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第39話:その後、ハメルーンの街の様子
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暗黒古代竜バルドスを討伐してから、しばらく日が経つ。
ボクは前と同じような生活をしていた。
「女将さん、朝ご飯、ご馳走様でした! それでは行ってきます!」
朝の準備を終えて、常宿となった《煉瓦亭》から出発する。
宿を出てから、ふと後ろを振り返る。
ガヤガヤガヤ……ガヤガヤガヤ……
朝食を食べる客で、長蛇の列が出来ている。
実は最近の《煉瓦亭》は、かなり繁盛していたのだ。
理由は厨房を修理してから、食事が急激に美味しくなったから。口コミが広がり、三食を食べにくるお客さんが急増していたのだ。
あまりの繁盛ぶりに、女将さんは城の仕事を退職、《煉瓦亭》の仕事一本になっていた。
それでも人手が足りなくて、バイトの女の子を何人か雇用。女将さんは嬉しい悲鳴を上げている。
あと“温泉風呂”ができたことも、繁盛の要因。ハメルーン唯一の温泉として、連日にわたり一般入浴客が急増していたのだ。
入浴料を取っているので、食事と合わせて《煉瓦亭》の収入は、一気に数倍に膨れ上がっているらしい。
「大繁盛か……」
これには温泉を採掘したボクにも嬉しい。
せっかく掘ったのだから多くの人に、温泉の素晴らしさ知って欲しいのだ。
「よし、まずは冒険者ギルドに向かうか!」
《煉瓦亭》を後にして、ハメルーンの中央広場へと向かう。
歩きながら、街の様子を眺めていく。
「街の復興は、かなり進んでいるな」
邪竜バルドスによって、街の一部は被害を受けていた。“火炎吐”攻撃で焼失した区画があるのだ。
だが運の良いことに人的被害は、ほとんどなかった。
事前に避難勧告が出ていたために、戦えない住民は避難していたのだ。
また街の復興は、今も急ピッチ作業で進められている。復旧作業をしている市民の表情は、驚くほど明るい。
これにも理由がある。
一番の理由は、あの後にミカエル王国から、多額の賠償金を獲得。街の復興は全てハメルーン国費で行っているのだ。
また国主の計らいで、今のハメルーンの税金はかなり低く下げられた。そのため市民は前よりも生活が楽になって、誰もが顔が明るくなっていたのだ。
「それに商人や巡礼者の人が、かなり増えて、活気が出てきたよな」
ハメルーンの大通りは、前よりも活気が出ている。
これはミカエル王国の経済制裁が解かれたから。多くの商人と旅人が、ハメルーンを訪れるようになっているのだ。
経済制裁が解かれたことにより、ハメルーンの街の経済は、今後は急上昇していくらしい。
そんな賑やかな大通りを歩いていると、いつの間にか中央広場に到着していた。
「冒険者ギルドはいつも通りだな。よし。今日も、あまり目立たないように、受付にいこう」
駆け出し冒険者なボクは、未だに強面の人たちが怖い。
だから影を薄くして、受付にむかうのだ。
「お姉さん、おはようございます」
「んっ、ハルク君⁉ 相変わらず心臓に悪いわね!」
「あっはっはっは……申し訳ないです」
受付のお姉さんを今日もビックリさせてしまう。申し訳ないと思いながら、今日の初心者向けの依頼を聞いていく。
「初心者向けね……それなら、これは、どう? “家畜を襲う子鬼の討伐”は、どう? 相手の数も少ないから、そろそろハルク君も、いけそうじゃない?」
「あっ、危険な魔物ですか。ごめんなさい、まだ怖いので、普通の採取系にしたいです」
ボクはランクFの駆け出しソロ冒険者。しかも本格的な戦闘訓練も受けていない。
だから基本的にはしばらく採取系や、反撃してこない魔物狩りを専門にしたいのだ。
ちなみに前の“バルドス討伐”は、状況的に仕方がなかったから。
それにバルドスは“それほど強くなかった”。
だから、ボクは生き残れたのだと、心の中で思うことにしていた。
「また採取ね……ハルク君は頑張れば、強くなるような気がするだけどね。それじゃ、採取系を……あっ、ちょっと待ってね!」
そんな時、お姉さんが席を外す。
ギルドの裏口から誰からが、手紙を届けにきたのだ。
お姉さん手紙をもって、カウンターに戻ってきた。
「ハルク君宛てに依頼の手紙だったわ。はい、どうぞ。また城からよ」
「城から手紙……か」
たぶん王女マリエルだろう。
一介の冒険者であるボクのことを、王女が大っぴらに呼び出すのは世間的にまずい。
だから冒険者ギルドに依頼として手紙を出して、ボクを城に呼び出す方式なのだ。
「そういえば、たまに城に呼ばれるけど、いつも何の仕事をしているの?」
「えーと、修理の仕事です。ほら、ボクは前職が鍛冶師なので」
これも嘘ではない。
毎回、修理は必ずしている。
でも、その後の、ほとんどの時間はマリエルの話を聞いている。お茶会をしながら雑談をするのだ。
「なるほど、修理ね。頑張ってきてね。あっ、あと、“邪竜殺しの英雄”の情報を耳にしたら、報告してね、ハルク君」
「“邪竜殺しの英雄”の情報……分かりました」
あの日からハメルーンの街では、“ある人物”のことが話題になっていた。
――――その者の名は“邪竜殺しの英雄”。
邪竜によって、滅亡の危機にあったハメルーン。
どこからともなく現れて聖槍を放ち、邪竜の気を引きつけた英雄。
誰も目撃者はいないが、その後は荒野にて邪竜バルドスを討伐。
ハメルーン軍が見つけた、大量の竜の素材が証拠。
“邪竜殺しの英雄”は名も名乗らず、置き手紙だけを残し姿を消し去り、ハメルーンを救った英雄なのだ。
「それにしても“邪竜殺しの英雄”様、いったいどんな人なのかしら? たくましくて、筋肉隆々の戦士様? それとも聖剣や魔剣を扱う、精悍な剣士様なのかしら? もしくは若き大魔導士様? イヤーン!」
受付のお姉さんは独り言を言いながら、何やら頬を赤くしている。かなり浮かれている様子だ。
でも“邪竜殺しの英雄”の話をしながら、頬を赤くしているのは、実はこのお姉さんだけではない。
あの日以来、街の若い女の人は、こぞって“邪竜殺しの英雄”の話を街角でしながら、頬を赤くしているのだ。
理由はボクには分からない。きっと年頃の女の人は、正体が分からない秘密の英雄が好きなのだろう。
「えーと、それではボクは失礼します」
なんとなく気まずいので、ボクは冒険者ギルドを静かに後にする。
ゆっくりと大通りを歩いていく。
「“邪竜殺しの英雄”か……早く、噂が落ち着いて欲しいな」
ここだけの話、“邪竜殺しの英雄”の正体はボクだ。
でも今のところ誰にも言っていない。
何故ならあの後、ドルトンさんからもアドバイスを受けていたからだ。
……『ミカエル軍を戦闘不能にしたことと、邪竜バルドスを討伐したことは、とりあえず誰にも内緒にしておくのじゃ』と。
理由はよく分からないけど、ドルトンさん曰く『オヌシの規格外さを、悪用する者が必ず出てくる。オヌシの周囲の人材の基盤を固めるまでは、内密に行動した方がよいのじゃ』だという。
だからボクもアドバイスを受けて、今回のことは全て秘密にしていた。
今のところ周囲にはバレていない。
理由として目撃が、一人もいなかったからだ。
ボクが“城破壊弩”でバルドスを攻撃した時は、街から遠く離れていた。
城壁の上の守備隊からは、“光の矢”の放たれた……と見えていたらしい。
またミカエル兵は全員、【全方位ミスリル電導索】で昏睡状態だった。だから目撃者は誰もいないのだ。
あと“ハルク式荷馬車《改》”のことは、ハメルーン軍は“虹色の聖獣”と呼称している。
高速で自走していたから、荷馬車には見えなかったのだろう。
今ではミカエル軍を殲滅させて、街を救った神の使いとして、小さな石像を作っている市民もいた。
形は、四角で頭に角が生えた、四本足の奇妙な石像だ。
たぶん砲身が角に見えて、高速回転する車輪が足に見えていたのだろう。
「“邪竜殺しの英雄”と“虹色の聖獣”の噂か……きっと、その内に落ち着くだろう」
前に見た本に『人の噂も七十五日まで』と書いてあった。ハメルーン市民も、あと三ヶ月くらいで忘れるだろう。
だからボクもあまり気にないことにする。
「よし、城に向かうか。あっ、そうだ、その前にサラも誘っていかないと。手紙にも書いてあったし」
こうしてボクは見習い魔術サラを誘って、王女マリエルの元に向かうのであった。
ボクは前と同じような生活をしていた。
「女将さん、朝ご飯、ご馳走様でした! それでは行ってきます!」
朝の準備を終えて、常宿となった《煉瓦亭》から出発する。
宿を出てから、ふと後ろを振り返る。
ガヤガヤガヤ……ガヤガヤガヤ……
朝食を食べる客で、長蛇の列が出来ている。
実は最近の《煉瓦亭》は、かなり繁盛していたのだ。
理由は厨房を修理してから、食事が急激に美味しくなったから。口コミが広がり、三食を食べにくるお客さんが急増していたのだ。
あまりの繁盛ぶりに、女将さんは城の仕事を退職、《煉瓦亭》の仕事一本になっていた。
それでも人手が足りなくて、バイトの女の子を何人か雇用。女将さんは嬉しい悲鳴を上げている。
あと“温泉風呂”ができたことも、繁盛の要因。ハメルーン唯一の温泉として、連日にわたり一般入浴客が急増していたのだ。
入浴料を取っているので、食事と合わせて《煉瓦亭》の収入は、一気に数倍に膨れ上がっているらしい。
「大繁盛か……」
これには温泉を採掘したボクにも嬉しい。
せっかく掘ったのだから多くの人に、温泉の素晴らしさ知って欲しいのだ。
「よし、まずは冒険者ギルドに向かうか!」
《煉瓦亭》を後にして、ハメルーンの中央広場へと向かう。
歩きながら、街の様子を眺めていく。
「街の復興は、かなり進んでいるな」
邪竜バルドスによって、街の一部は被害を受けていた。“火炎吐”攻撃で焼失した区画があるのだ。
だが運の良いことに人的被害は、ほとんどなかった。
事前に避難勧告が出ていたために、戦えない住民は避難していたのだ。
また街の復興は、今も急ピッチ作業で進められている。復旧作業をしている市民の表情は、驚くほど明るい。
これにも理由がある。
一番の理由は、あの後にミカエル王国から、多額の賠償金を獲得。街の復興は全てハメルーン国費で行っているのだ。
また国主の計らいで、今のハメルーンの税金はかなり低く下げられた。そのため市民は前よりも生活が楽になって、誰もが顔が明るくなっていたのだ。
「それに商人や巡礼者の人が、かなり増えて、活気が出てきたよな」
ハメルーンの大通りは、前よりも活気が出ている。
これはミカエル王国の経済制裁が解かれたから。多くの商人と旅人が、ハメルーンを訪れるようになっているのだ。
経済制裁が解かれたことにより、ハメルーンの街の経済は、今後は急上昇していくらしい。
そんな賑やかな大通りを歩いていると、いつの間にか中央広場に到着していた。
「冒険者ギルドはいつも通りだな。よし。今日も、あまり目立たないように、受付にいこう」
駆け出し冒険者なボクは、未だに強面の人たちが怖い。
だから影を薄くして、受付にむかうのだ。
「お姉さん、おはようございます」
「んっ、ハルク君⁉ 相変わらず心臓に悪いわね!」
「あっはっはっは……申し訳ないです」
受付のお姉さんを今日もビックリさせてしまう。申し訳ないと思いながら、今日の初心者向けの依頼を聞いていく。
「初心者向けね……それなら、これは、どう? “家畜を襲う子鬼の討伐”は、どう? 相手の数も少ないから、そろそろハルク君も、いけそうじゃない?」
「あっ、危険な魔物ですか。ごめんなさい、まだ怖いので、普通の採取系にしたいです」
ボクはランクFの駆け出しソロ冒険者。しかも本格的な戦闘訓練も受けていない。
だから基本的にはしばらく採取系や、反撃してこない魔物狩りを専門にしたいのだ。
ちなみに前の“バルドス討伐”は、状況的に仕方がなかったから。
それにバルドスは“それほど強くなかった”。
だから、ボクは生き残れたのだと、心の中で思うことにしていた。
「また採取ね……ハルク君は頑張れば、強くなるような気がするだけどね。それじゃ、採取系を……あっ、ちょっと待ってね!」
そんな時、お姉さんが席を外す。
ギルドの裏口から誰からが、手紙を届けにきたのだ。
お姉さん手紙をもって、カウンターに戻ってきた。
「ハルク君宛てに依頼の手紙だったわ。はい、どうぞ。また城からよ」
「城から手紙……か」
たぶん王女マリエルだろう。
一介の冒険者であるボクのことを、王女が大っぴらに呼び出すのは世間的にまずい。
だから冒険者ギルドに依頼として手紙を出して、ボクを城に呼び出す方式なのだ。
「そういえば、たまに城に呼ばれるけど、いつも何の仕事をしているの?」
「えーと、修理の仕事です。ほら、ボクは前職が鍛冶師なので」
これも嘘ではない。
毎回、修理は必ずしている。
でも、その後の、ほとんどの時間はマリエルの話を聞いている。お茶会をしながら雑談をするのだ。
「なるほど、修理ね。頑張ってきてね。あっ、あと、“邪竜殺しの英雄”の情報を耳にしたら、報告してね、ハルク君」
「“邪竜殺しの英雄”の情報……分かりました」
あの日からハメルーンの街では、“ある人物”のことが話題になっていた。
――――その者の名は“邪竜殺しの英雄”。
邪竜によって、滅亡の危機にあったハメルーン。
どこからともなく現れて聖槍を放ち、邪竜の気を引きつけた英雄。
誰も目撃者はいないが、その後は荒野にて邪竜バルドスを討伐。
ハメルーン軍が見つけた、大量の竜の素材が証拠。
“邪竜殺しの英雄”は名も名乗らず、置き手紙だけを残し姿を消し去り、ハメルーンを救った英雄なのだ。
「それにしても“邪竜殺しの英雄”様、いったいどんな人なのかしら? たくましくて、筋肉隆々の戦士様? それとも聖剣や魔剣を扱う、精悍な剣士様なのかしら? もしくは若き大魔導士様? イヤーン!」
受付のお姉さんは独り言を言いながら、何やら頬を赤くしている。かなり浮かれている様子だ。
でも“邪竜殺しの英雄”の話をしながら、頬を赤くしているのは、実はこのお姉さんだけではない。
あの日以来、街の若い女の人は、こぞって“邪竜殺しの英雄”の話を街角でしながら、頬を赤くしているのだ。
理由はボクには分からない。きっと年頃の女の人は、正体が分からない秘密の英雄が好きなのだろう。
「えーと、それではボクは失礼します」
なんとなく気まずいので、ボクは冒険者ギルドを静かに後にする。
ゆっくりと大通りを歩いていく。
「“邪竜殺しの英雄”か……早く、噂が落ち着いて欲しいな」
ここだけの話、“邪竜殺しの英雄”の正体はボクだ。
でも今のところ誰にも言っていない。
何故ならあの後、ドルトンさんからもアドバイスを受けていたからだ。
……『ミカエル軍を戦闘不能にしたことと、邪竜バルドスを討伐したことは、とりあえず誰にも内緒にしておくのじゃ』と。
理由はよく分からないけど、ドルトンさん曰く『オヌシの規格外さを、悪用する者が必ず出てくる。オヌシの周囲の人材の基盤を固めるまでは、内密に行動した方がよいのじゃ』だという。
だからボクもアドバイスを受けて、今回のことは全て秘密にしていた。
今のところ周囲にはバレていない。
理由として目撃が、一人もいなかったからだ。
ボクが“城破壊弩”でバルドスを攻撃した時は、街から遠く離れていた。
城壁の上の守備隊からは、“光の矢”の放たれた……と見えていたらしい。
またミカエル兵は全員、【全方位ミスリル電導索】で昏睡状態だった。だから目撃者は誰もいないのだ。
あと“ハルク式荷馬車《改》”のことは、ハメルーン軍は“虹色の聖獣”と呼称している。
高速で自走していたから、荷馬車には見えなかったのだろう。
今ではミカエル軍を殲滅させて、街を救った神の使いとして、小さな石像を作っている市民もいた。
形は、四角で頭に角が生えた、四本足の奇妙な石像だ。
たぶん砲身が角に見えて、高速回転する車輪が足に見えていたのだろう。
「“邪竜殺しの英雄”と“虹色の聖獣”の噂か……きっと、その内に落ち着くだろう」
前に見た本に『人の噂も七十五日まで』と書いてあった。ハメルーン市民も、あと三ヶ月くらいで忘れるだろう。
だからボクもあまり気にないことにする。
「よし、城に向かうか。あっ、そうだ、その前にサラも誘っていかないと。手紙にも書いてあったし」
こうしてボクは見習い魔術サラを誘って、王女マリエルの元に向かうのであった。
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