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経験と覚悟と
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ナタンたちが葉擦れの音に気付いた次の瞬間、前方の茂みから何か大きなものが飛び出してきた。
それは熊とも虎ともつかない、巨大な獣だった。
獣は、大きく鋭い爪の生えた前脚を振り上げ、ナタンたちに飛びかかってきた。
むき出しになった鋭い牙にかかれば、重傷あるいは死を免れないだろう。
更に、「異能」の人間でなければ対応できない程の、巨体に似合わぬ素早さだ。
しかし、その身体は、先頭にいたフェリクスの刀によって両断された。
胴の辺りで横薙ぎにされ真っ二つになった獣の身体が、重たい音を立てて地面に転がる。
ナタンは、咄嗟にリリエとセレスティアを自分の背後に庇いながらも、フェリクスの閃光の如き太刀筋に見惚れた。
「後ろだ!」
フェリクスの声と同時に振り向いたナタンの目に、木々の間から現れた、もう一頭の獣の姿が映った。
奴をリリエとセレスティアに近付ける訳にはいかない――ナタンは跳躍し、飛びかかってくる獣に、剣で斬りつけた。
人間で言えば肩口あたりに深手を負わされ、獣が怒りの咆哮をあげる。
それを目にしたナタンは、一瞬怯んだ。
――しぶとい……! いや、俺の斬撃が浅かったのか?!
しかし、すかさず飛び出したラカニの剣が、動きの鈍った獣にとどめを刺した。
力を失った獣は、どさりと倒れて動かなくなった。
ナタンは耳を澄ませて周囲を見回したが、倒した二頭以外の獣の気配は感じられなかった。
「君も『戦士型の異能』だったな。なかなかやるじゃないか」
「なに、既に手負いだったからね」
フェリクスの言葉に、ラカニが剣を鞘に納めながら照れ臭そうに笑った。
「でもさ、お前の力なら、一撃で仕留められたんじゃないか?」
ラカニが、そう言ってナタンを見た。
「俺、あまり実戦の経験がなくて……」
ナタンは、首を竦めた。
「ナタンは優しいから、まだ相手を傷つけることに躊躇いがあるんだろう。だが、いざという時、一瞬の迷いが生死を分けるかもしれない……物事の優先順位を見誤らないようにしないとな」
フェリクスに言われ、ナタンは頷いた。
――さっきも、すかさずラカニがトドメを刺していなかったら、リリエやセレスティアが怪我をしていたかもしれない。俺は、まだ覚悟が足りないってことか……
「それに、長く苦しませるのも可哀想だし、できるだけ早くトドメを刺してやった方がいいよな」
言って、ラカニは倒したばかりの獣の死骸を見下ろした。
「……彼らも、帝国時代の実験動物の子孫……なのでしょうか」
リリエが、恐る恐る獣の死骸に近付きながら言った。
「あ、あまり見ないほうがいいと思うよ……」
ナタンは、そう言いながら、リリエが興味のあるものを前にすると、あらゆる感情を置き去りにしてしまうのを思い出した。
「でも、たしかに、図鑑とかでも見たことがない生き物というか、複数の動物が混じっているように見えるね」
「帝国時代には、生物の遺伝子を操作して新たな生物を生み出す試みが為されていたと言います。現代の技術では、ようやく単純な構造の生物を複製できるかどうかという段階ですけど……」
「生物を複製する技術が完成すれば、高級な肉や魚も安く手に入るようになるのかな」
「そういう利用の仕方も、ありますね」
ナタンの言葉に、リリエも微笑んだ。
「ナタンの言うような、平和的な利用なら問題ないかもしれない。……しかし、生命の操作というものは、歯止めが利かなくなると危険なものでもある。生命操作のみではなく、あらゆる技術全てに言えることだがな」
フェリクスが、ぼそりと呟いた。
「フェリクスさんって……もしかして、帝国時代の技術に、結構お詳しいのでしょうか?」
「別に……ただ、何となく、そう思ったというだけの話だ」
首を傾げるリリエに、フェリクスは曖昧な笑みを浮かべて答えた。ナタンには、彼の表情が、どことなく悲しげに見えるような気がした。
一行は、再び目的地に向けて歩き出した。
この近辺を縄張りにしていたと見られる、先刻の獣たちがいなくなった為か、以後の道のりは順調だった。
目的地に設定していた地点に到着したところで、ラカニが口を開いた。
「この建物跡を越えると『未踏破区域』だ。俺も、この先には行ったことがない」
「ここを越えると、さっきみたいな『化け物』が巣食ってたりするのかな」
ナタンは、廃墟になった帝国時代の建物の向こうに目をやった。
「地図に何も記されてないってのは、行って帰ってきた奴がいないってことだからな」
肩を竦めながら、ラカニは答えた。
「『未踏破区域』も気になりますが、今回は、この建物跡を調べてみたいと思います」
そう言って、リリエが廃墟に入っていこうとするのを、ナタンたちは慌てて追いかけた。
「廃墟の中にも、危険な生き物がいるかもしれないよ……気を付けないと」
「この中に、未発見の『魔導絡繰り』があるかもしれないって思ったら、足が勝手に……すみません」
ナタンが声をかけると、リリエは頬を染め、恥ずかしそうな顔をした。
――彼女は、興味のあることを前にすると怖いもの知らずになってしまうからな。目を離さないようにしないと。
そんなことを思いながら、ナタンは廃墟の穴の開いた天井を見上げた。
それは熊とも虎ともつかない、巨大な獣だった。
獣は、大きく鋭い爪の生えた前脚を振り上げ、ナタンたちに飛びかかってきた。
むき出しになった鋭い牙にかかれば、重傷あるいは死を免れないだろう。
更に、「異能」の人間でなければ対応できない程の、巨体に似合わぬ素早さだ。
しかし、その身体は、先頭にいたフェリクスの刀によって両断された。
胴の辺りで横薙ぎにされ真っ二つになった獣の身体が、重たい音を立てて地面に転がる。
ナタンは、咄嗟にリリエとセレスティアを自分の背後に庇いながらも、フェリクスの閃光の如き太刀筋に見惚れた。
「後ろだ!」
フェリクスの声と同時に振り向いたナタンの目に、木々の間から現れた、もう一頭の獣の姿が映った。
奴をリリエとセレスティアに近付ける訳にはいかない――ナタンは跳躍し、飛びかかってくる獣に、剣で斬りつけた。
人間で言えば肩口あたりに深手を負わされ、獣が怒りの咆哮をあげる。
それを目にしたナタンは、一瞬怯んだ。
――しぶとい……! いや、俺の斬撃が浅かったのか?!
しかし、すかさず飛び出したラカニの剣が、動きの鈍った獣にとどめを刺した。
力を失った獣は、どさりと倒れて動かなくなった。
ナタンは耳を澄ませて周囲を見回したが、倒した二頭以外の獣の気配は感じられなかった。
「君も『戦士型の異能』だったな。なかなかやるじゃないか」
「なに、既に手負いだったからね」
フェリクスの言葉に、ラカニが剣を鞘に納めながら照れ臭そうに笑った。
「でもさ、お前の力なら、一撃で仕留められたんじゃないか?」
ラカニが、そう言ってナタンを見た。
「俺、あまり実戦の経験がなくて……」
ナタンは、首を竦めた。
「ナタンは優しいから、まだ相手を傷つけることに躊躇いがあるんだろう。だが、いざという時、一瞬の迷いが生死を分けるかもしれない……物事の優先順位を見誤らないようにしないとな」
フェリクスに言われ、ナタンは頷いた。
――さっきも、すかさずラカニがトドメを刺していなかったら、リリエやセレスティアが怪我をしていたかもしれない。俺は、まだ覚悟が足りないってことか……
「それに、長く苦しませるのも可哀想だし、できるだけ早くトドメを刺してやった方がいいよな」
言って、ラカニは倒したばかりの獣の死骸を見下ろした。
「……彼らも、帝国時代の実験動物の子孫……なのでしょうか」
リリエが、恐る恐る獣の死骸に近付きながら言った。
「あ、あまり見ないほうがいいと思うよ……」
ナタンは、そう言いながら、リリエが興味のあるものを前にすると、あらゆる感情を置き去りにしてしまうのを思い出した。
「でも、たしかに、図鑑とかでも見たことがない生き物というか、複数の動物が混じっているように見えるね」
「帝国時代には、生物の遺伝子を操作して新たな生物を生み出す試みが為されていたと言います。現代の技術では、ようやく単純な構造の生物を複製できるかどうかという段階ですけど……」
「生物を複製する技術が完成すれば、高級な肉や魚も安く手に入るようになるのかな」
「そういう利用の仕方も、ありますね」
ナタンの言葉に、リリエも微笑んだ。
「ナタンの言うような、平和的な利用なら問題ないかもしれない。……しかし、生命の操作というものは、歯止めが利かなくなると危険なものでもある。生命操作のみではなく、あらゆる技術全てに言えることだがな」
フェリクスが、ぼそりと呟いた。
「フェリクスさんって……もしかして、帝国時代の技術に、結構お詳しいのでしょうか?」
「別に……ただ、何となく、そう思ったというだけの話だ」
首を傾げるリリエに、フェリクスは曖昧な笑みを浮かべて答えた。ナタンには、彼の表情が、どことなく悲しげに見えるような気がした。
一行は、再び目的地に向けて歩き出した。
この近辺を縄張りにしていたと見られる、先刻の獣たちがいなくなった為か、以後の道のりは順調だった。
目的地に設定していた地点に到着したところで、ラカニが口を開いた。
「この建物跡を越えると『未踏破区域』だ。俺も、この先には行ったことがない」
「ここを越えると、さっきみたいな『化け物』が巣食ってたりするのかな」
ナタンは、廃墟になった帝国時代の建物の向こうに目をやった。
「地図に何も記されてないってのは、行って帰ってきた奴がいないってことだからな」
肩を竦めながら、ラカニは答えた。
「『未踏破区域』も気になりますが、今回は、この建物跡を調べてみたいと思います」
そう言って、リリエが廃墟に入っていこうとするのを、ナタンたちは慌てて追いかけた。
「廃墟の中にも、危険な生き物がいるかもしれないよ……気を付けないと」
「この中に、未発見の『魔導絡繰り』があるかもしれないって思ったら、足が勝手に……すみません」
ナタンが声をかけると、リリエは頬を染め、恥ずかしそうな顔をした。
――彼女は、興味のあることを前にすると怖いもの知らずになってしまうからな。目を離さないようにしないと。
そんなことを思いながら、ナタンは廃墟の穴の開いた天井を見上げた。
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