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24話 成長と未来への視線
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エルマーがヴァールハイト魔法学院へ入学してから、三年の月日が経った。
主席を好敵手のイザークと争いながら、親しい友人たちと穏やかで楽しい時間を過ごす――いつしか、それが彼にとっての「当たり前」な日常となっている。
「ロルフ、また背が伸びたんじゃない?」
午後の授業も終了し、食堂へ夕食を摂りに行く道すがら、エルマーは並んで歩くロルフを見上げて言った。
「うん、そろそろ制服を買い替えないといけないかも……入学して二回目だよ。エルマーも、大きくなってない?」
「そうですね、入学した頃は、私と変わらないくらいでしたけど。気づいたら、見上げるようになってますね」
ロルフの言葉を受けて、アヤナが微笑んだ。
「ロルフもエルマーも、いいなぁ」
ヨーンが、不満そうに呟いた。
「ヨーンだって成長してるじゃないか」
「でも、エルマーたちも大きくなっちゃうから、相対的に僕は小さいってことになってるんだよ」
エルマーの言葉を聞いて、ヨーンはため息をついた。
「私は、自分が小さいから、あまり大きい人は怖いな。ヨーンくらいが可愛くて、ちょうどいいと思うわ」
パウラが、ヨーンを慰めるように言った。
「か、可愛い……男なら、かっこいいとかのほうが嬉しいかな」
ヨーンが、苦笑いした。
「いいじゃないか、パウラはヨーンがいいって言ってるんだから」
エルマーは何の気なしに言ったつもりだったが、パウラとヨーンは、顔を赤らめた。
「エルマー、そういうことは、あまり大っぴらに言わないほうがいいのでは」
「うん……ごめん、二人とも気にしないで」
アヤナに窘められ、エルマーはパウラとヨーンに詫びた。
「私は気にしてないけどね」
ふふと笑って、パウラがエルマーに囁いた。
――こうしていると、故郷で、いじめっ子らの姿を見る度に胃が痛くなっていたのが遠い昔みたいだ。この学院に来て、本当に良かった。
エルマーが感慨に耽っていると、ロルフが再び口を開いた。
「ところで、夏季休暇だけど、また僕の家に来ないか? 両親や兄上も楽しみにしてるんだ。賑やかなのが好きだからね」
王都の郊外にあるロルフの家で夏季休暇の数日を過ごすのは、エルマーたちの間の恒例行事となっているのだ。
「いつも、すごく豪勢にもてなしてくれるから、なんだか申し訳ないんだよね。いや、もちろん行きたいけど」
ヨーンが、にこにこしながら答えた。
「そうね、ロルフのお家にいると、お姫様になった気分になるよね」
パウラも、ロルフの家で過ごした時のことを思い出してか、遠くを見るような目をしている。
さりげなく、だが細やかに身の回りの世話をしてくれる使用人たちに、エルマーの目から見れば豪華な屋敷や食事――パウラの「お姫様」という言葉に、彼も納得した。
食堂へ入ると、エルマーたちは生徒たちの注目を浴びた。
学年主席のエルマーや、ルーク王国の王族であるアヤナを擁する彼らは、学院内では有名な一団となっているのだ。
「あの人が、エルマー・ハイゼ先輩?」
「お友達の方たちも、みんな優秀なんだって」
「隣にいる黄金色の髪の人、綺麗だなぁ」
「アヤナ様とエルマー先輩、ああして並んでるとお似合いよね」
囁き合う下級生たちの中から、二人の生徒が進み出てくると、エルマーに声をかけてきた。
「あ、あの、エルマー・ハイゼ先輩、僕たち『魔法科』の二年生なんですけど、文化祭で食べ物の模擬店をやりたいと思っていて……毎年、大成功を収めている先輩から、助言をいただきたいのですが……やっぱり、お忙しいでしょうか」
緊張した様子の下級生の姿が、エルマーは微笑ましく思えた。
「俺一人の力ではないけど、これまでの経験で分かったこともあるし、話を聞かせてもらおうか。明日の放課後でいいかな?」
エルマーが答えると、下級生たちは安堵の表情を見せた。
「あ、ありがとうございます!」
何度も頭を下げてから、下級生たちは仲間らしき者たちの元へ戻っていった。
「おっかない人じゃなくて良かった~」
「思っていたより優しかったね」
漏れ聞こえてくる彼らの声に、ロルフが呟いた。
「エルマーが、おっかないなんてこと、ある訳ないのにね」
相変わらず賑わう食堂で、空いている席を探して周囲を見回していたエルマーは、入り口にイザークの姿を見つけた。
「やぁ、イザーク。よければ、俺たちと一緒に食べないか」
「……ああ、エルマーか。私は構わんが、他の者たちは、いいのか?」
エルマーが手を振るのを見たイザークは、表情を和らげた。
「もちろんさ。エルマーの友達なら、僕にも友達だ」
ロルフの屈託ない言葉が、何とはなしにおかしかったのか、一同は、くすりと笑った。
「すごい、四年生の首席二人が揃ってる」
「イザーク様って、見るからに貴族って感じよね。でも、お友達付き合いでは、身分を気にされないそうよ」
「いや、優秀な者でなければ相手にされないだろうさ」
後輩たちが騒めく中、エルマーたちは空いている席に着いた。
「カール先輩から聞いたんだけど、もうすぐ、六年生の進路説明会があるんだって。説明を聞くだけなら四年生以上から参加できるんだってさ」
和やかな雰囲気の中で食事をしながら、ヨーンが口を開いた。
「話だけでも聞いてみるのは勉強になりそうだね」
頷くエルマーにイザークが問いかけた。
「きみは、もう将来のことについては考えているのか?」
「まだ、はっきりとは決めてないけど……」
「エルマーやイザークなら、黙っていても向こうから誘いが来るんじゃないの? 魔法管理省や、大きな研究所とか、『ライヒマン商会』みたいな一流企業とか」
ヨーンが口を挟むと、エルマーとイザーク以外の面々は、そうだそうだと頷いた。
「僕は跡継ぎじゃないから好きにしていいって言われてるけど、イザークは、お父さんの跡を継ぐの?」
「いや、私も末っ子だから家のことは考えなくてもいいとは言われている」
ロルフの言葉に答えつつ、イザークは少し考える素振りを見せた。
「イザークって、末っ子なの? しっかりしてるし、お兄さんなのかと思ってたわ」
パウラが、目を丸くした。
「そうだな、家に帰れば、歳の離れた兄たちから、未だに赤ん坊扱いされるな」
「へぇ、赤ん坊扱いされるイザークか、少し見てみたい気もするかも」
エルマーが言うと、イザークは照れたように視線を逸らした。
「子供の頃は、音楽家になりたいと思っていた」
少しの沈黙のあと、イザークが、ぽつりと言った。
「だが、魔法の素質があると分かると、両親も教師も魔法関連の道を勧めてきた。特に、私が魔法管理省などの官僚になれば、貴族院議員をやっている父上にとって助けになると言われて……それが最も良い選択なのだろうとは思っている」
そう言うイザークの顔が、エルマーには何とはなしに寂しそうに見えた。
「イザークは、ピアノも歌も上手いものね。それに、演奏するのが好きなんだろう? 俺は音楽には詳しくないけど、きみがピアノを弾いている時は、いつも楽しそうに見えるよ」
「分かってしまうものだな……」
「俺の父の受け売りだけどね、『自分が何者かは、自分が決めていい』んだって。魔法の使える音楽家がいても、いいと思うよ」
エルマーが言うと、イザークは少し驚いたように目を見開いた。
「……ああ、無責任なことを言っちゃったかな。俺の言ったことは気にしないで」
「いや、私の頭が少し固かったかもしれんな。魔法の使える音楽家、か」
慌てて言い添えるエルマーを見て、イザークは片方の口角を上げてみせた。
「アヤナは、卒業したらルーク王国に帰るの?」
パウラに尋ねられたアヤナは、小さく息を呑み、ちらりとエルマーを見やってから口を開いた。
「ええ、卒業後は帰国して、何か魔法関連の事業を起こしたいと考えています」
「そうか……寂しくなっちゃうな」
エルマーは思わず言ってしまってから、なぜか少し恥ずかしいような気がして、顔が熱くなった。
「あの、時々はゼーゲン王国へ遊びに来て、皆さんともお会いしたいです」
アヤナの言葉を聞きながら、彼女が去ってしまう時のことを想像して、エルマーは胸の奥が絞られるような痛みを感じた。
主席を好敵手のイザークと争いながら、親しい友人たちと穏やかで楽しい時間を過ごす――いつしか、それが彼にとっての「当たり前」な日常となっている。
「ロルフ、また背が伸びたんじゃない?」
午後の授業も終了し、食堂へ夕食を摂りに行く道すがら、エルマーは並んで歩くロルフを見上げて言った。
「うん、そろそろ制服を買い替えないといけないかも……入学して二回目だよ。エルマーも、大きくなってない?」
「そうですね、入学した頃は、私と変わらないくらいでしたけど。気づいたら、見上げるようになってますね」
ロルフの言葉を受けて、アヤナが微笑んだ。
「ロルフもエルマーも、いいなぁ」
ヨーンが、不満そうに呟いた。
「ヨーンだって成長してるじゃないか」
「でも、エルマーたちも大きくなっちゃうから、相対的に僕は小さいってことになってるんだよ」
エルマーの言葉を聞いて、ヨーンはため息をついた。
「私は、自分が小さいから、あまり大きい人は怖いな。ヨーンくらいが可愛くて、ちょうどいいと思うわ」
パウラが、ヨーンを慰めるように言った。
「か、可愛い……男なら、かっこいいとかのほうが嬉しいかな」
ヨーンが、苦笑いした。
「いいじゃないか、パウラはヨーンがいいって言ってるんだから」
エルマーは何の気なしに言ったつもりだったが、パウラとヨーンは、顔を赤らめた。
「エルマー、そういうことは、あまり大っぴらに言わないほうがいいのでは」
「うん……ごめん、二人とも気にしないで」
アヤナに窘められ、エルマーはパウラとヨーンに詫びた。
「私は気にしてないけどね」
ふふと笑って、パウラがエルマーに囁いた。
――こうしていると、故郷で、いじめっ子らの姿を見る度に胃が痛くなっていたのが遠い昔みたいだ。この学院に来て、本当に良かった。
エルマーが感慨に耽っていると、ロルフが再び口を開いた。
「ところで、夏季休暇だけど、また僕の家に来ないか? 両親や兄上も楽しみにしてるんだ。賑やかなのが好きだからね」
王都の郊外にあるロルフの家で夏季休暇の数日を過ごすのは、エルマーたちの間の恒例行事となっているのだ。
「いつも、すごく豪勢にもてなしてくれるから、なんだか申し訳ないんだよね。いや、もちろん行きたいけど」
ヨーンが、にこにこしながら答えた。
「そうね、ロルフのお家にいると、お姫様になった気分になるよね」
パウラも、ロルフの家で過ごした時のことを思い出してか、遠くを見るような目をしている。
さりげなく、だが細やかに身の回りの世話をしてくれる使用人たちに、エルマーの目から見れば豪華な屋敷や食事――パウラの「お姫様」という言葉に、彼も納得した。
食堂へ入ると、エルマーたちは生徒たちの注目を浴びた。
学年主席のエルマーや、ルーク王国の王族であるアヤナを擁する彼らは、学院内では有名な一団となっているのだ。
「あの人が、エルマー・ハイゼ先輩?」
「お友達の方たちも、みんな優秀なんだって」
「隣にいる黄金色の髪の人、綺麗だなぁ」
「アヤナ様とエルマー先輩、ああして並んでるとお似合いよね」
囁き合う下級生たちの中から、二人の生徒が進み出てくると、エルマーに声をかけてきた。
「あ、あの、エルマー・ハイゼ先輩、僕たち『魔法科』の二年生なんですけど、文化祭で食べ物の模擬店をやりたいと思っていて……毎年、大成功を収めている先輩から、助言をいただきたいのですが……やっぱり、お忙しいでしょうか」
緊張した様子の下級生の姿が、エルマーは微笑ましく思えた。
「俺一人の力ではないけど、これまでの経験で分かったこともあるし、話を聞かせてもらおうか。明日の放課後でいいかな?」
エルマーが答えると、下級生たちは安堵の表情を見せた。
「あ、ありがとうございます!」
何度も頭を下げてから、下級生たちは仲間らしき者たちの元へ戻っていった。
「おっかない人じゃなくて良かった~」
「思っていたより優しかったね」
漏れ聞こえてくる彼らの声に、ロルフが呟いた。
「エルマーが、おっかないなんてこと、ある訳ないのにね」
相変わらず賑わう食堂で、空いている席を探して周囲を見回していたエルマーは、入り口にイザークの姿を見つけた。
「やぁ、イザーク。よければ、俺たちと一緒に食べないか」
「……ああ、エルマーか。私は構わんが、他の者たちは、いいのか?」
エルマーが手を振るのを見たイザークは、表情を和らげた。
「もちろんさ。エルマーの友達なら、僕にも友達だ」
ロルフの屈託ない言葉が、何とはなしにおかしかったのか、一同は、くすりと笑った。
「すごい、四年生の首席二人が揃ってる」
「イザーク様って、見るからに貴族って感じよね。でも、お友達付き合いでは、身分を気にされないそうよ」
「いや、優秀な者でなければ相手にされないだろうさ」
後輩たちが騒めく中、エルマーたちは空いている席に着いた。
「カール先輩から聞いたんだけど、もうすぐ、六年生の進路説明会があるんだって。説明を聞くだけなら四年生以上から参加できるんだってさ」
和やかな雰囲気の中で食事をしながら、ヨーンが口を開いた。
「話だけでも聞いてみるのは勉強になりそうだね」
頷くエルマーにイザークが問いかけた。
「きみは、もう将来のことについては考えているのか?」
「まだ、はっきりとは決めてないけど……」
「エルマーやイザークなら、黙っていても向こうから誘いが来るんじゃないの? 魔法管理省や、大きな研究所とか、『ライヒマン商会』みたいな一流企業とか」
ヨーンが口を挟むと、エルマーとイザーク以外の面々は、そうだそうだと頷いた。
「僕は跡継ぎじゃないから好きにしていいって言われてるけど、イザークは、お父さんの跡を継ぐの?」
「いや、私も末っ子だから家のことは考えなくてもいいとは言われている」
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「だが、魔法の素質があると分かると、両親も教師も魔法関連の道を勧めてきた。特に、私が魔法管理省などの官僚になれば、貴族院議員をやっている父上にとって助けになると言われて……それが最も良い選択なのだろうとは思っている」
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「分かってしまうものだな……」
「俺の父の受け売りだけどね、『自分が何者かは、自分が決めていい』んだって。魔法の使える音楽家がいても、いいと思うよ」
エルマーが言うと、イザークは少し驚いたように目を見開いた。
「……ああ、無責任なことを言っちゃったかな。俺の言ったことは気にしないで」
「いや、私の頭が少し固かったかもしれんな。魔法の使える音楽家、か」
慌てて言い添えるエルマーを見て、イザークは片方の口角を上げてみせた。
「アヤナは、卒業したらルーク王国に帰るの?」
パウラに尋ねられたアヤナは、小さく息を呑み、ちらりとエルマーを見やってから口を開いた。
「ええ、卒業後は帰国して、何か魔法関連の事業を起こしたいと考えています」
「そうか……寂しくなっちゃうな」
エルマーは思わず言ってしまってから、なぜか少し恥ずかしいような気がして、顔が熱くなった。
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