聖女な幼馴染に裏切られた少年、地獄の【一万倍の次元】の修行を突破。最強剣士として学園生活を満喫する

ハーーナ殿下

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第29話:一回戦、先鋒戦

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オレは自由を手にして、北の名門キタエル剣士学園に入学。
お姫様のマリエルと、猫獣人の少女ミーケ、三人で同居しながら平和で順調な日々。

学園に現れた幼馴染のエルザは、放心状態でどこかに消えてしまう。

そんな中、キタエル学園の一学年生の大イベント【学内選抜戦】が行われることに。
オレはマリエルとミーケの三人で、選抜戦に挑むことにした。



「それでは次の試合を始めます。“ハリト団”の一人目の選手は、開始位置に上がってください」

「いざ、参りますわ!」

オレたちの先鋒は銀髪の女剣士……マリエルだ。

彼女は三人の中で、一番バランスが万能タイプ良い。
どんな相手でも対応が可能。

ハリト団は、まずは先鋒で一勝をとって、そのまま勢いに乗っていく作戦なのだ。

「ん? おい、あれはまさかマリエル姫様……?」

「ああ、間違いない、これを見てみろ……」

マリエルの登場に、観客席の有力者たちがザワめく。
基本的に学園剣士の名は、国よって秘匿にされている。

今回の選抜戦に出る名簿だけ、来場した有力者に配布されていた。
そのため本物の王女の登場に、権力者たちが驚いているのだ。

(ん? マリエルのことを、色々、噂しているぞ? 何を話しているんだろう……?

ここだけの話、オレはけっこうな地獄耳。
観客席の話に耳を傾ける。

「……でも、マリエル様といえば、アレな姫様だよな?」

「ああ、“失墜しっついの剣姫”だったか……たしか?」

「可哀想に。だから、こんな辺境の学園にいるのか……」

その中でも王都から来た権力者たちは、妙なことを口にしていた。
内容はよく分からないが、たぶん彼女の悪口だろう。

それにしても“失墜の剣姫”ってなんだ?

「では、ハリト様……勝ってきます!」

だが今は、そんな外野に構っている場合ではない。
大事なチームメイトが、真剣勝負に挑もうとしているのだ。

それに開始場所に向かうマリエルは、少し硬い顔つき。
緊張しすぎているのだ。

「マリエル、リラックスだよ。ポカしちゃ、駄目だよ」

「わ、分かっています、ハリト様……もう、です」

「いい顔だ。それなら大丈夫そうだね」

笑ったところで、マリエルの緊張が和らいでいた。
あの分なら実力を、ちゃんと発揮できるであろう。

さて、対戦相手は誰かな?

『では“キタエルの三銃士”の先鋒も前に!』

相手は“キタエルの三銃士”というパーティー名。

となりのクラスの男子三人組。
かなりチャラい感じの人たちだ。

「おう!」

先鋒は長身の長剣使い。
マリエルの前に立つ。

「おお、アレは……」

「たしかタラエット伯爵家の四男の……」

「たしか幼い時から、武勇に優れていたはず……」

「これは楽しみな対戦じゃのう……」

相手の先鋒の登場に、権力者たちがザワつく。
名簿を見ならアレコレ話している。

おそらく貴族界隈で各家の優秀な子どもは、幼い時から情報が広まっているのであろう。

(さて、相手は長剣使いか……)

マリエルの対戦相手を、遠目に観察する。
あの人は隣のクラスだけど、何度か合同授業で見たことがある。

(久しぶりに見るけど、結構腕を上げている感じだな……)

前に見た時とは別人のよう。
長剣を構える姿にも、隙は少ない。

(あの人も、この一ヶ月間、頑張って鍛錬してきたんだろうな……)

直近の一ヶ月間は、合同授業は無かった。
選抜戦のために、意図的に授業内容が変更されていたのだ。

構えを見た感じだと、あの人の実力は学年でも上の方。
普通の生徒が戦ったら、かなり厄介な相手だ。

「それでは始め!」

審判のカテリーナ先生の合図で、先鋒戦が幕を開ける。

「きぇーい! いくぞ…………剣術技【第一階位】二の型、【疾風斬り】!」

開始の合図と同時。
相手は剣術技を発動。

一気に間合いを詰めて、射程内にマリエルを捕獲。
長剣の利を生かして、彼女に一方的に攻撃をしかけてきたのだ。

「噂ほどじゃなかったな、マリエル姫よぉおお!」

勝利を確信した相手が叫ぶ。

何故ならマリエルは、棒立ちだった。
【疾風斬り】に反応できずにいたのだ。

「「「おおー⁉」」」

観客席から歓声が上がる。

誰もが思ったであろう。
勝負あったと……『力がある男性であり、リーチのあるタラエット侯爵家の四男が、これで勝った』と思ったのだ。

(甘いね……マリエルの実力を、甘く見過ぎだよ、みんな……)

だがオレは知っていた。
今のマリエルが“普通の強さ”ではないことを。

そし銀髪の剣姫が応えてくれる。

「『風よ、舞い上がれ、彼方へ!』……剣術技【第二階位】四の型……【飛燕斬ひえんざん】!」

【疾風斬り】の斬撃が、届く直前、マリエルが叫ぶ。
得意の風の剣術技を発動。

ズシャァーーン!

マリエルは間一髪で、相手の【疾風斬り】を回避。
逆にカウンター攻撃を喰らわせる。

「えげつ⁉ うぎゃぁあああ!」

予期せぬカウンター攻撃を喰らい、相手が吹き飛んでいく。
放物線を描き、そのまま場外に落下する

「うっ…………ぐ……」

辛うじて意識はあるが、自力で立ち上がることは不可能。
救護班が助けに駆け寄る。

「勝者、マリエル・ワットソン!」

審判のカテリーナ先生が、マリエルの右手を掲げる。
これで勝負ありだ。

「「「おっ……おー⁉」」」

直後、観客席から嵐のような歓声が上がる。
まさかの大逆転劇。

誰もが予期していなかった結果に、称賛の嵐。
拍手喝采と大歓声。

多くの者が、マリエルの名を称えていた。

「ふう……ただいまです、ハリト様」

大歓声の中、マリエルが待機所に降りてきた。
傍には圧勝に見えたが、少しだけ疲れている。

見せない攻防で、精神的に疲れているのであろう。

「ナイス、ファイト。ちなみに最初はザワと隙を見せて、斬り込ませたの、マリエル?」

「さすが、ハリト様。見抜いていたのですね。今日のトーナメントは長丁場ですから、敢えて短期決戦でいきました」

開幕にマリエルの見せた隙。
あれは彼女の作戦だったのだ。

目的は短期決戦を挑むため。
長期戦によるスタミナ消費を防いのだ。

「やっぱりそうか。よく、決断したね、マリエル」

隙を見せるのは失敗のリスクも大きく、危険な作戦だった。
だが実戦では時には、こうした狡猾さも必要。
仲間の成長を、嬉しく思う。

「よし、これで一勝目だな」

作戦通り、幸先良いスタートダッシュ。
ハリト団の次鋒は……

「次はミーケ……あなたの番よ!」

「ミーに任せるニャン!」

マリエルは次の仲間にバトンタッチ。

そう……ハリト団の次鋒は猫獣人ミーケだ。

学園生活が短いので、剣士相手の力は未知数。
だから真ん中の次鋒に置く作戦だ。

「それでは次は次鋒戦を始めます。準備してください!」

次鋒戦のアナウンスがある。

「それじゃ、行ってくるニャー!」

ミーケ本人には負ける気はない。
強い覚悟を胸に、開始場所に向かっていく。

(ミーケ……大丈夫かな……色んな意味で、心配だな……)

こうして次の仲間の出番がやってきたのであった。

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