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一の姫
十四、拒絶
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六条の君の屋敷へ向かったのは、その日の夜のことだった。
宮中からすこし離れた六条に屋敷を持っていることから、六条の君。
事前に調べた情報によると、六条の君の父親は、阿波の国の受領貴族だとか。
あまり身分が高いとは言えないものの、彼女は貴族たちに大人気な彼女の魅力がどこにあるのか。
「六条の君って、どこがモテるんですかね、兄上」
小春は、女房に通された部屋のなかで保憲に尋ねた。
保憲は一瞬だけ考えこむような素振りをした。
「うーん……。どこなんだろうね」
「色好みっていう噂があるからですか?」
「まぁ、そんなもんじゃないかな。……どうした、そんな怖い顔をして」
「怖い顔なんてしてませんよ」
「眉間に皺が寄ってるよ」
ぎくっとした小春は、ははは、と乾いた声を漏らした。
「それは……六条の君に会えるんですよ? 緊張するじゃないですか」
保憲は首をかしげて、ふっと小春から視線を逸らした。
その視線の先には、先ほど小春たちをここに案内した女房がいた。
「どうされました?」
保憲がたずねると、女房はすこし困ったような顔をした。
「実は……。姫さまは、保憲さまとお会いするつもりだった、と」
「となると?」
「安倍晴明さまとはお会いしたくはない、とのことです」
「え、えぇぇぇ?!」
思わず小春の喉から絶叫が漏れた。
「そんなこと言わずに、入れてくださいよ」
「姫さまは、一度決めたことは覆さないお方でして」
「ぐ……」
「私からも、お願いします。晴明は私の弟弟子です」
保憲が頭を下げる。
「姫さまが決められたことですので、私にはどうしようもできませぬ。姫さまに、直接お話いただけますと……」
小春と保憲は、困った顔を見合わせた。
保憲だけを行かせるのは、腑に落ちないが、それでも保憲ひとりで事足りることは分かっていた。
「晴明。すこしここで待っててくれ」
「……はい」
保憲の言葉に、小春は素直にうなづいた。
女房があからさまにほっとした表情をする。
「では、行きましょうか」
はい、と答えた保憲が六条の君の元へ姿を消す。
それを見送って、小春は座して保憲が帰ってくるのを待つことにした。
***
どれだけ時間が過ぎたのだろう。
ふと気づくと、小春は居眠りをしてしまっていた。
「ふふ。よく眠っていたね」
耳元で聞こえた声に飛び上がると、そこにいたのは小さなおかっぱ頭の女の子だった。
顎の線で切りそろえた髪は黒々として、赤い稚児装束には、複雑な文様が編まれている。
ぱっちりとした目は、じっと小春のことを見つめている。
真っ白で陶器のように滑らかな肌を見ていると、なぜか人形を思い出した。
「君は、ここの家の子?」
おそるおそるたずねると、女の子はまた笑った。
「そう」
「こんな夜に。もう寝る時間じゃないかい?」
「そんなこと言わないでよ。つまらないの」
つん、と冷たく返した女の子は、手にしていたお手玉をぽすりと小春に投げつけた。
痛くはなかったけれど、そんなことをされたのだという事実が小春の心をえぐった。
なにか、彼女の気の障ることをしてしまったのだろうか。
不安になって彼女の一挙一動を見守っていると、女の子はそんな小春の心を読んだように笑った。
「ね、遊ぼ」
宮中からすこし離れた六条に屋敷を持っていることから、六条の君。
事前に調べた情報によると、六条の君の父親は、阿波の国の受領貴族だとか。
あまり身分が高いとは言えないものの、彼女は貴族たちに大人気な彼女の魅力がどこにあるのか。
「六条の君って、どこがモテるんですかね、兄上」
小春は、女房に通された部屋のなかで保憲に尋ねた。
保憲は一瞬だけ考えこむような素振りをした。
「うーん……。どこなんだろうね」
「色好みっていう噂があるからですか?」
「まぁ、そんなもんじゃないかな。……どうした、そんな怖い顔をして」
「怖い顔なんてしてませんよ」
「眉間に皺が寄ってるよ」
ぎくっとした小春は、ははは、と乾いた声を漏らした。
「それは……六条の君に会えるんですよ? 緊張するじゃないですか」
保憲は首をかしげて、ふっと小春から視線を逸らした。
その視線の先には、先ほど小春たちをここに案内した女房がいた。
「どうされました?」
保憲がたずねると、女房はすこし困ったような顔をした。
「実は……。姫さまは、保憲さまとお会いするつもりだった、と」
「となると?」
「安倍晴明さまとはお会いしたくはない、とのことです」
「え、えぇぇぇ?!」
思わず小春の喉から絶叫が漏れた。
「そんなこと言わずに、入れてくださいよ」
「姫さまは、一度決めたことは覆さないお方でして」
「ぐ……」
「私からも、お願いします。晴明は私の弟弟子です」
保憲が頭を下げる。
「姫さまが決められたことですので、私にはどうしようもできませぬ。姫さまに、直接お話いただけますと……」
小春と保憲は、困った顔を見合わせた。
保憲だけを行かせるのは、腑に落ちないが、それでも保憲ひとりで事足りることは分かっていた。
「晴明。すこしここで待っててくれ」
「……はい」
保憲の言葉に、小春は素直にうなづいた。
女房があからさまにほっとした表情をする。
「では、行きましょうか」
はい、と答えた保憲が六条の君の元へ姿を消す。
それを見送って、小春は座して保憲が帰ってくるのを待つことにした。
***
どれだけ時間が過ぎたのだろう。
ふと気づくと、小春は居眠りをしてしまっていた。
「ふふ。よく眠っていたね」
耳元で聞こえた声に飛び上がると、そこにいたのは小さなおかっぱ頭の女の子だった。
顎の線で切りそろえた髪は黒々として、赤い稚児装束には、複雑な文様が編まれている。
ぱっちりとした目は、じっと小春のことを見つめている。
真っ白で陶器のように滑らかな肌を見ていると、なぜか人形を思い出した。
「君は、ここの家の子?」
おそるおそるたずねると、女の子はまた笑った。
「そう」
「こんな夜に。もう寝る時間じゃないかい?」
「そんなこと言わないでよ。つまらないの」
つん、と冷たく返した女の子は、手にしていたお手玉をぽすりと小春に投げつけた。
痛くはなかったけれど、そんなことをされたのだという事実が小春の心をえぐった。
なにか、彼女の気の障ることをしてしまったのだろうか。
不安になって彼女の一挙一動を見守っていると、女の子はそんな小春の心を読んだように笑った。
「ね、遊ぼ」
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