ライブキャット

ha-tsu

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第四話 それは突然に......

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ミーン ミーン  ミーン
夏休み前のある日の放課後の事だった。
学校の机にしがみつく様にして必死に課題をやる音凛の姿があった。
(なんでこんなに課題多いのー)
先日のテスト中余りにも眠くて途中......ほぼ初めから寝入ってしまった為、解答用紙は半分も埋まらず、挙句の果てには名前を書き忘れたため赤点を取ってしまった。
そのため課題を出され、終わらなければ、夏休みも登校しなくてはならないのだ。
(夏休みはバンドのツアーも有るから何としても課題を終わらせないと......)
気が付くと既に日が落ちており、時計を見ると短い針が八を指していた。
それに音凛が気付いたと同時に、教室に誰かが入ってきた。
「あれ?音凛ちゃん、まだ学校に居たん?もう外も暗いで。」
話しかけてきたのは流星だった。
「流星くんこそ遅くまでどしたの?」
「オレは部活、今終わったところ。」
「そう言えばバスケ部だったね、お疲れ様。」
流星と話していると、教室にまた誰かが入ってきた。
「宮野、課題は終わったか?終わってなくてもそろそろ帰れよ、ちょうどいい所に......槙野もう遅いから宮野送ってやれ。」
先生はそう言うとさっさと去っていった。
流星はニコッと笑い。
「一緒に帰ろうか。」っと言った。
「じゃあ駅まで一緒に帰ろ、駅まで行ったらお兄に来てもらうから。」
少し流星の顔が残念そうに見えた。
駅に着き流星と別れた後、音凛は咲夜を呼ぶわけでもなく、そのままスタジオに直行した。
「みんな遅くなってごめん、練習はかどってる?」
「音凛こそ課題終わったんか?明日はライブ手伝いながら課題するんか?」
咲夜が茶化すように言う。
音凛がほっぺたを膨らませて抗議しようとする。
「咲夜酷い言い方するなぁ連日オレらの練習に付き合って寝る時間まで削って、ライブの打ち合わせまで会場の人としてくれて......感謝やで!!」
潤が抗議する。
「まぁでも、本業も大切にしないといけないよ。」
心配そうに春が言う。
春の言葉がもっともな意見だった。
「はーい、気を付けるね、でも、私の一番はキャットウォークだから、学業も大切だけど、それ以上にバンドの事も大切だから。」
音凛が言い終わるかどうかの時に春が抱きついてくる。
「なんていい子なの?本当に咲夜と兄妹なの?」
その後、明日のライブについて打ち合わせなどをするも、そこに清の姿は無かった。
次の日、音凛は朝から終業式が有り、学校に向かった。
学校に着くと天野とその友達が何やら騒いでいた。
「天野さんおはよ、どうしたの?朝からなんかあった?」
「宮野さん、おはよぉこの前はチケットありがとね、今日絶対行くから......宮野さんも今日行くの?」
天野に聞かれると、音凛は少し迷うも、
「今日も行かないよ。」と答えた。
一緒に行こうと誘われるとめんどくさいので毎回断っている。
「そっか......残念、また今度は一緒に行こうね。」
(今度も多分無いな......絶対......)
心の中で音凛は思った。
「宮野さん、夏休みは海絶対一緒に行こうね。」
「うん......海なら一緒に行けるよ。」
そう音凛が答えると、天野は何かを考えながら、嬉しそうに顔をニヤニヤさせた。

音凛は学校が終わり急いでライブ会場へ行った。
「みんなおまたせ。」
何やら空気が重たかった。
「どしたん?なんかトラブル?」
「トラブルも何も......こんなんめっちゃ裏切りやん!」
少し怒りながら潤が半泣きで言葉を詰まらせる。
春が音凛の横に来ると、スマホの画面を見せてきた、
そこには知らないバンドのライブが流れていた。
「ねぇ......この声聞き覚えあるんだけど......何かの間違いだよね。」
「みんな今知ったんやけど、この動画昨日の夜にやってたバンドのやねんて、聞き覚えがあるも何も、この声は、清の声や......ほらセンターで歌ってるやろ?」
静かに咲夜が話し出す。
画面を見るとセンターで歌っている清の姿があった。
「どうすんねん、今日ライブあんねんぞ!しかも清今日来てないし、どうなってるんや!」
怒りのあまり何かを壊しそうな声で潤が怒鳴る。
「もうライブどころかバンド解散の危機やない?」
春が小声で呟いた。
「そんなん嫌や......私キャットウォークが、みんなの演奏が好きやから解散やなんて......」
音凛が半泣きになりながら声を絞り出す。
「誰か代役が見つかればなぁ......」
咲夜が呟くと、潤が突然音凛の元に駆け寄ってくる。
「音凛ちゃん、今まで練習一緒にしたやろ?代役出来るか?」
「ちょっと潤!前にもその話したけど、ボーイズバンドに女の子は入れないわ。」
春が正論を言う。
「それに、代役お願いしても、今後もう清は戻ってこないわよ、ボーカル抜きじゃもう無理よ。」
「でも、音凛ちゃんならこれからも一緒にライブすることも可能だよな?」
「潤!いい加減に現実見て!」
春と潤は軽い口論を始めてしまう。
「なぁ......オレから一つ提案があるんやけど。」
咲夜がそう言うと、みんな咲夜を見た。
「新メンバーとして音凛にはステージに上がってもらう、その代わり、性別諸々がバレにように隠す、これなら行けるやろ?まぁバンド解散してもいいなら断ればいいし。」
咲夜からの提案に一瞬考えるも音凛の中で既に答えは出ていた。
「私がメンバーとして入って、バンド続けれるのなら、私はバンドの為に頑張るよ。」
音凛が他のメンバーの顔を見ると、納得したのか、先程のような口論は無くなった。
「音凛ちゃん、本当にいいの?私たちのワガママのために。」
春が目をうるうるしながら問いかける。
「うん、私もキャットウォークのことみんなと同じくらい大切だから。」
今後の事が決まり、ライブに向けて調整する。

ライブ本番。
「やばい、めっちゃ緊張してきた......」
音凛は、黒のフード付きの服を着て仮面で顔を隠し出ることとなった。
「謎メンバー現るだな。」
潤が笑いながら音凛を見る。
「喋りは私に任せってね。」
いつも通り声を掛けてくれる春。
「何かあったらちゃんとフォロー入れるから、心配すんな、全力で歌え!」
そう言うと、音凛の頭の上に手を置きくしゃくしゃっと撫でる。
(私やっぱりこのバンド好き、絶対終わらせたりしない。)
そう思いステージに行った。
一曲目からテンポのいい曲を演奏する。
音凛がステージに上がると会場内のお客がザワつく。
一曲目が終わると、
「皆さんこんばんわ、キャットウォークです皆さんに一つお知らせが有ります、昨日のライブハウスの配信動画見た人はすぐに気づいたと思います。メンバーの清が抜けて、新たな仲間が入りました、ボーカルの凛です。」
春が今回の事を説明し、音凛を紹介する。
「えっと......新たにボーカルとして入った凛です......」
緊張の余り頭が真っ白になるも周りメンバーを見ると少し落ち着く。
「私は清にはなれないけど、また新たなキャットウォークとして、みんなと一緒に歩んでいきたいと思います。」
音凛は深く頭を下げる。
「凛、めっちゃ真面目すぎや、固すぎるで。」
笑いながら潤が言う。
客先からも歓声の声が聞こえる。
ライブが無事終わると、音凛は今回の事を思い出し、涙が出て来た。
「清さん何で突然違うバンドに行ったんだろ?」
「清に聞かんと分からんことやな......」
そこから誰も一言も言葉を発せず黙々と片付けをした。
帰り道、潤がいきなり、
「オレが悪かったんかな?清の事気付いてたのに相談も乗ってやらんかった......」
「潤だけが悪いんやないで、オレも待ってみようなんて言って、清に何にも話し聞かんだ。」
咲夜もまた悔しそうな表情をしている。
キャットウォークの夏はまだ始まった所なのに......



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