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二の姫
三十一、式神
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「しきがみぃ?」
疑心暗鬼と言った声で、妖狐は小春を睨みつける。
「見たところ、あなたはとても力のあるあやかしです。なので、式神として陰陽師に使役されながら生きるというのはどうでしょう? 私たち陰陽師の霊力があなたの糧になると思うので。……私が死ぬまでの間は、衣食住は確保されるはずです」
「……はぁ? あんたに使役されろって言うの?」
「はい。今のあなたに戦闘の意志がないとしても、私たち陰陽師はあなたのような力のあるあやかしを放置しておくことはできません。あなた、このままにしておいたらすぐに人を喰いそうですし」
図星だったのか、小春を睨んでいた妖狐はすっと目を逸らす。
このままであれば、このあやかしは罪なき人を殺したあやかしとして、遅からず祓われてしまう。それを防ぐためには、式神として陰陽師の配下になるしかない。
小春は一歩、妖狐のそばに近づいた。手には先ほど妖狐の尻尾を焼いた短刀がある。
妖狐は小春の足音にびくりと身体を震わせ、恐ろしいものを見るような目つきで小春を見た。
「で、どうしましょうか?」
「……」
保憲も静かにしている。
「わ、わかったわ! あんたの式神になればいいんでしょなれば!!」
「ありがとうございます!」
にっこりと微笑んだはずのに、妖狐はさらにげんなりと意気消沈する。
「あんた、わたくしのことをこき使ったらただじゃおかないからね」
「善処します」
保憲の使役している白だって、いつも出ずっぱりというわけではない。式神は外に出せば出すほど、術者の霊力も消耗される。小春のような新米の陰陽師は、長い時間使役し続けるのは難しいだろう。
それでも、やっとのことで初めて式神を使役することが出来るのだ。小春の胸は高鳴る。
「あなたの名前を、教えてくれませんか?」
「……玉藻」
たまも、と小春はその名を口の中でつぶやく。その名が、小春と玉藻を霊力で繋ぐことになる。いわばお互いにとっての枷だ。
小春は目を閉じ、心を鎮めて、祝詞をつむぐ。小春と玉藻とを結ぶ強固な枷を、今から作りあげていく。
――速さは一定に。歌うように。
目を閉じると、保憲の声が聞こえてくるような気がした。祝詞はすべて覚えてしまっていたから、すらすらと口を突いて祝詞が出ていく。保憲とともに、何度も何度も練習したのだ。
しゃん、とどこかで鈴の音が聞こえた気がして、小春は目を開いた。そこにはすでに玉藻の姿はなかったが、代わりに小春の手には一枚の呪符があった。
これを使って、これからは玉藻を呼び出すことになりそうだ。
「小春、よくやったな」
保憲に声をかけられると、肩の力が降りたような気がした。脱力感に見舞われ、小春は思わず地面に足をつく。
霊力を使ったからか、あまりに身体がだるいとはいえ、こうして無事に終わったのが幸いなことだ。
「ありがとうございます、兄上」
「……う、ううん」
そのとき、保憲が抱き抱えていた朝顔の君がうめきごえをあげた。はっとして、小春は重たい体を起こして少女のもとに駆け寄る。
「だ、大丈夫でしょうか」
「かなり衰弱しているからな。何か食べ物があれば良いのだが……」
「さっき通ってきた村に寄らせてもらいましょうか」
「そうだな。それが良い」
そう言って、小春たちは立ち上がった。どこからか、風が通ってきて小春の頬を撫ぜた。
疑心暗鬼と言った声で、妖狐は小春を睨みつける。
「見たところ、あなたはとても力のあるあやかしです。なので、式神として陰陽師に使役されながら生きるというのはどうでしょう? 私たち陰陽師の霊力があなたの糧になると思うので。……私が死ぬまでの間は、衣食住は確保されるはずです」
「……はぁ? あんたに使役されろって言うの?」
「はい。今のあなたに戦闘の意志がないとしても、私たち陰陽師はあなたのような力のあるあやかしを放置しておくことはできません。あなた、このままにしておいたらすぐに人を喰いそうですし」
図星だったのか、小春を睨んでいた妖狐はすっと目を逸らす。
このままであれば、このあやかしは罪なき人を殺したあやかしとして、遅からず祓われてしまう。それを防ぐためには、式神として陰陽師の配下になるしかない。
小春は一歩、妖狐のそばに近づいた。手には先ほど妖狐の尻尾を焼いた短刀がある。
妖狐は小春の足音にびくりと身体を震わせ、恐ろしいものを見るような目つきで小春を見た。
「で、どうしましょうか?」
「……」
保憲も静かにしている。
「わ、わかったわ! あんたの式神になればいいんでしょなれば!!」
「ありがとうございます!」
にっこりと微笑んだはずのに、妖狐はさらにげんなりと意気消沈する。
「あんた、わたくしのことをこき使ったらただじゃおかないからね」
「善処します」
保憲の使役している白だって、いつも出ずっぱりというわけではない。式神は外に出せば出すほど、術者の霊力も消耗される。小春のような新米の陰陽師は、長い時間使役し続けるのは難しいだろう。
それでも、やっとのことで初めて式神を使役することが出来るのだ。小春の胸は高鳴る。
「あなたの名前を、教えてくれませんか?」
「……玉藻」
たまも、と小春はその名を口の中でつぶやく。その名が、小春と玉藻を霊力で繋ぐことになる。いわばお互いにとっての枷だ。
小春は目を閉じ、心を鎮めて、祝詞をつむぐ。小春と玉藻とを結ぶ強固な枷を、今から作りあげていく。
――速さは一定に。歌うように。
目を閉じると、保憲の声が聞こえてくるような気がした。祝詞はすべて覚えてしまっていたから、すらすらと口を突いて祝詞が出ていく。保憲とともに、何度も何度も練習したのだ。
しゃん、とどこかで鈴の音が聞こえた気がして、小春は目を開いた。そこにはすでに玉藻の姿はなかったが、代わりに小春の手には一枚の呪符があった。
これを使って、これからは玉藻を呼び出すことになりそうだ。
「小春、よくやったな」
保憲に声をかけられると、肩の力が降りたような気がした。脱力感に見舞われ、小春は思わず地面に足をつく。
霊力を使ったからか、あまりに身体がだるいとはいえ、こうして無事に終わったのが幸いなことだ。
「ありがとうございます、兄上」
「……う、ううん」
そのとき、保憲が抱き抱えていた朝顔の君がうめきごえをあげた。はっとして、小春は重たい体を起こして少女のもとに駆け寄る。
「だ、大丈夫でしょうか」
「かなり衰弱しているからな。何か食べ物があれば良いのだが……」
「さっき通ってきた村に寄らせてもらいましょうか」
「そうだな。それが良い」
そう言って、小春たちは立ち上がった。どこからか、風が通ってきて小春の頬を撫ぜた。
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