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第七章:新たな力を求めるもの
259:狂気へと
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石畳をさらに調べた後、流は離れへと戻って休む事にする。
部屋へ入るとすでに布団が敷いてあり、何時でも休めるようになっていた。
「うぅ~ん。高級旅館のような寝心地だ…………。ってだめだろ! 思わず寝てしまうところだった。なんて危険な布団なんだこれは」
そう思いながらも思わず〝うつらうつら〟としてしまう魔性の布団に誘惑されながら、浅い眠りから覚醒させるように、離れの入り口に提灯の明かりが灯る。
「もし、もし古廻様。お目覚めになられていますか?」
「ん…………。ああ、もうこんな時間か」
この不思議世界でも機能している腕時計を見ると、既に子の刻を少々過ぎたくらいであった。
「すみません、すぐに行きます」
「はい、そこでお待ちしていますね」
流は乱れた衣服を正すと、庭に出て提灯の明かりを探す。
見れば池の淵にぼんやりと提灯の光が、池の水面に揺れているが見える。
急いでそこへ向かうと、そこには静音が立っていた。
「さ、参りましょうか。主人も首を長くして待っている事でしょう」
「ええ……」
静音に案内され石橋を渡り、目的の漆喰が美しい蔵へと到着する。
蔵の前には誰もおらず、内部からは物音一つしないので、本当にここに典膳がいるのかと思う。
入口の鍵を静音が開錠すると、内部から濃密な空気が噴き出した感覚に襲われる。
それは妖気とも違うが、独特の「人では無い気配」が叩きつけられた。
「随分と静かですが、ご主人様はおいでなのですか?」
「ええいますよ。ほら、中央に」
「これは…………」
確かに中央には物があった。
しかしそこには思っていた人物ではなく、どちらかと言うと「人と鉱物が融合」しているように見える。
そこには一流の陰陽師が施した陰陽術の五芒封印術の結界内に、四方を朱色の鳥いで囲まれた中心に、足が石のような物と一体となった刀照宮典膳がいた。
その男、刀照宮典膳は髷は無く、ざんばら髪を左右に伸ばした隙間から見える目は獣のように鋭く、実に野性的な顔つきだった。
典膳はギラついた目で流を睨みつけると、ボソリと話し始める。
「……来たか、本当にこの時が来るとはな…………」
「ッ!? あんた話せるのか?」
「ああ、子の刻だけは意識が戻る。お前の名は?」
「俺は古廻流と言う。今日来たのは悲恋美琴を貰い受けに来た」
「古廻、か。いや、お前は『鍵鈴』の者だろう?」
「……どうしてその名を知っている? いや、あの庭師も連なる者だったか」
「そうだ。あ奴もお前の一族だが、お前を知っているのはもっと別の理由からだ。そうだろう? 『未来からの客人』よ」
そう典膳が言うと、口角を上げニヤリと笑う。
しかしその言葉が出るのは予想をしていた。だから流も平然と答える。
「ああそうだ。江戸も終わり、遥か遠い未来『令和』と言う時代からやって来たらしい」
「そうか……江戸は終わるのだな」
「今が何時なのかは大体予想は付くが、まだ百年以上は江戸時代が続くさ」
「ハッハッハ! そうか、ならば良しとしよう」
「あんたは何を、何処まで知っているんだ?」
「ふむ……お前は神を信じるか?」
「当然だ。その八百万の神の力で、異世界で生きている最中だからな」
「異世界か……それも本当の話だったのか……。ならば異世界で戦っているのか? あの狂った人形と」
「ああ、成り行きでそうなってしまったがな」
典膳は「そうか」と一言発すると、暫く無言になった後口を開く。
「流よ。お前が来ることは知っていた。だから話そう、あの時何があったのかを」
そう言うと典膳は目を閉じ、ゆっくりと語り始める。
「そう、あれは今から九年も前の事であった――」
――江戸中期、希代の刀匠である刀照宮典膳は、歴史に名を遺す刀剣を打つ事を生涯の目標としており、そのため日ノ本中の超常の力ある存在について調べていた。
それと言うのも、通常の方法では「名刀(後の最上大業物)」どまりの物しか作れないと思い知ったからだった。
典膳はその事実が許せなかった、なぜ自分には「御物」が創造出来ないのかと。
小烏丸や鬼丸国綱のような神刀たる御物はおろか、日ノ本の象徴たる天皇家が継承する三種の神器の一つである「天叢雲剣」と同等の物を創造する事など、夢のまた夢の話である事に絶望した。
それでも何とか、御物をこの手で生み出したいと思った典膳は、手段を問わず御物創造のための情報を集めていた。
ある時、弟子の一人が申し訳なさそうに一振りの刀を典膳に差し出し、弟子はこう告げる。
「典膳様、申し訳ございませぬ。手入れの項目にこの刀が含まれておりまして……」
「なに? なるほど、村正か……。妖刀を手入れなどしては当家が穢れる。早々にお断りを――。いや、待て。やはり受けよう」
「て、典膳様!?」
「一度くらいは妖刀と言う物の出来をこの目で見て見たい。なに、問題はない。村正が祟るのは特定の相手だけだしな」
典膳は弟子が諫めるのも無視をして、妖刀村正の手入れにはいる。
弟子達を部屋から出し、一人で村正を解体する。
まず鞘から抜くと、刀身の見事な出来に心を奪われる。それは明らかに通常の刀とは違い、刃その物が「生きて」いるのが分かった。
さらに柄を外し、その全容が明らかになった時に気が付く。
――そう、『気が付いてしまった』のだった。
部屋へ入るとすでに布団が敷いてあり、何時でも休めるようになっていた。
「うぅ~ん。高級旅館のような寝心地だ…………。ってだめだろ! 思わず寝てしまうところだった。なんて危険な布団なんだこれは」
そう思いながらも思わず〝うつらうつら〟としてしまう魔性の布団に誘惑されながら、浅い眠りから覚醒させるように、離れの入り口に提灯の明かりが灯る。
「もし、もし古廻様。お目覚めになられていますか?」
「ん…………。ああ、もうこんな時間か」
この不思議世界でも機能している腕時計を見ると、既に子の刻を少々過ぎたくらいであった。
「すみません、すぐに行きます」
「はい、そこでお待ちしていますね」
流は乱れた衣服を正すと、庭に出て提灯の明かりを探す。
見れば池の淵にぼんやりと提灯の光が、池の水面に揺れているが見える。
急いでそこへ向かうと、そこには静音が立っていた。
「さ、参りましょうか。主人も首を長くして待っている事でしょう」
「ええ……」
静音に案内され石橋を渡り、目的の漆喰が美しい蔵へと到着する。
蔵の前には誰もおらず、内部からは物音一つしないので、本当にここに典膳がいるのかと思う。
入口の鍵を静音が開錠すると、内部から濃密な空気が噴き出した感覚に襲われる。
それは妖気とも違うが、独特の「人では無い気配」が叩きつけられた。
「随分と静かですが、ご主人様はおいでなのですか?」
「ええいますよ。ほら、中央に」
「これは…………」
確かに中央には物があった。
しかしそこには思っていた人物ではなく、どちらかと言うと「人と鉱物が融合」しているように見える。
そこには一流の陰陽師が施した陰陽術の五芒封印術の結界内に、四方を朱色の鳥いで囲まれた中心に、足が石のような物と一体となった刀照宮典膳がいた。
その男、刀照宮典膳は髷は無く、ざんばら髪を左右に伸ばした隙間から見える目は獣のように鋭く、実に野性的な顔つきだった。
典膳はギラついた目で流を睨みつけると、ボソリと話し始める。
「……来たか、本当にこの時が来るとはな…………」
「ッ!? あんた話せるのか?」
「ああ、子の刻だけは意識が戻る。お前の名は?」
「俺は古廻流と言う。今日来たのは悲恋美琴を貰い受けに来た」
「古廻、か。いや、お前は『鍵鈴』の者だろう?」
「……どうしてその名を知っている? いや、あの庭師も連なる者だったか」
「そうだ。あ奴もお前の一族だが、お前を知っているのはもっと別の理由からだ。そうだろう? 『未来からの客人』よ」
そう典膳が言うと、口角を上げニヤリと笑う。
しかしその言葉が出るのは予想をしていた。だから流も平然と答える。
「ああそうだ。江戸も終わり、遥か遠い未来『令和』と言う時代からやって来たらしい」
「そうか……江戸は終わるのだな」
「今が何時なのかは大体予想は付くが、まだ百年以上は江戸時代が続くさ」
「ハッハッハ! そうか、ならば良しとしよう」
「あんたは何を、何処まで知っているんだ?」
「ふむ……お前は神を信じるか?」
「当然だ。その八百万の神の力で、異世界で生きている最中だからな」
「異世界か……それも本当の話だったのか……。ならば異世界で戦っているのか? あの狂った人形と」
「ああ、成り行きでそうなってしまったがな」
典膳は「そうか」と一言発すると、暫く無言になった後口を開く。
「流よ。お前が来ることは知っていた。だから話そう、あの時何があったのかを」
そう言うと典膳は目を閉じ、ゆっくりと語り始める。
「そう、あれは今から九年も前の事であった――」
――江戸中期、希代の刀匠である刀照宮典膳は、歴史に名を遺す刀剣を打つ事を生涯の目標としており、そのため日ノ本中の超常の力ある存在について調べていた。
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典膳はその事実が許せなかった、なぜ自分には「御物」が創造出来ないのかと。
小烏丸や鬼丸国綱のような神刀たる御物はおろか、日ノ本の象徴たる天皇家が継承する三種の神器の一つである「天叢雲剣」と同等の物を創造する事など、夢のまた夢の話である事に絶望した。
それでも何とか、御物をこの手で生み出したいと思った典膳は、手段を問わず御物創造のための情報を集めていた。
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「典膳様、申し訳ございませぬ。手入れの項目にこの刀が含まれておりまして……」
「なに? なるほど、村正か……。妖刀を手入れなどしては当家が穢れる。早々にお断りを――。いや、待て。やはり受けよう」
「て、典膳様!?」
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典膳は弟子が諫めるのも無視をして、妖刀村正の手入れにはいる。
弟子達を部屋から出し、一人で村正を解体する。
まず鞘から抜くと、刀身の見事な出来に心を奪われる。それは明らかに通常の刀とは違い、刃その物が「生きて」いるのが分かった。
さらに柄を外し、その全容が明らかになった時に気が付く。
――そう、『気が付いてしまった』のだった。
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