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第七章:新たな力を求めるもの
248:悲恋美琴~大樹の独白
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「これが出来るまでやってみるがよ。まあ、最初は斬る事は無理でも、傷つけられたら上出来だぜよ」
「いきなりハードなオーダーだな。よし、やってみるか」
「最初は美琴を、円柱石に当てた状態からやって見るといいぜよ」
「逆に難しそうだが、前ちゃんがそう言うならやってみる」
流は〝スッ〟と腰を少し低くくし、そのまま斜めに円柱石へと美琴を当てる。
そこから妖力を美琴から貰い、体内で還元した後に美琴の刀身へと流す。
徐々にではあるが、美琴に妖力をフィードバックするのではなく、美琴その物へ纏わせる事の感覚を掴む。
紫の妖気が美琴を包み込むように〝ぼんやり〟と不格好に纏わりつく。
その様子は紫色の綿菓子のようでもあり、蚕の繭のようでもあった。
静かに、だが鬼気迫る表情で微動だにしない流の額から、滲む汗が眉から滴り落ち目に入る。が、流は何事も無いように瞬き一つせず美琴を凝視する。
その様子を前鬼と後鬼は食い入るように見つめ、善吉は両の拳を固く、固く、握りしめる。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥ」
その時だった。流が息を細く、そして長く吐き出すと「ソレ」が起こる。
ぼんやりと纏わりついていた紫の妖力が、美琴の最先端である切先に集中したかと思うと、その後ろの部位である物打ちへと紫の輝く線が伸び、やがて刃を伝い刃の付け根である刃区へと至る。
そして最後は紫の怪しげな光が刃文全体に広がりきると、流はおもむろに美琴を自然に振り下ろす。
すると前鬼がやった時のような鈍い石と石が擦り合わさる、ある意味不快な音では無く、金属音のような、もしくは硬質な固体が鋭利な何かで斬られたような、石とは思えない〝コキーン〟と言う音が響き渡る。
「ガキんちょ!?」「坊やッ!?」「流!! これは……失敗、か?」
三人の驚く声が聞こえている様子も無く、流はそのまま美琴を振り下ろしたまま固まっている。
その様子に再度声を掛けようと、後鬼が流へと手を伸ばすが途中でやめる。
「坊や……。どんだけ集中すればそんなになるさね。アンタ、坊やを」
「ああ分かっちょるが。善吉、ガキんちょを背負うてくれ」
「は、はい。それは構いませんが……失敗したショックで気絶したのか?」
善吉は今だ動かない流を正面から見る。
その姿は鬼気迫る顔で、目を見開きながら気絶した流がそこにいた。
善吉はその姿を見てから円柱石を見る。
流は美琴を振り抜いているようだった。しかし傷一つ無い円柱石が、流れをあざ笑うかのように鎮座しており、その形を保持したままだった。
その様子に善吉は流が失敗したと思い、苦々しく円柱石を凝視しながら流を背負う。
「失敗? はん、善吉。だからお前はまだまだなんがよ」
「そうさね、見なよ」
後鬼が円柱石を小指で軽く押す。
すると今まで傷一つ無かった円柱石に斜めに線が入ったかと思うと、潤滑油でも塗られたかのかと思う程静かに、そしてゆっくりと斜め下にズレ落ちる。
さらにそのズレ落ちた円柱石は、石床に落ちた瞬間、床に真っ直ぐな亀裂が数メートル走り、その亀裂に落ちた円柱石の切り口の先端が挟み込まれたまま倒れず直立する。
「こ、これは一体!?」
「これも何も無いがよ。ガキんちょが斬ったんがよ」
「しかも床までね。ほら、ここの窪みを見なよ。まるで誂えたかのように、斜めに斬り落とされた円柱石の先端が〝スッポリ〟と嵌り込んでいるさね」
その様子に善吉は絶句する。
失敗したかと思っていたが、実は前鬼のオーダーをこなしたばかりか、さらにその上を行く成果を出していたのだから。
「凄すぎるだろう、これ……」
「まったくだねぇ。はぁ~、お嬢に何て言ったらいいかね」
「心配するなと言ったばかりで、こんなんを見せられたら流石に肝が冷えるがよ」
三人は呆然と円柱石を見つめ、その場から動こうとしなかった。
◇◇◇
――気が付けば、どこまでも広がる草原に流はいた。
空は果てしなく澄みきり、風は春風のように心地よく、太陽は無いのに優しく降り注ぐ光を見つめてる自分が不思議だった。
その妙に非現実的な空間を見渡す流をまるで後押しするかのように、心地よい草原の風が視線の先を誘導する。
そんなどうしようもなく快適な夢心地に流が浸っていると、右手に丘があり、その丘の上にある「とてつもない大きさの大樹」の根本に人影を見つけた。
不思議に思いながらも、流はその影へと歩み寄ると……。
「なんだ、人影かと思ったらお前か」
それは大樹によりかかる様に、立てかけられている悲恋美琴だった。
『…………』
「なに、気にしていないさ。俺が未熟だったからお前に呑まれた。それだけの事だろ?」
『……、…………』
「馬鹿だな、泣くなよ。嫌いになる訳が無い、むしろますます好きになった程だ。俺の骨董愛を舐めるなよ?」
『…………!!』
「命、か。それも先日言ったろう? 俺はお前に取り殺されるなら本望だってな」
「またそんな事を言って!! どうして……いつも、いつも貴方はいつもそうなんですか!!」
美琴は泣きながら、縋る様に、そして懇願するように流へと叫ぶ。
その声は不安げに震えており、いつ流の命を吸い取るかもしれないと、恐怖が貼り付いた悲鳴のように泣き叫ぶ。
「もう、私を捨ててください!! 貴方を喰らうくらいなら錆び朽ちた方が――」
「馬鹿女郎!!!!!!!!!!」
「え……?」
流は美琴の言葉を無視するように、怒髪天を突く勢いで怒りを込め一喝する。
その見た事も無いような怒りに、美琴は泣く事も忘れ呆然となる。
そして静かに、しかし怒涛の如く、美琴への領域者としての覚悟を、流は独白するかのように語りだす。
「お前、二度とくだらない事を言うな。いいか、お前は俺の物だ。それは未来永劫変わらない事実だ。例えどこにお前が隠れようと必ず見つけ出す。それが深海の底だろうが、火山の溶岩の中でもだ。それでも隠れようと別の異世界へ逃れても必ず見つけ出す、必ずだ……。それが俺のお前のへの覚悟だ、分かったな!!」
「ひゃ、ひゃい!!」
本気の怒りからの愛の告白(?)を受け、美琴は悲しい気持ちを忘れてカミカミの返事をするのが精一杯になる。
異世界から、さらに別の異世界へとまで追ってくると言う、領域者の本気を知り、あらためて『古廻 流』オソルベシと、美琴は内心で思うのだった。
「いきなりハードなオーダーだな。よし、やってみるか」
「最初は美琴を、円柱石に当てた状態からやって見るといいぜよ」
「逆に難しそうだが、前ちゃんがそう言うならやってみる」
流は〝スッ〟と腰を少し低くくし、そのまま斜めに円柱石へと美琴を当てる。
そこから妖力を美琴から貰い、体内で還元した後に美琴の刀身へと流す。
徐々にではあるが、美琴に妖力をフィードバックするのではなく、美琴その物へ纏わせる事の感覚を掴む。
紫の妖気が美琴を包み込むように〝ぼんやり〟と不格好に纏わりつく。
その様子は紫色の綿菓子のようでもあり、蚕の繭のようでもあった。
静かに、だが鬼気迫る表情で微動だにしない流の額から、滲む汗が眉から滴り落ち目に入る。が、流は何事も無いように瞬き一つせず美琴を凝視する。
その様子を前鬼と後鬼は食い入るように見つめ、善吉は両の拳を固く、固く、握りしめる。
「フゥゥゥゥゥゥゥゥ」
その時だった。流が息を細く、そして長く吐き出すと「ソレ」が起こる。
ぼんやりと纏わりついていた紫の妖力が、美琴の最先端である切先に集中したかと思うと、その後ろの部位である物打ちへと紫の輝く線が伸び、やがて刃を伝い刃の付け根である刃区へと至る。
そして最後は紫の怪しげな光が刃文全体に広がりきると、流はおもむろに美琴を自然に振り下ろす。
すると前鬼がやった時のような鈍い石と石が擦り合わさる、ある意味不快な音では無く、金属音のような、もしくは硬質な固体が鋭利な何かで斬られたような、石とは思えない〝コキーン〟と言う音が響き渡る。
「ガキんちょ!?」「坊やッ!?」「流!! これは……失敗、か?」
三人の驚く声が聞こえている様子も無く、流はそのまま美琴を振り下ろしたまま固まっている。
その様子に再度声を掛けようと、後鬼が流へと手を伸ばすが途中でやめる。
「坊や……。どんだけ集中すればそんなになるさね。アンタ、坊やを」
「ああ分かっちょるが。善吉、ガキんちょを背負うてくれ」
「は、はい。それは構いませんが……失敗したショックで気絶したのか?」
善吉は今だ動かない流を正面から見る。
その姿は鬼気迫る顔で、目を見開きながら気絶した流がそこにいた。
善吉はその姿を見てから円柱石を見る。
流は美琴を振り抜いているようだった。しかし傷一つ無い円柱石が、流れをあざ笑うかのように鎮座しており、その形を保持したままだった。
その様子に善吉は流が失敗したと思い、苦々しく円柱石を凝視しながら流を背負う。
「失敗? はん、善吉。だからお前はまだまだなんがよ」
「そうさね、見なよ」
後鬼が円柱石を小指で軽く押す。
すると今まで傷一つ無かった円柱石に斜めに線が入ったかと思うと、潤滑油でも塗られたかのかと思う程静かに、そしてゆっくりと斜め下にズレ落ちる。
さらにそのズレ落ちた円柱石は、石床に落ちた瞬間、床に真っ直ぐな亀裂が数メートル走り、その亀裂に落ちた円柱石の切り口の先端が挟み込まれたまま倒れず直立する。
「こ、これは一体!?」
「これも何も無いがよ。ガキんちょが斬ったんがよ」
「しかも床までね。ほら、ここの窪みを見なよ。まるで誂えたかのように、斜めに斬り落とされた円柱石の先端が〝スッポリ〟と嵌り込んでいるさね」
その様子に善吉は絶句する。
失敗したかと思っていたが、実は前鬼のオーダーをこなしたばかりか、さらにその上を行く成果を出していたのだから。
「凄すぎるだろう、これ……」
「まったくだねぇ。はぁ~、お嬢に何て言ったらいいかね」
「心配するなと言ったばかりで、こんなんを見せられたら流石に肝が冷えるがよ」
三人は呆然と円柱石を見つめ、その場から動こうとしなかった。
◇◇◇
――気が付けば、どこまでも広がる草原に流はいた。
空は果てしなく澄みきり、風は春風のように心地よく、太陽は無いのに優しく降り注ぐ光を見つめてる自分が不思議だった。
その妙に非現実的な空間を見渡す流をまるで後押しするかのように、心地よい草原の風が視線の先を誘導する。
そんなどうしようもなく快適な夢心地に流が浸っていると、右手に丘があり、その丘の上にある「とてつもない大きさの大樹」の根本に人影を見つけた。
不思議に思いながらも、流はその影へと歩み寄ると……。
「なんだ、人影かと思ったらお前か」
それは大樹によりかかる様に、立てかけられている悲恋美琴だった。
『…………』
「なに、気にしていないさ。俺が未熟だったからお前に呑まれた。それだけの事だろ?」
『……、…………』
「馬鹿だな、泣くなよ。嫌いになる訳が無い、むしろますます好きになった程だ。俺の骨董愛を舐めるなよ?」
『…………!!』
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美琴は泣きながら、縋る様に、そして懇願するように流へと叫ぶ。
その声は不安げに震えており、いつ流の命を吸い取るかもしれないと、恐怖が貼り付いた悲鳴のように泣き叫ぶ。
「もう、私を捨ててください!! 貴方を喰らうくらいなら錆び朽ちた方が――」
「馬鹿女郎!!!!!!!!!!」
「え……?」
流は美琴の言葉を無視するように、怒髪天を突く勢いで怒りを込め一喝する。
その見た事も無いような怒りに、美琴は泣く事も忘れ呆然となる。
そして静かに、しかし怒涛の如く、美琴への領域者としての覚悟を、流は独白するかのように語りだす。
「お前、二度とくだらない事を言うな。いいか、お前は俺の物だ。それは未来永劫変わらない事実だ。例えどこにお前が隠れようと必ず見つけ出す。それが深海の底だろうが、火山の溶岩の中でもだ。それでも隠れようと別の異世界へ逃れても必ず見つけ出す、必ずだ……。それが俺のお前のへの覚悟だ、分かったな!!」
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