上 下
105 / 109

101:ゲスダーの最後と堕天使の群れ

しおりを挟む
 その光景を見たゲスダーは、崩れる体をなんとか維持しつつも、まだ神気取りで叫ぶ。
 

「ヴァアカメ! げふぉッ、まだ神兵は健在なヴぉふッ!!」
「なんだよ、まだ生きていたのか? アリシアを抜いたのに、よく保っていられる」
「神! そうヴぁ! かみ゛のち゛か゛ら゛だッ!!」

 実に鬱陶うっとうしい。
 だから「そうかい、ならコイツと仲良く神様ゴッコでもしてろよ」と言いつつ、海底に潜むヘドロみたいな魚を釣り上げる。

 それを見たアリシアは真っ青に顔をそめて叫ぶ。
 
「ヤ、ヤマトさんそれは危険な魔物です! ヘドロイヤーと言って、強い幻覚作用と猛毒をもつ魔魚ですよ!?」
「へぇ……ならコイツと遊ぶんだな。そらよ」

 うじゅうじゅと蠢くヘドロイヤーを、ゲスダーへ向けて放つ。
 やつも真っ青になりながら「やめッ! やめ!? やめてえええええええ!!」と、神様モードはどこへやら? 
 
 情けなく叫ぶ自称神の口の中へと、ヘドロイヤーを強制的・・・にほうり込んでさしあげた。

 すると聞くに堪えない叫び声を三十四回上げた後、逆さの顔からおぞましい体液を巻き散らし、完全に正気を失い権天使だったモノがウゾウゾと崩壊。

 だがまだ生きているようで、見境なく堕天使まで喰い始めた。

「うぉ!? なんだアイツ……」
「ヘドロイヤーの毒にやられると、〝欲〟に取り憑かれた後に、苦しみ抜いて死にます……」
「よく知っているなアリシア」
「ええ、この国で一番危険な海の魔物とされていますし、もし見つけたら死にものぐるいで逃げないと、追って来てああなりますので……」

 よく分からない肉片になり、それでも他者を喰らおうと触手を伸ばす物体。
 自称神の姿はそこにはなく、もはや醜悪な生物となっていた。

 アリシアを連れてそこから離れ、マストの上からゲスダーだったものを見る。

「ゲスダー……馬鹿な事をしなければ、こんな事にならなかったのに……」
『あれは食欲といったところですかな』
「だろうな。さて、あとは天にいる堕天使どもだが……」

 皇魚の背中から無数の水の刃が飛び出し、堕天使の群れを襲う。
 まるで潜水艦がミサイルを放っているように見え、その戦闘力の凄まじさに驚く、が。

「うぉッ!? あぶねぇ!!」
『まぁヤツからしたら主も立派な敵ですからね』

 頼もしくすら感じていたが、同時に俺へ向けても水の刃を飛ばす。
 皇魚の中身が中身だけに、それも当然なのだろう。

「ったく、なんて躾の悪い魚だ」
『飼い主に似たのですよ』
「失礼な。なら……誰が飼い主かをその身に刻んでやるよ」

 魔釣力を思い切り込めた相棒から伝わる黄金のルアー。

 そいつを躾のなっていない白銀鱗はくぎんりんのクジラへと投げつける。
 ヤツの口に入った瞬間、「コイツでどうだあああ!!」と強制的に動きを制御。

「わ、すごい! あんなに大きなクジラさんが止まった!?」

 同時に攻撃も止まり、一気に堕天使が皇魚へと襲いかかる。

「いい感じにまとまってくれたじゃねぇか……今日も晴天、異世界晴れってやつには、泳がせ釣りもいいものだ。なぁそう思うだろ皇魚オマエも?」

『ま、まさか主よ! それは流石に無謀ですぞ!?』
「無謀かどうかは俺が決める! だから――――朝焼けの空を喰らい尽くせ! 白銀帝はくぎんてい!! オラアアアアアぶッ飛べええええええ!!」

 皇魚あらため、白銀帝と名付けた大クジラ。
 俺の全ての力を使い海中から引きずりだした巨体は、この船団まるごと飲み込むほどの大きさ。

 それが冗談みたく放物線を描き、堕天使群へと大口を開き襲いかかる。
 いくら天使の動きが早いとは言え、こっちも思い切り飛ばしたスピードと、白銀帝の空気を恐ろしいほどに吸い込む力。

 それらが一体となり、次々と堕天使を呑み込み駆逐する。

 ヤツの体の中が、天使が消滅した時に光る粒子で青く光り、巨大なクジラのバルーンのようだ。
 そのまま失速し、海中へと落ちたと同時に、23式星座のリールを思い切り巻き取りながら、相棒を背後へと引き上げる。

「食べ残しは失礼だろ?」
『ええ、実に上品ですよ主』
「ふぇぇえぇ……凄すぎて何が何だか……」

 アリシアが驚くのも無理もない。
 また空へ向けて巨大なクジラが飛翔し、残りの堕天使を喰い付くしたのだから。
しおりを挟む

処理中です...