聖女な幼馴染に裏切られた少年、地獄の【一万倍の次元】の修行を突破。最強剣士として学園生活を満喫する

ハーーナ殿下

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第38話:最期のエルザ視点

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 《幼馴染のエルザ 視点》

時間は少しだけ戻る。

学園から帰宅途中のハリトたちを、エルザが襲撃。
だがハリトの【雷流らいりゅうの構え】によって、全て無力化されて直後のこと。

「なっ……なっ……あ、あのハリトが剣術技を、発動できた⁉ ハリトが早過ぎて、この私でも見えなかった……」

「エルザ……大丈夫? 少し落ち着いてから、オレと話そうよ?」

「う……ハリト……ありがとう……」

「エルザ? さあ、オレの手を握って」

「私は……もう……終わりよ……さよなら……」

そしてエルザは逃げ出した。
幼馴染のハリトの元から。

野を越え、山を越えて、ひたすら遠くへと逃げていった。



「ここは……どこ?」

気がつくと、見知らぬ山中にいた。

月夜の照らす時間だ。

「まっ、いっか……どうせ私は……終わりだし、もう……」

エルザは失意のどん底にいた。

復讐のために探していた幼馴染のハリト。
道に迷いながらも、ようやく北の学園で見つけ出した。

だが激情にかられるままに発した斬撃は。ハリトに無力化されてしまう。
その時のハリトの動きすら、エルザは目視することが出来なかったのだ。

「あの……ハリトに負けるなんて……私も、もう終わりね……」

完膚なきまでに負けて、今のエルザの心は真っ新になっていた。

「そういえばハリト、変わっていたな……」

数ヶ月ぶりに再会したハリトは、別人ようになっていた。
幼い時から付いていた脂肪が消え、精悍な顔立ちになっていたのだ。

「ハリト……別人のように……いえ、違うか。ハリトは昔から、あんな感じだったよね……」

エルザは知っていた。
ハリトの本当の素顔を。

彼が誰よりも真っすぐで、精悍な魂の持ち主であることを。

「だから私は……甘えていたのかな? ハリトの優しさに……」

エルザは聖女として王都に招かれた。
多くの者に期待されて、過度のプレッシャーの日々だった。

弱い彼女の心は、壊れかけていた。

――――『ああ……もう駄目だ、私は』

だが周りの大人たちは、彼女を更に追い込んでいった。

……『エルザ、大丈夫?』

そんな中で一緒に同居していた、幼馴染ハリトだけ優しかった。
自分の負の部分を、彼は全て受け止めてくれた。

だが彼女は甘えすぎていた。

そして“あの日の絶縁の事件”が起きた。

『それじゃ、さよなら、エルザ」』

エルザは絶縁された。
唯一の心の拠り所だったハリトに、見捨てられてしまったのだ。

それからは負の連鎖。
全てが上手くいかず、今にいたる。

「『ハリト……ありがとう……』か。もう少し、早く、言えたらよかったのにな、私……」

エルザは後悔をしていた。
先ほどの言葉を、言うべきタイミングを。

今までの人生で幼馴染ハリトに、もっと素直に言うべきだったことを。

全てを失った今になって、ようやく気が付く。
ハリトの大事さと、自分の心の中での重要性を。

「そっか……私、ハリトのことが好きだったんだ……王都にいた時から……うんうん。昔からずっと、ね」

エルザの自分の気持ちに、気が付く。
ようやく正直に、素直になれたのだ。

「よし……戻ろう。戻って、ハリトに伝えよう。この気持ちを。たぶん拒絶されるかもしれないけど……それでも後悔しないために」

エルザの瞳に生気が戻る。
この数年間で失っていた心が、ようやく戻ってきたのだ。

「よし、拒絶されても、何度でも言ってやるんだから。『私はハリトのことが大好きだ!』って!」

 ――――心の願望を、そう漏らした時だった。

 ボワン。
エルザの足元に黒い穴が出現。

「えっ⁉」

 同時に身体が吸い込まれて、落ちていく。
そして意識を失う。



それから少し時間が経つ。

エルザは意識を取り戻す。

「ここは……どこ? 地の底じゃ……ないよね?」

 目を覚ましたのは、異様な空間だった。
 広さは屋敷の個室くらい。

 壁はあるけど、触ることが出来ない。

「ここは地獄なの? いえ、生きてはいるのね、私は?」

 試しにホッペをつねってみるが、痛覚はある。
 落下で死んだ訳はなさそうだ。

「ふう……『世の理を示せ!』……剣術技【第三階位】四の型、【聖感知】!」

エルザは剣術技を発動。
聖女にだけ使える、感知系の技である。

「なるほど、ここは異空間なのね?」

特殊な剣術技によって、エルザはある程度までの情報を仕入れる。

 ボワン。

 直後、空間に異変が起きる。
 先ほど同じ異音が発生。

 カチャーン。

 そして金属音。
 どこからともなく目の前に、“一本の剣”が落ちてきたのだ。

「なるほど、これが“鍵”という訳ね?」

 パッと見は普通の片手剣。
 色は黒く剣の横に、何かの呪印が掘られている。

「あとは、この先の迷宮ループをひたすら、クリアしていけばいいのね? 随分と簡単ね!」

エルザは不敵な笑み浮かべながら、進んでいく。

「時間の経過は外とは違うみたいだけど、グズグズしている暇はないわ。さっさと終わらせて、私は行かないといけないのよ……ハリトの元へ!」

こうして彼女は【次元の狭間】の迷宮に挑んでいく。



エルザの【次元の狭間】の迷宮の攻略は、順調だった。

「ふう……これで千回。楽勝ね?」

何故なら彼女な剥奪《はくだつ》されたとはいえ、【聖女】の称号持ち。
この程度のループ迷宮など、楽勝だったのだ。



しかし一万回を超えた辺りから、エルザの様子はおかしくなっていく。

「えっ……ちょっと、待って、まだ、なの……もう、無理なんだけ……でも、頑張らないと、ハリトに会いにいくために……」

段々と精神が疲弊をしていく。

魂の余裕が、消失していった。



――――そして十万回に到達した時、その時は来てしまった。

「うぁああああああああああ!! ■■■■■■■■■あああぁああああああああ!!  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

今まで最大級の発狂タイムが、絶望の塊が、彼女の全身と細胞を襲ってきたのだ。

 魂の消失による恐怖。
 エルザの感情は消滅していく。

そして彼女の容貌ようぼうは変化する。

コウモリのような禍々しい羽を背中に生やし、全身の皮膚が赤褐色になり、鱗のように波打っていた。

あの美しかった顔は……この世の者とは思えない、邪悪な形相になってしまう。

彼女は魔族と化ししまったのだ。

――――才能ある剣士を、魔族化させる。

この【次元の狭間】の裏なる力を、彼女は直に受けてしまったのだ。

『そうだ……ハリトに会いに行かないと……でも、どうしてだっけ? ああ、そうね。私がハリトを殺してあげないと……大好きなハリトを独り占めするために!』

エルザは大空に飛びたった。

自分の歪んだ欲望に、押し潰されながら。

『ハリト……待っていてね、殺してあげから』

こうして幼馴染ハリトと闘技場で、魔族エルザは再会するのであった。
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