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第五章:殺盗団を壊滅せよ

159:アニキ

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「あ~。もう気が付かれたか……やれやれだ。俺ってば、やっぱり忍者に不向きだな」

 自分の隠密性の欠片の無さにガッカリしていると、外では騒ぎになり始める。

「おい! 今の音は何だ? 誰か見てこい」
「ッ!? 大変です! 詰所つめしょが破壊されています!」
「何だと!? オイ、お前ら全員武装して原因を探れ、急げ!!」

 そんな大声と共に、慌ただしく足音が廊下を駆け巡る。
 するとドアがノックされ、男が飛び込んで来る。

「た、大変です! 詰所が攻撃されました!」
「なぬぅ!? それはタイヘンダ!」
「え、誰?」
「え、俺だけど?」
「だから誰だよ!」
「オレだよ、オレオレ、流だよ! だから寝とけ」

 オレオレ詐欺も真っ青な、俺様りゅうの不殺閃で雑魚を廊下へ吹き飛ばす。
 途端、廊下に出ている殺盗団の残党は流へと注目する。

「や~だ~。そんなに見つめちゃ~俺、照れちゃう。照れちゃうついでに言うと、だ。お前ら無駄な抵抗はやめて、大人しくすれば痛い思いをしないで済むぞ?」
「何だこのフザケタ野郎は! ちっ、コイツだ。全員で掛かれ!!」

 左右から挟撃される流は、両方の攻撃が当たりそうになってから軽いステップで元いた部屋へと戻る。
 そこへお互いが斬り合う形になり、負傷したのを確認すると、入口方面の敵に向けて逆刃で殴り倒す。

「ふぅ……手練れが聞いて呆れる。お前ら本当に殺盗団の手練れなのか?」
「な、何だコイツは……ありえねぇ! お前ら飛び道具で攻撃しろ!」
「「「「ヘイ!」」」
「それでどうにかなると思ってるんだから、おめでたいね」

 流は迫るナイフを次々と弾き返すと、そのまま裂帛の気合で斬り込む。

「オオオオオオオオオオ!!」
「ヒィ!?」「なッ!?」「ッ……」

 流の気合なのか、美琴の妖力なのか、殺盗団は硬直をして動かなくなる。
 それを次々と逆刃で薙倒し、指示を出していた男へと迫る。

「クギャァアァガアア!?」

 そのまま男の右肩へ美琴を突き立て、壁へと縫い付ける。

「だから言ったろう、痛い思いをするぞって? で、最後のチャンスだ。この上に太ったネズミ……アレハンドはいるな?」

 男は流が本気だと目を見て確信し、震える声でその問いに答える。

「は、はい。います! だから命だけはッ」
「誰の命の事かは知らんが、お前は終わりだよ」
「そ、そんな話が違――」

 美琴を抜き取ると、鳩尾へ膝蹴りを食らわせ男を気絶させる。

「終わりは終わりでも、人生がって意味だ。約束は『今は』守るさ。ダンジョン奴隷になった後は知らんがな。さて……この上か」

 目の前の階段を見上げながら気配察知で探る。
 上も大慌ての様子で、人が動いているようだった。

「行くか……」

 階段をゆっくりと上る。すると喧騒の中に、一際ヒステリックな大声が徐々に聞こえてくる。
 どうやらその声の主が「目標のアレハンド」らしく、その話の内容も聞えて来る。

「早くしろ!! 詰めるだけ詰め込んだら、さっさと緊急脱出路から逃げるぞ!」
「しかしアレハンドさん、何処に逃げるんですかい? オルドラ大使館はもう制圧されているはずですよ?」
「くぅ……仕方ない、オルドラへと逃げる!!」
「分かりやした。報酬は弾んでくれるんでしょうね?」
「こんな時に金の話か!? 屑どもがッ」
「こんな時だからですよ、俺達が襲撃者を撃退するんですからね。報酬は五倍でどうです?」
「くっそ……足元を見やがって。分かった、それで頼む。しっかり仕事をしろよ?」
「へっへっへ。言われるまでもありませんよ」
「ではオレは行く!」
「はいはい、お気をつけて」
「心にもない事を……」

 そんなやり取りが聞こえた流は、流石に焦る。

(まずい、逃げられる!?)

 逃がしてはなるものかと駆け足で最奥の部屋へと駆けつけ、二枚扉の右のドアを蹴り破る。

「ようこそ、誰か知らない馬鹿な猟犬め。順風満帆な飼い犬稼業も今日でお終いだ!」

 部屋に入るなりいきなり戦闘になるかと思えば、なんとも間の抜けた事を面白そうに言い出す男がいた。
 よく見ると、部屋の中には既に三人しかいなくなっており、流へマヌケな宣言をした男は腰に手を当てて、流へとビシっと指を差して指摘する。

「え? それって自己紹介ですか? 高等すぎてありがとうございます!!」
「あ~ら、これは一本取られたなぁ~。はっはっは」
「アニキ、笑ってる場合じゃねーぜ」
「まったくアニキには困ったものよね」
「そう言うな二人とも。さてさて、ここは三人で一気にやろうじゃないか」
「とか言って、何時も動かないくせに」
「んまぁ!? 口が悪いですよ、イリス」
「姉貴の言う通りだ、全く困ったアニキだぜ」
「あ~ら!? 酷くね? ラーゼはアニキをもっと敬うべきだと思うんだよ、うん」

 そんな軽口を叩き合う三人に、明らかに他者と違う強者の気配を感じる。そんな間違いなく「プロ」と言える雰囲気をまとう目の前の存在に、流は背筋に冷たいものが落ちるのを感じるのだった。
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