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第四章:凶賊と、人類最高の【ざまぁ】はこちらです

086:【新しい依頼を受けよう! その名はリットンハイム】

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 冒険者ギルドは一階と二階が事務所兼酒場となっており、三階は完全なオフィス空間である。
 因みに四階と五階はギルマスの部屋になっているらしいが、今は王都へと急用が出来て行っているために不在らしい。

 そんなギルド三階にある通りに面した、日当たりの良いサブマスターの部屋へ流達は来ていた。

「……よく来たナガレ。私はお前と違って大変忙しいのは分かるな? まったく、私が一介の冒険者の対応とは……手短にさっさと要件をすませよう」

 そう言うと、サブマスは机の引き出しから一枚の用紙を取り出す。

「これは商業ギルドからナガレ、お前に指名依頼だ」
「また指名依頼か? 今日来たのは幽霊屋敷の指名依頼を完了したからなんだが?」
「何? まさかお屋敷街の例のやつか?」

 サブマスターのリットンハイムはエルシアを一瞥し、それにエルシアが答える。

「はい、間違いなく完了をしたと、商業ギルドよりの使者である『この人』が持って来ました」
「ええ『この人』の言う通り間違いありません。商業ギルドとしても保証します。それとこちらもギルドマスターのバーツより預かっております」

 リットンハイムはメリサからの書状を受け取ると、中身を確認する。
 少し眉をひそめながら手紙を読むと、流へと向き直り内容を話す。

「……さらに細かく追加か、ふむ。それでだ、ナガレに改めて指名依頼だが受けるか?」
「突然言われても困るんだが……内容によるな」
「当然だな、クエストの内容は『殺盗団の討伐』だ」

 殺盗団さっとうだん――以前、流がトエトリーに来る間に襲われたケモケモしい鎧を着たボーナスキャラ達である。

「殺盗団ってあれか、俺が追い払った連中の事だろ? 何でまた」
「そうだな……奴らの悪行は聞いているな? 最近は街道だけじゃなく、このトエトリー内でも活動を活発化している。衛兵や憲兵は無論対応しているが、言いたくは無いが内通者が居る。そして冒険者の中にもな……」
「内通者? そんなに居るのか?」

 その問いにリットンハイムは忸怩たる思いに近い感情となるが、話を続ける。

「例えばだ、衛兵や冒険者に武力を背景に脅しは効きにくい。だが殺盗団は狡猾でな。暴力は無論使うが、奴らの最大の脅威は諜報力と実行力だ」
「暴力以外にも何かするってのか?」
「その通りだ。まず奴らは金で篭絡し、次に女だ。特に女の問題は上部の人間ほど、社会的、政治的にも脅しの道具に使われやすい。そして金や女で弱みを握られたヤツが上役へ出世したら、その下の部署も丸ごと篭絡される事もあった。そしてその諜報力を駆使し、人間関係を利用したトラップ等、やってる事は他国からの諜報戦並みに酷い。いや、むしろ何でもありだからこっちの方が深刻だな」
「盗賊のくせにやる事が大胆だな……」
「ああそうだ。しかも連中は大物から小物まで内通者を集め、組織化している。その組織の人間はお互いが監視し合いながら活動しているので、裏切る事は困難な状況ってわけだ」

 地球でも似たような話があると思いながら黙って聞いていると、リットンハイムは驚く内容をさらに続ける。

「例えば身近なので言えば、ナガレが解決した屋敷の元の持ち主だが、こいつが内通者の一人だったので処刑された訳だ。地下倉庫があっただろう? そこに禁忌製の呪具や、さらった娘たち、更には亜人の奴隷や人間の奴隷もいたとの報告もある……無論こんなのは氷山の一角だ」

 そう疲れたように話すリットンハイムだったが、冒険者ギルドとして見過ごせないのはここからだった。

「そして冒険者の内通者は、初心者を始めとした力が弱い者達を主に狙って、クエストの最中に襲い掛かって来ると言う。更に酷いのは金品は奪う事は無論、男は皆殺し。女は犯された後に殺されると言う報告がある……この情報はたまたま助かった女の冒険者からの貴重な証言だったが、それで奴らの行動も分かったのだよ」

 大体は知っている内容とは言え、改めて聞くと吐き気がする所業だった。
 だがやられてばかりでも無いとリットンハイムは言う、その一つとして内通者がこちらにも居て、ある程度の情報が集まって来るが、中枢までは潜り込めないそうだ。

 そして――。

「そんな奴らが最近話題の金持ちに目を付けたらしい。その金持ちは『冒険者登録初日に』富と名声を手に入れ、私の財布を空にした悪党だと言う」
「チョットマテ、それは俺の事か!? まぁ++の称号まで貰ったから文句は無いが、アンタ、俺が負けると思ってたんだろ?」

 リットンハイムは遠い目になる。
 流、メリサ、エルシアはジト目になる。

「人は……失敗してこそ成長するものだ。時間が惜しい、話を戻そう。そのこちらの内通者からの情報では、ナガレが宿泊している場所を特定したらしく、そこへお前が戻るのを待って襲う計画らしいが……その様子ではまだのようだな?」

 昨夜は異怪骨董やさんに宿泊したから、戻らなかった事が幸いしたようだと流は胸をなでおろす。
 もし自分のせいで、あの仕事熱心な宿屋の娘(守銭奴)が襲われたらと思うとゾっとした。

「……なるほど、話は分かった。俺で良ければ受けよう」
「報酬は聞かないのか? 割に合わないかもだぞ?」

 一瞬考えるようなそぶりを見せる流だったが、商業ギルドの依頼だと思うと信頼がおける事を思い出す。
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