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二の姫
二十七、妖狐
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「あなたたちは、だぁれ?」
もう一度、かぼそい声が御簾のうちから聞こえる。衣を引きずる音がして、ひとりの少女が御簾の外に出た。
山吹色の衣に、紅の裳。年若い少女らしい、華やかで柔らかい色使いが彼女を彩る。その色使いと反して、少女の頬は痩けていた。髑髏とそう変わらないような、骨と皮ばかりの顔。目だけが異様に大きく、淡い茶色の眼球がぎょろりと小春たちを見つめていた。少女の手は、ごつごつと骨張り、伸び切った鋭利な爪が、持ち上げている御簾にぎりりと食い込んでいる。
一目でわかった。
彼女は、#憑かれている__・__と。
乾燥からか皮が向け、血が滲む唇だけが、異様に紅く見えた。
「ねぇ、どうしてきたの?」
もう一度、彼女は問う。
心細げな声だった。
「……あなたが、朝顔の君か」
保憲が問う。
「そうよ?」
彼女は答えて、ゆっくりと首を傾げた。緩慢な動きで、保憲を見つめる。瞳は保憲を映しているようにも見えれば、どこにも焦点が合っていないようにも見えた。
「あなた、誰なの?」
長いまつ毛を伏せて、彼女は尋ねた。
「僕は陰陽師。あなたに憑くあやかしを祓いにきた」
「祓う? 何を言っているの? わからない」
いやいやと、駄々をこねる幼な子のように、彼女は首を横に振る。
小春は息を飲んだ。
彼女には、憑かれている実感がないのだ。
こんなにもやせ細るまで、彼女の身体にあやかしがとり憑いたということになる。
やせこけた朝顔の君が痛ましく見えた。
「あやかしよ、そこにいるんだろう? 出てこい」
保憲が呼びかけたのとほぼ同時に、彼女の瞳が紅く光る。ぼうっと、彼女の身体全体も同じ紅に包まれる。
思わず小春は一歩後ずさった。
「なにかしら?」
紅い瞳を輝かせて、彼女が尋ねた。それは、先ほどまでの幼な子の声音ではなく、艶のある女の声であった。今にも笑い出しそうなほど、楽しげな調子で、彼女は言う。
「犬をおくってきたのは、あなたでしょう? わたくし、犬が大っ嫌いなのよ」
にたり、と笑みを浮かべた彼女の口元には、先ほどまでなかったはずの犬歯が2本生えていた。ぶわっとまた妖気が強くなり、小春は思わず目を閉じる。次に目を開けた瞬間、彼女から九尾に分かれた尻尾が見えた。長い9つの尻尾をゆらゆらと揺らしながら、彼女はにたにたと笑っている。
九尾の狐。
狐はときに、人を化かす。
たちの悪いものは、人に憑いて悪行を繰り返す。
この狐から発せられる妖気を思うと、かなりの数の人間を喰ってきたに違いなかった。
人ひとりいない屋敷を思うと、残念ながら村の人々もこの狐に喰われたのだろう。
――ここで祓うしかない。小春は持っていた呪符をさらに強く握りしめた。
もう一度、かぼそい声が御簾のうちから聞こえる。衣を引きずる音がして、ひとりの少女が御簾の外に出た。
山吹色の衣に、紅の裳。年若い少女らしい、華やかで柔らかい色使いが彼女を彩る。その色使いと反して、少女の頬は痩けていた。髑髏とそう変わらないような、骨と皮ばかりの顔。目だけが異様に大きく、淡い茶色の眼球がぎょろりと小春たちを見つめていた。少女の手は、ごつごつと骨張り、伸び切った鋭利な爪が、持ち上げている御簾にぎりりと食い込んでいる。
一目でわかった。
彼女は、#憑かれている__・__と。
乾燥からか皮が向け、血が滲む唇だけが、異様に紅く見えた。
「ねぇ、どうしてきたの?」
もう一度、彼女は問う。
心細げな声だった。
「……あなたが、朝顔の君か」
保憲が問う。
「そうよ?」
彼女は答えて、ゆっくりと首を傾げた。緩慢な動きで、保憲を見つめる。瞳は保憲を映しているようにも見えれば、どこにも焦点が合っていないようにも見えた。
「あなた、誰なの?」
長いまつ毛を伏せて、彼女は尋ねた。
「僕は陰陽師。あなたに憑くあやかしを祓いにきた」
「祓う? 何を言っているの? わからない」
いやいやと、駄々をこねる幼な子のように、彼女は首を横に振る。
小春は息を飲んだ。
彼女には、憑かれている実感がないのだ。
こんなにもやせ細るまで、彼女の身体にあやかしがとり憑いたということになる。
やせこけた朝顔の君が痛ましく見えた。
「あやかしよ、そこにいるんだろう? 出てこい」
保憲が呼びかけたのとほぼ同時に、彼女の瞳が紅く光る。ぼうっと、彼女の身体全体も同じ紅に包まれる。
思わず小春は一歩後ずさった。
「なにかしら?」
紅い瞳を輝かせて、彼女が尋ねた。それは、先ほどまでの幼な子の声音ではなく、艶のある女の声であった。今にも笑い出しそうなほど、楽しげな調子で、彼女は言う。
「犬をおくってきたのは、あなたでしょう? わたくし、犬が大っ嫌いなのよ」
にたり、と笑みを浮かべた彼女の口元には、先ほどまでなかったはずの犬歯が2本生えていた。ぶわっとまた妖気が強くなり、小春は思わず目を閉じる。次に目を開けた瞬間、彼女から九尾に分かれた尻尾が見えた。長い9つの尻尾をゆらゆらと揺らしながら、彼女はにたにたと笑っている。
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狐はときに、人を化かす。
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この狐から発せられる妖気を思うと、かなりの数の人間を喰ってきたに違いなかった。
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――ここで祓うしかない。小春は持っていた呪符をさらに強く握りしめた。
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