
「何を涙目になっとる小僧。ほれ、最近ワシのお気に入りの銘酒じゃ。呑んでみろ」
たぬ爺が持ってきた酒は甘口だったが、米の旨味が濃密に凝縮した酒だった。
「そのまま呑むのもいいが、ちと振ってから呑んでみい、その方が今日は良いじゃろうて」
おりがうっすらと沈殿した酒からは、とても甘くフルーティな吟醸香が立ち上っていた。
「これは……もち米か? なんと言うふくよかな味わいと香りだろう」
「じゃろう? そしてその喉越しの重厚感と言ったらたまらんわな」
「以外だな、たぬ爺はイメージ的に端麗なのが好みと思ってたが」
「ハッハッハ、何を言う小僧。それはそのまま呑むと端麗と感じる者も多い。それにな、ワシはどんな酒でも等しく愛でておるよ」
たぬ爺の「プロの酔っぱらい」の感性に感心しながら、流は銘酒を味わう。
「それでこの酒の銘柄は?」
「うむ、東北の銘酒で一〇万と言う。小僧が呑んどるのは正月になんかに販売するやつじゃな。今の小僧にはぴったりの味だろう?」
「ああ、そうだな……疲れた体が細胞から癒されるかのようだ……」
しばらく銘酒を楽しんでいると、たぬ爺がぽつりと話し出す。
「以前……と言うにはいささか時がたったが、今から三百年ほど前じゃったかな。因幡は人化した事がある」
「……そうなのか」
「驚かんようじゃな?」
「何だろうな、いつも因幡がそう言ってるからか、あまり驚かないと言うより、むしろ得心が行った感じだ」
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