私って何者なの

根鳥 泰造

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第一章 独りぼっちのメグ

いつまでも師匠だから

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 弟子入りして一年、自分でもかなり強くなった気がする。
 冒険者ランクはDのままだけど、魔物の森でも、一人前にやっていけそうな気さえする。
 師匠との稽古の関係で、一週間も王都を離れられないので、近くのダンジョン洞窟の魔物としか戦えないけど、正直物足りない。月に一度位の頻度でボス狩りの依頼があるけど、もうC級ボスなら、一切の魔法なしでも戦える。
 昇格ラインのポイントが高く、魔物の森の依頼を熟さないと、C級昇格は難しいので、師匠から練習を暫く休む許可を貰い、星二つ程度の魔物討伐依頼をうけてみようかなと考え始めたくらい。

 メグはそんなことを考えて、今日も乗馬してリュウ将軍の許に稽古に出向き、早速、手合わせしてもらった。
 手合わせの際は、一切の魔法は禁止されているが、メグは十五分の間に二回程、リュウから一本を取った。今は四、五回に一回位は、勝てるくらいまで、剣術が上達している。
 その手合わせが終わると、いつもなら奥義の型を見てもらうのだが、この日は、今日はこれで終わりだと、リュウが言ってきた。
「お前には、もう教えることはない。後は自分自身で研鑽を積むだけだ。今日で卒業と言いたいが、明日、卒業試験として、真剣勝負をすることにした。時間魔法も、攻撃魔法もなんでもありで、全力の俺に勝てば合格。時間魔法まで使えば、おそらくお前が勝つとは思うが、手加減はするなよ。お前の全力相手に、俺がどこまでできるのか、確かめておきたい意味もあるんだからな。そうそう、勝ったからと浮かれずに、直ぐ治癒魔法は掛けてくれよ」
 そういって、家の中に入って行った。

 真剣勝負って、竹刀じゃなくて、本当に剣で戦うってことだよね。そんなことしたら、師匠を大怪我させることになっちゃう。手加減はするなと言ってたけど、どうしたらいいの。
 その日は、卒業試験でどう戦ったらいいのかをずっと悩み続けたメグだったが、それでもいつも通りに、直ぐに寝てしまうのがメグだ。

 この日も、久しぶりに前世の夢を見た。今日は、高校で化学の授業を受けている時の記憶。
 因みに、前世の夢は、あれから何度も見ている。最近はそれは前世の記憶からくる夢だという認識も持ち始めた。そして、その時代の彼女がする行動をしっかりと記憶して、現世の技術進歩に役立たせられないかと真剣に考えるようになっている。
 記憶をなくす前のメグが、次々と新しい魔法を生み出したの様に、今のメグも、ようやく前世の記憶の有効活用を考え始めた。
 実際にそれが活かされていくのは、もう少し先になるが、魔法、剣術だけでなく、戦略、知識、発明でもとんでもない化け物になっていくが、それは次章のお話。
 閑話休題。それでは、この章の最後のお話の続きを、はじめるとしよう。


 卒業試験当日の朝を迎えたが、メグはどう戦うべきか悩んでいた。
 身体強化して、攻撃魔法を使っても、時間魔法を使わなければ、師匠には勝てる気がしない。
 今年で、五十歳になるらしいけど、師匠は本当に強い剣豪。
 それでも、時間魔法を使えば、師匠より超えるまでになっている。
 師匠を怪我させずに勝つのなら、十倍速スロウガを発動し、首に剣を当てて、敗北を認めさせればいい。否、三分の一時間圧縮スロウラでも、なんとか寸止めして、勝てる気さえする。
 だが、それは実践では使えない。どうにもならない時の最終手段なので、卒業試験では、やはり、二分の一圧縮スロウで戦うべきだ。
 それでも、私か勝つような気がするけど、手加減なんてできなくなるから、師匠に大怪我させることになる。
 治癒魔法を掛けたとしても、あくまで本人の治癒力を高めるだけなので、治癒できる限界がある。万が一、手足を切り落としてしまえば、片輪になるし、顔を切れば失明する危険もある。
 師匠のことだから、致命傷にならないように、交わしてくれると信じているけど、数日動けない位の大怪我はするに違いない。
 手加減なしの真剣勝負で、師匠もそれを覚悟で、卒業試験なんて言い出したんだから、気にするべきではないと、昨晩から言い聞かせているけど、勝つと分かっている真剣勝負は気が引ける。
 真剣勝負とは、実力が互角のものが、命賭けで戦うから意味がある。

 新たに三分の二時間圧縮という、より長時間戦闘できる魔法を編み出そうとしているけど、時間魔法の構築は難しく、未だに成功していない。
 やはり、師匠に失礼にあたるけど、身体強化はあえて封印して、戦うのがいい気がする。
 これなら、実力伯仲で、互角の戦いをすることができる。
 でも、それはそれで、師匠に失礼だよね。

『その通りです。リュウ将軍は、負けると理解しながら、メグ様と真剣勝負を望まれています。姑息な事は考えず、本番想定の真の姿で、戦うべきだと存じます』
 いつから、聞いていたのか分からないけど、セージがそう言い出したので、決心がついた。
 私が勝つと分かっている戦いになるけど、師匠に敬意を表し、身体強化も掛けて戦う事に決めた。

 そして、いよいよ卒業試験が始まった。
 メグは身体強化とスロウとを無詠唱で発動し、剣を正眼に構える。
 リュウは愛刀を抜刀し、片手で、斜め前に剣を持っただけの、自然体にかまえる。
 手合わせなら、直ぐに剣戟が始まるのだが、今日は、互いに見つめあったままで、一歩も動かない。
 勝負は一度きりで、一瞬だと、分かっているから、互いに慎重になってるのだろうが、両者は、脳内で、相手の動きを予測して、激しく剣を交えるシミュレーションを繰り返している。
 こうすれば、こうきて、ここでこうして、頭の中で、あれこれ試行し、敵が動くのを伺っている。
 真剣勝負においては、攻撃を仕掛ける瞬間が、一番危険とされている。
 その仕掛ける時に、身体のどこかに一瞬の隙ができ、その隙を突かれて、切られる危険があるからだ。
 だから、自分からは動かず、相手が動き出し、できたその隙に切り込もうと、考えて動けない。
 フェイントを掛けて、揺さぶりたいが、その無駄な動作すら命取りになりかねない。

 切り込む隙を伺う小康状態のまま時間がどんどん過ぎていき、実時間の一分が過ぎた。
 スロウの有効時間は六分。実時間換算でも三分もあるが、メグは焦り始めていた。
 もしかしてスロウの有効時間を知っていて、その時間が過ぎるのを待っているのではと考え始める。
 多少、注意力がそがれてしまうが、魔法を発動するため、正眼の構えのまま、魔法のイメージを抱き始めた。
 リュウは、その一瞬の注意力の乱れを見逃さない。さっと間合いをつめ、切り込んできた。
 リュウに向けて放った雷は、既にリュウがいなくなった大地に落ち、リュウの剣がメグを袈裟切りしようとする。
 だが、メグの回避がなんとか間に合い、その剣先をぎりぎりで交わし、逆にできたリュウの隙に、切りつける。
 だが、リュウはメグに体当たりするように、そのまま走り抜けるて、交わした。
 メグは振り向きざまに、奥義のツバメ返しで、胴切りを出す。
 リュウもそれを予測していて、振り向きざまに、それを刀で受け、そのまま押し込んで、メグを突き飛ばす。
 そして、メグが体勢が崩し、隙ができた所に、奥義兜割りで、渾身の一撃を放った。
 剣技だけなら、ここでメグは交わしきれず負けていただろうが、メグには魔法がある。
 とっさに、岩柱壁アースウォールを出した。
 それでも、リュウの剣は岩毎真っ二つに切ったが、剣先が僅かに遅くなり、メグは切られたものの、致命傷にはならずに済んだ。
 そして、直ぐに体勢を立て直し、再びにらみ合いの小康状態に突入する。

 私の方が上と思っていたけど、師匠の実力を見誤っていた。今まで見てきたどの師匠より、今日の師匠は速くて鋭い。
 魔法を発動させる一瞬の隙を狙っているのなら、それを逆に使って返り討ちにすればいいだけのこと。
 今度は、リュウの方から飛び込んでくるように、態と火柱インフェルノを発動させた。
 その予想通りに、リュウは刀を上段に振りかざし、飛び込んでくる。
 そして、彼の踏み出してくる足元に、泥沼アーススワンプという新たに考案した土属性と水属性の合成魔法を発動させた。これは、直径一メートル程の円の領域を底なし沼に変える魔法。魔法防御のキメラ等を動けなくするにはどうすればいいのかと悩んで、考案した。
 リュウは、足元の沼に気づき、慌てて飛び退こうとするも、もう遅い。
 メグは袈裟斬りに刀を振り下ろし、勝負は決した。
「師匠、大丈夫ですか」 メグは直ぐにヒールを発動する。
「本当に、全く隙が無い立派な剣士になった。そのうえ魔法も上手く活用して、とんでもない化け物になったもんだ。俺の完敗だ。とっとと卒業しやがれ」
 まだ、治療は終わっていないのに、リュウはメグを押しのける様にして、家の中に戻って行った。

 メグは、その背中に深々とお辞儀し、師匠の弟子に恥じない立派な冒険者になると誓うのだった。

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