日本最狂の妖刀で、誰も見た事がない異世界・骨董無双~狂気の娘を返品したいがもう遅い!!だから神が宿る骨董品達で、俺が世界を改変してやるッ!!

竹本蘭乃

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第七章:新たな力を求めるもの

276:おばけは人魂をそえて

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 流は食事をすませると、離れへと戻っていた。
 本格的な昔の和食はどれも美味しかったのだが、現代の調味料や調理法と比べるとやはり物足りなさがあった。

「むぅ。美味いのに物足りないとは……。現代人は贅沢しすぎなんだろうな」

 現代人が流を見たら「お前が言うな!」と突っ込まれのは間違いない事を言いながら、流は明日の夜の事を考えていた。

「明日、か。美琴はどうするつもりなのかね」

 そう呟きながらも、丸窓から見える夜の庭園を眺める。
 現代のライトアップには程遠いが、庭園には何かの動物の油を精製した物でともした、石灯篭いしとうろう行灯あんどんが庭園をやさしく照らす。

「これはこれで幻想的だなぁ。ご先祖様はいい仕事するねぇ」

 優しい灯りに、舞飛ぶ蛍。そんな江戸時代の風流を堪能していると、入口の障子戸に影が差す。

「美琴か? 随分久しぶりじゃないか」
「……ごめんなさい。会うのが怖くて」
「怖い、か。俺としてはお前の『ライトアップに使われている人魂』の方が不気味なんだが?」

 美琴を背後から照らす青白い人魂が、女幽霊の存在をこれでもかとアピールする。
 そんなに怖がらせたいかお前は!? と突っ込みたくなるが、流さんは大人なので我慢する。

「だ、だって、暗闇に明かりが無いと怖いじゃないですか!?」
「まったく明かりが無くても、お前なら問題ないだろうに……。世間一般では、お前の存在の方が間違いなく怖いと思うぞ?」
「あぅぅ」
「怖がりの美琴さん、外はオバケが出るかもしれなから、早く中へ入っておいでなさい」
「はぃ……」

 申し訳なさそうに室内へと入って来る女幽霊。その背後には青い人魂が二個付き従っている。

「お前、こんな燃えやすい室内は火気厳禁だぞ?」
「これは熱くないから、大丈夫なんです~」
「マジかよ!? どれ……あ、本当に熱くない!!」

 流は指で人魂に触れてみるが、全く熱量を感じなかった。それどころかむしろ冷たさを感じる程だ。

「これは今の時期にぴったりの便利アイテムだな!」
「そうですか? えへへ」

 そこで不意にお互い静寂に包まれる。やがて美琴がゆっくりと口を開く。

「あの、流様」
「ん? どうしたよ」
「私決めました、貴方の物になるって!」
「そうか……。ありがとう美琴、嬉しいよ。それでどうしたらいい?」
「えっと、その。私に…………食べられてもらえますか?」
「おう、喜んで!」
「え゛!? そこはもう少し考えたり、恐怖したりする所なのでは!?」

 あまりの即答にドン引きする美琴だったが、当の本人はとても嬉しそうだった。

「何を言う! 惚れたおんなに死んで欲しいとか頼まれたら、骨董冥利こっとうみょうりにつきるだろう?」
「骨董冥利ですか……ハァ~。凄く悩んでたのが馬鹿らしくなってきたよ……」

 カクリと肩を落とす美琴は、次第に無性に腹が立って来る。

「もう、どうして流様はいつもいつもそんなに自由なんですか!? 私がこんなに心を砕いていたと言うのに、テキトーで自信家でそれで、それで……」
「それで?」
「大馬鹿な領域者ヘンタイなんだから!!」
「くはッ! おいおい、なんのご褒美だ? 最高の誉め言葉をありがとう!!」
「もぅやだぁ……。異世界人と話しているより、異世界の人みたいじゃないですかぁ」

 美琴は両手で顔を覆い、ガクリと足元から崩れ落ちる。
 ついでに背後の人魂も畳の上に転がり落ちているようだ。流は思う「なんか可愛い」と。

「む? 失礼な。俺は異世界の奴らともちゃんと話が出来るぞ」
「はあ~、もういいです。そういう人って知ってますから」
「ふふ、褒めるなよ」
「褒めてません!」

 なぜか涙目で流をジト目で見る美琴に、流は「解せん」とつぶやき本題に入る。

「それでお前に食われるのはいいが、どうしたら良いんだ?」
「実はよく分からないのです……。普通に食べると、私の妖気の一部となるだけでしょうから」
「なるほどな。お前との魂からの結びつきを強固な物にして、俺がお前その物と言ってもいい程に一体化しなければダメだからな」
「はい、じゃないと上澄みの妖気しか扱えないので」
「そしてその下に行くと、俺の魂がゴッソリ持って行かれる、か」

 流は美琴に魂をむさぼられた記憶を思い出す。まるで凍り付いた手で、心臓を抜き取られるかのような感覚を。

「まぁ、あれは勘弁願いたいね。いくら愛するおまえの頼みでもな」
「すみません……不本意なのですが、悲恋が勝手に吸ってしまうのです」
「いや別にお前を責めている訳じゃないさ」
「多分ですが、私が『納得出来る程のえにし』が結べれば、悲恋も納得するはずです」
「悲恋ねぇ、お前は刀に何て銘を付けるんだよ」
「うぅ。だって最後の時はそう思っちゃったんです。多分好きだった人を思って……」
「ふぅ~ん、そうかい。まったく妬けるねぇ」
「でででも! 今はその……」

 美琴は小さな声で「貴方だけです」と続けるが、蚊のような声で流には聞こえなかった。

「あんだって? 耳が遠くて聞こえねぇ~だよ?」
「ふふ、何でも無いですよ。それより昭和の喜劇王のモノマネはやめて下さいよ」
「ま、聞こえなかったが言いたい事は分かっているつもりだよ」
「えっと、その……はい……」

 優しい目で美琴を見つめる流、それを見て真っ赤になる美琴。そんな二人を見ていた人魂たちは、千倍濃縮の砂糖菓子を口に詰め込んだかのような表情で〝ペッ〟と青白い何かを吐き出すと、二人を見つめ「やれやれだぜ」とつぶやくのだった。
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