私って何者なの

根鳥 泰造

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第三章 裏切りと復讐の果て

勇者の魔法がつかえれば

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 港に戻ると、近くの漁業組合の事務所にて、勇者の話を聞かせてもらえた。

 勇者パーティーは、聖騎士パラディンの勇者ビンセントと盗賊シーフのジェット以外に、闘士ウォーリア、 女槍使いランスマスタ女弓使いアーチャ黒魔導士ダークマージ女司祭プリーステスの前衛三人、後衛三人、遊撃一人とバランスの取れた、男四人女三人の混成チーム。
 全員、一騎当千の強者の上、勇者の加護を得て、とんでもない化け物となって、俊敏なA級魔物であっても、十分もかからず倒したのだとか。
 といっても、それは勇者が、ライトニングという魔法を放ってくれていたお蔭なんだそう。この魔法は、聖なる光を身体から放ち続けるというもので、敵はその光を浴びている間、動きが遅くなる。
 時間魔法は、自分以外の全部の動きが遅くなるが、ライトニングは、勇者が敵だと認識したもの以外は、通常速度で動くことができる。敵が何体居ようが、その光を浴びた敵は、全て動きが緩慢になり、勇者一行は、普通に動けるので、大抵の敵には勝てるのだ。
 どの程度緩慢になるのか定量的には分からないそうだが、かなりゆっくりと動く感じになるのだそうで、三分の一時間圧縮くらいの効果がありそう。しかも、五分間ほど、光を放ち続けるとかで、効果時間もスロウラより長い。
「それも、聖剣のもつ力なのですか?」
「いや、違うと思う。ビンセントは、この魔法があったから勇者になれたと話していたからな。だが、俺が出会った時には、既にエクスカリバーを手にしていたから、正直わからない」
 そうだとすれば、魔法の天才の私なら、そのライトニングを習得できるかもしれない。それを習得できたなら、あのベルゼブブとも、対等に戦える気がする。

「最後に、前魔王はどんな攻撃をして、どうやって攻略したのか、参考までにきかせてもらえませんか?」
「御免。俺は知らないんだ。その前の四天王との戦闘中に、失神して戦闘不能になっていたからな。役に立てずに済まない」
 目を覚ました時には、仲間は殺され、全てが終わっていた。だが、その死体の中に、勇者ビンセントの姿はなかった。
 だから、勇者が死んだのか、どこかで隠居して生きているのかも不明だが、勇者が消え、魔王が人間界に現れなくなったことで、同士討ちで魔王を倒したという噂が勝手にたちはじめたのだとか。

 丁重にお礼を言って、ジェットと別れると、仲間の皆は、この魔法をメグが習得できればベルゼブブも倒せるとはしゃぎだし、「遊泳禁止も解除されるはずだから、明日は海水浴で遊べるね」と、すっかり観光気分になっていた。
 だが、メグだけは、不安でならない。その魔法が、聖剣の力で使えるのだとしたら、メグがどんなに頑張ったとしても、どうにもならないからだ。
『セージ、あんたなら、ライトニングという魔法を知ってるんじゃない?』
『ええ、知っております。ライトニングは、アルフヘイムが開発して、初めて使ったという光属性の魔法です。詳細までは知りませんが、アルフヘイムに直接聞いてみてはいかがでしょう』
 それなら、聖剣不要の魔法ということになるし、アルフヘイムとの契約も既に済ませて有るので、直ぐに習得することができることなる。
 でも、何でだろう。いつものセージなら、うるさい位に口を挟んでくる筈なのに、私が訊くまで、その事実を伝えてこなかった。
 それはさておき、問題は、どうやってアルフヘイムを呼び出すか。契約済みといっても、彼女の場合、精霊召喚して呼び出したのではないからだ。
 当時の記憶はないので、セージから聞いた話になるけど、物体生成を試みていた時、突如現れ、彼女から契約を持ちかけてくれたのだそう。
 そんなわけで、セージも私も、彼女の召喚方法を知らないし、分からない。

 メグは、宿の食堂で、豪華な海の幸の料理を食べ終えると、独りで部屋に籠り、何とかアルフヘイムを呼び出す方法はないかと、あの時と同じように、いろいろなものの生成を試み、試行錯誤した。
 でも、どうしても現れてくれない。

「師匠、お早うございます。朝食に行きましょう」
 翌朝、机でうたたねしていると、リットが、起こしに来てくれた。
 ほとんど徹夜に近い状態で、眠かったけど、朝食を皆で食べることにした。
「この後、みんなで、海水浴にいくんだけど、メグも一緒にいこうよ」
「御免、私はパス。水着を持って来なかったから」
「水着なら、売店で売ってたぞ。行き詰った時は、気分転換した方が絶対にいい」
「そうです。師匠がライトニングを習得しようと頑張っているのは気づいていました。上手くできないんでしょう。そういう時は、気分転換するにかぎります」
 今は、魔法を発動を試行錯誤する以前の段階。どういう原理の魔法で、何が起きているのかも分からなければ、魔法は発動できない。だから、魔法の開発者、アルフヘイムを呼び出し、詳細を訊こうとしているだけだけど、いきづまっているには変わりない。
 気分転換でもしようと、海水浴に行くことに決めた。

 売店で売っていた女性用の水着は、下着の様なビキニしかなくて、恥ずかしかったけど、水色のビキニの水着を購入して、それに着替えた。
 ソフィアさんは、付き添いのつもりか普段着のままで、エマはワンピースだったけど、ミミもミカも恥ずかしそうにビキニ姿で現れた。ミラ程の巨乳ではないけど、みんな私より胸が大きくて、羨ましい。
 けど、その巨乳のミラはガウンを羽織って現れた。私もそうすればよかった。
 そして、海でガウンを脱ぐと、全員が唖然。ビキニは違いないけど、乳首とアソコを何とか隠しているだけの様な、超絶露出のセクシー水着だった。
 リットは真っ赤になって、見ない様にしていたけど、ケントとコリンは、口を開けたまま悩殺されていた。
 それからは、早速、海に入って、水遊び。しょっぱい海水に驚き、身体が川より浮きやすいことも発見して、そんな些細な事にも、感動していた。
 でも、メグだけは、一緒に楽しく遊ぶ振りをしながら、ずっとアルフヘイムの召喚方法がないものかと、考え続けていた。
「メグもケントも、泳ぎがうまいじゃないか。あの岩の所まで、競争しよう」
 昼頃、ミラが、突然、そんなことを言い出した。
「いいだろう。絶対にお前には負けん。メグ、時間魔法は禁止だからな」
「なら、一番になった者に、ビケの者が昼飯奢るルールにしよう。メグもいいよな」
「私は……」
「メグの気持ちは分かってる。でも、行き詰まった時は、何も考えずに、全力で別の何かをすると、ふといいアイデアが浮かぶものだ」
 ケントに説得されて、結局、泳ぎが上手な三人で、競争することになった。
 やる以上は、絶対に勝つ。メグも真剣になって、浜辺に戻り、スタート位置に着いた。
 六人が見守るなか、リットの合図で一斉に海に入り、泳ぎ出す。
 最初は猛ダッシュして飛び込んだミラとケントが先行していたが、二人とも、顔を出したままの力任せのクロールなので、水泳教室できちんとクロールをマスターしていたメグほど速くない。メグが、追い付き、追い越して先行して引き離していく。
 だが、徹夜に近い状態だったこともあり、あと五十メートルほどでゴールだというのに、足が攣ってしまった。
 仕方がないので、立ち泳ぎながら、攣った足を延ばして治療することにした。
「疲れたかのか、情けないな。お先に」
 力任せの泳ぎのミラに抜かれてしまった。
 そして、ケントにも先にいかれてしまう。
 治癒魔法も掛けて、足が完全回復した時には、はるか先に先行されていて、ゴール目前にいた。
 時間魔法は禁止だけど、負けたくない。ああ、ライトニングが使えたら……。
 その時、身体がきらきらと光り出した。
 すると、ミラとケントが急に溺れだす。
 ひょんなことで、ライトニングの習得に成功してしまったのだ。
「メグ、まぶしい。一体、何が起きたの? ボク、ビケじゃないよね」
 結局、ゴール目前で溺れている二人をミラが救助して、勝負は無効になった。
「まさか、この光って、ジェットが話していた勇者の魔法、ライトニングか?」
「そうみたい、どうやって発動したのか、正直、分からないけど、練習すれば習得できる気がする。これなら、きっとベルゼブブにも勝てるよ」
「でもさ、ボクたちが溺れたってことは、メグはボクたちを敵だと考えていたってことたよね。少しショック」
「だって、絶対に負けたくなかったんだもの」
 怪我の功名というのは変だが、ライトニング習得の手ごたえを得たメグだった。

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