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第九章:奪還作戦と、国の闇

350:うさちゃんは凄いのです

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 流の表情から何を考えているかを理解した〆は、心苦しくも注意をうながす。

「古廻様、あの女に所在を知られたからには確実に襲ってくるでしょう。それが夜でも、昼でも、何処にいても……」
「せやな……。こんな事は言いとうないんやけど、それがあの女の性格やからなぁ」
「そこまでかよ?」
「フム……。古廻様左手の壁を御覧ください」

 参にそう言われて壁を見る。そこには先程から気になっていた【封弐】と書かれた札が、一枚柱に貼られていた。
 その札は当然普通のものではないし、明らかに異常だと肌で感じる。そして先程の話から推察すると。

「鍵鈴封座の力か?」
「フム、その通りです。あの後、私達は封座様のご遺体を回収しました。そしてその体に残る神気の欠片と、ご遺体の一部を使い、私があの札を仕立てました」
「……とてつもない力を感じる。ソレに捕まったら、抜け出る事が出来ないんじゃないか?」

 遺体の一部と聞いてドン引く流。だがそんな雰囲気ではないと、ジット【封弐】の札を見つめる。
 まるで小さなブラックホールのようでもあり、対象を縫い付け、引きずり込むようなものを感じた。
 もし自分ならどうなる? そう考える流だったが、妖人あやかしびととなっても逃げれる気がしなかった。

「フム。そこに書いてある文字が【封弐】ですな。つまりその札は、あの忌々しい裏切り者専用の封印術になります」
「なるほど……だからここで効果を試しているのか?」

 見れば確実に札が起動しており、その力を発揮しているようだった。
 参は流の問に首をたてにふり、肯定の意思をしめし話を続ける。

「そうですな。先の件で、憚り者が異怪骨董やさんに仕込んだ奴の痕跡もろとも、吸い込んでいます。どうやら実験は成功らしく、ヤツの微妙な痕跡すら残さず掃除したようですな」
「ほんと、色々凄いなお前たちは……。それでこの札だが、弐専用のものなのか?」
「いえいえ、文字通り『弐に特化』していますが、使おうと思えば使えます。ただ威力はこの半分ほどに落ちるでしょうな。ですが、封座様のお力がどのように作用するのかが未知数な部分もあり、一概いちがいには言えないのです」

 流は「そうか」と頷くと、札を見る。そしておもむろに立ち上がると、札の前に来てから〆たちをゆっくりと見回す。

「じゃあコレを貰っていくぞ?」

 その言葉に一同が凍りつく。特に〆はその特性をよく知っているために、いち早く流を諌めようと立ち上がる。

「お、お待ち下さい古廻様!! その札は神気、それも聖属性のモノが大部分です!! 古廻様は私と同じ闇属性、触れれば手痛いダメージになってしまうかもしれません!!」
「せやで古廻はん!! これは僕がそこに貼ったから大丈夫なんやで? そのまま触ったら無事じゃすまないで!?」
「フム!? どうかご再考を! 洒落になっていません、それは私が丹精込めて作り上げた芸術品ですぞ!!」

 どうやら相当ヤバいものらしい。まぁそれは見れば分かるのだが、この三人の狼狽えようはかなりのものだった。
 それに苦笑いを浮かべ、流は三人の静止を聞かずに札に右手をかける。
 
「「「ああああああ!?」」」
「グゥゥアアアアアアアアアアアアッ!!」
「「「古廻様ああああああ!!」」」

 焦る三人は、すぐに因幡へと視線を向けて治療の用意を懇願する。

「因幡!! 早く古廻様から神気を払ってください!!」
「はよう、はよう頼むで!!」
「フムゥ! 聖属性を相殺する札は……。今手持ちに無い!? い、因幡早くなんとかするのです!!」

 なおも苦しむ流を〝ぽけ~〟と見つめる、お胸がとっても進化した因幡は、おもむろに立ち上がる。
 そして流が畳の上で悶ているのを見てから、そっと腰をおろして流の頭を抱きしめる。

「もぅ、お客人は何をしているのですか? 別にどこも痛くないのです。ほら~」

 抱き起こされた流は、いたずらっ子のような顔で三人を見ると笑い出す。

「ぷははは! 驚いたか?」
「は、え? 一体何が……」
「驚きましたな……」
「どうなっとんや!?」

 驚く三人を見てさらに笑う流。どうやら三人が思っている事にはならないらしく、何処も何も無いようだった。
 そして因幡に抱きしめられたまま、右手で札を〝ペラペラ〟と煽るように三人へと見せる。

「な? 別になんでも無いだろう?」
「どうして何でもないんでっか……」
「そうだなぁ、それは俺が古廻だからじゃないのか?」

 その言葉に三人は「あ!?」と声を出すと、〆が話を続ける。

「そうでしたね、確かに古廻様は封座様の直系のはず……なら封座様の力も大丈夫と言う事なのですか?」
「どうなんやろな、普通はダメだと思うんやが……せやかて今こうしてお元気だしなぁ」
「フムゥ。制作した私も、この状況はダメージが通ると思うのですが……一体なぜ?」
「まぁそういう事だから、コイツは俺が貰う。いいなお前たち?」

 そう言われては嫌とは言えず、三人は渋々頷くのだった。
 その後しばらく三人と話し、異世界へと戻る事になった流は、しばらくぶりに会った因幡と話がしたいからと三兄妹へと話す。どうやら久しぶりに会ったからか、因幡は流に抱きついて離れない。
 その様子を見て微笑ましく去っていく三人の後ろ姿を見送る二人。ちなみに美琴は悲恋の中へと入っている。

「……お客人」

 そう因幡が呟くと、右手を出す。それに苦笑いを浮かべながら右手を乗せる流。

「そう睨むなよ。可愛いお顔が台無しだぞ?」
「もぅ! そうやって茶化さないでほしいのです! もう少しで腕が吹き飛ぶところだったのです!!」
「うさちゃん声が大きいって、シィィィ!」
「まったく、久しぶりにあったと思ったら、まさかあんな事をするとは思ってもみなかったのですよ」

 因幡は呆れと怒りを含んだ、ため息を長めに吐くと、愛おしい表情で流を見つめるのだった。


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