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第八章:塔の管理者達と、新たな敵
332:土地神
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「一つ聞かせてくれ。俺はここの責任者ではないから、決定権が無い。もしここの領主に出てけと言われても聞いてくれるか?」
「それは無理じゃな。一度根を張れば、最低十年は動けんよ。なに心配するでない、悪さなどせんよ。それに悪さをする土地神になったとて、わっぱなら容易く討伐も出来よう?」
「……よし分かった。あんたを信じよう。ここの守護を頼む!」
「うむ! では早速始めるとしようぞ!!」
亀爺は水の吹き出る割れ目へと向かうと、そこへ迷いなく突っ込む。
流はそれに一瞬驚くが、次の瞬間だった。割れ目から一層激しく水が吹き出たかと思うと、それが次第に形を変えて巨大な亀の形になる。
「「マジカヨ……」」
「大殿、姫様。あれが土地神ですよ。それにしてもやはりこの場所は異常ですねぇ、ここまで早く土地の力を吸収して土地神になれるなんて……まったく、あぁ~説明が面倒……」
驚く流と美琴を気だるそうに見つめながら、説明をしてくれる向日葵。
やがて水が亀の形になるのがおさまると、その姿を顕現させる。
驚くことに足は八本になっており、長い二本の尾は先端がトラだった。そしてもっとも驚くのが、甲羅部分が水の塊のようであり、中に龍が泳いでいるのが見えた。
「ハッハッハ!! これは爽快なり! まさかここまで力が滾るとはなぁ? クククッ……どうれ、わっぱで力試しでもしてみるか?」
「――オイ、今は冗談を聞く気分じゃないんだがな?」
「うむうむ、その元気があればよい。先程のわっぱの様子は見ていて不憫じゃったからなぁ。あらためて、その強大な力の使い方を誤ることなかれよ?」
「あんた……ああ、分かったよ。ありがとう亀爺」
亀爺と呼ばれる事が嬉しかったのか、大きく長い首を数度うなずく。
「それでまだ揺れが続いてるんだが、どうするんだ?」
「あぁ、忘れていたわ。どれどれ……」
そう亀爺は言うと、相撲取りが四股を踏むように片側の足全てを高くあげてから落とす。
その衝撃は波紋のように広がると、あれほど揺れていた地面や天井・壁などが静かになった。
「おお……収まったのか?」
「みたいですね……」
「ハッハッハ、それはそうだ。わしの一部だからなここは。なれば好きに出来るわい。そこで気がついたんじゃがな」
亀爺は虎の顔が付いた尾を流の前に持ってくる。ギラついた虎の目が異様に不気味だったが、その口に加えてあるモノに一同は注目する。
「ハァ~面倒な……これは反転の呪鉾ですか」
「向日葵ちゃん、それはなあに?」
「そうですね……亀の土地神よ。それを地面に突き刺してくれませんか?」
「ふぅむ。あまり気乗りはしないが……」
そう言うと亀爺は虎の尾が咥えた三叉の儀式用の鉾を、流の前へと突き刺す。
瞬間、鉾がうっすらと黒く光り始めると、何か「力」と分かるものがあふれる。
より正確に言うと、三叉の左右より土地の力を吸い、中央の部分から土地を汚染していた。
「ご覧の通りです。やがて聖域とも言える清浄な力を持つこの場所を汚し、さらに負の力へと書き換える呪鉾です」
「……俺にも分かる。なんて禍々しく汚れた力なんだ」
「そうですね流様。これは私ほどじゃないけど、強力な呪力だよ。それで向日葵ちゃん、これを見せたかっただけじゃないでしょ?」
「面倒だけどそのとおりです。では始めますか……はぁ……」
そう向日葵はとても気だるげに息を吐き出すと、手印を素早く切る。思わずその美しい仕草に見惚れる流だったが、亡霊なのにため息出来るんだなと思っていた瞬間だった。
向日葵は手印を切り、最後に「快快石封略!!」と唱えると、呪鉾が刺さっていた場所を中心に石の柱が出来封印される。
すると先程までの汚れた力が綺麗に消え去り、元の清浄な空間へと変わる。
「はぁ~疲れたぁ…………」
「ちょ、向日葵ちゃん! 立ったまま寝ないで!?」
その後、揺すったり頬を〝むにっ〟としたりしたが、一向に起きる気配がないので諦める美琴。
ふと後ろを振り向けば、流がジト目で見つめている。だから「私がんばったょ」とばかりに笑顔でその成果を報告する。
「えっと……無事に封印しちゃいました♪」
「一緒に『有能な陰陽師の娘も封印された』ようだが?」
「有能だから、一緒に見守ろう……なんて?」
「はぁ。で、これどうすればいいんだ? 寝ちまって、動かしていいのかも分からん」
「まったく、向日葵のやつめは変わりませぬなぁ? ハッハッハ!! して大殿、こやつめが起きるのを待ってられませんからな!! とりあえず〆殿へ持っていってはどうでしょう!?」
三左衛門の暑苦しい進言を聞きながら、流は考える。それは確かにここに来ていきなりの事であった、日本から逃げ出した者たちの影。
メリサを救出に来たつもりが、まさかの裏で暗躍していたアルマーク商会が【日本から逃げ出した人形】と密接な繋がりがあった事に、落ち着いて考えると驚く。
つまり――。
「人形どもに見つかっちまったか……」
「流様……まさかこんな形で遭遇するとは、予想もつかないよ」
「だな、落ち着いてみると……おかしな話だ。だがこれまでのエスポワールの話から予想はつく」
先程の増水や振動で元の場所よりながれて、遠くへと動いたエスポワールの死体を見る。
首は水路の近くまで割れた二つがあり、恨めしそうにこちらを見ているが、すでにただの死体となっているのは気配察知で確認済みだった。
「それは無理じゃな。一度根を張れば、最低十年は動けんよ。なに心配するでない、悪さなどせんよ。それに悪さをする土地神になったとて、わっぱなら容易く討伐も出来よう?」
「……よし分かった。あんたを信じよう。ここの守護を頼む!」
「うむ! では早速始めるとしようぞ!!」
亀爺は水の吹き出る割れ目へと向かうと、そこへ迷いなく突っ込む。
流はそれに一瞬驚くが、次の瞬間だった。割れ目から一層激しく水が吹き出たかと思うと、それが次第に形を変えて巨大な亀の形になる。
「「マジカヨ……」」
「大殿、姫様。あれが土地神ですよ。それにしてもやはりこの場所は異常ですねぇ、ここまで早く土地の力を吸収して土地神になれるなんて……まったく、あぁ~説明が面倒……」
驚く流と美琴を気だるそうに見つめながら、説明をしてくれる向日葵。
やがて水が亀の形になるのがおさまると、その姿を顕現させる。
驚くことに足は八本になっており、長い二本の尾は先端がトラだった。そしてもっとも驚くのが、甲羅部分が水の塊のようであり、中に龍が泳いでいるのが見えた。
「ハッハッハ!! これは爽快なり! まさかここまで力が滾るとはなぁ? クククッ……どうれ、わっぱで力試しでもしてみるか?」
「――オイ、今は冗談を聞く気分じゃないんだがな?」
「うむうむ、その元気があればよい。先程のわっぱの様子は見ていて不憫じゃったからなぁ。あらためて、その強大な力の使い方を誤ることなかれよ?」
「あんた……ああ、分かったよ。ありがとう亀爺」
亀爺と呼ばれる事が嬉しかったのか、大きく長い首を数度うなずく。
「それでまだ揺れが続いてるんだが、どうするんだ?」
「あぁ、忘れていたわ。どれどれ……」
そう亀爺は言うと、相撲取りが四股を踏むように片側の足全てを高くあげてから落とす。
その衝撃は波紋のように広がると、あれほど揺れていた地面や天井・壁などが静かになった。
「おお……収まったのか?」
「みたいですね……」
「ハッハッハ、それはそうだ。わしの一部だからなここは。なれば好きに出来るわい。そこで気がついたんじゃがな」
亀爺は虎の顔が付いた尾を流の前に持ってくる。ギラついた虎の目が異様に不気味だったが、その口に加えてあるモノに一同は注目する。
「ハァ~面倒な……これは反転の呪鉾ですか」
「向日葵ちゃん、それはなあに?」
「そうですね……亀の土地神よ。それを地面に突き刺してくれませんか?」
「ふぅむ。あまり気乗りはしないが……」
そう言うと亀爺は虎の尾が咥えた三叉の儀式用の鉾を、流の前へと突き刺す。
瞬間、鉾がうっすらと黒く光り始めると、何か「力」と分かるものがあふれる。
より正確に言うと、三叉の左右より土地の力を吸い、中央の部分から土地を汚染していた。
「ご覧の通りです。やがて聖域とも言える清浄な力を持つこの場所を汚し、さらに負の力へと書き換える呪鉾です」
「……俺にも分かる。なんて禍々しく汚れた力なんだ」
「そうですね流様。これは私ほどじゃないけど、強力な呪力だよ。それで向日葵ちゃん、これを見せたかっただけじゃないでしょ?」
「面倒だけどそのとおりです。では始めますか……はぁ……」
そう向日葵はとても気だるげに息を吐き出すと、手印を素早く切る。思わずその美しい仕草に見惚れる流だったが、亡霊なのにため息出来るんだなと思っていた瞬間だった。
向日葵は手印を切り、最後に「快快石封略!!」と唱えると、呪鉾が刺さっていた場所を中心に石の柱が出来封印される。
すると先程までの汚れた力が綺麗に消え去り、元の清浄な空間へと変わる。
「はぁ~疲れたぁ…………」
「ちょ、向日葵ちゃん! 立ったまま寝ないで!?」
その後、揺すったり頬を〝むにっ〟としたりしたが、一向に起きる気配がないので諦める美琴。
ふと後ろを振り向けば、流がジト目で見つめている。だから「私がんばったょ」とばかりに笑顔でその成果を報告する。
「えっと……無事に封印しちゃいました♪」
「一緒に『有能な陰陽師の娘も封印された』ようだが?」
「有能だから、一緒に見守ろう……なんて?」
「はぁ。で、これどうすればいいんだ? 寝ちまって、動かしていいのかも分からん」
「まったく、向日葵のやつめは変わりませぬなぁ? ハッハッハ!! して大殿、こやつめが起きるのを待ってられませんからな!! とりあえず〆殿へ持っていってはどうでしょう!?」
三左衛門の暑苦しい進言を聞きながら、流は考える。それは確かにここに来ていきなりの事であった、日本から逃げ出した者たちの影。
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