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三の姫
五十、告白
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恐る恐る声をあげたのは、頭中将だった。しきりに自分の肩や背中を気にする素振りを見せる。
「なんだ、何が見えているんだ——?!」
小春たちの会話から、誰が居るのか、検討がついているのだろう。まるで紙のように白い表情で、小春のことを見る。
「姫君が、憑いているって言うのか……? なんだって、俺に」
頭中将の後ろの女は、ただひたすらに泣いている。頭中将にしがみついて、離さないとでも言うように、指先に力を込めて。白檀の香りが強くなる。
小春は思わず息を止めた。
「頭中将さま。お心当たりはないですか?」
小春は頭中将の前に、歩みを進めた。
頭中将は、小春の問いかけに、ぴくりと肩を震わせる。それに呼応するように、女が泣き止んだ。
「……」
頭中将が、左大臣家の姫君に憑かれているわけ。
そこに、きっと姫君が死んだ理由も、死して彷徨っている理由もあるのだと思う。
頭中将は、葵の君と、保憲と、小春との間で視線を左右に動かした。ふらふらと、焦点の合わない目線。よっぽど、左大臣家の姫君を恐れているのか。それとも、何かこの後に及んで守りたいことがあるのか。小春には検討もつかないことだったが、頭中将のなかで何か葛藤があることはよくわかった。
「頭中将さま。こんなことをお話するのは、すこし憚られるのですが……」
口を開こうとしない頭中将に対して、ゆっくりと保憲が語りかける。
「あなたに憑いている女性は、おそらく——十中八九、左大臣家の姫君であろうと思われます。彼女はまだ、人に危害を加える類のものではない。しかし、この後どうなるかは、分かりません。あなたの今後の行動次第で、変わると言えます」
ふう、と保憲が息を吐く。
「私たち陰陽師は、あなた方に危害が加えられないよう、精一杯守るつもりです。ですが……憑かれているあなたが一番危険であることは間違いない。どうか、彼女を怒らせないよう、ご注意くださいませ」
保憲の言葉に、頭中将はごくりと唾をのんだ。ゆっくりと、頭中将の背にいる女が、頭中将の頬に触れた。白い手が、愛おしいものに触れるように、ゆっくりと頭中将の輪郭を確かめる。その姿は、頭中将を励ましているように、小春の目には見えた。
「さぁ、頭中将さま。心当たりをお話ください」
「……わかった」
観念したように、頭中将はつぶやいた。膝に置かれている拳は固く握られている。肌寒い春の日だというのに、その額にはじんわりと汗が滲んでいた。
「……話そう。これは、俺が一生隠し通そうとしてきた秘密だ。このまま誰にも知られることなく、忘れ去ってほしい。そう思っていた苦い思い出だ」
一語ずつ、絞りだすように頭中将は言った。
「……俺のせいだ。彼女を苦しめたのは、全部俺のせいなんだ」
「なんだ、何が見えているんだ——?!」
小春たちの会話から、誰が居るのか、検討がついているのだろう。まるで紙のように白い表情で、小春のことを見る。
「姫君が、憑いているって言うのか……? なんだって、俺に」
頭中将の後ろの女は、ただひたすらに泣いている。頭中将にしがみついて、離さないとでも言うように、指先に力を込めて。白檀の香りが強くなる。
小春は思わず息を止めた。
「頭中将さま。お心当たりはないですか?」
小春は頭中将の前に、歩みを進めた。
頭中将は、小春の問いかけに、ぴくりと肩を震わせる。それに呼応するように、女が泣き止んだ。
「……」
頭中将が、左大臣家の姫君に憑かれているわけ。
そこに、きっと姫君が死んだ理由も、死して彷徨っている理由もあるのだと思う。
頭中将は、葵の君と、保憲と、小春との間で視線を左右に動かした。ふらふらと、焦点の合わない目線。よっぽど、左大臣家の姫君を恐れているのか。それとも、何かこの後に及んで守りたいことがあるのか。小春には検討もつかないことだったが、頭中将のなかで何か葛藤があることはよくわかった。
「頭中将さま。こんなことをお話するのは、すこし憚られるのですが……」
口を開こうとしない頭中将に対して、ゆっくりと保憲が語りかける。
「あなたに憑いている女性は、おそらく——十中八九、左大臣家の姫君であろうと思われます。彼女はまだ、人に危害を加える類のものではない。しかし、この後どうなるかは、分かりません。あなたの今後の行動次第で、変わると言えます」
ふう、と保憲が息を吐く。
「私たち陰陽師は、あなた方に危害が加えられないよう、精一杯守るつもりです。ですが……憑かれているあなたが一番危険であることは間違いない。どうか、彼女を怒らせないよう、ご注意くださいませ」
保憲の言葉に、頭中将はごくりと唾をのんだ。ゆっくりと、頭中将の背にいる女が、頭中将の頬に触れた。白い手が、愛おしいものに触れるように、ゆっくりと頭中将の輪郭を確かめる。その姿は、頭中将を励ましているように、小春の目には見えた。
「さぁ、頭中将さま。心当たりをお話ください」
「……わかった」
観念したように、頭中将はつぶやいた。膝に置かれている拳は固く握られている。肌寒い春の日だというのに、その額にはじんわりと汗が滲んでいた。
「……話そう。これは、俺が一生隠し通そうとしてきた秘密だ。このまま誰にも知られることなく、忘れ去ってほしい。そう思っていた苦い思い出だ」
一語ずつ、絞りだすように頭中将は言った。
「……俺のせいだ。彼女を苦しめたのは、全部俺のせいなんだ」
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