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第七章:新たな力を求めるもの
249:妖力の代償
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249:妖力の代償
――あれは一体、何だったんだろう?
気が付くと心地よい潮風が頬を撫で、太陽は地平線にしがみ付くように落ちかけていた。
先程と似たようなシチュエーションだったが、そこは最近馴染みの空間である事をぼんやりと認識する。
徐々に覚醒しはじめた流は、上半身を起こそうとする。右手を支えに起き上がろうとした時、ふと手に硬い感触があり、意識を向けるとそれは美琴だとすぐに気が付く。
「美琴? なぁ、俺と夢の中で会っていたよな?」
『…………?』
「お前もそんな気がするのか? んんんん?」
妖刀も夢を見るのかと不思議に思ったが、妖刀だからそう言う物かと何となく納得しながらも、現在の不自然な状況に首をかしげる。
「そう言えば俺は確か、前ちゃん達と修行をしていたんだよな? そして円柱石を斬って、その後……あれ? どうしたんだっけ?」
『…………』
「あぁそっか。それであんな夢を見たのか。ってお前、夢の中で普通に話していたろ!?」
『…………』
「寝ぼけているだけだって? まぁ、そう言われると何とも言えないが」
夢か現実か良く分からないが、妙にリアルな経験だったと首をかしげる。
ただ美琴に「食われかけた」と言う事と、それが自分の未熟が原因だと思い出すと美琴に申し訳が無くなり、誤魔化すように思わず美琴を一撫でする。
「色々すまなかったな、心配したろう?」
『…………』
「ははは、拗ねるなよ。今後は気を付けるさ」
『………………』
「ああ、それが原因だろうな。しかしあれは、何と言うか……今思い出すと『強烈な死』を感じたな」
流は意識を失う直前の「原因」について思い出す。
美琴と妖力を同期化する事に意識を集中し、その後「妖気の刃」を理想の形に纏わせた直後だった。
突如悲恋美琴〝そのもの〟が流の中へと流入したかと思うと、流の魂とも言える「心の奥底にある根幹」のような物が、引き抜かれるのを感じた。次の瞬間、強制的に意識が飛び消えた。
(あの永遠に、加速度的に奈落へと落ち続けるような感覚……。あれは美琴がこの世を呪った一部だったのか? だとしたら何とも壮絶な思いなんだろうか)
美琴の莫大な妖力。その根源の淵を覗き見ただけで、自分の魂を少し食われた事に背筋が〝ざわり〟とするが、それを克服しないと美琴を使いこなせないと実感する。
逆にそれを使いこなす事が出来ればと思うと、美琴の「莫大な妖力を自在に使える事の嬉しさ」に魂が震えてくる。それは実に甘美な事だと、口角を上げた流は――。
「クッ……。くくく、ははははは! やっぱり美琴、お前は最高だよ!」
突如笑い出す領域者に少し引き気味の美琴は、フルリと震えたと同時に流がその手に持って立ち上がる。
『…………』
「ああ、これからだ。お前を使いこなしてみせるから覚悟しとけよ?」
『…………』
美琴は仕方ないなぁと、流へと語りかけるも、心は温かくなるのだった。
◇◇◇
「――つまり悲恋美琴が暴走を引き起こす、と?」
そんな冷めた言葉が〆の口から出ると、列席している一同の表情が硬くなる。
ここは水上コテージの一室。流が寝ている棟から離れた場所にあるこの場所には、異怪骨董やさんの三兄妹と、鬼の夫婦が円卓を囲んでおり、〆の背後には執事のアルルギルが冷や汗を流していた。
「あくまでその可能性があると言う事だがよ。今のガキんちょでは美琴を使いこなせていないぜよ」
「それはアタシも同意見さね。美琴ちゃんはあまりにも強力すぎる妖刀だよ。その力をあそこまで使いこなせる事には驚くけれど、深い所まで繋がっちまうと、今回のように『呑まれる』事になるさね」
「フム。最悪取り殺される……と、言う事ですかな」
「参、もう少し言葉を選ばんかい。しかしそうは言っても古廻はんは絶対に美こっちゃんを手放したりはせえへんやろ?」
「ええ、古廻様は絶対に美琴を手放したりは致しません。むしろ使いこなすために必死に道をお探しになるでしょう」
その言葉に、鬼の夫婦も先程の光景を思い出す。
気絶しながらも、流は美琴をしっかりと握りしめ、無理に手から放そうとしても指が開かなかったのだから。
アレは思いとか、力が強いとか、そう言うものではないと夫婦は思う。
「確かにそうなんだろうね、気絶した坊やから美琴ちゃんを預かろうと思っても、まったく離さなかったからねぇ」
「そうが。だから提案なんだっちゃが、美琴を一時封印してはどうが?」
その提案に一瞬考える〆。しかし流の性格を考えるとそれは逆効果だと思う。
「それは何の解決にもなっていませんよ。逆に美琴を使いこなすのを先延ばしにする悪手です」
「全くその通りだな」
入口から不意に聞こえた馴染みの声に、一同の視線が集まる。
そこには流が壁を〝コンコンコン〟と三回、右手中指の第二関節で軽く叩く仕草をしながら「おっと、三回じゃ礼儀がなってないかな?」と言いながら入って来るのが見える。
――あれは一体、何だったんだろう?
気が付くと心地よい潮風が頬を撫で、太陽は地平線にしがみ付くように落ちかけていた。
先程と似たようなシチュエーションだったが、そこは最近馴染みの空間である事をぼんやりと認識する。
徐々に覚醒しはじめた流は、上半身を起こそうとする。右手を支えに起き上がろうとした時、ふと手に硬い感触があり、意識を向けるとそれは美琴だとすぐに気が付く。
「美琴? なぁ、俺と夢の中で会っていたよな?」
『…………?』
「お前もそんな気がするのか? んんんん?」
妖刀も夢を見るのかと不思議に思ったが、妖刀だからそう言う物かと何となく納得しながらも、現在の不自然な状況に首をかしげる。
「そう言えば俺は確か、前ちゃん達と修行をしていたんだよな? そして円柱石を斬って、その後……あれ? どうしたんだっけ?」
『…………』
「あぁそっか。それであんな夢を見たのか。ってお前、夢の中で普通に話していたろ!?」
『…………』
「寝ぼけているだけだって? まぁ、そう言われると何とも言えないが」
夢か現実か良く分からないが、妙にリアルな経験だったと首をかしげる。
ただ美琴に「食われかけた」と言う事と、それが自分の未熟が原因だと思い出すと美琴に申し訳が無くなり、誤魔化すように思わず美琴を一撫でする。
「色々すまなかったな、心配したろう?」
『…………』
「ははは、拗ねるなよ。今後は気を付けるさ」
『………………』
「ああ、それが原因だろうな。しかしあれは、何と言うか……今思い出すと『強烈な死』を感じたな」
流は意識を失う直前の「原因」について思い出す。
美琴と妖力を同期化する事に意識を集中し、その後「妖気の刃」を理想の形に纏わせた直後だった。
突如悲恋美琴〝そのもの〟が流の中へと流入したかと思うと、流の魂とも言える「心の奥底にある根幹」のような物が、引き抜かれるのを感じた。次の瞬間、強制的に意識が飛び消えた。
(あの永遠に、加速度的に奈落へと落ち続けるような感覚……。あれは美琴がこの世を呪った一部だったのか? だとしたら何とも壮絶な思いなんだろうか)
美琴の莫大な妖力。その根源の淵を覗き見ただけで、自分の魂を少し食われた事に背筋が〝ざわり〟とするが、それを克服しないと美琴を使いこなせないと実感する。
逆にそれを使いこなす事が出来ればと思うと、美琴の「莫大な妖力を自在に使える事の嬉しさ」に魂が震えてくる。それは実に甘美な事だと、口角を上げた流は――。
「クッ……。くくく、ははははは! やっぱり美琴、お前は最高だよ!」
突如笑い出す領域者に少し引き気味の美琴は、フルリと震えたと同時に流がその手に持って立ち上がる。
『…………』
「ああ、これからだ。お前を使いこなしてみせるから覚悟しとけよ?」
『…………』
美琴は仕方ないなぁと、流へと語りかけるも、心は温かくなるのだった。
◇◇◇
「――つまり悲恋美琴が暴走を引き起こす、と?」
そんな冷めた言葉が〆の口から出ると、列席している一同の表情が硬くなる。
ここは水上コテージの一室。流が寝ている棟から離れた場所にあるこの場所には、異怪骨董やさんの三兄妹と、鬼の夫婦が円卓を囲んでおり、〆の背後には執事のアルルギルが冷や汗を流していた。
「あくまでその可能性があると言う事だがよ。今のガキんちょでは美琴を使いこなせていないぜよ」
「それはアタシも同意見さね。美琴ちゃんはあまりにも強力すぎる妖刀だよ。その力をあそこまで使いこなせる事には驚くけれど、深い所まで繋がっちまうと、今回のように『呑まれる』事になるさね」
「フム。最悪取り殺される……と、言う事ですかな」
「参、もう少し言葉を選ばんかい。しかしそうは言っても古廻はんは絶対に美こっちゃんを手放したりはせえへんやろ?」
「ええ、古廻様は絶対に美琴を手放したりは致しません。むしろ使いこなすために必死に道をお探しになるでしょう」
その言葉に、鬼の夫婦も先程の光景を思い出す。
気絶しながらも、流は美琴をしっかりと握りしめ、無理に手から放そうとしても指が開かなかったのだから。
アレは思いとか、力が強いとか、そう言うものではないと夫婦は思う。
「確かにそうなんだろうね、気絶した坊やから美琴ちゃんを預かろうと思っても、まったく離さなかったからねぇ」
「そうが。だから提案なんだっちゃが、美琴を一時封印してはどうが?」
その提案に一瞬考える〆。しかし流の性格を考えるとそれは逆効果だと思う。
「それは何の解決にもなっていませんよ。逆に美琴を使いこなすのを先延ばしにする悪手です」
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