日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第七章:新たな力を求めるもの

269:数千年ぶりの景色

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 その剥き身の悲恋美琴に典膳は近づくと、握り手部位の柄が収まるはずの場所「なかご」と呼ばれる場所を握りしめる。
 途端に娘の怨嗟えんさが耳と言わず、体中のあらゆる器官に直接響き渡る。
 その声は典膳への恨みと、理不尽な神への嘆き、そして愛する人を忘れてしまった悲しさで埋め尽くされていた。

「美琴……すまん、俺にはもうお前を救ってやれる方法はこれしか思いつかん!!」

 目・鼻・口・耳から〝ジワリ〟と血液を流しながら、典膳は悲恋美琴を金床から抜き放つ。
 その瞬間、強烈な呪いとも言える力が典膳に襲い掛かるが、今さらながら娘を強く思う気持ちはそれを凌駕した。
 壮絶な苦痛をともないながら天膳は歩く……。そして目的の〝対象〟を睨みつける。
 すでに入り口より出て外を物珍しそうに眺めている、神の一柱である「娘の皮を被った邪神」へと近づく。
 だが邪神はそれに気がついた様子であったが、受肉の高揚感からか、天膳を見ずに話す。

「典膳よ、やはり肉体と言う物は良いものだな。我も数千年ぶりの事ゆえ堪能しておる」
「それはよろしゅうございましたな……。だが、その体は我が娘の物だ!! 邪神風情が自由にしていいものでは無いわああああああああああ!!」
「グッボファア!? ナァッ。典膳、キサマ……」

 典膳は庭を眺めて感動していた時空神・万世の帝の背後から、悲恋美琴を突き立てて成敗する。
 万全の状態ならば、万世の帝は傷一つ負わなかっただろうが、現在の受肉直後の不慣れな体では並の人間とさほど変わらず――。

「ガッファ……。愚か者め……娘の魂が砕け散る事に恐れをなしたか……」
「その通りだ! 貴方様に見せてもらった未来、そしてここに来る男に全てをかける事にしたのだ!!」
「どの道、だ。悲恋美琴は人形と戦った後壊れるだろう。まず……は祭壇へ戻ればすぐに……」

 心臓を貫かれながらも、万世の帝はよろめく足取りで「消えた祭壇」がある位置まで戻ろうとする。
 それを追ってもう一撃入れようとするが、典膳も悲恋美琴の呪いですでに歩く事も困難な状況になり〝ずるりずるり〟と這うように後を追う。

 そして祭壇手前の室内にある井戸まで戻った時に、万世の帝は一歩も動けなくなる。そして井戸へ腰をかけるようにして典膳を睨みつけると、やがてやって来る典膳へと話しかける。

「なるほどな、未来からの客人が来た理由が視えない訳はコレだったか……。どうやら我はここまでのようだ、祭壇を呼び出す力すらまだ無いようでな。今そちの娘が宿る妖刀の未来を再度視た。典膳、そちが行った神殺しでどうやら未来が変わったらしい。ぐほっ……。そちの願い叶うやもしれぬぞ」
「どう言う事ですか?」
「我がこの先干渉しない事で、未来からの客人がその責を負う事になった。ただ我と、強大な力を持つ悲恋美琴の呪縛で、因果律がねじ曲がりすぎておるから確実とは言えんがな。どれ、この世での最後の仕事だ。典膳よ、悲恋美琴を貸せ」

 典膳は神の言葉が真実だと思えた。だから迷うことなく、万世の帝へと悲恋美琴を差し出す。

「どうぞ、お納めを」
「うむ……これより未来の客人が迷わぬように、庭にある巨石に我の神印と情報を記憶させる事にする」

 そう言うと、万世の帝は悲恋美琴を一振りすると、斬撃が器用に入口から飛び庭の方で硬質な物が甲高い音で割れたような音がする。

「これで良い。フッ……あの男が未来から来る原因は、我とそちだったとはな。ただ肉体はべぬな。ならばここへ召喚された後に、即換装できる疑体を空間封印しておくか」
「そんな事までおできになるとは……」
「いまだ不調なれど、最上位の神の力をなめるでないわ。未来からの客人が死した後、輪廻に戻らずここへ魂だけが引き寄せられる。そうなるよう忌々しい『理』が利用し、ここへと導いたようだ」

 この短時間で、世界の超常的な異常さを知った天膳は、もう驚くこともなく神の言葉を素直に聞く。だが、最大の疑問があった。

「なぜ……貴方様は私への恨み言を言わぬのですか? そもそも私に嘘をつけばこんな事にならなかったはず」
「ふっ。典膳、そちは蟻に噛みつかれたからと言って癇癪かんしゃくを起すのか? そもそも我は神ぞ、虚言などくだらぬ事よ。それにだ、そちは我に対する敬意を今だ失ってはおらぬのでな。愚かなれど人とは愛しきものよ」
「くっ……申し訳……ございませぬ!!」
「よい。落ちたとは言え、子を思う親の気持ちを計算してなかった我の失態だ。それと典膳よ。亜神状態の我とは言え、私欲による神殺しは大罪ぞ? 我が許しても、忌々しい理が認めぬ。そこで我が未来からの客人が来るまで、そちの意識を狂った状態にし、子の刻のみ覚醒する事により、理からの干渉を極力無くす」
「分かりました」
「うむ。確か蔵には邪を払う結界があったな? そこを改良して置くゆえ、そこの中心に入るがよい。それで封印が発動されれば、『ことわり』の馬鹿共もおいそれとは手が出せなくなる。そして、そちには娘を解放する大役を頼みたい」

 万世の帝は右手より輝く黄金の玉を出すと、蔵の方へとゆっくりと解き放つ。続けて典膳へも輝く青色の玉を渡す。

「これは……。はい、委細承知いたしました」
「それでよい、では後は任せる。典膳よ、そちと会う事はもうあるまい。我が復活するまで少々時がかかるのでな。これまで大義であった」

 そう言うと時空神・万世の帝は、吸い込まれるように井戸へと落ちて行く。直後に着水した音が聞こえたと思うと、青金の光が井戸から立ち上り、神は天へと還って行った。


 ここまでが、流がここへ辿り着く、わずか「二日前」の出来事であった――。
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