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第七章:新たな力を求めるもの
291:千氷斬殺
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高まる妖力、それに呼応するかのように周囲の空気が歪みだす。
その歪みはやがて梵字と漢字の複合図式になり、五芒星のようになる。
「不遜なる矮小な人間モドキがッ! 氷刃の檻で藻屑となりて消え去るがよい! 《千氷斬殺!! 》」
氷狐王がそう言い放つと、氷の刃のような物が床から吹き上がり、それらが結合したかと思うと、うねるように波打ちながら流へと迫る。
刃のうねりは全てを細切れにする勢いで、流へと近づくにつれ大きくなり、高さもどんどん増し、最終的には十メートルほどの高さにまでなり、覆いかぶすように迫る。
それを焦る事もなく、今だに肩に美琴を担いでいる流は、一言ため息交じりに漏らす。
「ふぅ。やれやれだ……氷狐王? 名前負けだろう」
氷の荒れ狂う刃の群れが、流へと着斬するまで残り五メートル。
氷狐王は目の前の男がなす術もなく立っていると思い、その口角を極限までねじ上げる。
空間を切り裂き、ダイヤモンドダストを撒き散らせながら迫る刃の群れは、その距離三メートル。
やっとその肩から美琴を離し、流は斜め上段に構えると静かに呟く。
「美琴……」
『うん!』
瞬間、悲恋美琴が紫色に光だす。その怪しげな輝きが刀身全体に集約し、まるで紫電を纏ったかのようになる。
迫る凶悪な氷の刃群、その刃が頭部から呑み込みそうになった刹那――。
「――まだ名は無いが、偽王を躾けるには十分だろう。喰らえ! あやかしの一閃!!」
流はそう言うと腰を落とし、美琴を斜め後ろに構えた状態から、真一文字に一閃する。
瞬間〝ブァォン〟と鈍く重い、空気を振動させながら振るったような音が周囲にひびく。
氷の刃群は、時が止まったかのように動きを停止。直後――爆発するように弾け飛び、氷の刃は無数のダイヤモンドダストになりて、空間を煌めきで埋め尽くす。
氷狐王は何が起こったのかが、全く分からなかった。
憎き人間モドキを無様に惨殺したと思った刹那、渾身の〝千氷斬殺〟が爆散した。
その美しき煌めきを呆然と見つめながら、その奥から紫の妖気の風が自分へと打ち付ける。
それを不快に思いつつも、その原因である人間モドキを睨みつけた。
「キサマ!! 一体何をした!?」
「ヤレヤレだ。美琴、言ってやれ」
『え~と王様? 嘘つきは、ワンコの始まりだと思うんだよ?』
「なっ!? ワ、ワレをまたしても侮辱するのか!! 『ゴミのような妖刀』の分際で!!」
瞬間、この凍てつく空間が、数十度さらに温度が下がるような妖気が、流から爆発するように噴き上がる。
「あ゛? 何……? 俺の美琴が『ゴミ』ダト?」
「ヒィ!?」
氷狐王は王にあるまじき、情けない悲鳴を漏らす。さらに思わず無意識に、二歩後ずさるが、もうプライドなんて言っていられない。
確実に命の危機を感じた氷狐王は、動きに違和感を感じながらも、目前に迫る人間モドキから距離を置こうとした瞬間、目の前に人間モドキがいつの間にか現れこう言い放つ。
「お手」
「……ナァッ!?」
「どうした、お手だよお手」
言われていることの意味が理解できない氷狐王は、困惑と焦りから詰まった一言を言うのがやっとだった。
人間モドキは右手を差し出し、意味のわからない事を言う。そして妖刀が追い打ちをかける。
『ワンちゃんあのね、お手って言うのはね、ご主人さまの手のひらに右手を乗せるんだよ?』
「だ、そうだ。駄犬にも実に分かりやすい説明に感謝しろよ? では、あらためて……お手」
理解した。この人間モドキは氷狐王たる自分を、心底バカにしているのだと。
その事実に無くしたプライドが復活し、怒りが体から吹き上がり、とっさに次の行動に出る。
「こ、こ、殺してやるるるるるるッ!!」
氷狐王は激怒のままに、その透明な陰が入った右足で流を潰すように打ち下ろす。
それに流は呆れた表情で右手を出したまま動かない。
大きく振りかぶり、その勢いのままに憎き人間モドキの「頭へと」右足を振り下ろし――
〝コキィィィィン〟
意味の分からない音を、氷狐王の優れた聴覚がとらえる。続いて優れた視覚が見たことのある透明な物体を認識したが、それが「振り下ろしたはずの自分の右足」だと分からなかった。
それが分かったのは、バランスを崩して前のめりに倒れたからだった。
「ハァ~、だからお手と言っただろう? 優しく言っているうちに、おとなしくすりゃいいものを」
「なッ!? なんだこれはあああああああ!! い、いつだ?? いつワレを斬ったのだあああ!?」
「それすらも分からないのか? さっきお前のナントカ斬を、俺が斬った時に紫の風に吹かれたろう? あれが斬撃の『残りカス』だっての」
その言葉に氷狐王は戦慄した。確かに紫の不快な風が、体にまとわり付くように通り過ぎたのは分かったが、それで「斬られた」などとは全く思えなかった。
だがよく考えてみれば、確かに動く時に違和感を感じたのは事実。それを口に出し、問いただす前に、人間モドキが話す。
「本当に名前負けだな。今日からお前の名は『ワン太郎』だ」
『えぇ~? もっと可愛いネーミングにしましょうよ~』
「ダメだな。見ろ、あの間抜け顔を。ワン太郎がお似合いだ」
氷狐王は怒りを忘れ呆然とした。「コイツラは王たる自分に何を言っているか」と……。
直後にその言葉の意味を理解すると、氷狐王は一言「もういい」とつぶやく。
その、次の瞬間――。
その歪みはやがて梵字と漢字の複合図式になり、五芒星のようになる。
「不遜なる矮小な人間モドキがッ! 氷刃の檻で藻屑となりて消え去るがよい! 《千氷斬殺!! 》」
氷狐王がそう言い放つと、氷の刃のような物が床から吹き上がり、それらが結合したかと思うと、うねるように波打ちながら流へと迫る。
刃のうねりは全てを細切れにする勢いで、流へと近づくにつれ大きくなり、高さもどんどん増し、最終的には十メートルほどの高さにまでなり、覆いかぶすように迫る。
それを焦る事もなく、今だに肩に美琴を担いでいる流は、一言ため息交じりに漏らす。
「ふぅ。やれやれだ……氷狐王? 名前負けだろう」
氷の荒れ狂う刃の群れが、流へと着斬するまで残り五メートル。
氷狐王は目の前の男がなす術もなく立っていると思い、その口角を極限までねじ上げる。
空間を切り裂き、ダイヤモンドダストを撒き散らせながら迫る刃の群れは、その距離三メートル。
やっとその肩から美琴を離し、流は斜め上段に構えると静かに呟く。
「美琴……」
『うん!』
瞬間、悲恋美琴が紫色に光だす。その怪しげな輝きが刀身全体に集約し、まるで紫電を纏ったかのようになる。
迫る凶悪な氷の刃群、その刃が頭部から呑み込みそうになった刹那――。
「――まだ名は無いが、偽王を躾けるには十分だろう。喰らえ! あやかしの一閃!!」
流はそう言うと腰を落とし、美琴を斜め後ろに構えた状態から、真一文字に一閃する。
瞬間〝ブァォン〟と鈍く重い、空気を振動させながら振るったような音が周囲にひびく。
氷の刃群は、時が止まったかのように動きを停止。直後――爆発するように弾け飛び、氷の刃は無数のダイヤモンドダストになりて、空間を煌めきで埋め尽くす。
氷狐王は何が起こったのかが、全く分からなかった。
憎き人間モドキを無様に惨殺したと思った刹那、渾身の〝千氷斬殺〟が爆散した。
その美しき煌めきを呆然と見つめながら、その奥から紫の妖気の風が自分へと打ち付ける。
それを不快に思いつつも、その原因である人間モドキを睨みつけた。
「キサマ!! 一体何をした!?」
「ヤレヤレだ。美琴、言ってやれ」
『え~と王様? 嘘つきは、ワンコの始まりだと思うんだよ?』
「なっ!? ワ、ワレをまたしても侮辱するのか!! 『ゴミのような妖刀』の分際で!!」
瞬間、この凍てつく空間が、数十度さらに温度が下がるような妖気が、流から爆発するように噴き上がる。
「あ゛? 何……? 俺の美琴が『ゴミ』ダト?」
「ヒィ!?」
氷狐王は王にあるまじき、情けない悲鳴を漏らす。さらに思わず無意識に、二歩後ずさるが、もうプライドなんて言っていられない。
確実に命の危機を感じた氷狐王は、動きに違和感を感じながらも、目前に迫る人間モドキから距離を置こうとした瞬間、目の前に人間モドキがいつの間にか現れこう言い放つ。
「お手」
「……ナァッ!?」
「どうした、お手だよお手」
言われていることの意味が理解できない氷狐王は、困惑と焦りから詰まった一言を言うのがやっとだった。
人間モドキは右手を差し出し、意味のわからない事を言う。そして妖刀が追い打ちをかける。
『ワンちゃんあのね、お手って言うのはね、ご主人さまの手のひらに右手を乗せるんだよ?』
「だ、そうだ。駄犬にも実に分かりやすい説明に感謝しろよ? では、あらためて……お手」
理解した。この人間モドキは氷狐王たる自分を、心底バカにしているのだと。
その事実に無くしたプライドが復活し、怒りが体から吹き上がり、とっさに次の行動に出る。
「こ、こ、殺してやるるるるるるッ!!」
氷狐王は激怒のままに、その透明な陰が入った右足で流を潰すように打ち下ろす。
それに流は呆れた表情で右手を出したまま動かない。
大きく振りかぶり、その勢いのままに憎き人間モドキの「頭へと」右足を振り下ろし――
〝コキィィィィン〟
意味の分からない音を、氷狐王の優れた聴覚がとらえる。続いて優れた視覚が見たことのある透明な物体を認識したが、それが「振り下ろしたはずの自分の右足」だと分からなかった。
それが分かったのは、バランスを崩して前のめりに倒れたからだった。
「ハァ~、だからお手と言っただろう? 優しく言っているうちに、おとなしくすりゃいいものを」
「なッ!? なんだこれはあああああああ!! い、いつだ?? いつワレを斬ったのだあああ!?」
「それすらも分からないのか? さっきお前のナントカ斬を、俺が斬った時に紫の風に吹かれたろう? あれが斬撃の『残りカス』だっての」
その言葉に氷狐王は戦慄した。確かに紫の不快な風が、体にまとわり付くように通り過ぎたのは分かったが、それで「斬られた」などとは全く思えなかった。
だがよく考えてみれば、確かに動く時に違和感を感じたのは事実。それを口に出し、問いただす前に、人間モドキが話す。
「本当に名前負けだな。今日からお前の名は『ワン太郎』だ」
『えぇ~? もっと可愛いネーミングにしましょうよ~』
「ダメだな。見ろ、あの間抜け顔を。ワン太郎がお似合いだ」
氷狐王は怒りを忘れ呆然とした。「コイツラは王たる自分に何を言っているか」と……。
直後にその言葉の意味を理解すると、氷狐王は一言「もういい」とつぶやく。
その、次の瞬間――。
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