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第四章 魔王討伐が終わった後は

勇者復活に向けた準備

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 僕は、シュミット邸にて一泊することになったが、その夜、僕が、少し早めにベッドに入り、うとうとしていると、ユリがまたもやネグリジェ姿で客間にやってきた。
 用件はローラの方の説得が上手くいっていないという状況報告だった。僕がフレイアの協力は既に得られていると信じ込み、何も訊かずにいたので、わざわざその事を伝えに来てくれたのだ。
 
 フレイアは、マネージャーである彼氏と婚約したばかりなだそうで、フレイア自身は協力すると言ってくれたらしいが、婚約者が断固反対し、フレイアまで、今回は見送らせて欲しいといいだしたのだそう。
 ローラは、その報告後、なんとしてでも説得して見せると、再び交渉に出かけたらしいが、フレイアの支援魔法がないと、こちらの戦力が激減してしまう。
 そこまで説明すると、ユリは僕のソファの隣に移動してきて甘えて来た。
「私が前線で指揮を執って、全員の士気を鼓舞し続けなければ、勝てないでしょう。だから、ユウスケは私を守って、目の代わりになって欲しいの。協力してくれるよね」
「僕にできることなら」
 そう応えると、「うれしい」と抱き着いてキスをしてきた。しかも大胆に舌までいれてきた。
 それで、僕の理性は吹っ飛んでしまい、ユリを押し倒して、愛撫を始めてしまった。

「ユリ様、どこにいらっしゃいまするか」 執事の声が廊下から声が聞こえた。
「もう」 ユリは不満気な顔をして、寝間着を直し、まるで目が見えているかのように、扉を開けた。
「申し訳ございませんでした。お邪魔したみたいですね」
「それより、何があったの」 そう言ってユリはそのままいなくなった。
 僕は、用件が済んだら、戻って来るのではと、ベッドで寝ないで待ち続けたが、ユリが顔を出すことはなかった。人をその気にしておいて、本当に自分勝手な我儘な女だ。

 朝食の時に話を聞いてみると、フレイアが参戦してくれることが決まったとローラから電話連絡があったのだそう。婚約者はそれでも反対して許さなかったらしいが、それなら婚約解消すると言い出して、婚約者も折れたという話だった。
 これで、ユリが最前線で、指揮を振るわなくてもよくなったと僕もほっとした。

 僕は、一旦リット病院へと戻り、溜まっていた医院長の仕事や、大手術を続けて熟し、魔剣や装備一式を、事前にミッシェル邸に送ってクーデターの準備をした。クリフト病院から医師一名を回してもらえ、少し負担も軽減できるようになったが、リットで戦闘が起き、僕も居なくなるとすると、医師が足らなすぎる。
 三日後にはトルスタンの五万の軍勢がリットに攻め入ってくるという日、僕は皆に戦争がはじまると打ち明けるべきかを悩んでいた。
 沢山の犠牲者がでるので、病院もそれに備えて準備しておかなければならないし、一般人への被害が最小限になるように、管理局にも早急な避難誘導等を進めてもらわなければならないからだ。
 皆、気心の知れた仲間なので、国王派に告げ口するものがいるとは思えないが、事前に戦争が起こると知っていると、搖動の可能性が疑われる危険もある。リットにできるだけ多くの援軍をだしてもらえないと、クーデターは失敗してしまう。
 悩んだ挙句、病院には新参医師もいることもあり、内緒にしておくことにきめ、倉庫を整理して掃除して、入院患者を増やせる対応を指示し、切り傷対応用の医薬品を追加発注しておくだけにとどめた。
 ただ、管理局側の対応は僕にはどうにもできないので、ローリエを呼び出して、彼女にだけは、打ち明けることにした。
「魔王討伐の際、トルスタンの魔王討伐隊と共同で、魔王を仕留めたと話したと思うけど、そのブリッドという男から、今日、手紙が届いたんだ。トルスタン軍が魔界経由で、このブルキナスに攻めて来るらしい。いつ到着するかは分からないし、いつものように僕を揶揄って、がせの情報を掴ませただけの様な気もするが、君にはいろいろと世話になったから、知らせて置きたくて」
「情報ありがとうございます。至急、知事に連絡を入れて相談します」
「いや、さっきも言ったけど、あいつは僕を揶揄って遊ぶのが好きだから、多分嘘だと思う。だから、そんなに大げさにしないで、もし本当に攻めてきたら、直ぐに対応できるように、しておいて欲しいだけだから」
「分かりました。では知事や市長には連絡せず、私の方で、できるだけ準備しておくようにします」

 ローリエはそう言っていたのに、上司にトルスタンが攻め込んでくると相談してしまったらしい。
 僕が、ミッシェル邸に到着すると、ユリから怒られた。
「あなた、リットの管理局の誰かに、戦争になると話したでしょう。既に、王城内は大混乱になっていて、どれだけ防衛兵を送るか問題になってるのよ。先ずは様子見に、三万位の兵力を送り込んでくるんじゃないかと予想になっていて、ミッシェル大臣が頑張ってるけど、各地に分散した兵を派兵し、ラクニスの兵は、ほとんど残りそうな雰囲気になってるのよ」
 僕がつい話してしまった事で、大変な事態を招いてしまった。

 それでも今更、作戦変更はできないと、強行することになったが、既に到着していた綺麗な女性になったフレイアが、「私に考えがある」と言い出した。
 女性の姿だと、一人称もボクではなく私になるらしい。
 フレイアの考えと言うのは、ミリアミス共和国が戦線布告するというもの。彼女自ら、生まれ故郷の実家に出向き、実父であるモルハルト辺境伯にお願いし、戦線布告を出してもらうと言い出したのだ。
 確かにそちらにも兵を割かねばならず妙案ではあるが、その後ミリアミス共和国と本当の戦争になりかねないし、実の娘とはいえ、既に死んだと思っていたフレイアが、突然やって来て、彼女の話を聞いてもらえるかもわからない。
「難しい判断だけど、今すぐ決断しないと、時間的に間に合わなくなる。フレイア、その方向で進めてくれる」
「わかった。直ぐに始める」
 そんな訳で、フレイアは婚約者と二人で急いで出て行き、僕とユリは、介助訓練にでかけることになった。

 実は、僕と再会する以前から、ユリは、ずっと一人で普通に行動する特訓をしていた。盲目のリーダーでは士気があがらないというのが、その訓練を始めた理由だが、僕がクリフトのA級クランの前で演説をして欲しいと頼んだことで、ますますその必要性を感じるようになったらしい。
 盲目だという噂が流れて、リーダーシップを失っているので、普通に扇動しても、ユリについてくる人はいない。だから、噂は嘘だったと思わせるように、健常人の様に振舞えるようにする必要があるのだ。
 ミッシェル邸内なら、頭の中に完全な地図ができていて、杖無しでも、なんとか歩けるようになっているが、知らない場所は、杖を使わないと、怖くて歩けない。
 でも、クリフトで演説する際は、盲目だと悟られてはならず、杖なしで独りで歩かなければならない。
 そこで、ローラが新開発の魔道具を作ってくれたのだとか。
 その介助魔具は、マスタースレーブ式の強制操作ブレスレットで、操作者がマスターブレスレットを逆の手で押さえて、腕を動かすと、スレーブブレスレットがその方向に動くという仕組みだ。
 腕を組んでいなくとも、移動方向はこれで分るが、段注意や階段の上り下り等は、サインで伝える必要があり、二人のコンビネーションがかなり重要になる。
 その特訓をするという訳た。

 ユリは勇者だと分からないように、鬘やマスク、伊達眼鏡までして変装して、二人で城下を散歩に出かけたが、既に健常人のように歩けるようになっていた。
 ブリッドが来た時にも既に使っていて、その時は執事がマスターになって、普通に歩いてきたという訳だ。
 この介助魔具の特訓に来たのに、途中からなぜか恋人の様に腕を組んで歩いたりすることになったし、公園では、一人ではしゃぎまわり、パルクールの様な練習まで始めた。
 そんな練習は全く不要なのに、身体を動かさないとストレスがたまるし、難しいことをする方が介助操作が上達するからと言う理由だ。
 とはいえ、地図が完全にできているミッシェル邸の庭では、問題なくても、流石に市内の公園だと失敗ばかり。もう止めようというと、指示が悪いからでしょうと文句を言われ、何時間も付き合わされた。
 我儘なのは相変わらずだが、どんどん上達して熟せるようになっていくユリをみていると、嬉しくてならなかった。
 
 決行日前日、この日もユリと介助魔具の訓練に出かけたが、王都は大騒ぎになっていた。
 トルスタン合衆国が攻め込んできて、リットの兵と交戦中で、怪我人が多数でていると噂が流れ始めていたが、それだけでなく、フレイアの交渉も上手く行ったみたいで、ミリアミス共和国が宣戦布告してきたと民衆が不安がっていたのだ。
 昨晩のミッシェル大臣の話だと、王城内にはまだ兵が三千人も残っているとの話だったが、これでその兵もかなり減ってくれるのは間違いない。
 
 早速、新型通信魔具で、皆にラクニス城下の報告をした。
 これはミッシェル大臣が、今後のために試作させていたいたもので、今までは登録した人と一対一でしか通話できなかったが、この回戦に繋いでいるもの全員で会話できる多拠点同時通話可能な通信機だ。
 つまり、顔が見えない会議システムのようなもの。
 まだフレイアは戻ってきていないし、トリスタンの援軍も顔を見せてくれていないので、この通信機は渡せていないが、クーデター当日は、各リーダー格全員に供給し、適宜、作戦相談しながら、指示を出すようになっている。
「フレイアは上手く動いてくれたのね。これなら成功間違いなわね」 ローラの声が聞こえて来た。
「ミッシェル大臣がオフラインだから、どれだけ派兵するか分からない。油断しないでね」
「俺がさっき、様子をみてきたが、ロレンスの野郎、ビビりだから、都市の警備兵三万と、この王城からは、二千人の軍兵と、王太后親衛隊、リムナント親衛隊、ミハエル親衛隊とを回すみたいだ。つまり城下に五千人と城内には千人が残る」
「国が挟撃されているという危機なのに、そんなに自己保身が大事なのかしら。でも、そうなるとアーロンが懐柔してくれた仲間の王族親衛隊も、ごっそり減るという訳ね」
「それじゃあ、千人になっても、互角じゃないということ?」
「かなり苦しい戦いになるのは間違いないが、トルスタンの精鋭の実力次第で勝てない戦いではない」
「詳細な打ち合わせは、後にしましょう。魔力の無駄遣いになるから、通信、切るわよ」
「了解」
 新型通信魔具も、問題なさそうで、後は、明日のクリフトのA級クランの扇動が上手く行くかどうかだ。

 その日の夜も、王城内の論争は虚しく続いているらしく、ミッシェル大臣から今日は帰れないと伝えてきたが、リットからも援軍要請がきているのだそうで、城下の四千人以外にも、上手くすると、城内の国防軍をあと二百人程、兵を削れそうだとなってきた。八百人になればかなり有利だ。

 それを期待して、寝ようとしていると、ノック音がしてネグリジェ姿のユリが勝手にドアを開けて入ってきた。そして、介助魔具を外しているのに、すたすたとこっちにやってきて、僕のベッドにもぐりこんだ。
「いったいどうしたの」
「このクーデターが上手く行ったら、私の事、お嫁さんにしてくれるんだよね」
「そうなったら、改めてプロポーズするつもりだ」
「なら、私のこと抱いてくれる。昔と違って、攻撃されると交わせないから、死んじゃうかもしれないでしょう」
「ユリは後方で指揮していればいいんだよ」
「ううん、最前線で一緒に戦わないと絶対に勝てない。だから、私はユウスケと毎日特訓してきたんだよ」
 無駄なことをしていると思ったパルクールの練習は、最前線で指揮するための特訓だったみたいだ。やめろと言っても、頑固で我儘なので、僕の言う事なんて聞かないと分かっている。
「分かった。僕が適切な介助をして、ユリを守って見せるから」
 ユリはにっこりと微笑んで、今回も彼女からキスをしてきて、その夜、僕たちは漸く結ばれた。
 セックス好きになっているという噂は本当だったみたいで、何度も身体を大きく痙攣させ、五月蝿いくらいの声まであげるようになって、何度も求めてきてた。
 正直、こんなに淫乱になってしまったのかと驚いてしまったが、彼女をあらためて幸せにすると強く誓った。

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