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第七章:新たな力を求めるもの

290:氷狐王~矜持

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 どこからともなく、凍てつく風が、ダイヤモンドダストを伴いながら通り過ぎる。
 それを合図のように流と氷狐王は同時に動き出す。流との距離は約十メートル。それを凍てつく爆風をまとい一気に詰め寄る氷狐王は、透明で狂悪な前足を二本同時に流へと圧し潰すように強襲する。

「うぉっと、危ない。いきなり踏みつぶすとか容赦ねーな」
「ルルルルルルグ」

 氷狐王は歌うように唸ると直径一メートル程で、外縁部がギザギザで鋭利な丸型の回転している氷の刃を三つ空中に生み出す。
 流はそれを見ると、軽い動作でバックステップをして距離を取ると、美琴の柄に右手の平を上に向けて置き、左手の平を上に向け、人差し指と中指二本だけ出して〝クィ〟っと、二度自分の方へ来いとジェスチャーして氷狐王を煽る。

 それが合図のように、氷狐王の頭上に展開した三枚の円形氷のノコギリは、三つ横並びになると一斉に流へと放たれる。

「ナメているのか? ジジイ流・壱式! 三連斬!!」
 
 流は「普通」の三連斬で迫る円形氷のノコギリを粉々に斬り割く。
 それを見た氷狐王は益々口角を上げ、それが怒りなのか喜びなのか分からない表情で、さらに口を大きく〝ガパリ〟と開くと、内部から短い氷の槍を機関銃のように撃ち出し始める。

「今度は連撃勝負か? 望むところだ」

 その場で足を開き迫る氷槍を美琴で打ち払い、手数勝負に興じる。それにも慣れて飽きたのか、流は徐々に距離を詰め始める。
 固定砲台と化した氷狐王の氷の槍は、流へと恐ろしい早さで連射していたのだが、それを最小の動きだけで砕き前進する。

「ウララララララッ!! オイ、氷狐王! もうすぐ喉元まで美琴ヤイバがとどくぞ?」

 その言葉通り、流は一歩、また一歩と氷狐王への距離をつめて行く。
 やがてその距離が残り五メートルになった瞬間、氷狐王の砲撃が速度を増し、流が不利になるかと思われた瞬間――。

「ナメルナよ? ジジイ流……参式・七連斬!!」

 ジジイ流と言うより、完全に流のオリジナルな業に昇華した、三連と四連を組み合わせた連斬を撃ちこむ。
 それを威力は各段に落ちるが、参式の「拡散型」にする事により倍の十四連斬になる。
 
 だが威力が落ちた連斬では、氷狐王の凶悪な氷の弾丸は防げるはずもないのは、流も十分に理解している。だから――。

「美琴オオオオオオオオ!!」
『はい流様! すでに練ってあるから使って!!』

 悲恋美琴が〝グォン〟と言うような鈍い音を響かせる。すると、妖気が流へと戻らずそのまま刀身へと集まりだし、七連斬へと乗り移る。
 
 氷狐王に向かって行く凶悪な十四連の連斬は、三日月型の斬撃で氷の短槍を斬り刻む。
 それに負けじと氷狐王も短槍を太く、早く撃ち出す――が。

「ほらほらどうした? ちんたらやってたら会いに行くぞ? こんな風になッ!!」

 十四連斬のすぐ後に流は突っ込んだ。短槍を連斬が防ぐことを確信して、絶対に食い破られないとニヤケながら、氷狐王の口へと飛び込むように疾走する!

 それを確認した時、氷狐王は生まれて初めて「焦り」と言う感情が湧いて来る。
 自分は強大な力を持つ「王」として生を受け、実際自分を召喚した「神」以外に、自分を害する事が出来る存在などいるはずが無いと思っていた。だがそれは氷像のように脆くも崩れ去る。

 そう、目の前の男によって……。

 それでも信じられない思いで短槍を撃ち続ける。強大な力、リデアル平原の王としての矜持きょうじがある自分が、こんな矮小な人間臭い小物に負けるはずがないと思っていた。
 だから馬鹿正直に短槍を撃ち続けたが、それが間違いだと気が付く。
 やがて白銀髪の妖人あやかしびとが、凶悪な顔付で自分の鼻先まで来た時に悟る。

 「死んでしまう」と……。

 生まれて初めての恐怖、それが何かが分からなかったが、本能でありえない行動に出る。
 敵が自分を斬ろうと刀を振りかぶった瞬間、氷狐王たる自分は頭を限界まで反らせ、背後へと飛ぶ。

 何をしたのか、その行動が理解出来なかった。王たる自分が何をしたのか? 
 困惑しながら背後へと大きく飛ぶ。

 つまり「退いた」のだ。

 それが無性に許せなかった、ありえなかった、だから下等な言語で言い放つ。

「グルルルルル! キサマ、「簡単に死ねる」とは思うなよ!!!!」
「おい、ワンコ。それよりお前はお手の練習が必要のようだな? これは躾が必要だな、誰が飼い主か教えてやる」
「なッッッ……ん、だ……と……?」

 不遜ふそん、あまりにも不遜な目の前の男に、冷静な凍てつく頭部が沸騰しそうになる。

「ワレを犬畜生呼ばわりするのか!?」
「え? 違うのか? 悪いな、目付きの悪いワンコにしか見えないわ~。なぁ美琴?」
『わんちゃんは、もっと可愛いのがいいです』

 美琴の辛辣しんらつな言葉に「まったくだ」とわらう。そしてやれやれとばかりに、流は美琴を肩に担ぎ〝ポンポン〟と叩きながら、左手の平を上部へと向けて肩をすくめる。

 その様子にますます激怒した氷狐王は、本気の一撃を放つ事を決意するのだった。



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