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第六章:商いをする漢
188:香辛料の価値
しおりを挟む三階のマスタールームへ来ると、相変わらず中は忙しいようで、職員が出入りをしてるのが見える。
「うわぁ忙しそう。やっぱりまた今度来るよ」
「いえいえ、少しお待ちを」
そう言うとメリサはバーツの元へと赴く。
「ギルドマスター、ナガレ様がおいでになりました」
「何! すぐに通せ。悪いがお前達、この件は三人に任せるから事後報告だけ頼む」
「はい、承知しました」
部屋から三人が出て来ると、流へ昨日のお礼を言ってから立ち去っていく。
その後部屋へと流達は入って行くと、バーツは歓迎するように両手を広げ立ち上がる。
「お~ナガレ! 昨日はご苦労だったな。それにファンもゴミ掃除が出来たようでなによりだ」
「いえ、こちらもお忙しいのにお邪魔してすみません」
「こっちもお陰で助かってるぜ、オヤジ」
「うむうむ、よく来た。座ってくれ、メリサお前の分も含めてお茶をよろしく頼む」
「はい」
メリサが部屋を出て行くと早速話し始める。
「それで今日はどうしたんだ? ファンまで連れて」
「ファンは丁度ホールで会ったもので連れて来たのですが、今日は俺が新しい商売をしようと思いまして、その許可を貰いたくて来ました」
「ほほう……ナガレの品とは実に興味深い。それで一体何を商うんだ?」
「まずはコレを見て下さい」
流は魔具のアイテムバッグから、次々と箱を取り出す。
「これは?」
「この箱の中にあるのは『香辛料』です」
「なに、香辛料だと? しかもこんなに沢山あるのか」
「スゲーな、こんな量は中々無いぞ?」
「いえいえ、この箱一つに付き一種類の香辛料となっています」
「何だと!? 全て違う種類だと言うのか?」
「マジかよ……」
「ええ、この箱全てが別々の物ですね、例えば……」
流はまずコショウの箱を開ける、その次にターメリック、カルダモン、クローブ等ハーブも含めた物をテーブルへと並べる。
「こ、こんなにあるのか……」
「まだ用意出来ますが、一応こんな感じですね。この国でも流通している物があるようでしたので、被っている物は省く予定でいますので、もう少し少くなるかもしれません」
「ナガレ! コイツはスゲーぞ。これコショウだろ? 最近は少しは安定的に入ってるが、まだまだ品薄だ」
「ああ、ファンの言う通りだ。それに見たことも無いものも多くある。これは間違いなく売れるし、高値になるだろう」
その話を聞いた流は思う。ここであまり高値にしすぎると、結果的に得る金額は少なくなると。
一部の裕福層に売れてもたかが知れている量しかさばけないし、それが高価と言っても、単価を低くして国全体に売った方が遥かに儲かると推測する。
「高値と言うと、例えばこのコショウの箱でいくら位でしょう?」
「そうだな、ちょっと待ってろ」
バーツはそう言うと壁にある棚へと向かい、そこから「天秤はかり」を持ってくると、箱から取り出したコショウを量る。
「この一袋で大体十グラムか……なら一袋今の相場で金貨一枚だな」
「それはまた大金ですね……(って、あの屋台のオヤジ、そんな物出してくれたのかよ)」
「そりゃそうだぜ、それでもコショウはまだ安い方だ。さっきも言ったが、最近は少し入る様になったからな」
「そうなのか、なら他のはどうでしょう?」
「そうだな、例えば俺の知ってるのだとこれ、このカルダモンだな。これ一粒で金貨一枚だ」
「「え!?」」
思わずファンと共に固まる流。
「オヤジ、それそんなにするもんなのか?」
「ああ、このカルダモンは聖なる木と呼ばれる木にしかならんものでな、この国にもあるんだが、一般的に流通はしていない。主に祭事や王族のみが食す事が出来る物だ」
「そんなに貴重なのかよ……それがこんなに沢山」
「俺も驚きましたよ、まさかそう言う品になってるとはね」
「他のも調べたら間違いなく高額だろう、そもそも香辛料自体がこの国には少ないのだからな」
その時メリサが戻って来てドアを開けると、驚いたように話し出す。
「お待たせしました、お茶をお持ちしました。って、何ですこの香は? 凄く刺激的でいい香りがしますね」
「ハッハッハ。メリサもこっちへ来て座りなさい。見なさいこれを、宝の山だ」
「これは……まさか香辛料ですか!? 凄い、こんな色々な種類が……」
「驚いたろう? 今度これを売ろうと思ってな」
「まあ、それは素晴らしいですね! 私達の食も豊かに……あ、でも高価ですものね」
一瞬喜ぶも、香辛料の価値を思い出しシュンとするメリサ。
「うむ、だからこれは上級貴族用になるだろうな」
「それなんですがバーツさん。この香辛料はある程度安く売るつもりでいます」
「な、なんだと!? それでは運送コストで儲からない、いや赤字になるのではないか?」
ファンもメリサもその話に驚きながらも、流の話の続きをじっと待つ。
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