偽りの剣士と琥珀の絆

くまのこ

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王都ミラージュへ

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「とうとう、戻ってきたな」

 オーロールの王都ミラージュを見下ろす丘陵の上で、シャルルが呟いた。

「ここが、シャルルの故郷ふるさと……」

 彼と並んだアンネリーゼも、城壁に囲まれた大きな街を見つめている。
 ロデリックは、優美な輪郭で構成された城壁や王城が、よく見れば、ところどころ崩れ落ちているのに気づいた。街並みも同様に、崩れた建物が何か所も放置されているのが目についた。

「帝国が侵攻してきた時と、ほとんど変わらない状態ですね。酷いものでしょう」

 フィリップが、暗い目をして言った。

「帝国が、というより、ネカトルが突然現れて、魔法で破壊の限りを尽くしたのです。当時、隣のラウハ王国が攻撃を受けているという情報があった為、まさか同時にオーロールが襲われるとまでは予想できなかったそうです。私と弟は側近たちの手によって、からくも脱出することができましたが、両親は亡くなりました」

 彼の言葉に、シャルルも当時を思い出したのか歯を食いしばっている。

「マーレの解放後も、解放軍に加わってくれた帝国兵やオーロールの民たちがいる。アンネリーゼの存在もあって、帝国側の士気も下がっているだろう。うまくすれば、戦わずに王都を解放できるかもしれないな」

 ロデリックの言葉に、フィリップは少し驚いた様子で顔を上げた。

「あなたに、励まされるとはね。本当は、ステラ姫……いやアンネリーゼくんを巻き込んだ私を、よく思ってはいないでしょうに」

 唇の端に皮肉な笑みを浮かべ、フィリップが言った。

「そのとおりだ」

 ロデリックの返答に、シャルルやアンネリーゼの顔にも緊張が走る。

「だが、多くの人の助けになりたいというのが娘の望みだ。それなら、俺は、自分のできることを精一杯やって、娘を助けたい」
「そうですか。……どのような理由であれ、あなたの手助けを得られるのは、我々にとっても、ありがたいものです。もう少し、付き合ってもらいますよ」

 そう言うと、フィリップの表情が、普段の柔らかく、だが感情を読ませない微笑みに戻った。
 アンネリーゼとシャルルも、緊張が解けたのか安堵した様子を見せた。


 陣形を整え、解放軍は更に王都へ向かって進んだ。
 間もなく相手の「間合い」に入ると思われた辺りで、王都の方向から馬に乗った一人の男が向かってくるのが見えた。
 その背中には、特徴的な模様の描かれたのぼりを背負っている。

「あれは、伝令のしるしです。武装はしていない模様です」

 フィリップの側近であるベルトランが、望遠鏡を覗きながら報告した。

「講和の申し入れか? 一旦、行軍を停止させよう」

 フィリップの指示で歩みを止めた解放軍のもとに、伝令の男が辿り着いた。

「現在、ミラージュの管理者を務めるダヴィド様よりの書状です」

 伝令の男はひざまずくと、腰に下げた革袋から、筒状に丸めた書状を取り出した。
 受け取った書状を広げたフィリップの顔に、驚きと困惑の色が浮かんだ。
 対策を協議するのに集まっていた他国の王族たちも、目を丸くして彼の手元を覗き込んでいる。

「一騎討ちにて勝敗を決める……って、正気とは思えないんだけど」

 ラウハの王子イーヴァリが、信じられないと言った様子で呟いた。

「あちらからは、ミラージュの管理者ダヴィドが直接勝負を挑むとありますね。これは、何かの策でしょうか」

 ヴァッレの女王ソフィアも、首を捻っている。

「今の状態だと、こちらの戦力が王都に駐屯している帝国軍よりも上回っているだろうし、無駄な戦いは避けたいのだろう。だが、さすがに首都であるミラージュが無抵抗のまま降伏したのでは帝国に申し訳が立たないと、形だけ戦ったていにしたいのかもしれないな」

 ルーエの王子ホルストが、顎を撫でながら頷いた。

「どうするんですか? 一人、あるいは戦った人どちらもが死んでしまう可能性がありますよね? どうせ降伏するなら、誰も血を流さずに済むほうがいいのに……」

 言って、アンネリーゼが不安げにロデリックの顔を見上げた。

「私も、ホルスト殿の意見に近い解釈です。だとすれば、向こうが折れることは考えにくいですね。無駄な血を流したくないというのは、ステラ姫に同意ですが。仮に一騎打ちで解放軍側が敗北した場合、ミラージュは城門を閉ざすとあるので、攻城戦に入らざるを得なくなるかもしれません」

 フィリップが、ため息をつきながら言った。

「俺が出ましょう。『ステラ姫』の代理です。こちらから一騎打ちに出す者については、指定されていないようですし」

 ロデリックは言った。一対一の勝負であれば、人間よりも高い身体能力を持つ自分は、相手を殺すことなく制圧できると踏んだのだ。

「で、でも……」

 アンネリーゼが、ロデリックの服の端を掴んだ。

「心配するな。相手を殺すつもりはない」
「それもあるけど、お父さんが怪我するかもしれないでしょ」
「その時は、お前の治癒魔法で手当てしてくれ」

 ロデリックが余裕を見せるべく微笑むと、アンネリーゼは黙って頷いた。

「ロデリック殿、ダヴィド様は、かつて帝国の中でも一、二を争うと言われた剣の達人だ。現在は六十歳近い筈だが、油断するなよ」

 傍に控えていたバルドに言われ、ロデリックは少し驚いた。

「そうか……肝に銘じておこう」

――ダヴィドという人物は、自分が高齢だからと犠牲になるつもりか。我々に無茶な条件を突き付けてくるのは、自らの死をもって事態を収束させたい為なのか。だが、アンネリーゼを悲しませないためにも、そういう訳にはいかないというものだ。
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