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第八章:塔の管理者達と、新たな敵
317:怖
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「お、お前はナガレなのか?」
「ああそうだ……俺は、古廻 流だ……」
シュバルツは戦慄した。目の前の存在にはどうあがいても勝てないと、長い戦場の経験で理解した。
だからこそ思う……このバケモノは生かしてはおけない、と。
それは人の本能なのかもしれない、畏怖・恐怖・怖気・驚怖と言うモノを超えた「人としての防衛本能」つまり――。
「オタクは……人類の敵か?」
「アニキが……そう思うなら」
シュバルツはゴクリと固唾を呑む。分かっているのだ、頭ではコイツは人類の敵じゃないと。
だが、強者の本能が警鐘を鳴らす。今すぐこの「バケモノ」を駆逐しろ! と。
「なぁ……巨滅の英雄さんよ。サインはもういらねぇ……だから死んでくれよ!!」
シュバルツはまだ炎が燃える体を捨てる勢いで襲いかかる。
だが……それはすでに意味のない事であった。
命を捨て全てを込めた今の状態で、流が人の身なら勝てた可能性はあっただろう。実際あのタイミングで、流が人間だったら確実に葬り去っていたのだから。
だが現実は――命を削った攻撃ですら、今のシュバルツには流を斬ることは不可能だ。
「……本当にすまない。戦士の戦いを汚してしまった……たのむ、ワン太郎」
「――〈生蒼薔薇の棺〉――。哀れな人間よ……あるじの慈悲だ、そのまま眠るが良いワン」
シュバルツが流へと、その斬撃が届く刹那、ワン太郎がいつの間にかその背後におり、シュバルツを氷の青い薔薇が咲き誇る氷の棺に封印する……まるで時間を止めるように、無双の力を誇った漢は静かに動きを止めたのだった。
『流様……』
「あるじぃ……」
泣き出しそうな顔でシュバルツを見る流。そしてその意味を知っている二人は、流を見つめる事しかできない。おもわず美琴は悲恋から抜け出ると、ワン太郎を抱いて流の前にくる。
「そう……か。これが人を捨てた代償か……」
そう言いながら、シュバルツの生蒼薔薇の棺にそっと手を置きながら、異世界へ来る前に〆に言われたことを思い出す。
◇◇◇
「古廻様……異世界での妖人になっての戦闘は、できるだけ慎みくださいますように」
「なぜだ? こっちの方が強いだろう?」
「はい、格段に強いです。ですが、人相手では強すぎます」
「……そうか。俺はお前達と同じ存在になった……か。だから過剰に恐れられると?」
「はい。ですが命の危機には迷わずお使いくださいまし」
「古廻はん、ようするに包丁と同じですわ。使いようによっては日々無くてはならない物でっけど、使い方を誤れば忌むべき物になりますさかい」
「フム。だからその包丁をどう使い、それを周りに認めさせるか……。それが今後の課題とも言えましょうな」
「古廻はん、その包丁は妖刀の類ですねん。せやから玄人ほどその危険性がわかり、素人ほどそれが薄れます。せやけど『怖い』という言いようのない不安は、どちらも感じるはずですねん」
「なるほどな……分かった、注意しておくよ」
◇◇◇
「――分かっていなかった。絶大な力と引き換えに、俺は人として同じ場所へと立つ事は出来なくなったんだなぁ……」
「流様……元気をだして。そ、そうだよ! 私なんか何百年も呪いそのものだったし、妖刀だし、今なんか幽霊なんだからね!! ぅ……そう思うと何だか悲しくなってきた」
「ちょ!? 女幽霊! お前まで落ち込むのをやめるんだワン! ワレなんか邪神に無理やり召喚されて、嫌々来てみたら王様なのにペットになったワンよ!? ぅ……そう思ったら悲しくなってきたワン」
三人は「ハァ~」と長い溜息をついてから、顔を見合わす。そんな二人を流は見ると、自分の人を捨てた自覚の無さに呆れつつも、こんな形で励ましてくれる二人に感謝をする。
「ったく、お前たちまでそんな顔されたら、俺がバカみたいじゃないかよ。ホント、だめだねぇ……俺は」
シュバルツの生蒼薔薇の棺からそっと手を離す……。
全く死んだように見えないどころか、今すぐ息をしていそうな、見開いたままの目を見つめると、流は一言呟く。
「人としての真剣勝負……アンタの勝ちだったぜアニキ。俺を恨んでくれていい……だから、今は安らかに眠ってくれ……」
流は妖人化を解くと、中央塔へと向けて歩き出す。元凶たるアルレアンと、その背後にいるアルマーク商会に静かな怒りをともしながら、色々な感情を噛みしめるようにゆっくりと進む……。
◇◇◇
――時は流の戦闘直後に戻る。
「ど、どうするのだ!! 傭兵たちまで負けてしまったではないか!? もう逃げ場などないぞ!!」
「ふ~む。困りましたなぁ……いっそ、投降でもしてみますかな? 今ならステキなダンジョン奴隷になれるでしょうからなぁ」
「ば、馬鹿者!! 全然ステキでも何でもないわ!! どうするのだ!?」
馬鹿には興味がないと、吠える男を無視し魔具に映る侵入者を見つめる男、エスポワールは先程の戦闘光景にニヤリと笑う。あれは明らかに人ではなかった。
そう、あれは――。
「あやかし……ですかな? ハッハッハッハ!! そうか、そうか!! こんな所におったのか!!」
「な、何を笑っておる!? このままでは私もお前も破滅だぞ!!」
アルレアン子爵は泳ぐ視線で周囲を見渡す。あった……見つけた。この状況を打開する決定的な方法を。
そしてこの馬鹿笑いしている男の利用方法も同時に思いつく。
「もうよいわ、私も覚悟を決めた! お前達、巨滅の英雄を迎える準備をしろ! まずはその娘を自由にしてやれ、そして中央の椅子に座らせておけ」
「ハ、ハイ! ほら、中央へ行け女!!」
「痛ッ――分かったから棒でつつかないでよ! (ナガレ様!! 来てくれたんだ! でもあの姿は一体……)」
メリサは魔具の映像を見て驚く。それは間違いなくナガレであったが、見た目が変わっており、よく分からないが少し……『怖』かったのだから。
「ああそうだ……俺は、古廻 流だ……」
シュバルツは戦慄した。目の前の存在にはどうあがいても勝てないと、長い戦場の経験で理解した。
だからこそ思う……このバケモノは生かしてはおけない、と。
それは人の本能なのかもしれない、畏怖・恐怖・怖気・驚怖と言うモノを超えた「人としての防衛本能」つまり――。
「オタクは……人類の敵か?」
「アニキが……そう思うなら」
シュバルツはゴクリと固唾を呑む。分かっているのだ、頭ではコイツは人類の敵じゃないと。
だが、強者の本能が警鐘を鳴らす。今すぐこの「バケモノ」を駆逐しろ! と。
「なぁ……巨滅の英雄さんよ。サインはもういらねぇ……だから死んでくれよ!!」
シュバルツはまだ炎が燃える体を捨てる勢いで襲いかかる。
だが……それはすでに意味のない事であった。
命を捨て全てを込めた今の状態で、流が人の身なら勝てた可能性はあっただろう。実際あのタイミングで、流が人間だったら確実に葬り去っていたのだから。
だが現実は――命を削った攻撃ですら、今のシュバルツには流を斬ることは不可能だ。
「……本当にすまない。戦士の戦いを汚してしまった……たのむ、ワン太郎」
「――〈生蒼薔薇の棺〉――。哀れな人間よ……あるじの慈悲だ、そのまま眠るが良いワン」
シュバルツが流へと、その斬撃が届く刹那、ワン太郎がいつの間にかその背後におり、シュバルツを氷の青い薔薇が咲き誇る氷の棺に封印する……まるで時間を止めるように、無双の力を誇った漢は静かに動きを止めたのだった。
『流様……』
「あるじぃ……」
泣き出しそうな顔でシュバルツを見る流。そしてその意味を知っている二人は、流を見つめる事しかできない。おもわず美琴は悲恋から抜け出ると、ワン太郎を抱いて流の前にくる。
「そう……か。これが人を捨てた代償か……」
そう言いながら、シュバルツの生蒼薔薇の棺にそっと手を置きながら、異世界へ来る前に〆に言われたことを思い出す。
◇◇◇
「古廻様……異世界での妖人になっての戦闘は、できるだけ慎みくださいますように」
「なぜだ? こっちの方が強いだろう?」
「はい、格段に強いです。ですが、人相手では強すぎます」
「……そうか。俺はお前達と同じ存在になった……か。だから過剰に恐れられると?」
「はい。ですが命の危機には迷わずお使いくださいまし」
「古廻はん、ようするに包丁と同じですわ。使いようによっては日々無くてはならない物でっけど、使い方を誤れば忌むべき物になりますさかい」
「フム。だからその包丁をどう使い、それを周りに認めさせるか……。それが今後の課題とも言えましょうな」
「古廻はん、その包丁は妖刀の類ですねん。せやから玄人ほどその危険性がわかり、素人ほどそれが薄れます。せやけど『怖い』という言いようのない不安は、どちらも感じるはずですねん」
「なるほどな……分かった、注意しておくよ」
◇◇◇
「――分かっていなかった。絶大な力と引き換えに、俺は人として同じ場所へと立つ事は出来なくなったんだなぁ……」
「流様……元気をだして。そ、そうだよ! 私なんか何百年も呪いそのものだったし、妖刀だし、今なんか幽霊なんだからね!! ぅ……そう思うと何だか悲しくなってきた」
「ちょ!? 女幽霊! お前まで落ち込むのをやめるんだワン! ワレなんか邪神に無理やり召喚されて、嫌々来てみたら王様なのにペットになったワンよ!? ぅ……そう思ったら悲しくなってきたワン」
三人は「ハァ~」と長い溜息をついてから、顔を見合わす。そんな二人を流は見ると、自分の人を捨てた自覚の無さに呆れつつも、こんな形で励ましてくれる二人に感謝をする。
「ったく、お前たちまでそんな顔されたら、俺がバカみたいじゃないかよ。ホント、だめだねぇ……俺は」
シュバルツの生蒼薔薇の棺からそっと手を離す……。
全く死んだように見えないどころか、今すぐ息をしていそうな、見開いたままの目を見つめると、流は一言呟く。
「人としての真剣勝負……アンタの勝ちだったぜアニキ。俺を恨んでくれていい……だから、今は安らかに眠ってくれ……」
流は妖人化を解くと、中央塔へと向けて歩き出す。元凶たるアルレアンと、その背後にいるアルマーク商会に静かな怒りをともしながら、色々な感情を噛みしめるようにゆっくりと進む……。
◇◇◇
――時は流の戦闘直後に戻る。
「ど、どうするのだ!! 傭兵たちまで負けてしまったではないか!? もう逃げ場などないぞ!!」
「ふ~む。困りましたなぁ……いっそ、投降でもしてみますかな? 今ならステキなダンジョン奴隷になれるでしょうからなぁ」
「ば、馬鹿者!! 全然ステキでも何でもないわ!! どうするのだ!?」
馬鹿には興味がないと、吠える男を無視し魔具に映る侵入者を見つめる男、エスポワールは先程の戦闘光景にニヤリと笑う。あれは明らかに人ではなかった。
そう、あれは――。
「あやかし……ですかな? ハッハッハッハ!! そうか、そうか!! こんな所におったのか!!」
「な、何を笑っておる!? このままでは私もお前も破滅だぞ!!」
アルレアン子爵は泳ぐ視線で周囲を見渡す。あった……見つけた。この状況を打開する決定的な方法を。
そしてこの馬鹿笑いしている男の利用方法も同時に思いつく。
「もうよいわ、私も覚悟を決めた! お前達、巨滅の英雄を迎える準備をしろ! まずはその娘を自由にしてやれ、そして中央の椅子に座らせておけ」
「ハ、ハイ! ほら、中央へ行け女!!」
「痛ッ――分かったから棒でつつかないでよ! (ナガレ様!! 来てくれたんだ! でもあの姿は一体……)」
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