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第七章:新たな力を求めるもの
277:刀照宮典膳~正の章
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その後二人は遅くまで話し合い、結論が出ないまま典膳との約束の日を迎える。
何時の間に寝てしまったのか、流が朝起きると美琴はいなくなっており、梅月蒔絵の文台に手紙が置いてあった。
「今夜、父上の蔵の前でお会いしましょう……か。時空神からの置き土産が過ぎるが、これもまた定めと言うやつなのかもしれねぇな」
丸窓から見える澄んだ空気漂う朝の庭を眺め終わり、流は上に視線を移すと苦虫を噛みしめるように空を見上げた。
「泣いても笑っても今夜が決戦! 死ぬ時は一緒だぜ、美琴」
そのまま母屋で朝食を済ませた流は、夜に向けて体を休めつつ、やって来たご先祖様へ未来の話をして驚かせるのだった。
そうこうしているうちに、夕暮れを告げるようにカラスが巣へ大群で帰る頃に、離れへと静音が現れる。
「流様、今夜でございますね」
「ええ……。旦那様とも会話出来るのも今宵が最後でしょう。静音様が話し終えたら私達が入ります」
「お心遣いに感謝いたします。あまり実感が無いのですが、あの子が世を去って数百年……そして、明るくなって帰って来た事の奇跡に感謝を申します。これも全て貴方様と、時空神様の導きですから」
「そう……かも知れませんね。ただ、この後は酷な事になるやも知れません」
「はい、それは旦那様より聞き及んでいます。そこは覚悟の上ですので存分にお振舞いくださいまし」
そう言うと静音は夕餉の支度へと母屋へと戻って行く。
ふと池を見ると、黄金の猿顔の鯉が涼し気に泳いでいるのだった。
「さて、飯を食べたら一眠りしますか」
未来の話をしながら最後の夕餉を食べる。静音も侍女も、その話に夢中になって聞くものだから、ついつ食が進み、気がつけば満腹になっていた。
その後一眠りし、いよいよ典膳との約束の時間になる。
どうやら静音は先に蔵の中へと入っているようで、外で待つ事十数分。暗がりの中から青白い炎を引き連れて女幽霊が現れる。
「お待たせしました。母上は中に?」
「ああ、まだ中にいるな。もうすぐ出て来るとは思うが」
「……答え、出ませんでしたね」
「そうだな……」
唐突に話を振られたが、流もその答えを持ち合わせていないので、一言つぶやくだけだった。
そのまま二人は静音が出て来るまで静かに、蔵の入り口を見つめる。
やがて入口が開くと、静音が悲しそうな顔で美琴を見てから抱きしめる。
「美琴ちゃん。これから辛い事になるけど、きっと乗り越えるのよ? あなたには流様が付いているんですからね」
「? はい母上。良く分かりませんが頑張ってみます!」
「ええ、しっかりとね。それと古廻流様、短い間のお付き合いですが、貴方様はとても信頼できる方と確信しています。どうかこの子を末永く良しなにお願い致します」
「承知しました。私の命が尽きるまで、手放さない事をお約束します」
「それを聞いて安心しました。では中で旦那様がお待ちです、お互いに信じるのですよ」
「「はい!」」
蔵の扉を開き、流と美琴は中へと入って行く。
その様子を見守る静音の目は、覚悟が決まったものだった。
内部は前回訪れた時より明るく、壁に複数の松明の灯りが設置されている。
その松明に照らされる中央には、典膳が不敵な笑みで待っていた。
「待っていたぞ二人共」
「待たせてしまってすまない、時空神からの置き土産で何をすべきかは理解している。が、美琴にはまだ話していない。本当にやるのか?」
「え、一体何の事ですか? それにお父様……そのお姿は?」
先日美琴がそっと覗き見た時より、典膳は鉱物との融合が進んでいるように見える。
典膳は優しい目で静かに美琴を見つめると、やがて重い口を開く。
「美琴や、これまで本当にすまなかった。俺の馬鹿な夢にお前まで巻き込んでしまい、そしてそんな姿にしてしまって……。この体は神の慈悲により『理』から我が身を守るための処置だ。そしてそれも今夜終わる、お前と流の手によってな」
「ッ!? それってまさか……」
「ああそうだ。俺はお前に斬られる事で、悲恋に込められた怨念を浄化する。それと今後お前が万一悲恋より解放された後、再度輪廻の輪へと戻る為に神のお力で改造と言うより、改変された生体術式でもある。それにな、これは業を背負った俺だからこそ出来ると、術式を神から授かった時の玉から教えられた事だ」
「そ、そんな!? お父様はそれでよいのですか!!」
美琴の絶叫が以外だったのか、典膳は一瞬驚いた顔をしてから美琴へと語りかける。
「よい、それでよい。俺はお前に親らしき事をしてやらなかったばかりか、人生そのものを奪ってしまった。そんな俺がお前のために斬られる事は本望そのもの。そして俺はこの世の『理』の法をやぶって、私欲による神殺しをしてしまった。神の話では、その行為をしたものは許されないのだと言う。だが神は俺を許してくれたが、『理』は許してはくれぬ。そこで神は、俺にお前に謝罪の機会を与えてくれたのだ。どの道『理』に抹殺される運命、それがお前達の役に立って逝けるとは、屑の俺としては最上の幸福と言うものだ」
突然の典膳の告白に美琴は愕然とするが、父の真意を知り自分の胸の内を話すのだった。
何時の間に寝てしまったのか、流が朝起きると美琴はいなくなっており、梅月蒔絵の文台に手紙が置いてあった。
「今夜、父上の蔵の前でお会いしましょう……か。時空神からの置き土産が過ぎるが、これもまた定めと言うやつなのかもしれねぇな」
丸窓から見える澄んだ空気漂う朝の庭を眺め終わり、流は上に視線を移すと苦虫を噛みしめるように空を見上げた。
「泣いても笑っても今夜が決戦! 死ぬ時は一緒だぜ、美琴」
そのまま母屋で朝食を済ませた流は、夜に向けて体を休めつつ、やって来たご先祖様へ未来の話をして驚かせるのだった。
そうこうしているうちに、夕暮れを告げるようにカラスが巣へ大群で帰る頃に、離れへと静音が現れる。
「流様、今夜でございますね」
「ええ……。旦那様とも会話出来るのも今宵が最後でしょう。静音様が話し終えたら私達が入ります」
「お心遣いに感謝いたします。あまり実感が無いのですが、あの子が世を去って数百年……そして、明るくなって帰って来た事の奇跡に感謝を申します。これも全て貴方様と、時空神様の導きですから」
「そう……かも知れませんね。ただ、この後は酷な事になるやも知れません」
「はい、それは旦那様より聞き及んでいます。そこは覚悟の上ですので存分にお振舞いくださいまし」
そう言うと静音は夕餉の支度へと母屋へと戻って行く。
ふと池を見ると、黄金の猿顔の鯉が涼し気に泳いでいるのだった。
「さて、飯を食べたら一眠りしますか」
未来の話をしながら最後の夕餉を食べる。静音も侍女も、その話に夢中になって聞くものだから、ついつ食が進み、気がつけば満腹になっていた。
その後一眠りし、いよいよ典膳との約束の時間になる。
どうやら静音は先に蔵の中へと入っているようで、外で待つ事十数分。暗がりの中から青白い炎を引き連れて女幽霊が現れる。
「お待たせしました。母上は中に?」
「ああ、まだ中にいるな。もうすぐ出て来るとは思うが」
「……答え、出ませんでしたね」
「そうだな……」
唐突に話を振られたが、流もその答えを持ち合わせていないので、一言つぶやくだけだった。
そのまま二人は静音が出て来るまで静かに、蔵の入り口を見つめる。
やがて入口が開くと、静音が悲しそうな顔で美琴を見てから抱きしめる。
「美琴ちゃん。これから辛い事になるけど、きっと乗り越えるのよ? あなたには流様が付いているんですからね」
「? はい母上。良く分かりませんが頑張ってみます!」
「ええ、しっかりとね。それと古廻流様、短い間のお付き合いですが、貴方様はとても信頼できる方と確信しています。どうかこの子を末永く良しなにお願い致します」
「承知しました。私の命が尽きるまで、手放さない事をお約束します」
「それを聞いて安心しました。では中で旦那様がお待ちです、お互いに信じるのですよ」
「「はい!」」
蔵の扉を開き、流と美琴は中へと入って行く。
その様子を見守る静音の目は、覚悟が決まったものだった。
内部は前回訪れた時より明るく、壁に複数の松明の灯りが設置されている。
その松明に照らされる中央には、典膳が不敵な笑みで待っていた。
「待っていたぞ二人共」
「待たせてしまってすまない、時空神からの置き土産で何をすべきかは理解している。が、美琴にはまだ話していない。本当にやるのか?」
「え、一体何の事ですか? それにお父様……そのお姿は?」
先日美琴がそっと覗き見た時より、典膳は鉱物との融合が進んでいるように見える。
典膳は優しい目で静かに美琴を見つめると、やがて重い口を開く。
「美琴や、これまで本当にすまなかった。俺の馬鹿な夢にお前まで巻き込んでしまい、そしてそんな姿にしてしまって……。この体は神の慈悲により『理』から我が身を守るための処置だ。そしてそれも今夜終わる、お前と流の手によってな」
「ッ!? それってまさか……」
「ああそうだ。俺はお前に斬られる事で、悲恋に込められた怨念を浄化する。それと今後お前が万一悲恋より解放された後、再度輪廻の輪へと戻る為に神のお力で改造と言うより、改変された生体術式でもある。それにな、これは業を背負った俺だからこそ出来ると、術式を神から授かった時の玉から教えられた事だ」
「そ、そんな!? お父様はそれでよいのですか!!」
美琴の絶叫が以外だったのか、典膳は一瞬驚いた顔をしてから美琴へと語りかける。
「よい、それでよい。俺はお前に親らしき事をしてやらなかったばかりか、人生そのものを奪ってしまった。そんな俺がお前のために斬られる事は本望そのもの。そして俺はこの世の『理』の法をやぶって、私欲による神殺しをしてしまった。神の話では、その行為をしたものは許されないのだと言う。だが神は俺を許してくれたが、『理』は許してはくれぬ。そこで神は、俺にお前に謝罪の機会を与えてくれたのだ。どの道『理』に抹殺される運命、それがお前達の役に立って逝けるとは、屑の俺としては最上の幸福と言うものだ」
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