31 / 58
二の姫
三十一、式神
しおりを挟む
「しきがみぃ?」
疑心暗鬼と言った声で、妖狐は小春を睨みつける。
「見たところ、あなたはとても力のあるあやかしです。なので、式神として陰陽師に使役されながら生きるというのはどうでしょう? 私たち陰陽師の霊力があなたの糧になると思うので。……私が死ぬまでの間は、衣食住は確保されるはずです」
「……はぁ? あんたに使役されろって言うの?」
「はい。今のあなたに戦闘の意志がないとしても、私たち陰陽師はあなたのような力のあるあやかしを放置しておくことはできません。あなた、このままにしておいたらすぐに人を喰いそうですし」
図星だったのか、小春を睨んでいた妖狐はすっと目を逸らす。
このままであれば、このあやかしは罪なき人を殺したあやかしとして、遅からず祓われてしまう。それを防ぐためには、式神として陰陽師の配下になるしかない。
小春は一歩、妖狐のそばに近づいた。手には先ほど妖狐の尻尾を焼いた短刀がある。
妖狐は小春の足音にびくりと身体を震わせ、恐ろしいものを見るような目つきで小春を見た。
「で、どうしましょうか?」
「……」
保憲も静かにしている。
「わ、わかったわ! あんたの式神になればいいんでしょなれば!!」
「ありがとうございます!」
にっこりと微笑んだはずのに、妖狐はさらにげんなりと意気消沈する。
「あんた、わたくしのことをこき使ったらただじゃおかないからね」
「善処します」
保憲の使役している白だって、いつも出ずっぱりというわけではない。式神は外に出せば出すほど、術者の霊力も消耗される。小春のような新米の陰陽師は、長い時間使役し続けるのは難しいだろう。
それでも、やっとのことで初めて式神を使役することが出来るのだ。小春の胸は高鳴る。
「あなたの名前を、教えてくれませんか?」
「……玉藻」
たまも、と小春はその名を口の中でつぶやく。その名が、小春と玉藻を霊力で繋ぐことになる。いわばお互いにとっての枷だ。
小春は目を閉じ、心を鎮めて、祝詞をつむぐ。小春と玉藻とを結ぶ強固な枷を、今から作りあげていく。
――速さは一定に。歌うように。
目を閉じると、保憲の声が聞こえてくるような気がした。祝詞はすべて覚えてしまっていたから、すらすらと口を突いて祝詞が出ていく。保憲とともに、何度も何度も練習したのだ。
しゃん、とどこかで鈴の音が聞こえた気がして、小春は目を開いた。そこにはすでに玉藻の姿はなかったが、代わりに小春の手には一枚の呪符があった。
これを使って、これからは玉藻を呼び出すことになりそうだ。
「小春、よくやったな」
保憲に声をかけられると、肩の力が降りたような気がした。脱力感に見舞われ、小春は思わず地面に足をつく。
霊力を使ったからか、あまりに身体がだるいとはいえ、こうして無事に終わったのが幸いなことだ。
「ありがとうございます、兄上」
「……う、ううん」
そのとき、保憲が抱き抱えていた朝顔の君がうめきごえをあげた。はっとして、小春は重たい体を起こして少女のもとに駆け寄る。
「だ、大丈夫でしょうか」
「かなり衰弱しているからな。何か食べ物があれば良いのだが……」
「さっき通ってきた村に寄らせてもらいましょうか」
「そうだな。それが良い」
そう言って、小春たちは立ち上がった。どこからか、風が通ってきて小春の頬を撫ぜた。
疑心暗鬼と言った声で、妖狐は小春を睨みつける。
「見たところ、あなたはとても力のあるあやかしです。なので、式神として陰陽師に使役されながら生きるというのはどうでしょう? 私たち陰陽師の霊力があなたの糧になると思うので。……私が死ぬまでの間は、衣食住は確保されるはずです」
「……はぁ? あんたに使役されろって言うの?」
「はい。今のあなたに戦闘の意志がないとしても、私たち陰陽師はあなたのような力のあるあやかしを放置しておくことはできません。あなた、このままにしておいたらすぐに人を喰いそうですし」
図星だったのか、小春を睨んでいた妖狐はすっと目を逸らす。
このままであれば、このあやかしは罪なき人を殺したあやかしとして、遅からず祓われてしまう。それを防ぐためには、式神として陰陽師の配下になるしかない。
小春は一歩、妖狐のそばに近づいた。手には先ほど妖狐の尻尾を焼いた短刀がある。
妖狐は小春の足音にびくりと身体を震わせ、恐ろしいものを見るような目つきで小春を見た。
「で、どうしましょうか?」
「……」
保憲も静かにしている。
「わ、わかったわ! あんたの式神になればいいんでしょなれば!!」
「ありがとうございます!」
にっこりと微笑んだはずのに、妖狐はさらにげんなりと意気消沈する。
「あんた、わたくしのことをこき使ったらただじゃおかないからね」
「善処します」
保憲の使役している白だって、いつも出ずっぱりというわけではない。式神は外に出せば出すほど、術者の霊力も消耗される。小春のような新米の陰陽師は、長い時間使役し続けるのは難しいだろう。
それでも、やっとのことで初めて式神を使役することが出来るのだ。小春の胸は高鳴る。
「あなたの名前を、教えてくれませんか?」
「……玉藻」
たまも、と小春はその名を口の中でつぶやく。その名が、小春と玉藻を霊力で繋ぐことになる。いわばお互いにとっての枷だ。
小春は目を閉じ、心を鎮めて、祝詞をつむぐ。小春と玉藻とを結ぶ強固な枷を、今から作りあげていく。
――速さは一定に。歌うように。
目を閉じると、保憲の声が聞こえてくるような気がした。祝詞はすべて覚えてしまっていたから、すらすらと口を突いて祝詞が出ていく。保憲とともに、何度も何度も練習したのだ。
しゃん、とどこかで鈴の音が聞こえた気がして、小春は目を開いた。そこにはすでに玉藻の姿はなかったが、代わりに小春の手には一枚の呪符があった。
これを使って、これからは玉藻を呼び出すことになりそうだ。
「小春、よくやったな」
保憲に声をかけられると、肩の力が降りたような気がした。脱力感に見舞われ、小春は思わず地面に足をつく。
霊力を使ったからか、あまりに身体がだるいとはいえ、こうして無事に終わったのが幸いなことだ。
「ありがとうございます、兄上」
「……う、ううん」
そのとき、保憲が抱き抱えていた朝顔の君がうめきごえをあげた。はっとして、小春は重たい体を起こして少女のもとに駆け寄る。
「だ、大丈夫でしょうか」
「かなり衰弱しているからな。何か食べ物があれば良いのだが……」
「さっき通ってきた村に寄らせてもらいましょうか」
「そうだな。それが良い」
そう言って、小春たちは立ち上がった。どこからか、風が通ってきて小春の頬を撫ぜた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
無限在庫チートで異世界を買い占める〜窓際おじさんが廃棄予定のカップ麺で廃村エルフと腹ペコ魔王を救済したら最強商会ができました〜
黒崎隼人
ファンタジー
物流倉庫で不良在庫の管理に追われるだけの42歳、窓際サラリーマンのタケシ。
ある日突然、彼は見知らぬ森の中へと転移してしまう。
彼に与えられたのは、地球で廃棄される運命にあったあらゆる物資を無尽蔵に引き出せる規格外のスキル「無限在庫処分」だった。
賞味期限間近のカップ麺、パッケージ変更で捨てられるレトルトカレー、そして型落ちの電動工具。
地球ではゴミとされるこれらの品々が、異世界では最強のチートアイテムと化す!
森で倒れていたエルフの少女リリアをカップ麺で救ったタケシは、領主の搾取によって滅亡寸前だった彼女の村を拠点とし、現代の物資と物流ノウハウを駆使して商会を立ち上げる。
美味しいご飯と圧倒的な利便性で異世界の人々の胃袋と生活を掴み、村は急速に発展。
さらには、深刻な食糧難で破綻寸前だった美少女魔王ルビア率いる魔王軍と「業務提携」を結び、最強の武力を物流の護衛として手に入れる!
剣も魔法も使わない。武器は段ボールと現代の知識だけ。
窓際おじさんが圧倒的な物量で悪徳領主の経済基盤をすり潰し、異世界の常識を塗り替えていく、痛快・異世界経営スローライフ、開幕!
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる