転生ラーメン屋の異世界革命

根鳥 泰造

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第二章 異世界『ラーメン屋』繁盛記

2-14 円満解決

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 セオドアの執務室に行くと、彼は窓際席に座り、忙しそうに書類の整理をしていた。
「セリア様、お早うございます。こんな時間に……」
 俺が変装を解くと、セオドアは慌てて立ち上がった。
「ケント、貴様がどうして……。セリア様、どういことでしょう」
「彼は、私の許に、懺悔に参りました。ですので、脱獄の罪を償うため、あなたの許に連れて参りました。ですが、あなたは私のお願いを無視し、拷問をしたそうですね。どういう事でしょう」
「それは、こいつが、国外追放を嫌だと拒否したからで……。申し訳けありませんでした」
「分かりました。私怨は醜くい行為以外の何ものでもありませんが、それを問い詰めるつもりはありません。ですが、彼が主張したように、釈放せずに、再三にわたる拷問をして、再び投獄した事実に間違いありませんね」
「はい、そいつが頑なに拒否するので、つい」
「そこに、彼を救出にカレンさん達一行が押し込んできた。衛兵が巡回している筈ですし、看守兵もいたと思うのですが、誰も彼らの潜入に気づかなかったのですか」
「いいえ、侵入者に気づき、取り押さえようとしたのですが、なかなかに強い者達で……」
「やはり、戦闘が行われたのですね。死傷者は出ていないのですか」
「はい、何人もが気絶させらましたが、かすり傷のようなものです」
 四人も殺したと思ったが、殺さない様に気絶させただけだったらしい。
「なら、捕まえている彼女の罪は、脱獄幇助の罪だけです。そもそも、彼を素直に釈放していれば、こんな事態も起きなかったのです。罰金と迷惑を掛けた者たちへの謝罪とで、釈放するべきと考えます」
「わかりました」
「それと、この者の処分ですが、脱獄は重罪ではありますが、暫く私に預からせて下さい。国王陛下と相談して、彼の処分を決めようと思います」
「俺も、ご一緒させてもらってかまいませんか」
「それは構いませんが、粗相のないようにお願いします」
「駄目だ。下賤なものを国王陛下に謁見させるわけにはいかない」
「お前の魂胆は分かってる。お前の悪事を告げ口されると、困るんだろう」
「ケントさん、失礼ですよ。セオドア様は、万が一を考えてそう言っただけです。確かに私が軽率でした。あなたを一緒に連れて行くわけにはいきません。セオドア様、彼を地下牢に投獄しておいてください。脱獄犯だとしても、くれぐれも、手荒な真似はしないで下さい」
 そう言って、セリアは一人でどこかに行ってしまった。

 セオドアは、衛兵を呼んで、俺を地下牢に入れ、カレンを開放する様に指示した。
 俺は、そのまま、衛兵二人に地下まで連れていかれ、看守に引き渡された。
 地下牢の独房の一つの鉄格子の窓から、カレンが何事かと、顔を覗かせていた。
 俺は彼らの制止を振り切り、その牢獄へと向かった。
 カレンは夢で見たのと同じ囚人服で投獄されていたが、顔に痣わなく、尻尾も無事だった。
 だが、カレンは、手錠を嵌められたまま投獄されていた。俺は手錠はされなかったが、彼女はきっと暴れたに違いない。
 だとすると、どうやって、囚人服に着替えたのだろう。疑問が浮かんだが、そんなことはどうでもいい。
「ケント、なんでこんなところにいるのよ。助けた意味がないじゃない」
「御免。でも、君が酷い目に合わせたくなくって……。誤解は解けたから、僕の事なら、心配いらない」
 そして、看守が俺を押しのけて、牢屋のカギを開け、俺と入れ替えで、カレンが釈放された。
 直ぐに手錠を外してもらえたが、看守が、ニヤニヤしながら、カレンの下着と防具とを取り出した。
「お前の服だ。着替えろ」
 カレンが確認すると、下着は引きちぎられたかのように破けていた。
 やはり、無理やりカレンの裸にひん剥いたらしい。
 そして、今度は、ここで彼女自身に着替えさせ、恥をかかせるつもりらしい。
「あたいの手甲鉤てっこうかぎは?」
「城内で、武器は渡せん。守衛所に預けてあるから、そこで受け取れ。それより、早く着替えて、囚人服を返却しろ」
 カレンは、破けている箇所を結わいて直してから、その場でパンツを穿いて、看守に背を向けて服を脱ぎ、ブラをつけた。
 確かにこれなら看守には見られないが、俺を含め、独房の囚人からは丸見えだ。
 直ぐに防具をつけて、今度は俺の牢屋の前にやってきた。
「じゃあ、私は帰るけど、ちゃんと戻ってきなさいよ」
 カレンはそう言って、看守と共に、地下から出て行った。
 その際、少し右足を引きずっていた。足の怪我はかなりの深い傷らしい。
 でも、悲惨な拷問を受ける前に救出できて、本当に良かった。

 そして、暫くして、セオドアとセリアがやってきた。
「国王陛下と相談し、あなたの罪は、料理レシピを公開することと、新たな料理の創造して普及させることで償ってもらうことになりました」
「それって、どういうことですか。国外追放じゃなかったんですか」
「実は、朝方、女神からのお告げがありました。あなたが仰っていた通りで、私の方が、神様の御意向を誤解しておりました。贅沢は望んでおりませんでしたが、美味しい食事の普及を望まれており、民衆がその食事を楽しみに、一生懸命に働き、活気あふれる国にすることを望んでおられるそうです。ですので、陛下には改めて、関税の見直しをお願いし、活気あふれる街にするようにお願いしました。あなたの罪に関しても、脱獄は重罪ですが、寛大な沙汰が下ったというわけです。そもそも内乱罪は冤罪でしたし、逮捕されてなければ、脱獄事件も起きなかったのですから、妥当な捌きだと判断します。ですが、特定の店に集中し、行列ができ、勤務に支障をきたす事態は見逃せません。その改善のためにも、もっといろんな食事を普及させ、家庭でも、何処の店でも美味しい食事を食べられる環境にする必要があります。今回の捌きは、それを考慮したものです。受け入れてもらえますか」
「分かりました。レシピ公開しても、同じものを再現できるとは思いませんが、今まで作った料理のレシピを公開し、新たな創作料理も作ることを約束します」
 こうして、俺は直ぐに釈放され、家に戻れることになった。

 俺の店は、臨時休業になっていて、お好み焼き屋も休みにしたのか、全員が集まっていた。
「本当に釈放されたんだね」
 カレンが、いきなり抱き着いてきた。
「良かったよ」ケイトもミミも、涙を流して、喜んでくれた。
「心配かけたけど、冤罪が晴れ、国外追放処分も取り消された。でも、脱獄の罪は課され、俺の料理をこの国全体に広げる様に命じられ、行列ができない対策も取らなくてはならなくなった」
 そう皆に説明して安心させたが、頭が痛い。
 レシピを公開したくても、この世界にはインターネットは存在せず、ネット公開するという訳にもいかないからだ。
 家庭でも、いろいろな俺の料理を作れるようにするには、料理本を出版するしかない。

 その日、出版会社に行って、料理本を出して欲しいとお願いしたが、「こんな本が売れるとは思えない」と、全く相手にしてもらえなかった。
 そこで、仕込みの時間の度に、出版会社に日参して、聖女セリアの意向で、料理レシピを公開しないとならない事情を理解してもらい、五日も掛かったが、なんとか、契約交渉までたどり着くことができた。
 だが、とんでもない出版費用を要求された。しかも、発行部数はたった千冊しか刷ってもらえない。
 これでは、セリアとの約束を果たせないし、全部売れても大赤字だ。
 他に料理レシピを公開する方法も考えたが、いいアイデアが浮かばず、その内容で契約し、料理本の内容を詰めて行くことにした。
 こうして、この世界初の料理本を出版する計画が、漸く動き出した。
 
 そして、もう一つの約束、新たな創作料理の創造にも着手した。
 俺のラーメン屋で、味噌、醤油の新たなラーメンを出すことにし、セットメニューに、日替わりラーメンセットを追加して、今までない料理を出す。
 日替わりラーメンセットは、日替わりの半ラーメンと半ライスと、酢豚、青椒肉絲、芙蓉蟹等の今日の副菜を組み合わせたものを提供する予定だ。
 次いでに、出来上がった味噌と醤油も蔵出しすることにした。
 正直いうと、もう少し寝かせたいのだが、味噌や醤油を使ったレシピも公開するつもりなので、販売できる状態にしておきたかった。
 勿論、味噌や醤油の作り方も公開するつもりでいるが、出来上がるまでに半年もかかるからだ。

 カレンの足の怪我が治り、改めてカーネルダンジョン遠征に出かけていった段階で、その新メニューの販売をはじめ、同時に全メニューを一ギル値上げする。
 新メニューの日替わりラーメンセットだけは、従来半ラーメンセット価格の27ギルで提供する。
 魚介ラーメンのセットは、ほとんど利益にならなかったが、日替わりセットは、こっちの都合で、安く仕入れられた材料で、ラーメンや副菜を決められるので、この価格でも利益率を高くできる。
 
 値上の影響で、客足も遠のき、行列対策にもなると期待したが、ほとんど来客数はかわらなかった。
 それでも、店頭に『休み時間以外の入店はご遠慮下さい』とか、『仕込み数が無くなり次第、閉店させて頂きます』と張り紙したりして、長蛇の列ができない対策には務めた。
 高価だった塩や胡椒も、関税引き下げで、半額で仕入れられるようになり、値上げもしたので、利益もとんでもなく出る様になった。
 そんな訳で、更に人を雇える余裕もでき、かねてから弟子入り希望で押しかけて来ていたウィリーを見習いとして採用した。
 彼の採用で、出費も嵩むことになったが、それでも、今の状態なら、黒字を維持できる。

 お好み焼き屋も相変わらず絶好調で、醤油をケイトにも渡し、今は、天汁で天ぷらを楽しめる様になっている。
 次の姉妹店『どんぶり屋』も間もなく改装が終わり、近いうちにオープンとなる。
 
 そして、あっという間に、ひと月が経ち、『どんぶり屋』も大人気となり、箸を上手に使える人も増えたころ、カレンが約束通りに帰ってきた。
 ダンジョンはまだまだ地下に続いているらしいが、四十二階層まで攻略したと喜んで、無傷で帰ってきた。
 一週間ほど滞在してから、また遠征に行くらしい。
 今回の十二人パーティーは相当に強いらしく、未踏破階層ボス攻略には、かなり苦戦するらしいが、それでも命に危険が及ぶ状態にならずに、順調に攻略できているのだとか。
 今回は四十二階層までしか進めなかったのは、持っていける食料の上限からだった。
 階層ボスも直ぐに生き返るので、毎回、地下一階層から攻略し直さないとならない。
 一度攻略している階層ボスは、攻略方法が分かっているので、簡単に倒せるようになるが、それでも少しずつしか、攻略できない。
 この調子だと、いつダンジョン攻略できるか分からないが、それができれば、カレンと結婚できる。
 その日が一刻も早く来ることを願うばかりだ。

 そして、『俺の料理』というレシピ本も出来上がり、出版された。
 出版社の予想とは裏腹に、あっという間に完売し、重版となった。
 俺が革新的料理をいくつも作って、王都の料理を大きく変えたことを、王都の皆が知っていて、その料理を作れるようになりたいと、主婦の皆が買ってくれたみたいだ。
 今度は五千部を増刷したが、それも完売して、再重版になったほどに売れまくった。
 丁度、税率変更になり、日用品の価格も適正化され、生活費にゆとりができ、岩塩も胡椒も従来の半額になったことで、家庭での料理熱に拍車を掛けることになった。
 こうして、家庭でも美味しい食事を作ろうという国民の意識改革まで成し遂げた。

 お好み焼き屋は、ミミが抜けることになったので、ケイトが地元の犬獣人の女性ミアをお好み焼き屋の従業員として採用した。
 リックも合鴨売却でかなりの利益を得たとかで、新たに養豚まで拡張すると養豚場の建設を始めた。

 王都も、俺が来た時とは大違い。どこでもそれなりに美味しい料理を食べれるし、接客もよくなり、気分よく食事できる。
 商店街では、店員の元気な呼び声が聞こえるし、住宅街では、子供達が元気に走り回り、明るい笑顔にあふれている。
 こうして、クラリス王国の王都から、食の革命が起こり、活気に満ちた街へと変貌し、周辺都市にも、美食意識が生まれ、この国は大きくかわっていくことになるのだった。

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 第二章は、これにて終わり。
 ラーメン屋を始め、この世界の食の意識を変え、試練も乗り越えた斎藤健斗だが、次章では、やはり難癖付けられ、食とは無関係な別の分野で、活躍するようになります。
 今後も、引き続き、読んで頂きますよう、宜しくお願いします。
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