僕はボーナス加護で伸し上がりました

根鳥 泰造

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閑話休題 1

VRMMO『AIワールド レジェンド・オブ・ヒーロー』

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 俺は、コンドームを外して結わき、ラブホのベッド脇のゴミ箱に、本日八個目となる使用済みコンドームを捨てた。
 そして、未だぼうっとしたままの水谷咲の横に、ごろんと寝転がる。
 咲は、とんでもないセックス好きのイクイク女だが、一緒にいると、嫌な事を全て忘れさせてくれる最高の女だ。
 可愛いし、プロポーション抜群で、何より簡単に中イキするのでセックスするのがとても楽しい。

「そうだ、山際君、知ってる? 篠崎健斗君、あれ以来、行方不明なんだって」
 咲が、豊満な胸を俺の胸に押し当てる様にして、甘えながら、篠崎の話をしてきた。

 一昨日の深夜、ゲームの中で、篠崎健斗そっくりなNPC(非プレイヤー登場人物)に瞬殺され、それを忘れたくて、水谷咲をデートに誘ったのに、また篠崎を思い出すことになった。

 篠崎健斗とは、俺に初めて屈辱を与えた憎き男だ。高校受験で開成高校に入学してきて、隣の席になった。
 身長こそ俺より低かったが、阿部寛似のイケメンで、頭が信じられない程いい。一度も負けたことがない将棋で、俺を三連続で負かし、数学の授業では、俺が解けなかった幾何の難問を、あっさりと解いて見せ、先生からも関心されていやがった。
 その時は、正直、世の中には凄い人がいるものだなと感心した。
 だが、翌日の体育の授業の体力測定で、篠崎は懸垂が一回もできず。五十メートル走は八秒以上もかかり、玉投げは、投げ方まで変だった。運動音痴というほどではないが、運動がからきし駄目な男だった。
 こんな男に俺は負けたのか。その瞬間、俺の中に、篠崎への怒りが沸き上がった。
 
 それで、俺はこの男が、いかに無能なダメ人間かを教え込ませてやることにした。所謂『M男調教』というやつだ。
 放課後、身体を鍛えてやると言って、懸垂や腕立て、腹筋をさせ、それができないと罰ゲーム。その場で甚振るのではなく、自分が変態なんだと自覚させるような宿題を課して、笑いものにしてやった。
 最初は、母親のパンツを穿いてこいとか、30mlのプチボトル一杯に精液を入れてこいとか、ノーパン通学しろとかだったが、証拠写真を撮って提出する様になってからは、どんどん過激な課題になっていった。
 あんなこさせたり、こんなことさせたり、完全に弩変態のM男にさせ、その写真や動画を見て笑い飛ばしてやった。
 最初こそ、嫌がっていたが、二か月もすると、すっかり従順に何でもするM男となっていたので、それからは犯罪行為をさせる様にした。駅の女子トイレで盗聴させたり、帰宅時の山手線で痴漢させたり、女子高生のパンツを盗撮させたりさせた。

 当然、成績もどんどん落ち、一学期の期末テストでは、遂に、俺より成績が下にまでなった。
 夏休みになっても、恥を掻かせ続けた。プールの中で、海パンを脱がせて、海パンを遠くに投げて捜させたり、カラオケ店に全裸で落書きしたりした。
 二学期が始まると、その恥ずかしい写真を学校の裏サイトに載せ、学校をやめざるを得ない状態にまで追い込み、彼のエリート人生を完全に崩壊してやった。

 引きこもりになったと聞いて、漸くすっきりして、あいつの顔を忘れられるようになったのに、それでもあいつは、めげていなかった。
 しっかり高認検に合格し、大学生になっていた。しかも、俺はその時はまだ童貞だったのに、可愛い彼女を連れて、青春を満喫していやがった。
 その時の篠崎の女が、この水谷咲だ。
 こんな可愛い女とセックスしてるのかと思うと、再び許せなくなり、咲が篠崎から別れる様に仕向けた。
 そのデートを中断させただけでなく、彼女の携帯電話番号を調べさせて、電話で呼び出し、彼の変態振りを刷り込んで完全に別れる様にした。
 同時に彼女を寝取るべく、最高のデートを演出した。
 二度目のデートでは俺自身初のキスをして、五度目のデートでついに童貞卒業。
 篠崎から女を寝取ることに成功し、俺の女にしてやったという訳だ。

 でも、最初の動機は不純であれ、今は咲が大好きなのは本当だ。まだ交際して四十五日だが、彼女になってくれたことを心の底から感謝している。
 ただ、咲によると、本当か嘘かは知らないが、俺が二人目の男なんだとか。それが本当だとすると、咲を開発したのは、篠崎となる。
 それが悔しくてならないが、今の咲は完全に俺のことしか見ていない筈だ。

「あいつは、直ぐに逃げる情けない男だからな。まさか、咲はまだあいつのこと気にしてたのか?」
「そんな訳ないじゃない。たまたま噂を聞いただけ。私は、武一筋だもの。でも、もうすぐ大学の授業が始まるじゃない。篠崎君がもし学校に顔をだしたらと思うと、どういう顔して会えばいいのか不安なんだよね。山際君の彼女になってると知られたら、きっと軽蔑するに決まってるもの」
「なら、別れるか。そうすれば、問題解決だろう」
「嫌よ。そんなの。私は山際君とこういう関係になれて、最高に幸せなんだからね」
「御免、冗談だよ。咲、愛してる」
「もうゴムがないから、ダメだって」
「ちゃんと、外に出すからいいだろう」
「もう」
 そういって、キスをして、本日、九回目になるセックスをはじめた。
 咲は大概の好き者だが、俺もセックス大好き人間だ。

 勿論、セックス抜きでも、咲が大好きだ。この日もホテルを出てから、一緒に食事をして、ダーツやボーリングでちゃんとしたデートもして、彼女を実家までちゃんと送り届けてから別れた。

 でも俺には彼女よりも大切なものがある。今は嵌っているVRMMORPG『AIワールド レジェンド・オブ・ヒーロー』だ。

 自室に戻ると、VRゴーグル搭載のヘルメットを被り、いつものようにゲームを立ち上げた。
 このゲームはフルダイブ型ではないが、ヘルメットの脳内インターフェスにより、自分がアバターになったかのように視線や顔、手足を自由に動かせる。

 慣れないうちは、現実世界の身体の手足も動いてしまい怪我をするので、推奨通りに装置付属の寝袋の様な拘束具の中でゲームしていたが、今は拘束具無しで、寝ていても手足が動いたりはせず、怪我をすることもない。

 残念ながら、感覚は全く伝わらない。感覚フィードバックを開発中との噂だが、今は自由に動かせるだけだ。
 それでも、手足を自由に動かせるというのは従来ゲームと一線を画した画期的なもので、最高に面白い。

 そして、このゲームの一番の売りが、全NPCが個別AIだということ。通常のNPCは役割で与えられた定型の言葉しか話さないが、この世界のNPCは、普通の人間の様に臨機応変に会話し、感情を持っているので、コミりょくも試される。
 挨拶もせず、冷たく接していると嫌われて、必要な情報をくれなくなるし、逆に仲良くなると、レアな隠しクエストの情報をくれたりする。親密になれば、ホテルに連れ込む事も可能だ。
 俺の所属クランに男性キャラが四人いるが、その一人は、美女NPCを宿屋に連れ込み、全裸にして楽しんだらしい。
 といっても、プレーヤー間の揉め事防止から、プレーヤーの下着は絶対に取れないシステムなので、本番行為はできない。接触感覚もないので、AV鑑賞しているようなものだが、無修正でアソコを見られるだけでも羨ましい。
 俺も、男キャラを選択しておけばよかったと、今更だが、少し後悔した。

 でも、今の俺には咲がいてリア充だし、この『国生ローラ』という美少女キャラも、とても気に入っている。
 去年の夏、試験運用のテスター募集があり、そのテスター募集に当選し、親父に強請って、高価な装置を購入し、五時間かけて、念入りに理想の女性を構築した。
 プレー中は、自分の容姿は見えないが、俯瞰モードでリプレイさせ、パンツ丸見えで戦闘している様子を眺めたりして、楽しんでいる。
 昨年末から正規運用が開始したが、未だにそのキャラを使い続け、毎日、最低二時間は、ゲームを楽しんでいる。

 ゲームの最終ミッションは、この世界の全魔人を滅ぼせというものだが、どの討伐クエストも攻略法がない。全てがAIなので、こちらの作戦に対応してくるのだ。
 しかも、最近は、魔王軍までできてしまって、魔族領に侵入するのも困難になってしまった。
 テスター開始当初は、魔族領は群雄割拠状態の隙だらけで、魔族領に容易に攻め込めたのだが、現魔王が魔族領を統一して、組織的に厳重な警備を布くことになり、近づこうとすると直ちに迎撃部隊がやって来るようになってしまった。
 最終ミッション達成には、最低一万以上の勢力を結集し、人族領と魔族領の中間に位置する亜人領土を占領して、前線を敷き、少しづつ前線を押し上げていくしかない。
 そんな訳で、今は国王軍のNPCを増員しつつ強化し、全プレーヤクランと同盟を組んで、侵攻の準備をしている。
 先月は、亜人領土の人族領側の拠点、ドワーフの街を占領した。
 来月は、亜人領中央のエルフの里を落とす計画だ。

 僕は、最強クラン『ビヒダス』の幹部として、それらの作戦に参加しているが、NPCの国王軍を無敵戦士にする新薬の開発も担っている。
 このゲームでは主となる戦闘職以外に、副職と呼ぶ製造系の職人技を極めることもでき、その副職として僕は錬金術師を選んだ。
 これでもこの世界では有名な錬金術師で、数多の新薬を開発してきた実績もあり、このドーピング薬開発の責任者に抜擢されたという訳だ。
 なかなかうまくいかず、今現在は息詰まっているが、これができれば、魔族領に一気に侵攻できるようになるので、やりがいがある。

 そんな中、一昨日の午前二時過ぎ、突然、緊急クエストへの参加要請が全プレーヤに発動された。
 NPCが暴走して、テロ行為を起こして、プリッツという辺境都市を壊滅させるさせようとしているので、それを阻止しろとの緊急クエストだ。
 深夜二時過ぎだったこともあり、ほとんどのクランが参加を断念し、『ビヒダス』の活動中だったメンバー六名のみの参加となったが、俺もたまたま居合わせたので、参加した。
 プリッツには一度も行ったことがなかったので、仲間の転送魔法に便乗させてもらい、現場に赴いたのだが、その暴走していたNPCの名前が、なんと篠崎健斗。名前だけでなく顔まで同じだった。
 ただ体格は本人よりも一割程度大きく、身長185センチの大男で、髪もこの世界でよくいるブラウンで、運動能力も極めて高いキャラだった。
 だが、あいつはこんなゲームキャラのモデルになっているのかと、ますます憎たらしく思った。

 しかも、そいつは化け物の様に強かった。レベル20にすぎないのに、レベル50以上の俺らを遥かに凌ぐ能力値を持っていて、見たこともない凍結魔法を使い、俺らを瞬殺した。
 氷魔法無効化アイテムを発動していた仲間と、フェニックスの血薬を飲んでいた仲間の二人は何とか生き残ったが、たった一人に俺を含む四人が秒殺されてしまった。
 その後の戦闘は、リプレイ動画で見せてもらっただけだが、弱点は彼が連れていた人型フェンリルで、彼女を人質にとると、大人しく武器を手放した。
 その後、なぜか突然、人質が消え、一人が瞬殺され、もう一人は逃げ帰り、緊急ミッションは失敗に終わった。

 だが、それ以来、俺らのクランは、魔王討伐そっちのけで、篠崎健斗にどうやってリベンジするかに必死になっている。
 分析班の解析によれば、篠崎健斗とまともにやりあっても、うちのクランだけでは勝てないらしい。あの人型フェンリルをもう一度、人質にとって、無抵抗にして嬲り殺す作戦になっている。
 人質が突然消えた理由も、確実ではないが、予想はついた。亜人の中には、その眷族を影格納できる者がいるのだそうで、彼は人族だが、その能力を保有しているのではないかという説が有力だ。
 そこで、俺に白羽の矢が立ち、影格納を封じる薬を作れと命じられた。
 昨日は、丸一日掛けて、影格納を勉強し、仮説が正しければ、封じることができる。
 その薬を完成させ、人質を取って、あの篠崎健斗を討伐してやる。
 本人でないAIだとしても、あいつは、ことごとく俺の前に立ちはだかる憎き男。絶対に容赦しない。
 AIは感情があるので、簡単には殺さず、あの時の様に、全裸にひん剥き、死なせてくれという程の屈辱を味わせてやる。

「ミチョパ、何か情報がつかめたか」
「ああ、北東の魔族領の外れに、魔物の森というところがあって、そこに逃げ込んで生活しているらしい。それより、影格納対策は進んでるのか」
「原理は何とか分かったから、今日中に試作品を作る予定だ。だが、実際に影格納を使える奴がいないから、効果を事前に確認できず、それが問題かな」
「それなら、シオンが動いてる。氷雪の森に、影格納で沢山のゴーレムを召喚する雪男がいるんだってさ。今日中に、そいつの居場所を特定して、いつでも実験して確認できるようにする手筈らしい」
「じゃあ、俺も急いで完成させないとな」
「ああ、頼む。それじゃ、俺はまた魔物の森の偵察にいってくる」

 そういう訳で、天才錬金術師でもある俺が、ボイドストックと名付けた影格納を封じる薬の試作品を、今日中に完成させることとなった。
 
 必要な素材は既にリストアップ済みで、その素材の多くは、金さえ出せばマーケットボードで購入できる。だが、マーケットボードで入手困難なレア素材が三つあり、先ずはその収集をしなければならない。
 その素材は三つ。レッサードラゴンの逆鱗十個、人魚姫の涙が一つと、ムーアサンショウウオの生き血だ。

 ムーアサンショウウオはムーア島という無人島に生息していて、人魚姫も嘗てはそこにいた。ムーア島には地下深くまで続く巨大洞窟があり、その水中に魚人族の里があったそう。だが、三か月程前、どこかに移転してしまい魚人族の里は不明のままだ。
 だが、人魚姫の涙を沢山保有している豪商のNPCがいる。人魚姫の涙を欲し、三か月前に、そのムーア島に数千傭兵軍を送り込み、先代の人魚姫を誘拐した豪商だ。
 彼は、彼女が自害するまで、毎日拷問して苛め抜き、百近い数の涙を収集したらしい。
 その豪商とは既に連絡を取って有り、一万ギル(五十万円相当)なら譲ると言ってもらっている。とんでもない大金だが、止むを得ない。
 銀行で金を卸し、この国で第二の都市にあるモーリアまで転送装置で移動し、そこから徒歩でその豪商の屋敷を訪れた。
 応接室のソファで商談したが、直ぐに俺の隣に移動してきて、俺の身体にセクハラしまくり。とんでもないエロ爺のNPCだった。
 機嫌を損ねられないので、丁重にやめさせながら、取引きして、なんとか無事、人魚の涙を一粒、手に入れた。
 だが、思い出すだけでも寒気がする。キャバ嬢の苦労が良く分かった。

 その都市から、再び転送装置を使って、今度はドラゴンの聖域に移動。この地にレッサードラゴンが住んでいるのだが、そこまで行くのも大変なので、ホバーバイクに乗ってレッサードラゴンのいる領域に移動した。
 レッサードラゴンはレベル50の強敵だが、ドラゴンスレーヤの称号をもつ竜騎士の俺なら、楽勝だ。
 それでも多少の怪我は負い、一匹狩るのに、五分以上もかかった。
 逆鱗は一体に一個しかないので、のこり九体倒さなければならない。
 十個の逆鱗の収集に、往復の移動時間も含めると、二時間以上もかかってしまった。

 時刻は、既に深夜一時を過ぎているが、まだ夏休み期間中だし、今日中に影格納無効化薬ボイドストックを完成すると約束したので、そのまま材料集めを継続することにした。

 南端の港町カルディアに移動して、そこで漁船に乗せてもらい、ムーア島までつれていってもらうことにした。

 だが、俺の乗せてもらった漁船の後ろから、二台の漁船が尾行するようについてきた。嫌な予感がしたが、俺はさっさと、ムーアサンショウウオを生け捕りにして、アイテムでホーム帰還することにした。

 上陸するとすぐ駆け足でそこの小川にいき、捜し歩いた。時間の猶予は五分ほどと読みだ。
 だが、こういう時に限り、なかなか見つからない。
「おい、こっちだ。ここにいたぞ」
 石を持ち上げ、捜しまわっているうちに、怪しい奴らに先に見つかってしまった。
 俺を見つけたネカマは、一度も見たことがない冒険者だったが、直ぐに駆けつけた熊獣人のハッスル黒田は、何度か顔を見たことがある。別のクランのリーダーだ。
 次々と仲間が集まり、六人で全員なのか、揃うと俺の方に歩み寄ってきた。
「ようやく、見つけたぞ。人魚姫の涙を手に入れたんだってな。大人しく譲ってくれないか」
 やはり、高価な激レアアイテムなので強奪にきたらしい。

 強盗といっても、他のプレーヤのアイテムボックス操作は不可能なので、アイテムを本人に取り出させる必要がある。
 一つは恐喝して、不要アイテムと交換する方法。もう一つは、殺さないぎりぎりに弱らせ、本人の指を押さえて強制操作し、無理やりアイテムを取り出させたりするやり方だ。
 後者は瀕死のぎりぎりにしないと成功せず、失敗する確率が極めて高いが、おそらく後者の方法で強奪するつもりに違いない。

 ハッスル黒田は、僕より3ランク下のレベル49だが、45、6の五人も一緒なので、戦っても勝ち目はないし、逃げるのも不可能た。
 強制ログアウトすれば、この場から逃げる事はできるが、前回セーブ後の獲得成果はすべて消える。

「そんな高価なもの。直ぐに銀行に預けて保管して、持ち歩いていないに決まっているだろう」
「銀行に寄ったとは聞いていないし、そんな面倒なことするか? 普通はアイテムボックス内にいれたままだよな。大人しく出しやがれ」
「本当だって、俺のアイテムボックスをみせてあげるから、確認しろよ」
 実際には、今もアイテムボックス内に存在するが、モーリアの宿屋に立ち寄って、セーブした際、人魚姫の涙だと分からないようにアイテム偽装してある。
 アイテムボックスには保有上限があるが、255品種保有できるので、アイテム偽装が一番の強奪対策となる。
「くそ。無駄足か。仕方ない、このツバクラの羽根全部で勘弁してやる」
「そんなことすると、ここから帰れなくなる。五個で勘弁してくれ」
「俺達、六人だろう。無駄足踏んだんだから、六個全部よこせや」
 仕方がないので、竜魔装で防御力強化して、彼ら六人相手に戦闘することにした。
 でも、レベル52とは言え、六人相手には敵わない。敵にもかなりダメージは与えたが、こっちは瀕死で動けなくされた。
 このまま、俺は死んでしまうのか。
 最終セーブポイントは、モーリアの宿屋なので、人魚姫の涙を失う心配はないが、二時間掛けて手に入れたレッサードラゴンの逆鱗十個がなくなってしまうのはかなり痛い。
「殺すな。待て、そこまでだ」
 なぜか、熊男が止めを刺そうとする仲間を制止した。
「アイテムボックスを開いてもらおうか。ツバクラの羽根六個とレビテトの翼一個との交換ならどうだ。時間はかかるが、カルディアまで帰れるだろう」
 レビテトの翼とは、一時間空中飛行可能とするアイテムだ。一時間あれば、なんとかたどり着ける気はするが、とんでもない不平等交換だ。でも、レッサードラゴンの逆鱗十個を失うよりはずっといい。
 俺は仕方なく、その交換に応じたが、彼らはとんでもない奴らだった。
「武具投影しているので気づかなかったが、かなり高級品の装備だよな。俺たちが頂いてやるよ」
 そう言って、追剝のように、俺の高級防具一式を奪い取って行った。

 その後、防具無しの裸で、ムーアサンショウウオを探し、生け捕りにして、その格好で、空を飛行して港町カルディアまで帰還したが、NPCから変態の様な侮蔑の目で見られ、転送で王都に戻ると、プレーヤーからも冷ややかな目でみられ、本当に最悪の一日だった。
 これも、みんか篠崎の所為だ。あいつのために、俺はこんな恥まで掻かされた。
 
 その後は代わりの防具を来て、それにお気に入りの服を武具投影して、マーケットで残りの素材を全て購入した。
 それから一時間掛けて、なんとか三回分量の影格納無効化薬ボイドストックの試作に成功した。
 時刻を確認すると、既に朝の五時前。
 
 午前中からあんなにしまくって、更に徹夜にまでなり、眠くて、疲労困憊し、過労死しそうだ。
 これも全て、篠崎健斗の所為だ。
 あのフェンリルの人型はまだガキなので、甚振っても面白くないが、あの女を甚振れば、篠崎はもっと苦しむに違いない。
 そんなことを考えながら、ログアウトし、直ぐに爆睡した。

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