聖女な幼馴染に裏切られた少年、地獄の【一万倍の次元】の修行を突破。最強剣士として学園生活を満喫する

ハーーナ殿下

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第28話:選抜戦、開幕

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オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。

学園に現れた幼馴染のエルザは、放心状態でどこかに消えてしまう。

そんな中、キタエル学園の一学年生の大イベント【学内選抜戦】が行われることに。
オレはマリエルとミーケの三人で、選抜戦に挑むことにした。



選抜戦の当日の朝がやってきた。

「これが選抜戦の会場か」

学園の敷地内にある会場に、オレたちは到着する。

会場は円形状の闘技場を模した外観。
街中にある巨大な闘技場を、コンパクトにした大きさだ。

「ここが会場……いよいよ、ですわね、ハリト様……」

「うわぁ……なんか、物々しい場所だニャンね、ハリトたん」

一緒にやって来たマリエルとミーケは、会場の外観に声を上げる。

マリエルはかなり緊張した様子。
ミーケはいつものように明るく元気だが、少しだけ緊張している。

「二人ともそんな緊張しなくても、大丈夫だよ! 今日まで特訓してきたから、あとはリラックスさえすれば大丈夫さ!」

緊張する二人に自信を促す。

選抜戦の張り出しがあった日から、オレたち三人は特訓を続けてきた。
オレが考えた対人戦のメニューを、主として鍛錬の日々。

平日の通常の授業の後に、寮の裏庭で基礎練習。
週末は“魔の森”で、大規模な実戦訓練を積んできたのだ。

「そうですわね、ハリト様。あの過酷な特訓の後なら、何ともでなりそうな気がします」

「本当に大変だったニャー。お蔭でミーたちも、少し強くなれたような気がするニャン!」

マリエルとミーケの緊張が解ける。
二人ともこの一ヶ月、本当に頑張ってきた。

オレの課したトレーニングに一切の不満を口にせず、必死で付いてきれくれたのだ。

「それじゃ、さぁ、中にいこうか」

「分かったニャン!」

「いざ出陣ですわ!」

全員の息が合ったところで、会場の中に入る。
生徒専用の入り口から、案内に従って進んでいく。

長い通路を進んだ先に、明るく開けた場所に出る。

「うわー! 中も広いニャン!」

「ですわね。あの中央の部分が、試験場かしら?」

会場の中もコロッセオを模していた。
周りには観客席にあり、中央部に闘技場が見える。

独特の空気感。
まさしく戦いの場に相応しい場所だ。

「ハリトたん、見るニャン! お客さんがいるニャー!」

「あっ、本当だ。先生にしては多すぎるな。誰だ?」

観客席には、けっこうな人数の大人たちがいた。
格好や雰囲気は様々で、商人風や騎士風、貴族も団体もいる。

ここは一般人が入れない場所。
あの人たちは一体?

「ハリト様、見たところ、あれは剣士学園の関係者やスポンサーの皆さんですわ」

王女であるマリエルは、人脈関係に知識がある。
観客席に知った顔でもいたのであろう。

「スポンサーか……なるほど、そういうことか」

マリエルの説明を聞いて納得する。

剣士学園は王国の秩序を守る剣士の育成所。
だが学園の設立と運営には、莫大な金額がかかっている。

主に出資しているのは国だが、それだけは足りない。
だから大商人や貴族連中にも、出資させているのであろう。

そして観客席の“視線の質”で、彼らの目的を察する。

(あの視線は……つまり学園剣士の“質”をお披露目する、品評会みたいなもんか、この選抜戦は?)

観客席の顔つきは、余興を見に来た感じではない。
彼らは投資者として、この場に来たのだ。

(品評会であり、オレたちを見定める権利か……)

投資者には優遇して、リターンを渡す必要がある。
そのための一つがこの『学園剣士同士のガチの選抜戦、その閲覧権利』なのであろう。

(なんか気に食わないけど。まぁ、気にしないでおくか……)

あまり観客席の俗世な視線は、気にしないおく。
マリエルとミーケも大丈夫そうなので、影響はないであろう。

(それより、気になるのは、あの集団だな……)

観客席の中で、異質な集団を見つける。
人数は二十名ちょっと。

全員が白い法衣をまといい、顔をローブで隠している。

なんだ、あの連中は?

「ハリト様、あの方々は“剣士教団”の皆さまですわ」

オレの視線に気が付いたミーケが、そっと耳打ちして教えてくれる。

「“剣士教団”? 何、それ?」

初めて耳にする言葉。
聞いたこともない宗教だ。

「今から二十年前ほど前に設立された、新興宗教でございます。主に有能な剣士を発掘する教団で、今では王家の支援を受けている、信頼のおける団体です」

マリエルの説明を聞きながら、もう改めて集団を観察する。

(“剣士教団”か……うーん、なんか“嫌な感じ”がするんだよな……)

言葉では上手く説明できないが、“なんか嫌な感じ”がするのだ。

「では、そろそろ候補生の皆さんは、中央の闘技場に集まりください!」

そんな時、会場のアナウンスが流れる。
拡声器の魔道具。
司会の男性教師から、会場中に案内がされていく。

「これから開会式を行った後に、すぐに選抜戦を行います! 一年生の皆さんは迅速な行動をしてください!」

今日のスケジュールが発表される。
簡単な開会式の後に、一試合目がスタートだという。

「いよいよだニャン!」

「いよいよですね、ハリト様」

「ああ、そうだな。とにかく悔いないように、三人で頑張ろう」

この後、開会式が何事もなく終わる。
選抜戦がスタートするのであった。



キタエル学園の選抜戦がスタート。
戦いは既に幕を開けていた。

(始まったか……)

ハリト団は一回戦の試合が、けっこう後の方だった。

順番が来るまで、オレは観客席で情報収集することにした。
マリエルとミーケは控え室で、アップ運動をしている。

さて、どんな試合か見ていこう。

(おお! 最初から、みんな飛ばしているな!)

今回の選抜戦は三人一組で、一対一で戦う方式。
使う武器は、刃を潰した訓練用の武器。

だが剣術技や他の技の制限はない。
魔物すら葬る剣術技で、候補生同士が真剣勝負しているのだ。

そのため一回戦から、激戦が繰り広げられていた。

「「「おお⁉」」」

学園剣士同士の本気の真剣勝負に、観客席から歓声があがる。
豪快な剣術技が炸裂するたびに、闘技場が大きく揺れていた。

学園生はまだ成長中の段階。
だが才能ある者の戦闘力は既に、腕利きの剣士に並ぶ者もいる。

「「「おお!」」」

戦いのたび、闘技場に歓声が響き渡る。
更にその歓声を、剣術技同士のぶつかり合い激音が、歓声を打ち消していく。

(おっと⁉ 今のは遠距離系の剣術技の誤射か? 今のは観客も危なかったな……)

ちなみに選抜戦を行う中央の闘技場は、特殊な結界が被われている。

カテリーナ先生の話では、特殊な魔道具だという。
かなり強力な攻撃でも、防ぐことが出来る結界みたいなもの。

だから観客も安心して観戦できるのだ。

「そこまで! 勝負あり!」

聞きなれた先生……カテリーナ先生の声が度々、響き渡る。
今日、先生は審判役だ。

公平な審判を行っている。

「勝負止め! 止めと言うのが、聞こえないのですか!」

先生は戦いを途中で、止める時もあった。
何しろ生徒たちは真剣勝負のあまり、かなりの興奮状態。

死人が出ないように審判役の権限で、勝負を決する場合もあるのだ。

「救護班! 急いで治療を!」

負傷者には学園の医務係が、応急措置にあたる。

学園の秘蔵の回復魔道具で、かなりの重症でも回復してくれるのだ。

(でも、今の戦い方じゃ、二回戦に響くな、あの人は……)

回復の魔道具は傷を塞げても、スタミナまでは急に回復は出来ない。

勝ち抜いてもダメージが大きい場合は、次の試合に影響が残る場合もあるのだ。

(なるほど。勝ち抜いていくために、戦い方も、重要だな、これは……)

選抜戦は勝ち抜き戦のトーナメント方式。
勝利者は今日一日で、何戦もこなしていく必要がある。

勝つだけなく、スタミナ配分も重要な肝になるのだ。

「「「うぉ!」」」

そんな感じで、エキサイトに試合が進んでいく。

一試合あたりの時間は、それほど長くない。
闘技場中央部は、それほど広くはないので、短時間で勝負が決まることが多いのだ。

「では、“ハリト団”の皆さん、準備してください!」

会場の司会者からアナウンスがある。
いよいよ出番がきたのだ。

オレはマリエルとミーケと合流。
闘技場の下の待機場所に向かう。

選抜戦は三人一組で、一対一で戦う方式。
闘技場の上に登るのは、戦う者一人だけ。

ここまで来たら、もう引き返すことはできない。

「さぁ、準備はいい? いくよ、マリエル、ミーケ!」

「もちろんニャン!」

「お任せください、ハリト様!」

二人とも戦闘準備は万全。

先鋒を送りだす前に、三人で円陣を組む。
全員のテンションを上げる儀式だ。

「それじゃいくよ、二人とも…………『ハリト団、ファイト!』」
「「「おー!」」」

事前に決めていた気合入れをする。

かなり恥ずかしいが、これもマリエルの提案。
彼女からの提案だから、オレも頑張るしかない。

「それでは次の試合を始めます。“ハリト団”の一人目の選手は、開始位置に上がってください」

「いざ、参りますわ!」

オレたちの先鋒は銀髪の女剣士……マリエルだ。

こうしてハリト団として挑む選抜戦は、幕を上げるのであった。
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