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二の姫
三十、決着
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一歩踏み込んだ小春は、妖狐に向けて隠し持っていた護身用の短刀を向けた。
護身用とはいえ、小春の力を込めたあやかし祓いの刀だ。
(当たって……!)
思いを込めた短刀を、妖狐に突き刺す。あと少しで妖狐の腹に届く。そう思った瞬間、妖狐は不敵な笑みを浮かべて後ろに退いた。体制を崩しかけた小春は、たたらを踏む。そこを突いて、妖狐の尾が小春に向かってきた。
攻撃が来るのは予想通りだ。
小声で呪印を唱えながら、小春も後ろに退く。一時的に身体能力のあがる呪印だ。
向かってくる尾がゆっくりに見える。視界の中に妖狐の尾を捉えながら、小春はもう一度妖狐に迫った。
「小賢しい!」
妖狐は苛立った声をあげ、小春に向かって腕を振り上げた。華奢な指先から、長く鋭い爪が生えている。小春を爪で突き刺そうというのだ。振り上げられたそれを、小春は短刀で防いだ。
金属同士がぶつかり合うような、小気味よい音が響く。妖狐はもう一度腕を振り下ろした。同じように小春はそれを短刀で防ぐ。
一度目より、二度目の方が感触が重い。妖狐も、だんだんと本性を表しているようだった。
小春も負けじと、ぎりぎりと短刀の位置をあげていく。これでも力には自信がある。競り合いを続けるのは分が悪いと、妖狐に伝える算段だった。
小春の意図が伝わったのか、妖狐は鍔迫り合いもそこそこに、さらに一歩後ずさる。
そこを狙ったかのように、保憲の術が炸裂した。保憲の式神である大蛇が、妖狐の脚に巻きついたのである。
ぐらりと体勢を崩した妖狐は、そのまま大蛇に巻きつかれて苦しげな声をあげた。ジタバタともがく妖狐に近づき、保憲がひとつのお札を顔面に押し付ける。
「急急如律令!」
凛と響いた保憲の声に、妖狐はさらにもがき苦しんだ。力を振り絞り、保憲に傷を負わせようと長く伸びた爪を保憲に向ける。保憲はそれを振り払うと、さらにお札に込めた力を強くした。
そのとき、パリンと鏡が割れるような音が響いた。音とともに、妖狐の身体が崩れ落ちる。保憲がそれを抱き抱えると、朝顔の君の身体に入っていた、妖狐本体がそこから飛び出してきた。
人ほどもあるような、大きな九尾の狐。これが、妖狐の本来の姿なのだ。
妖狐は一度伸びをすると、その細い目で保徳を睨んだ。
「あぶない!」
妖狐が動くよりはやく、小春は動いていた。妖狐と保憲の間に割って入り、保憲を攻撃しようとしていた尾を叩き落とす。
短刀ゆえ、尾が切れることはなかったが、かなりの力を込めたせいか、妖狐はキャンと悲しげな声をあげた。
じゅっと何かが焼けるような音がして、焦げ臭い匂いが漂う。尻尾を痛めたらしい狐は、耳を下げて小春をじっと見た。
「それ、痛いんだけどどうしてくれるのよ!」
「そ、そんなこと言われても」
「わたくしの大事な尻尾なのよッ!」
鼻息あらく、妖狐は息巻いた。たしかに、小春が叩いたところだけ、ふさふさの毛がなくなり、赤く腫れている。さっきから漂う焼け焦げた香りは、尻尾の毛が焦げた香りらしい。
「あーあ、こんなんじゃもうわたくしはだめだわ……。こんな醜い尻尾じゃもう生きられない。もういや。あんたとは一生戦いたくない」
しゅんと尻尾を下げて、妖狐はぶつぶつと言った。さっきまで殺し合っていたのが嘘のように、妖狐のやる気がなくなっているのを肌で感じる。
「あ、あの。毛ならまた生えて——」
「生えてくるまでどれぐらいかかると思ってんのよ! あんたねぇ、これ普通の火傷じゃないのよ? 陰陽師に殴られたのよ?」
キッと鋭い目つきで、妖狐は言った。たしかに、小春とて自分の髪の毛がなくなってしまったら、戦いの最中であっても気が乱れるに違いない。
「それは……ごめんなさい。でも、あなたが襲いかかってこなければこんなことには」
「だって、わたくしは九尾の狐なのよ?! 人を喰うのがわたくしの性。それ以外に生きる道がないわ」
「そうだ! 式神になれば良いんですよ!」
ぽん、と小春は手を叩いた。
護身用とはいえ、小春の力を込めたあやかし祓いの刀だ。
(当たって……!)
思いを込めた短刀を、妖狐に突き刺す。あと少しで妖狐の腹に届く。そう思った瞬間、妖狐は不敵な笑みを浮かべて後ろに退いた。体制を崩しかけた小春は、たたらを踏む。そこを突いて、妖狐の尾が小春に向かってきた。
攻撃が来るのは予想通りだ。
小声で呪印を唱えながら、小春も後ろに退く。一時的に身体能力のあがる呪印だ。
向かってくる尾がゆっくりに見える。視界の中に妖狐の尾を捉えながら、小春はもう一度妖狐に迫った。
「小賢しい!」
妖狐は苛立った声をあげ、小春に向かって腕を振り上げた。華奢な指先から、長く鋭い爪が生えている。小春を爪で突き刺そうというのだ。振り上げられたそれを、小春は短刀で防いだ。
金属同士がぶつかり合うような、小気味よい音が響く。妖狐はもう一度腕を振り下ろした。同じように小春はそれを短刀で防ぐ。
一度目より、二度目の方が感触が重い。妖狐も、だんだんと本性を表しているようだった。
小春も負けじと、ぎりぎりと短刀の位置をあげていく。これでも力には自信がある。競り合いを続けるのは分が悪いと、妖狐に伝える算段だった。
小春の意図が伝わったのか、妖狐は鍔迫り合いもそこそこに、さらに一歩後ずさる。
そこを狙ったかのように、保憲の術が炸裂した。保憲の式神である大蛇が、妖狐の脚に巻きついたのである。
ぐらりと体勢を崩した妖狐は、そのまま大蛇に巻きつかれて苦しげな声をあげた。ジタバタともがく妖狐に近づき、保憲がひとつのお札を顔面に押し付ける。
「急急如律令!」
凛と響いた保憲の声に、妖狐はさらにもがき苦しんだ。力を振り絞り、保憲に傷を負わせようと長く伸びた爪を保憲に向ける。保憲はそれを振り払うと、さらにお札に込めた力を強くした。
そのとき、パリンと鏡が割れるような音が響いた。音とともに、妖狐の身体が崩れ落ちる。保憲がそれを抱き抱えると、朝顔の君の身体に入っていた、妖狐本体がそこから飛び出してきた。
人ほどもあるような、大きな九尾の狐。これが、妖狐の本来の姿なのだ。
妖狐は一度伸びをすると、その細い目で保徳を睨んだ。
「あぶない!」
妖狐が動くよりはやく、小春は動いていた。妖狐と保憲の間に割って入り、保憲を攻撃しようとしていた尾を叩き落とす。
短刀ゆえ、尾が切れることはなかったが、かなりの力を込めたせいか、妖狐はキャンと悲しげな声をあげた。
じゅっと何かが焼けるような音がして、焦げ臭い匂いが漂う。尻尾を痛めたらしい狐は、耳を下げて小春をじっと見た。
「それ、痛いんだけどどうしてくれるのよ!」
「そ、そんなこと言われても」
「わたくしの大事な尻尾なのよッ!」
鼻息あらく、妖狐は息巻いた。たしかに、小春が叩いたところだけ、ふさふさの毛がなくなり、赤く腫れている。さっきから漂う焼け焦げた香りは、尻尾の毛が焦げた香りらしい。
「あーあ、こんなんじゃもうわたくしはだめだわ……。こんな醜い尻尾じゃもう生きられない。もういや。あんたとは一生戦いたくない」
しゅんと尻尾を下げて、妖狐はぶつぶつと言った。さっきまで殺し合っていたのが嘘のように、妖狐のやる気がなくなっているのを肌で感じる。
「あ、あの。毛ならまた生えて——」
「生えてくるまでどれぐらいかかると思ってんのよ! あんたねぇ、これ普通の火傷じゃないのよ? 陰陽師に殴られたのよ?」
キッと鋭い目つきで、妖狐は言った。たしかに、小春とて自分の髪の毛がなくなってしまったら、戦いの最中であっても気が乱れるに違いない。
「それは……ごめんなさい。でも、あなたが襲いかかってこなければこんなことには」
「だって、わたくしは九尾の狐なのよ?! 人を喰うのがわたくしの性。それ以外に生きる道がないわ」
「そうだ! 式神になれば良いんですよ!」
ぽん、と小春は手を叩いた。
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