52 / 57
未踏破区域の番人
しおりを挟む
朽ち果て、植物に覆われた帝国時代の建物が点々と残る一帯は、むせ返るような濃い緑の匂いに包まれている。
ナタンは、リリエやフェリクス、セレスティア、それとラカニたちと共に「帝都跡」の「未踏破区域」と呼ばれる場所の一つに入ろうとしていた。
樹上を小さな生き物が移動しているのであろう葉擦れの音や、鳥や虫の声は聞こえてくるものの、その姿は見えない。しかし、どこからともなく「帝都跡」への侵入者を見つめる視線が感じられる。
「ここから先は、俺も行ったことがないんだ。未踏破区域ってことは、行って帰ってきた奴がいないってことだから、油断するなよ」
ラカニが言って、一同の顔を見回した。
「無理はせず、危険があれば、すぐに撤退します」
緊張した面持ちのリリエが言うと、一同は頷いた。
「帝都跡」の中でも、人の行き来が頻繁な場所は踏みしめられて道ができているが、「未踏破区域」では繁茂した植物が行く手を阻んでいた。
木々の間から僅かに覗く、帝国時代の建物の屋上らしき部分を見上げて、リリエが言った。
「あの建物は損傷が少なそうですね。帝国時代の遺物も多く見つかるかもしれません」
「……だといいね。まずは、あそこに辿り着かないと」
ナタンは答えながら、藪を切り拓くべく鉈を握る手に力を込めた。
藪を切り拓き、道を作りながら進んでいたナタンたちは、突然、開けた場所に出た。
遠目には、かなり広い範囲で、植物が薙ぎ払われた如く刈り取られているように見える。
「この木や草の切り口、不自然に見えるのだが」
フェリクスが、周囲を見回して言った。
「先に、ここに来た発掘人たちが刈り取った……とも思えないよね。人が通るだけなら、こんなに広い範囲の藪を刈る必要はないんじゃないかなぁ」
ナタンが、傍に生えている草の切り口に手で触れてみると、その縁の部分が脆く崩れやすくなっているのが分かった。
「なぁ、この木なんだけど、横から綺麗に抉り取られてる……何の為にこんなことをしたんだ?」
ラカニが指し示した一本の大木は、側面を大きく抉られている。その切り口は一見滑らかだが、やはり触れてみると表面が脆くなっていた。
「これらは、刃物などを使って草や木を刈り取った訳ではないということでしょうか……」
緊張した面持ちで、リリエも呟いた。
「……向こうから、何かが近付いてくる音が聞こえませんか?」
セレスティアが言うと同時に目を向けた方向から、何か大きなものが移動していると思しき葉擦れの音が近付いてくる。
「何かヤバい……! みんな、隠れろ!」
普段とは打って変った真剣な表情で、ラカニが叫んだ。
ナタンたちは急いで後退し、藪の中に身を隠した。
木々を大きく揺らしながら姿を現したのは、トカゲに似た、だが、それよりも遥かに巨大な生物だった。
四足歩行をしているが、立ち上がったなら、人の背丈の三倍にはなると思われた。
ごつごつと鎧の如く分厚そうな皮膚や、頭部に生えた二本の角から、ナタンは伝説上の生物である「竜」を連想した。
と、無表情に周囲を見回していた巨大トカゲが、大きく口を開けた。
その口に並んだ鋭い牙は、明らかに肉食獣のそれであり、巨大トカゲが獰猛であろうことを示している。
欠伸でもしているのかと思われた、巨大トカゲの大きく開いた口の前に、突如まばゆく輝く光球が出現した。
次の瞬間、羽虫の飛行音に似た音と共に、光球から大人の腿ほどの太さがある光線が放たれ、ナタンたちが隠れている藪の近くに命中した。
白く輝く光線で灼かれた木や草は、まるで蒸発するかのように消滅している。
この一帯の樹木や草が薙ぎ払われているのは、巨大トカゲが吐く「光線」によるものであることを、一行は理解した。
「な、何だよ、あれ……帝国時代にあったって言う破壊光線兵器みたいじゃないか……実際に見たことはないけどさ」
顔を強張らせたラカニが言った。
おそらく、巨大トカゲの吐く「光線」が人体に命中したなら、先刻の草木と同じ結末を迎えるのだろう――そう考えたナタンも、背筋に冷たいものを感じた。
「私には、呪文の詠唱なしで『魔法』を発動しているように見えました……いえ、考えにくいことですが、あの生物は、生まれつき『魔導絡繰り』のような仕組みを体内に持っているのだとすれば……」
リリエが、頬を紅潮させている。彼女の言う通りであれば、この生物との遭遇は大発見だろう。しかし、それは同時に、目の前の巨大トカゲが非常に厄介な存在ということでもある。
「こいつを何とかしないと、リリエが行きたい建物へ行けないんじゃないかな」
ナタンは、仲間たちに囁いた。
「では、排除するか」
フェリクスが、刀の柄に手をかけた。
ナタンは、リリエやフェリクス、セレスティア、それとラカニたちと共に「帝都跡」の「未踏破区域」と呼ばれる場所の一つに入ろうとしていた。
樹上を小さな生き物が移動しているのであろう葉擦れの音や、鳥や虫の声は聞こえてくるものの、その姿は見えない。しかし、どこからともなく「帝都跡」への侵入者を見つめる視線が感じられる。
「ここから先は、俺も行ったことがないんだ。未踏破区域ってことは、行って帰ってきた奴がいないってことだから、油断するなよ」
ラカニが言って、一同の顔を見回した。
「無理はせず、危険があれば、すぐに撤退します」
緊張した面持ちのリリエが言うと、一同は頷いた。
「帝都跡」の中でも、人の行き来が頻繁な場所は踏みしめられて道ができているが、「未踏破区域」では繁茂した植物が行く手を阻んでいた。
木々の間から僅かに覗く、帝国時代の建物の屋上らしき部分を見上げて、リリエが言った。
「あの建物は損傷が少なそうですね。帝国時代の遺物も多く見つかるかもしれません」
「……だといいね。まずは、あそこに辿り着かないと」
ナタンは答えながら、藪を切り拓くべく鉈を握る手に力を込めた。
藪を切り拓き、道を作りながら進んでいたナタンたちは、突然、開けた場所に出た。
遠目には、かなり広い範囲で、植物が薙ぎ払われた如く刈り取られているように見える。
「この木や草の切り口、不自然に見えるのだが」
フェリクスが、周囲を見回して言った。
「先に、ここに来た発掘人たちが刈り取った……とも思えないよね。人が通るだけなら、こんなに広い範囲の藪を刈る必要はないんじゃないかなぁ」
ナタンが、傍に生えている草の切り口に手で触れてみると、その縁の部分が脆く崩れやすくなっているのが分かった。
「なぁ、この木なんだけど、横から綺麗に抉り取られてる……何の為にこんなことをしたんだ?」
ラカニが指し示した一本の大木は、側面を大きく抉られている。その切り口は一見滑らかだが、やはり触れてみると表面が脆くなっていた。
「これらは、刃物などを使って草や木を刈り取った訳ではないということでしょうか……」
緊張した面持ちで、リリエも呟いた。
「……向こうから、何かが近付いてくる音が聞こえませんか?」
セレスティアが言うと同時に目を向けた方向から、何か大きなものが移動していると思しき葉擦れの音が近付いてくる。
「何かヤバい……! みんな、隠れろ!」
普段とは打って変った真剣な表情で、ラカニが叫んだ。
ナタンたちは急いで後退し、藪の中に身を隠した。
木々を大きく揺らしながら姿を現したのは、トカゲに似た、だが、それよりも遥かに巨大な生物だった。
四足歩行をしているが、立ち上がったなら、人の背丈の三倍にはなると思われた。
ごつごつと鎧の如く分厚そうな皮膚や、頭部に生えた二本の角から、ナタンは伝説上の生物である「竜」を連想した。
と、無表情に周囲を見回していた巨大トカゲが、大きく口を開けた。
その口に並んだ鋭い牙は、明らかに肉食獣のそれであり、巨大トカゲが獰猛であろうことを示している。
欠伸でもしているのかと思われた、巨大トカゲの大きく開いた口の前に、突如まばゆく輝く光球が出現した。
次の瞬間、羽虫の飛行音に似た音と共に、光球から大人の腿ほどの太さがある光線が放たれ、ナタンたちが隠れている藪の近くに命中した。
白く輝く光線で灼かれた木や草は、まるで蒸発するかのように消滅している。
この一帯の樹木や草が薙ぎ払われているのは、巨大トカゲが吐く「光線」によるものであることを、一行は理解した。
「な、何だよ、あれ……帝国時代にあったって言う破壊光線兵器みたいじゃないか……実際に見たことはないけどさ」
顔を強張らせたラカニが言った。
おそらく、巨大トカゲの吐く「光線」が人体に命中したなら、先刻の草木と同じ結末を迎えるのだろう――そう考えたナタンも、背筋に冷たいものを感じた。
「私には、呪文の詠唱なしで『魔法』を発動しているように見えました……いえ、考えにくいことですが、あの生物は、生まれつき『魔導絡繰り』のような仕組みを体内に持っているのだとすれば……」
リリエが、頬を紅潮させている。彼女の言う通りであれば、この生物との遭遇は大発見だろう。しかし、それは同時に、目の前の巨大トカゲが非常に厄介な存在ということでもある。
「こいつを何とかしないと、リリエが行きたい建物へ行けないんじゃないかな」
ナタンは、仲間たちに囁いた。
「では、排除するか」
フェリクスが、刀の柄に手をかけた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
50代無職、エルフに転生で異世界ざわつく
かわさきはっく
ファンタジー
就職氷河期を生き抜き、数々の職を転々とした末に無職となった50代の俺。
ある日、病で倒れ、気づけば異世界のエルフの賢者に転生していた!?
俺が転生したのは、高位エルフの秘術の失敗によって魂が取り込まれた賢者の肉体。
第二の人生をやり直そうと思ったのも束の間、俺の周囲は大騒ぎだ。
「導き手の復活か!?」「賢者を語る偽物か!?」
信仰派と保守派が入り乱れ、エルフの社会はざわつき始める。
賢者の力を示すため、次々と課される困難な試練。
様々な事件に巻き込まれながらも、俺は異世界で無双する!
異世界ざわつき転生譚、ここに開幕!
※話数は多いですが、一話ごとのボリュームは少なめです。
※「小説家になろう」「カクヨム」「Caita」にも掲載しています。
世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件
Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。
火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。
――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。
「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」
「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」
「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」
彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった!
魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。
着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。
世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。
胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
氷河期世代のおじさん異世界に降り立つ!
本条蒼依
ファンタジー
氷河期世代の大野将臣(おおのまさおみ)は昭和から令和の時代を細々と生きていた。しかし、工場でいつも一人残業を頑張っていたがとうとう過労死でこの世を去る。
死んだ大野将臣は、真っ白な空間を彷徨い神様と会い、その神様の世界に誘われ色々なチート能力を貰い異世界に降り立つ。
大野将臣は異世界シンアースで将臣の将の字を取りショウと名乗る。そして、その能力の錬金術を使い今度の人生は組織や権力者の言いなりにならず、ある時は権力者に立ち向かい、又ある時は闇ギルド五竜(ウーロン)に立ち向かい、そして、神様が護衛としてつけてくれたホムンクルスを最強の戦士に成長させ、昭和の堅物オジサンが自分の人生を楽しむ物語。
拾った年上侯爵が甘え上手すぎて、よしよししてたら婚約することになりました
星乃和花
恋愛
⭐︎火木土21:00更新ー本編8話・後日談8話⭐︎
王都の市場で花屋をしているリナは、ある朝――
路地裏で倒れている“美形の年上男性”を拾ってしまう。
熱で弱っているだけ……のはずが、彼はなぜか距離が近い。
「行かないで」「撫でて」「君がいると回復する」
甘えが上手すぎるうえに、褒め方までずるい。
よしよし看病してあげていたら、いつの間にか毎日市場に現れるようになり、
気づけば花屋は貴族の面会所(?)になっていて――
しかも彼の正体は、王都を支える侯爵家の当主だった!?
「君は国のために必要だ(※僕が倒れるから)」
年上当主の“甘え策略”に、花屋の心臓は今日ももたない。
ほのぼの王都日常コメディ×甘やかし捕獲ラブ、開幕です。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』
月神世一
SF
【あらすじ】
「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」
坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。
かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。
背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。
目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。
鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。
しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。
部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。
(……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?)
現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。
すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。
精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。
これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる