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第九章:奪還作戦と、国の闇

425:青い影

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 美琴で迎えうとうとするが、あの巨体から繰り出される威力は即死級だろう。
 そして足場が崩れている不安定な場所では、その試みも無駄になる可能性が高い。
 さらに悪いことは重なる。巨木斬の裏を放ち、しかも初の実戦使用で妖力を大量につぎ込み、妖力が一瞬枯渇する。
 再充填完了まで残り三秒。なら悲恋美琴から妖力を譲渡してもらおうにも、迫る首が凶歯で襲うまで時間が無いだろう。

 流は焦る、飛び退くにもブレスで足場が崩れている最中であり、大地を蹴って逃れる事も不可能だ。
 悲恋からクナイが飛び出てレッド・ドラゴンを攻撃したが、それも焼け石に水。
 
 つまり――!!

「万事休すッ!?」
『流様!!』
「来るな!!!!」

 美琴は以前出来なかった事を、今は迷いなく実行する。それは、実体化し流の盾にならんと出てきた。
 それを流は感じ止めるが、その言葉を無視し、たとえ霊体が噛み砕かれ消滅し、文字通り幽霊だが死ぬ覚悟で流の全面に出て大の字に立ちふさがる。
 凶歯が迫ること残り二メートル半! 美琴が抜け出た事でパワーダウンした悲恋を握りしめ、なんとか不完全な体勢から業を放とうとする刹那それはおこる。

 突如美琴の前に蒼い影が滑り込むと、その蒼い影――嵐影は裂帛の気合を込め叫ぶ!!

「マ゛ッヴオ゛!!!!」

 嵐影はレッド・ドラゴンの腹の中心。人で言えばみぞおち辺りへ、嵐の鉤爪を両前足から出し、思いきり殴りつける。
 その威力は驚くべきかな、レッド・ドラゴンへ打撃が入り、その皮膚を貫通し、ぶっ刺さった瞬間――。

 まるで水風船が破裂したような〝ヴォン!〟と鈍い音がし、さらに打ち付けた両拳あしを中心に、波紋のように体表が波打つ。


「グェ……ボッ……ウエエエエエエエエエエ!!」

 ビグンとレッド・ドラゴンは震える。
 次の瞬間、その凶悪な口から大量の水を吐き出し、さらには青い血も混ざり青い噴水となり、自らの吐き出した水の威力で背後へと倒れるのだった。
 
 その後ビクンと一度、痙攣けいれんしたレッド・ドラゴンは、全く動かなくなる。
 驚くべき光景だが、嵐影は〝フン〟と鼻息一つ吐き出すと、くるりと向き直る。

「……マァ」
「ら、嵐影。汚ぇ噴水だっておまえ……え? 一体……い、いや。助かったぞ、本当に助かった! ありがとう嵐影!!」
「嵐影ちゃん! 本当にありがとう!! おかげで命が助かっちゃたよ~死んでるけど!!」
「……マママ~」
「おいおい、謙遜けんそんすんなよ。マジでスゲーってお前」
「そうです! 流石はマイ・マスターの騎乗生物!! ハッ!? そうです、あたしもマイ・マスターに騎乗してほしいですううう!!」

 一部おかしなHENTAIがいるが、そこは無視をし嵐影を撫でる流たち。
 そんな主人たちに褒められ、嵐影は嬉しそうに鼻をピスピスと鳴らすのだった。

 ワン太郎たちも、状況を見て安全と思い駆けつけてくるのが見える。
 どうやらワン太郎から状況を説明されていたらしく、その表情は驚きで満ちていた。

「ナガレ! 無事で良かったわ。それにしても……ランエイが倒したって本当なの?」
「ラーマンがのぅ……にわかには信じられんが、実際目の前にレッド・ドラゴンの死体があるし……っと、そうじゃ小僧。こいつの鱗をゆずってくれ! 我が騎士団の鎧に使いたい、頼む!」
「いや、驚いたぞナガレ。お前といると本当に退屈しない。っと、それよりだ。コイツの素材をぜひ私にさばかせてくれないか? 確実に他の奴らより高額にしてみせる!!」
「ちょ、落ち着けよ。まだ素材をどうこうって話じゃないって。なぁ?」

 流はLと嵐影を見る。二人はそれに応えるように一点を見つめている。

「オイ、そこの駄竜。そろそろ死んだふりはやめにしないか?」
「まったく、マイ・マスターの目を欺こうとは万死に値する」
「……マァ」

 三人から凍える視線で威圧されるレッド・ドラゴン。
 赤い顔を真っ青に染め、飛び起きると同時に腹から青い血をながして泣き叫ぶ。

「う……そ、そんな目で我を見るな! 鱗か? よし、痛いけど我慢するからそれでいいだろ!?」
「……マァ……」
「なにッ!? ち、血がほしいのか!! ほら、腹から出ていいるのでカンベンしてくれええ」
「……マママァ」
「ヒッ!! やめろ……我の目が所望なのか!? やめてえええええ目だけはカンベンしてください!! ウォォォォン、あんまりだあああああ!!」

 レッド・ドラゴンは大泣きして、大地をすごい量の涙で濡らす。
 そして必死に助命を懇願する。嵐影へと……。

「なぜアイツは嵐影へ命乞いをしてるんだ……」
「それは嵐影ちゃんが、赤トカゲを倒したからですよ」

 美琴の言葉に納得する全員。そんなラーマンへドラゴンが命乞いをしている、シュールな光景を呆然と見ていた時だった。

 突如嵐影の体が光り始め、まばゆい繭のようになり、それがやがて収まると額に白い紋様が浮かび上がるのだった。
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