偽りの剣士と琥珀の絆

くまのこ

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四か国連合解放軍会議

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「ここが、今回の会議で使われる場所か」

 いよいよ「四か国連合解放軍」の幹部たちが集結するという日、ロデリックとアンネリーゼがエルッキの案内で訪れたのは、コティの郊外にある石造りの大きな建物だった。
 
「大きな宿屋みたいですね」

 建物を見上げ、アンネリーゼが少し緊張した面持ちで言った。その身にまとう白地に金糸で縁取りが施されたドレスは、華美ではないものの、彼女の美しさと高貴さを引き立てている。
 皇族らしく見えるようにと、エルッキとウジェーヌから贈られたものだ。

「ええ、宿泊施設に、大きな会議場も設けられています。コティが公式に招いた他国の要人の方々の滞在先に使用されることもありますが、ちょうど空いていたので、今回の会議に提供させていただいた次第です。従業員たちには、とある国の貴族の方々が、お忍びでいらしていると言ってあります」

 エルッキが、いつものように生き生きと説明した。
 ロデリックとアンネリーゼ、それに同行してきたフィリップとシャルル兄弟は、宿泊所兼会議場へと足を踏み入れた。護衛のベルトラン、兄弟の援助者という立場で参加するウジェーヌも一緒だ。
 落ち着いた内装の玄関ホールを通り抜け、ロデリックたちが掃除の行き届いた廊下を歩いていくと、突き当りに両開きの重厚な扉が現れた。その上には共通語コモンで「会議室」と書かれている。
 ベルトランが扉を叩くと、室内から入室を許可する声が聞こえた。
 彼が開いた扉の向こうには、解放軍の幹部らしき者たちが大きな円卓を囲んで座る姿があった。その周囲には、帯剣した護衛と思われる者が数人佇んでいる。
 まだ十代にも見える細身の男に、二十代後半に見える大柄な男としとやかそうな女が一人、それぞれに年嵩としかさの男が一人ずつ付き添っている。
 円卓に着いている者たちを、さりげなく見回して、ロデリックは考えた。

――若いのが、おそらくフィリップたちと同じく王族か。付き添っているのは、それぞれの国の元官僚あるいはエルッキ殿やウジェーヌ殿のような援助者というところだな。護衛も腕利き揃いだ。そうでなければ、帝国の侵攻を受けた際、脱出できなかっただろう。それぞれ、コティのような中立都市や血縁のある他国の王族などに保護されていると聞いたが……

「皆さん、お久しぶりです」

 フィリップが挨拶すると、幹部たちも手を挙げて応えた。

「これは、エティエンヌ王子。初めてお会いした時は、ほんの少年だったのに、少し見ない間に立派になられましたな」
「アンリ王子も、すっかり大きくなって」

 幹部たちの言葉を聞いて、アンネリーゼが、隣に立つロデリックに囁きかけた。

「ええと、エティエンヌ王子はフィリップ様のことで、アンリ王子がシャルルのことよね」
「ああ、本名のまま暮らす訳にはいかなかったのだろうが、ややこしいな」

 ロデリックは、苦笑いしながら囁き返した。

「今回は、遠いところをお越しいただき感謝いたします。皆様にご紹介したい方がいらっしゃいます」

 そう言ったフィリップが、アンネリーゼに目配せした。
 途端にアンネリーゼは緊張した面持ちになり、フィリップの隣へと進み出た。

「彼女が、今は亡きフォルトゥナ帝国の皇太子夫妻……その御息女であらせられるステラ・フォルトゥナ姫です」
「……ステラ・フォルトゥナ……です。以後、お見知りおきを」

 フィリップに紹介されたアンネリーゼが、ドレスをつまんで上品なお辞儀をしてみせた。

「まぁ、ヘレナ様……皇太子妃に瓜二つだわ」

 円卓に着いていた女が、驚いたように声を上げた。

「あら、ごめんなさいね。私はヴァッレ王国の女王、ソフィアと申します。今は、情けなくも国外逃亡中の身ですけど」

 目を丸くしているアンネリーゼに、ソフィアが微笑みかけた。

「ヘレナ様とは何度かお会いしたことがあって、私は妹のように可愛がっていただいたのです。どうぞ、お座りください。そして、もっと近くで、お顔を見せてくださいな」

 ソフィアに促され、アンネリーゼは、おずおずと円卓に着いた。フィリップとシャルル兄弟、それにエルッキとウジェーヌも彼女に続く。
 護衛として参加しているロデリックは、ベルトランと共にアンネリーゼたちの背後に立った。

「あの、父も隣に座ってもらうことはできますか?」
「ロデリック殿は護衛として来ていただいたのですが……姫のご希望とあれば。皆さん、よろしいですね」

 アンネリーゼの言葉を受けて、フィリップが言った。

「父……とは?」

 大柄な男が、訝しげにロデリックを見た。

「ロデリック殿は、拉致されたステラ姫を保護し、赤子のうちから養育されていたそうです。姫の素性は知らぬまま……ですが」

 フィリップの説明に、ソフィアたちは驚きの様子を見せた。

「ずいぶんと、お若い方なのですね」
「よく、そう言われます」

 ソフィアに言われて、ロデリックは思わず首を竦めた。

「父は……私が最も信頼する人です」

 アンネリーゼが言って、ロデリックにすがるような目を向けた。
 一同の了承を得て、ロデリックもアンネリーゼの隣の席に着いた。

「しかし、その子が、本当にステラ姫なのか? 他人の空似じゃあるまいな。まぁ、僕は皇太子夫妻を直接存じ上げている訳ではないけど」

 細身の男が、やや少年らしさの残る甲高い声で言って、アンネリーゼを見た。

「ステラ姫の身体的な特徴も、女性の部下に確認させてあります。ご安心を、イーヴァリ王子」

 フィリップの言葉に、イーヴァリと呼ばれた若い男も納得したらしい。

「そうですか。ああ、失礼しました。僕は、ラウハ王国の王子、イーヴァリです」

 イーヴァリが自己紹介したのを見て、大柄な男も口を開いた。

「私は、ルーエ王国のホルスト王子と申します。お父上とは、魔導具開発について書簡をやり取りさせていただいたこともあります」

「ソフィア様も、ホルスト様も、両親と繋がりがあったのですね。そして、イーヴァリ様、私は、幼い頃ラウハで育ちました。帝国の侵攻から逃れる為に、コティへ移りましたけど」

 アンネリーゼが言うと、解放軍の面々も警戒心が薄れたようで、その表情も柔らかいものへ変わった。

「自己紹介もお済みになられたようですし、本題に入りたいと思います」

 フィリップの言葉で、場に緊張感が戻った。

「――全くの偶然ではありますが、フォルトゥナ帝国の皇位継承権を持つステラ姫が見つかったのは、我々解放軍にとって、まさしく僥倖ぎょうこうと言えます。これにより、これからの戦略も大きく変わってきます」

「うむ、どのようにして帝国に対抗できる戦力を集めるかが難題だった訳だが、ステラ姫を旗印にすれば、帝国内部からも支持が受けられるだろう。それは大きいな」

 ルーエの王子ホルストが、顎を撫でながら頷いた。

「まず、ステラ姫の生存、そして姫は平和を望み正当な皇位継承者として帝国へ帰還するということ、更に我々解放軍を支持するという情報を可能な限りの範囲で流します。――ステラ姫、よろしいでしょうか」
「もちろんです」

 フィリップの言葉に、アンネリーゼが力強く頷いた。

「現在の帝国は、オディウムの暴政で荒れていると聞きますし、先帝の血を引くステラ姫が現れれば、帝国民も姫に期待するでしょうね」

 ソフィアも異存はない様子だ。

「ステラ姫は綺麗だから、民衆からも人気が出そうだね。義勇兵が殺到しそうだ」

 くすりと笑って、イーヴァリが言った。

「兵力の集結については、ここ自治都市コティとオーロールの間に、長く使用されていない無人の砦があります。そこを挙兵の場所にするべく、我々の養父ウジェーヌ殿とエルッキ殿、その他の商人たちから支援を受けて準備を進めています」
 
 知らぬところで着々と準備が進んでいたとは――フィリップたちの話し合いの様子を見ながら、ロデリックは心が波立つのを感じた。

――先帝の直系であるアンネリーゼが生存し、帝国へ帰還するという情報は、これ以上ない宣伝効果を生むだろう。しかし、同時に、この子の存在が広く晒されてしまうことにより、危険は増大する……

「ロデリック先生、ご気分でも悪いのですか」

 隣に座っているシャルルが、ロデリックの顔を覗き込みながらささやいた。

「いや、何ともないが」
「だって、物凄く渋い顔をされていたから……」
「ああ……アンネリーゼが危険に晒される可能性が高くなると思ってな」

 シャルルとロデリックの声が聞こえたのか、ホルストが口を挟んだ。

「なに、実際に動くのは我々に任せて、ステラ姫はコティなど安全な場所で情勢が落ち着くのを待たれればよい」
「そうですね、ステラ姫は象徴ではありますが、矢面に立つ必要は無いでしょう」

 ホルストの言葉にソフィアが合いの手を入れるのを聞いて、ロデリックは、僅かに安堵した。
 異議を唱える者はない――と思われたが、不意にアンネリーゼが口を開いた。

「いえ……私も行軍に参加させてください」

 ロデリックは、思わず目を剥いた。
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