私って何者なの

根鳥 泰造

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第二章 チーム『オリーブの芽』の躍進

人間は、やはり優しいよ

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 メグは、松明の火が横にたなびく位の信じられない速さで、トラップだらけの地下三階層を駆け抜けていった。身体強化に加え、三倍速の時間魔法まで掛け、トラップに掛かって、魔物が襲ってきても、既に通り過ぎていなくなるほどの俊足で、ひたすら走り続け、洞窟を抜け、森を走り、キース村へと急いだ。

「メグ、一人でそんなに急いで、どうしたんだ」
 丁度、時間魔法がクールタイム中だったので、誰かの声がちゃんと聞こえた。
 声の方を振り向くと、六人組の冒険者一行がいて、その中にモローがいた。
「はぁ、はぁ、お願い、助けて。はぁ、はぁ、地下迷宮地下三階で、ケント達三人が、死にそうになってるの。はぁ、二人は直ぐに、治癒舎(この世界の病院に相当する施設)で治療しないと、元の身体に戻れないかもしれない程の重態なの」
「地下三階層のボスか。お気の毒にな」
 モローの隣にいたリーダーらしき金プレートを付けた四十歳位の戦士が、冷たく突き放した。
「ジョージさん、お願いです。こいつの仲間を助けに行って頂けませんか。当分の間、俺の分け前は無しでかまいませんので」
「なんで、そこまで、こいつらに肩入れするんだ」
「こいつと、ちっと、喧嘩別れしてしまいましたが、妹みたいな奴なんです。お願いします」
「分かった。そうまでいうなら、五回分、ただ働きの条件で、助けに行ってやる。ただ、地下三階層は別世界なんだろう。俺たち、六人じゃ、殺されに行くようなもんだ。暫く待ってろ」
 そう言って、別の冒険者に何かを言うと、その男が何か道具を取り出し、それに火を点けた。すると、もくもくと、赤い煙が空高く上がっていく。
「何人集まるかわからんが、救難の狼煙だ。三十分待って、集まっただけのメンバーで、救出に向かう」
 冒険者経験が浅く、救難の狼煙という道具があることすら知らなかったメグだったが、モローとジョージに心から感謝した。
「ジョージさん、ありがとうございます」
 メグと同時に、モローも礼を述べ、ジョージはまずはモローに対し言葉を返す。
「なに、契約だからな。礼なんかいらん」
 そして、今度はメグに尋ねる。
「おい、オリーブの芽、地下迷宮第三階層について教えてくれ」
「私、メグといいます。地下三階層は……」
 誰かが救援に来てくれるまでの間、地下三階層について詳細を話した。
 そして、十分程して、五人組の冒険者がやって来たが、その後、誰も現れず、時間だと出発しようとしていた時、合流したという二チーム十二人が、やって来た。
 これで、メグを入れ、総勢二十四名の冒険者が集まった。
「皆さん、こんなに集まってくれて、ありがとうございます。実は……」
 メグが事情を説明しようとすると、ジョージが遮った。
「救難者は、地下迷宮の第三階層のボスにやられた重傷者三名だ。地下三階層の最深部まで、行かねばならないので、命がけの救出になる。だから、無理にとはいわない。よく考えてくれ」
 折角、新たに十二人も来てくれたのに、何をいうのだろうと不満だったけど、確かに大怪我する危険はある。
 新たに来た十二人は、それぞれのチームで相談をはじめたが、結局、誰一人、降りることなく、全員で救出に行ってくれることになった。
 本当に、有難い。
 全員に身体強化魔法を掛けることはできないので、徒歩で洞窟に向かったが、それでも、かなりの速足で歩いてくれ、日没頃には、地下迷宮のある洞窟に着くことができた。
 勿論、頻繁に魔物に遭遇し、B級魔物とも遭遇したが、二十四人掛りだと、一分程で仕留められる。メグも三倍速を掛けて、鬼神のとなって、魔物を退けた。
 そして、松明をチーム毎に一本準備して、一直線に最短距離で、地下迷宮の地下三階の入り口まで突き進む。
「ちょっと待ってくれ。ここから先は、トラップがあるし、A級までいるんだろう。全員で進まず、三つのチームに分けよう」
『邪眼の目』のリーダーのジョージが、全滅を回避しようと、そんなことを言い出した。
「メグさんと一緒の方が、俺は安全だと思うがな」
「そうだそうだ、今日、初めて見たが、とんでもない強さだ。一緒の方が安全だ」
「罠に嵌ったところを、一斉に襲われたら、これだけの人数がいても、意味がない。全滅しかねないぞ」
「皆さん、では私が先頭を行きますので、十メートル程後方を、集団で着いてきてください。そうすれば、罠にかかるのは、私だけですし、怪我をするのも私だけで済みますから」
「ちょっと待て。それは危険すぎる。そんなことすれば、幾らお前でも死にかねないぞ」
 モローが私の身の安全を心配してくれた。
「その通りだ。俺たちはここは初めてなんだ。万が一にもお前が死んだら、救出に行けないどころか、無事脱出できるかもわからないじゃないか」
 皆の言い分は分かるけど、ここで揉めて時間を費やす訳にはいかない。
「大丈夫です。私は絶対に死にません。ですから、皆さん、着いてきて下さい」
 メグは、そう言って、同意も得られていないのに、先に坂を下りて、地下の古代文明都市へと入って行った。
 仕方なく、全員が集団でメグの後を追う。
 初めて見た地下古代都市の光景に一同騒然としだすも、メグはどんどん先に進むので、全員が慌てて後を追う。
 早速、B級魔物に遭遇するも、再び鬼神のごとく、神速の剣を振るい交戦していると、数秒遅れで、後ろのニ十三人が攻撃を仕掛けて、仕留めた。
 C級の蝙蝠軍団には、流石に苦労させられたが、それでも五分程で三十匹の蝙蝠を、ほおむって突き進む。
 だが、メグは、急いだばかりに、トラップに掛かってしまった。建物から、丸太が次々と飛び出してきて、無数の石も逃げ場がない程に広範囲に降り注ぐ。
 丸太は三倍速を発動して、交わしきったが、流石に、これだけ広範囲の石礫の雨は、防ぎようがない。
 だが、メグはとっさに竜巻トルネードを発動した。本来攻撃魔法だが、リットが偶然にも防御魔法として使ったのを思い出し、竜巻で石の雨を防ぐことにしたのだ。
 竜巻に吸い込まれななかった石礫なら、なんとか交わすことができる。
 そして、建物の陰から、四体のB級魔物が一斉に突進してきた。ウシ型魔人のミノタウロスだ。B級魔物がトラップを仕掛けるなんて、初めて知った。
 なんとか、四方向からの突進攻撃を交わし、戦っていると、後方の集団も参戦してくれた。
 だが、その戦闘に気を取られていて、もう一つ罠が仕掛けられていたことに気づかなかった。
 牛魔人の斧攻撃を飛び退いて交わした位置が、砂地獄になっていた。
 身体が、砂に沈み、もがけばもがくほど、砂に埋まっていく。
 どうやら、C級の虫型魔物が仕掛けたトラップらしく、足を噛みつかれて、身体も痺れ始めた。
「これに捕まれ」 モローがロープを投げてくれた。
 背後にケンタウロスが迫っていたが、他の戦士の冒険者が盾となって、その攻撃を防いでくれた。
 B級魔物四体の攻撃で、半数近くが、大怪我を負う事になったが、それでも何とか、B級四体を凌ぎきって、討伐することに成功した。
「本当に、ここはとんでもない所だな。これだけの人数できたのに、半数はもう戦闘不能にされてしまった。怪我人続出でこれ以上の被害は出せない。時間は掛かるが、ここからは慎重に進もう」
 私が急いで先に進もうとした所為で、ほぼ全員に怪我をさせ、内十人は、暫く戦えない状態にまでしてしまった。
 メグは素直に反省し、ジョージの指示に従い、慎重にトラップや周囲に警戒しながら、進むことにした。

 お蔭で、その後、トラップに掛かることはなく、C級魔物の群れも何とか退け、漸く、魔人ベルゼブブの許に到着することができた。
「説明したように、ベルゼブブはS級魔人と思われます。絶対に手出ししないでください。こちらが仕掛けず、四階層に進む意志をみせなければ、決して襲ってはきませんので」
 魔人は、また椅子に座って彫刻をしていた。こちらをちらと確認しただけで、完全に無視している。
「本当に、余裕でいやがる。メグを信じて、三人を救出するぞ」
 ジョージの指示で、テントの布で、担架の様なものを造り、それに三人を慎重に乗せて、彼らを運び出すことになった。
 どうやら、ベルゼブブが、三人に治癒魔法を掛けていてくれたみたいで、容態は全員かなり改善に向かっていた。
 
 だが、キース村まで戻るだけでも、とんでもなく大変な道程だ。地下迷宮を脱出するまでに三人、魔物の森を抜けるのに二人、合計五人が、更に戦闘不能になる大怪我を負うこととなった。
 とはいえ、一人の死者も出すことなく、キース村にたどり着き、王都行きの馬車に乗せてもらい、三人を王宮横の治癒舎まで運ぶことができた。

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