独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

文字の大きさ
8 / 46

第39話:その後、ハメルーンの街の様子

しおりを挟む
暗黒古代竜エンシェント・ドラゴンバルドスを討伐してから、しばらく日が経つ。
ボクは前と同じような生活をしていた。

「女将さん、朝ご飯、ご馳走様でした! それでは行ってきます!」

朝の準備を終えて、常宿となった《煉瓦亭》から出発する。
宿を出てから、ふと後ろを振り返る。

ガヤガヤガヤ……ガヤガヤガヤ……

朝食を食べる客で、長蛇の列が出来ている。

実は最近の《煉瓦亭》は、かなり繁盛していたのだ。
理由は厨房を修理してから、食事が急激に美味しくなったから。口コミが広がり、三食を食べにくるお客さんが急増していたのだ。

あまりの繁盛ぶりに、女将さんは城の仕事を退職、《煉瓦亭》の仕事一本になっていた。
それでも人手が足りなくて、バイトの女の子を何人か雇用。女将さんは嬉しい悲鳴を上げている。

あと“温泉風呂”ができたことも、繁盛の要因。ハメルーン唯一の温泉として、連日にわたり一般入浴客が急増していたのだ。
入浴料を取っているので、食事と合わせて《煉瓦亭》の収入は、一気に数倍に膨れ上がっているらしい。

「大繁盛か……」

これには温泉を採掘したボクにも嬉しい。
せっかく掘ったのだから多くの人に、温泉の素晴らしさ知って欲しいのだ。

「よし、まずは冒険者ギルドに向かうか!」

《煉瓦亭》を後にして、ハメルーンの中央広場へと向かう。
歩きながら、街の様子を眺めていく。

「街の復興は、かなり進んでいるな」

邪竜バルドスによって、街の一部は被害を受けていた。“火炎吐ブレス”攻撃で焼失した区画があるのだ。

だが運の良いことに人的被害は、ほとんどなかった。
事前に避難勧告が出ていたために、戦えない住民は避難していたのだ。

また街の復興は、今も急ピッチ作業で進められている。復旧作業をしている市民の表情は、驚くほど明るい。

これにも理由がある。
一番の理由は、あの後にミカエル王国から、多額の賠償金を獲得。街の復興は全てハメルーン国費で行っているのだ。

また国主の計らいで、今のハメルーンの税金はかなり低く下げられた。そのため市民は前よりも生活が楽になって、誰もが顔が明るくなっていたのだ。

「それに商人や巡礼者の人が、かなり増えて、活気が出てきたよな」

ハメルーンの大通りは、前よりも活気が出ている。
これはミカエル王国の経済制裁が解かれたから。多くの商人と旅人が、ハメルーンを訪れるようになっているのだ。

経済制裁が解かれたことにより、ハメルーンの街の経済は、今後は急上昇していくらしい。

そんな賑やかな大通りを歩いていると、いつの間にか中央広場に到着していた。

「冒険者ギルドはいつも通りだな。よし。今日も、あまり目立たないように、受付にいこう」

駆け出し冒険者なボクは、未だに強面の人たちが怖い。
だから影を薄くして、受付にむかうのだ。

「お姉さん、おはようございます」

「んっ、ハルク君⁉ 相変わらず心臓に悪いわね!」

「あっはっはっは……申し訳ないです」

受付のお姉さんを今日もビックリさせてしまう。申し訳ないと思いながら、今日の初心者向けの依頼を聞いていく。

「初心者向けね……それなら、これは、どう? “家畜を襲う子鬼ゴブリンの討伐”は、どう? 相手の数も少ないから、そろそろハルク君も、いけそうじゃない?」

「あっ、危険な魔物ですか。ごめんなさい、まだ怖いので、普通の採取系にしたいです」

ボクはランクFの駆け出しソロ冒険者。しかも本格的な戦闘訓練も受けていない。

だから基本的にはしばらく採取系や、反撃してこない魔物狩りを専門にしたいのだ。

ちなみに前の“バルドス討伐”は、状況的に仕方がなかったから。
それにバルドスは“それほど強くなかった”。
だから、ボクは生き残れたのだと、心の中で思うことにしていた。

「また採取ね……ハルク君は頑張れば、強くなるような気がするだけどね。それじゃ、採取系を……あっ、ちょっと待ってね!」

そんな時、お姉さんが席を外す。
ギルドの裏口から誰からが、手紙を届けにきたのだ。
お姉さん手紙をもって、カウンターに戻ってきた。

「ハルク君宛てに依頼の手紙だったわ。はい、どうぞ。また城からよ」

「城から手紙……か」

たぶん王女マリエルだろう。
一介の冒険者であるボクのことを、王女が大っぴらに呼び出すのは世間的にまずい。
だから冒険者ギルドに依頼として手紙を出して、ボクを城に呼び出す方式なのだ。

「そういえば、たまに城に呼ばれるけど、いつも何の仕事をしているの?」

「えーと、修理の仕事です。ほら、ボクは前職が鍛冶師なので」

これも嘘ではない。
毎回、修理は必ずしている。
でも、その後の、ほとんどの時間はマリエルの話を聞いている。お茶会をしながら雑談をするのだ。

「なるほど、修理ね。頑張ってきてね。あっ、あと、“邪竜殺しの英雄”の情報を耳にしたら、報告してね、ハルク君」

「“邪竜殺しの英雄”の情報……分かりました」

あの日からハメルーンの街では、“ある人物”のことが話題になっていた。

――――その者の名は“邪竜殺しの英雄”。

邪竜によって、滅亡の危機にあったハメルーン。
どこからともなく現れて聖槍を放ち、邪竜の気を引きつけた英雄。

誰も目撃者はいないが、その後は荒野にて邪竜バルドスを討伐。
ハメルーン軍が見つけた、大量の竜の素材が証拠。

“邪竜殺しの英雄”は名も名乗らず、置き手紙だけを残し姿を消し去り、ハメルーンを救った英雄なのだ。

「それにしても“邪竜殺しの英雄”様、いったいどんな人なのかしら? たくましくて、筋肉隆々の戦士様? それとも聖剣や魔剣を扱う、精悍な剣士様なのかしら? もしくは若き大魔導士様? イヤーン!」

受付のお姉さんは独り言を言いながら、何やら頬を赤くしている。かなり浮かれている様子だ。

でも“邪竜殺しの英雄”の話をしながら、頬を赤くしているのは、実はこのお姉さんだけではない。

あの日以来、街の若い女の人は、こぞって“邪竜殺しの英雄”の話を街角でしながら、頬を赤くしているのだ。

理由はボクには分からない。きっと年頃の女の人は、正体が分からない秘密の英雄が好きなのだろう。

「えーと、それではボクは失礼します」

なんとなく気まずいので、ボクは冒険者ギルドを静かに後にする。
ゆっくりと大通りを歩いていく。

「“邪竜殺しの英雄”か……早く、噂が落ち着いて欲しいな」

ここだけの話、“邪竜殺しの英雄”の正体はボクだ。

でも今のところ誰にも言っていない。
何故ならあの後、ドルトンさんからもアドバイスを受けていたからだ。

……『ミカエル軍を戦闘不能にしたことと、邪竜バルドスを討伐したことは、とりあえず誰にも内緒にしておくのじゃ』と。

理由はよく分からないけど、ドルトンさん曰く『オヌシの規格外さを、悪用する者が必ず出てくる。オヌシの周囲の人材の基盤を固めるまでは、内密に行動した方がよいのじゃ』だという。

だからボクもアドバイスを受けて、今回のことは全て秘密にしていた。
今のところ周囲にはバレていない。

理由として目撃が、一人もいなかったからだ。
ボクが“城破壊弩バリスタ”でバルドスを攻撃した時は、街から遠く離れていた。
城壁の上の守備隊からは、“光の矢”の放たれた……と見えていたらしい。

またミカエル兵は全員、【全方位ミスリル電導索スタン・コレダー】で昏睡状態だった。だから目撃者は誰もいないのだ。

あと“ハルク式荷馬車チャリオット《改》”のことは、ハメルーン軍は“虹色の聖獣”と呼称している。
高速で自走していたから、荷馬車には見えなかったのだろう。

今ではミカエル軍を殲滅させて、街を救った神の使いとして、小さな石像を作っている市民もいた。

形は、四角で頭に角が生えた、四本足の奇妙な石像だ。
たぶん砲身が角に見えて、高速回転する車輪が足に見えていたのだろう。

「“邪竜殺しの英雄”と“虹色の聖獣”の噂か……きっと、その内に落ち着くだろう」

前に見た本に『人の噂も七十五日まで』と書いてあった。ハメルーン市民も、あと三ヶ月くらいで忘れるだろう。
だからボクもあまり気にないことにする。

「よし、城に向かうか。あっ、そうだ、その前にサラも誘っていかないと。手紙にも書いてあったし」

こうしてボクは見習い魔術サラを誘って、王女マリエルの元に向かうのであった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在4巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される

向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。 アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。 普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。 白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。 そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。 剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。 だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。 おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。 俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...