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第八章:塔の管理者達と、新たな敵
305:巨滅級あらわる
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「俺はあんたと同じ、巨滅級の称号を持つエンリケって言う。もちろん単独討伐とかじゃなく、パーティー単位での討伐だ。よろしくな、ダブルプラスの英雄」
「そうなのかい? こっちこそよろしくな。で、どうしたんだ?」
「お前さんも気がついているとは思うが……」
「ああ、あいつらな……素直すぎるってだろ?」
「そうだ、俺はこの手の話に明るいってのもあって、今回リーダーになってるんだが、どうにも気持ちよく歌いすぎる。あれは確実に情報を持ってる。もう一つ、これも確実に言える事だが、アイツラは『プロの追跡者』だ。しかも目に恐れがない。だから、拷問されてもこのままのらりくらりだろう。それにプロの追跡者が持つスキル〝強靭心〟が奴らのあの態度の原因だ」
その話を聞いて流は思案するように目を閉じる。数秒後目を開くと、エンリケに提案する。
「なぁ、それって恐怖を感じることがないし、痛みすら恐れないから、吐かないってことだろ?」
「端的に言うとそうだ」
「なら……」
「おいおい、スゲェ悪い顔をしているぞ? おっかねぇな、本物の巨滅の英雄様はよぅ」
「そうかい? そいつは失敬」
そんな話をしながら追跡者の元へと戻る二人。エンリケはこの後何が起こるのかが楽しみでしかたなかった。そう、アレを見るまでは……。
「お~い、ワン太郎おいで~」
「むむ、あるじが呼んでいるワン。ええい、撫でるのをやめるんだワン!」
冒険者や、ギルドの職員に体を撫でられていたワン太郎は、短いあしで〝ぽむぽむ〟歩いてやって来ると、流にむんずと掴まれる。そして――。
「じゃあ雇われただけの、哀れな賊共にご挨拶をしてこい、氷狐王!!」
流はブンッとワン太郎を放り投げる。ワン太郎は『あ~~れ~~!?』とマヌケな声を上げた次の瞬間、氷の塊がワン太郎を囲むように集まり、やがてワン太郎の真の姿である「リデアル氷原の支配者」が降臨する。
その見ただけの恐怖で、失神する者が出るほどのとんでもない威圧感……。
目は生物とも、鉱物にも見える、禍々しく光る真っ赤な絶望にそまる瞳。生き物のような毛皮からのぞく、氷の体がさらなる混乱と美しさを演出していた。その不気味な姿が、なお恐怖を魂から呼び起こし、見る者の狂気を加速させる。
その威圧を受けていないにもかかわらず、ギルド職員は次々と失神し、豪胆なバーツや冒険者たちを相手に引かないエルシアですら、顔を真っ青にして崩れ落ちそうな足を震わせる。
エンリケたちですらその恐怖に顔を引きつらせ、脂汗をダラダラとながし硬直する。巨滅級の冒険者たちですら、動いたら死んでしまうと錯覚するような緊張感なのだから。
ヴァルファルドだけは「ほぉ……」と一言呟くと、腕を組み面白そうに氷狐王を見つめている。
「「「ヒッィッィィァャァァア!?」」」
「愚昧なる人間よ……。誰が最初にワレの顎の栄誉を受けるのだ?」
追跡者たる賊たちは、恐怖で失神しそうになる。が、不幸にも本職の追跡者がもつ〝強靭心〟と言うスキルが邪魔をして、失神を許さない。失神できるとしたら、それは物理的なダメージをおった時くらいなのだから……。
やがて氷狐王はその恐ろしい口を〝ガバリ〟と開き、禍々しい氷の牙が露出する。
それは見る者の心を折るには十分すぎるほどの、恐怖の化身であった。さらに吐き出された凍てつく吐息は、容赦なく賊達を凍傷にする。
「「「ギャフィィアアアアアアア!!」」」
賊達はあまりの恐怖に汚水をハデに、漏らす……が、即座にそれすら凍りつき、凍った所からさらに凍傷がすすむ。
「何だ、答えぬのか? ならば主の名を汚した罰よ。生きたまま氷の彫像となり、自分の体がゆっくりと崩れ落ちるのを見るがよい。クックック、あれはツライらしいぞ? ワレが凍らせた幾万の雑兵達が言っておったわ……『コロシテクレ』と、な」
そう言うと氷狐王は、ブリザードの中に裸で放り込まれたのがマシなほど、底冷えのする声で嗤う。
嗤いながらも路傍の小石よりなお、ゴミを見る目でそう言われたのが恐ろしい。もう死んでしまいたいが、それを許す腕はすでに動かず体は身動きすらできない。舌を噛み切ればよいのだが、それすら頭が回らず混乱するだけだった。
「氷狐王、下がれ」
「承知……。よいか愚か者共よ、これが最後だぞ? 主の慈悲も無限ではないのだから」
そう言うと氷狐王は音もなく背後へと下がる。
チラリとそれを見た流は、賊達の前へとすすみ、「保護者直伝」の実に良い笑顔でこう告げる。
「どうだ、楽しんでくれたか? さぁお待ちかねの『死よりつら~い氷結地獄』を選ぶか、『正直に全てを話す』か、選べ。俺のワンコは気が短い、きっと良い氷像が出来るだろう」
賊達はその言葉が救いに思えた。普通なら鼻で嗤うところだったが、今は違う。心の底から恐ろしいのだ。死と言う意味も知っているし、そうなりかけた事も何度もある。
だが、今回の恐怖は次元が違う……。
例えるならば「本当の意味で死を弄ぶ存在」と言う、絶対会ってはいけない相手だと認識したのだから。
「わわわっわわわああわっかりました!! 全部、全部、全部、正直に話します! だ、だから、た、た助けてくださいいいいいいい!!」
「なんだよ、もっと粘ってくれるのかと思ったのに……残念だな美琴。この後お前に呪われたやつの、実演でもしようかと思ってたのに。あれは凄いぞ? なんせ色々吹き出しながら狂い死ぬからな?」
『ちょ、ちょっと! そういう事を言うのはやめてくださいよ! もうああ言うことは極力しないんだから!』
「だ、そうだぞ? しないとは言うが、コイツは『うっかり』とする女だ。やっぱりお前……そう、さっきまで饒舌に歌ってたお前に、美琴の呪いをプレゼントしよう。きっといい声で歌ってくれるに違いない。なに、感謝にはおよばないさ。氷漬けにされゆっくりと壊れる体を見ながら発狂するより、遥かに短時間で『生まれてきたことを千回後悔しながら』死ねるんだからな」
「「「うヴぁヴぃっぃ!?」」」
その言葉と、剣から漏れ出る得体のしれない「恐怖」を心臓が理解する。追跡者達はさとる、この男の言っている事は「嘘偽りのない本気」なんだと。
世の中には触れてはダメな存在がいると言うことを、初めて知ったがすでに遅かった。
「残念ながら美琴の実演にハズレたやつは安心してくれ。お前たちには、お楽しみはまだまだあるぞ? 究極は屋敷に帰ってから――」
『流様、流様。すでに気絶していますよ?』
「ん? あら本当だ……存外だらしがない奴らだ」
見れば全員気絶しており、追跡者のスキルである〝強靭心〟が折れたのを確認したのだった。
☆*:゚♪+。.☆.+**:゚+。☆彡
【あなた様に大感謝♪】
☆*:゚+。.☆.+*♪*:゚+。★彡
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その話を聞いて流は思案するように目を閉じる。数秒後目を開くと、エンリケに提案する。
「なぁ、それって恐怖を感じることがないし、痛みすら恐れないから、吐かないってことだろ?」
「端的に言うとそうだ」
「なら……」
「おいおい、スゲェ悪い顔をしているぞ? おっかねぇな、本物の巨滅の英雄様はよぅ」
「そうかい? そいつは失敬」
そんな話をしながら追跡者の元へと戻る二人。エンリケはこの後何が起こるのかが楽しみでしかたなかった。そう、アレを見るまでは……。
「お~い、ワン太郎おいで~」
「むむ、あるじが呼んでいるワン。ええい、撫でるのをやめるんだワン!」
冒険者や、ギルドの職員に体を撫でられていたワン太郎は、短いあしで〝ぽむぽむ〟歩いてやって来ると、流にむんずと掴まれる。そして――。
「じゃあ雇われただけの、哀れな賊共にご挨拶をしてこい、氷狐王!!」
流はブンッとワン太郎を放り投げる。ワン太郎は『あ~~れ~~!?』とマヌケな声を上げた次の瞬間、氷の塊がワン太郎を囲むように集まり、やがてワン太郎の真の姿である「リデアル氷原の支配者」が降臨する。
その見ただけの恐怖で、失神する者が出るほどのとんでもない威圧感……。
目は生物とも、鉱物にも見える、禍々しく光る真っ赤な絶望にそまる瞳。生き物のような毛皮からのぞく、氷の体がさらなる混乱と美しさを演出していた。その不気味な姿が、なお恐怖を魂から呼び起こし、見る者の狂気を加速させる。
その威圧を受けていないにもかかわらず、ギルド職員は次々と失神し、豪胆なバーツや冒険者たちを相手に引かないエルシアですら、顔を真っ青にして崩れ落ちそうな足を震わせる。
エンリケたちですらその恐怖に顔を引きつらせ、脂汗をダラダラとながし硬直する。巨滅級の冒険者たちですら、動いたら死んでしまうと錯覚するような緊張感なのだから。
ヴァルファルドだけは「ほぉ……」と一言呟くと、腕を組み面白そうに氷狐王を見つめている。
「「「ヒッィッィィァャァァア!?」」」
「愚昧なる人間よ……。誰が最初にワレの顎の栄誉を受けるのだ?」
追跡者たる賊たちは、恐怖で失神しそうになる。が、不幸にも本職の追跡者がもつ〝強靭心〟と言うスキルが邪魔をして、失神を許さない。失神できるとしたら、それは物理的なダメージをおった時くらいなのだから……。
やがて氷狐王はその恐ろしい口を〝ガバリ〟と開き、禍々しい氷の牙が露出する。
それは見る者の心を折るには十分すぎるほどの、恐怖の化身であった。さらに吐き出された凍てつく吐息は、容赦なく賊達を凍傷にする。
「「「ギャフィィアアアアアアア!!」」」
賊達はあまりの恐怖に汚水をハデに、漏らす……が、即座にそれすら凍りつき、凍った所からさらに凍傷がすすむ。
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そう言うと氷狐王は、ブリザードの中に裸で放り込まれたのがマシなほど、底冷えのする声で嗤う。
嗤いながらも路傍の小石よりなお、ゴミを見る目でそう言われたのが恐ろしい。もう死んでしまいたいが、それを許す腕はすでに動かず体は身動きすらできない。舌を噛み切ればよいのだが、それすら頭が回らず混乱するだけだった。
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「「「うヴぁヴぃっぃ!?」」」
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