上 下
6 / 8

厄災というナニカ

しおりを挟む
 一気に燃え上がる炎。ノドを塞ぐ熱風。髪を散らす灼熱。皮膚を焦がす業火。それらが一気に押し寄せ視界が紅蓮一色に染まる。

 もうダメ。このまま死んじゃう……そう、思った時だった。

 まばゆい光を落とす太陽を、一筋の黒い影が横切ったように感じた次の瞬間。

「――レイヤード・ファルサード・シ・スク・ハンセ・ドルク・シルク……氷神の一柱よ、我が名にもとにその力を存分に振るうがよい! 業火よ、焦げ付きながら荒ぶり凍り付け! 大氷結魔法! ジ・クォリタス!!」

 突如上空に氷の魔神が現れ、それが五体に分身したと同時に、大気が水滴になり、さらに凍りつく。
 そのまま高音をはなつ振動と共に、無数の氷の槍がふりそそぎ、業火へと突き刺さった瞬間、驚くことに炎が凍りついた。

 何が起きたのか誰もわからない。誰も理解できない。
 だがただ一人、この現象を起こした者だけが理解をしていた。
 その人物は、黒く驚くほど大きな帽子をかぶり、肌の露出度が高い黒いローブを小粋に羽織る美女が、そのまま空からほうきに横座りになって降りてくる。
 そして私の前へと来て指を鳴らした瞬間、四肢の拘束が吹き飛び、私が驚く間もなく彼女は口を開く。

「お迎えに上がりました常闇の魔女殿下。さぁ、貴女を自由な空へと解き放ちましょう」
「な、何を言っているの? それにあなたは誰なの?」

 するとニコリとほほえみ、彼女はこう言った。

「これは失礼を。私は厄災の魔女。貴方様の忠実なしもべにして、永久の従者」

 そう言うと厄災の魔女は右手を差し出しこう告げた。

「世界は無限に広く、好奇心と探究心に満ちあふれている……そんな最高の物を味わえずに、貴女はここで惨めに焼け朽ちますか? それともこの手をとり、共に星の大海へときますか?」

 そのといに無意識に右手を伸ばした瞬間、王族専用の席から金切り声でコレットが叫ぶ。

(あの女は厄災の魔女!? どうしてあの女がお姉さまを助けにきたのよ!! こ、このままではマズイッ!!)
「魔法師は何をしている!! 厄災の魔女もろとも早く焼き殺すですわ!!」
「ッ!? ハッ! 全部隊最大火力で魔女共を焼き殺せ!!」

 急速に練り上がる魔力。その力にゾっとするが、厄災の魔女さんは左まゆをあげながら、「やれやれ無粋ね」と苦笑い。

「さ、魔女殿下。決めるのは貴女様です」

 いまだ手を差し出したままの厄災の魔女さん。
 こんなときだけど、その差し出された右手に強く惹かれ、心が弾む不思議な気持ちが心臓から体を駆けめぐる。
 だから迷いなんてものは無く、力強く「はい!!」と頷き手を取る。


▷▷▷▷▷▷完結まで残り――2話
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

聖女でなくなったので婚約破棄されましたが、幸せになります。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:269pt お気に入り:2,409

主従

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

昨今の現代社会を愚痴りたい人のカレーなる異世界転生スローライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:3

お試し派遣は、恋の始まり。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:92pt お気に入り:69

おもしろ中編小説集

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

時空を超えて愛し合う2人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

長野ヨミは、瓶の中で息をする

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

処理中です...