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第2話:新しい人生スタート

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実家を追放されてしまったボクは、辺境に島流しされる。
家どころか魔物しかない荒野に、一人でポツンと立ち尽くす。

「よし、これから頑張っていこう!」

追放されてしまったことには、正直なところ憤りは感じている。
だが気持ちの切り替えが大事。一日でも長く生き抜くことを決意する。

「まずは衣食住を確保しないとな。衣類はあるから、住居と食料をどうにかしよう!」

とりあえず廃村に向かう。
村の中を進んでいく、二十軒くらいの木造の建物があった。でも全ての建物が半壊している。

先ほどの兄たちの話では、昔アルバート家が送り込んだ開拓団の名残。
魔物だらけのこの領地を開拓できず、獣に襲われて滅びた感じだ。
でも今は他に住むアテはない。

「よし、この建物がいいかな」

廃村の中、一番大きな建物の前にやってきた。
おそらくは村長が住んでいた建物なのであろう。ここも見事に半壊はしている。
ボクが住むには修理をする必要がある。

「それじゃ出すか……【収納】!」

ボクの作った魔道具《収納袋》の中から、リフォーム用の魔道具を取り出す。

シュイ――――ン!

華やかな音と共に、目の前に七体の小人が出現する。
ボクが昔作った、魔道具《魔道人形パペット》だ。
魔道人形パペット》は仕事内容を命令したら、忠実なまで実行してくれる。


この七人の名は《七人小人セブンス・ホビット》といって、得意分野は修理や物作り手先が器用で、腕利きの職人並の技術がある。
あと力もけっこう強く、大木や巨石も持ち運び可能。まさに壊れた家を直すには、うってつけ存在なのだ。

「それじゃ、みんな。“建物”を人が住めるように、直してちょうだい!」

「「「うん! えい、えい、お――――!」」」

可愛い掛け声と共に、《七人小人セブンス・ホビット》が一斉に動き出す。
内蔵している工具を使って、家の修理を始めていく。

ボクは収納袋から修理に必要な材料を、家の前に出しておく。
材料はアルバート領をウロウロしながら、ここ十年で貯めこんでおいた物だ。

「さて修理の間、ボクは周辺の調査でもしておこうかな」

衣食住の中で残るは食料。その中でも一番大事な“水”を確保するために、周囲を村の確認に向かう。

「ここに開拓団の拠点があったということは……あった、川だ!」

村の奥に川が流れていた。
水場の跡もあり、雰囲気的に開拓団の人たちは、この川の水を飲んで生活していたのだろう。

試しに飲んでみる、「うん、美味しい!」かなりの美味しさだ。
少なくともアルバート領の鉄分を含んだ井戸水よりは、何倍も美味しい。

「あれ? もしかしたら追放されたことは、ボクにとって幸せなのかもしれないな……」

アルバート家でこの十数年間、ボクは本当に肩身の狭い生活をしてきた。
あの家にとってボクは異質な存在。今は亡き母の連れ子であり、アルバート家の誰ともボクは血が繋がっていない。

正直なところ追放されなければ家出をしていたくらい、屋敷の中では蔑まされて毎日だった。

「でも、ここではボクを罵倒する家族や、蔑んでくる兄はいない。しかも大好きな魔道具を、正々堂々と使うことも出来る! よく考えたら、こんな素晴らしいことはないぞ!」

大陸の貴族は攻撃魔法至上主義な人が多く、魔道具は軽んじられてきた。
そのためアルバート家でも、ボクは大ぴらに魔道具を使うことが出来なった。

だが今は違う。名目上ではあるが、ここはボクの領地。
誰の目も気にしないで自由気まま魔道具を使える。更に新しい魔道具も、ドンドン作り出していくことが出来るのだ。

「よし、頑張っていくぞ! ……へっ⁉」

気合を入れて後ろを振り向いて、ボクは思わず変な声を出してしまう。
何故なら見たことがある男女三人が、すぐ後ろに控えていたのだ。

「えーと、セバスチャンとレイチェル、それにミーケ……だよね? どうして、こんなところに?」

膝をついて控えていたのは、三人の知った顔。

初老でダンディな白髪オールバックの執事服のセバスチャン。

赤い髪で妖艶なボディのメイド服のレイチェル。

茶色いショートカットで小柄な猫獣人のメイド服のミーケ。

アルバート家に仕えている使用人の三人。
何の気配もなく、いきなりボクの背後にいたのだ。

「も、もしかしてボクを……」

“始末”しにきたのだろうか。
父の命令で、邪魔なボクの命を亡きものに⁉
思わず身構えてしまう。

「突然のことで失礼いたしました、ライル様。我々三名はライル様を慕って出奔しゅっぽんしてまいりました」

三人を代表して、執事長セバスチャンが理由を説明してきた。
出奔しゅっぽん”は領民や家臣が無断で、領地の外に出て姿を消すことだ。つまり……

「えっ? ボクのことを慕って、アルバート家から出てきたの? えっ、三人とも仕事は、どうしたの?」

「仕事は辞めてまいりましたわ、ライル様。ライル様が追放されたと聞いて、三人ですぐに辞表を出して追いかけてまいりましたわ!」

次に答えたのはセクシーなレイチェル。妖艶な笑みで、ボクのことをじっと見つめてくる。

「そ、そうなんだ……でも父上がよく許してくれたね。三人は屋敷の中でも、需要な役職に就いていたのに」

セバスチャンは執事長で、使用人の中でも一番偉い。
彼がアルバート家の裏の仕事を全て回している、といって過言でない。
大げさな話、セバスチャンがいないとアルバート家は、一日も通常稼働できないのだ。

それにレイチェルもメイド長。
数十人いるメイド束ねる才女であり、彼女がいなければ掃除洗濯、料理など回らない。

猫獣人メイドのミーケものんびりしているように見えて、かなり有能なメイドだ。

アルバート家の中核のこの三人が一気に辞めたら、今ごろ大騒動だろう。
よく、あの傲慢な父が許したものだ。

「大丈夫ニャー、ライル様。ミーたちは辞表だけ置いて、勝手に辞めてきたニャー!」

「えっ、そうだったの⁉」

ミーケの説明を聞いて、心の中で納得する。勝手に出てきたのなら、傲慢な父でも止めることも出来ないのだ。

「そうなんだ……あれ? でもおかしいな」

冷静になって、ふと疑問に思う。
ボクは馬の引く護送車で、ここまで運ばれてきた。結構なスピードだった。

それに比べて三人はどう見ても徒歩。
どうして遅れて出発した三人が、もう追いついていたのだろう?

「そんなのは簡単ニャン! ミーたちは隠密の、ゴフ、ゴフッ、ゴフッ!」

ミーケが何か説明をしようとして、レイチェルが慌てて口を塞いでいた。ミーケは何やら怒られている。
いったい何を言おうとしていたのだろう。

「ライル様、失礼いたしました。それで改めてお願い申し上げます。是非とも我々三人を、ライル様の使用人としてお仕えさせてください!」

「えっ、ボクの使用人に? 別にいいけど、お給料は払えないよ」

使用人は毎月、給料を払う必要がある。
特に優秀なこの三人に対して、アルバート家は通常の使用人の数倍の給料を支払っていた。

でも今のボクは名前ばかりの領主。収入は1ペリカもなく、給料が払えないのだ。

「いえ、給料は結構でございますわ! 敬愛するライル様にお仕えすることが、我々三人への最高の褒美となりますわ!」

「そうだニャン! ミーたち三人は自分の食い扶持くらいは、自分で狩れるニャン!」

「是非とも三人をライル様の元へ、使用人として!」

驚いたことに三人とも無給で、ボクに仕えてくれるという。
理由は分からないけど、何か思うところがあるのだろう。無下には断れない雰囲気だ。

「分かった。それなら、こちらこそ、よろしくお願いします! あっ。でも給料はまだ払えないから“使用人”は変だな? それなら“家族”というのは、どうかな? ボクたち四人は家族……それなら一緒に暮らしていても変じゃないし!」

かなり強引だが提案してみる。
何故ならボクは前から“使用人”という言葉が、少し苦手だった。

何故なら実の母さんが生きていた時、ボクによく話してくれた。
……『ライル、人は種族や身分に関係なく、誰でも平等に幸せになるべきなのよ』と。
だからボクもなるべく使用人という言葉を、使いたくなかったのだ。

「「「うっ、うっ……」」」

ん?
気がつくと三人とも涙を流している。
ハンカチで涙を拭くこともなく、大粒の涙をこぼしていた。

「ど、どうしたの、三人とも⁉ ボク、なんか変なことを、言っちゃったかな?」

「い、いえ、ライル様は何も悪くありません。ライル様の尊大な心遣いに、我々の心の琴線と、涙腺が崩壊してしまっただけです。見苦しい所を見せて、申し訳ないです。ああ、寛大なるライル様よ……」

セバスチャンちゃんは子どものように、顔を輝かせている。まるで神を崇めるかのように、ボクのことを見つめてきた。

「ライル様……ああ、ライル様……愛しのライル様……」

レイチェルは涙を流しながら、頬を赤らめていた。まるで恋する乙女のように、ボクのことを尊そうに見てくる。

「やっぱりライル様に付いてきて、よかったニャン!」

ミーケも涙を流しながら、何か叫んでいた。
とにかく三人ともボクに対して、凄く好感度が臨界突破している気がする。

とても恥ずかしい。
けど、凄く嬉しい雰囲気だった。

「それじゃ、とりあえず、四人で住む場所の準備をしようか。あっちに廃村があるんだ!」

三人は廃村を通らずに、まっすぐボクの所にきた感じ。
今後の仮拠点になる村長の家を、修理にしに向かう。

「ん? あれ?」

廃村に到着して、ボクは自分の目を疑う。何故なら“廃村”がどこにもなかったのだ。

「えっ……村が完成している?」

廃村が消えて、綺麗な村が出現していた。
二十軒ほどあった廃屋は、全て人が住めるようにリフォームされていたのだ。

リフォームしたのは《七人小人セブンス・ホビット》たち。仕事を終えて待機していた。

「どうして、こんなことにて? あっ、そうか。命令の出し方のせいか!」

先ほどボクは『建物を人が住めるように直してちょうだい!』と《七人小人セブンス・ホビット》に命令を出した。

だから彼らは『村にある全ての建物』を人が住めるように、直してしまったのだ。
それにしても何という仕事の速さ。前にアルバート領でこっそり使った時の十倍の速度だ。
いったい、どうして、こんなに早くなったんだろう?

「おお、さすがライル様の偉大なる力……」
「これぞ過去に我々を救ってくれた、神なる力ですわ……」
「さすがライル様ニャン……」

村のリフォームされた光景を見て、三人はまた何から声を上げている。
凄まじい尊敬の眼差しで、ボクのことを見つめてきた。

「あっはっはっは……とりあえず、これから四人でよろしく!」

訳が分からないので笑ってごまし、改めて三人に挨拶をする。

ふう……それにしても、いよいよ辺境生活がスタートするのか。
ここは危険な辺境だけど、皆で力を合わせていけばなんとかなるかもしれない。

食料や衣類も四人分くらいなら、ボクの収納袋の中にある。のんびりと辺境生活をしていくのも悪くはない。



だが翌日、事件が起きる。

「ライル様! 我々も領民の末席に加えてください!」
「真の領主たるライル様に、どこまで尽くしていきます!」
「是非とも我々も民に!」
「ライル様、万歳!」

なんと更に移住者が、辺境に押し寄せてきたのだ。
アルバート領にいた領民が数十人、荷馬車で大移動。ボクの開拓村への移住を希望してきたのだ。

「う、うん、大丈夫です! 新天地で頑張っていきましょう!」

と言ったものの、問題が山積み。
さすがに数十人分の食料は、収納していない。あと生活物資も新しく、手に入れる必要があるのだ。

(やれやれ、仕方がないな。まず広大なこの荒野を開墾して……魔物がいそうな森から食料と木材を入手して……あの山から鉱石を採掘して。後は燃料や衣類、上下水道や道を整備して、医薬品と香辛料、酒や娯楽も欲しいな。一番の問題は塩や穀物の必需品だな。よし、頑張って、一つずつ解決していくぞ!)

こうしてボクは三人の家臣と数十人の領民のために、辺境を開拓することを決意した。







だが、この時のライルは知らなかった。

――――アルバート領から向かってくる領民は、まだまだ増えていくことを!

――――それに加えて亡国の姫の一行や、焼け落ちたエルフの森から逃げ出してきたエルフ王女など、どんどん難題を抱えた難民が押し寄せてくることを!

――――そしてアルバート家から討伐隊が向けられてしまう、危険な事件が起こることを!









そして誰も知らなかった。

自由を手にして自重しなくなった、ライルの作り出した魔道具と魔道具《魔道人形パペット》が、そんな困難や事件を規格外に解決してしまうことを。
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