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第47話:屋敷の食事

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王女マリエルを影ながら護衛するため、ミカエル王都にやってきた。
期間中は先々代ミカエル国王から褒美で貰った、屋敷に住むことに。工房を庭に設置して、温泉を採掘して少しだけ改造する。

「よし、屋敷の中も、こんな感じかな?」

温泉を採掘した後、屋敷の中も軽くリフォーム。自分たちの寝室やトイレを使いやすいようにしておいた。

少し大げさに改造してしまった部分もあるが、一ヶ月後に退去する時には、元通りに原状回復する予定。だから問題はないだろう。

「失礼します、ハルク様。夕食の準備が整いました」

執事のセバスさんが連絡にくる。食堂で夕食の時間だという。

「ありがとうございます、セバスさん。ちょうどトイレの改造が終わったので、今行きます!」

「トイレの改造、を? ――――っ⁉」

トイレの中を確認して、何やらセバスさんは固まっている。何かあったのだろうか?
でも表情はクールで、特に驚いた様子はない。

「何かありましたか、セバスさん?」

「……いえ、何でもございます。自分の修行不足と勉強不足を、痛感していたところです」

「ん? そうですか。それでは食堂に行きましょう!」

セバスさんの感動の部分がよく分からないけど、改造が終わったので食堂に向かう。
到着するとサラとドルトンさんは、既に着席している。
まるでレストランのような豪華な食堂だ。

「それにしても随分と大きなテーブルだな……しかも、こんなに三人とも離れているな」

ボクたち三人の食事テーブルは、異常なでの長さった。
普通に座ったら全部で三十人は座れる大きさ。かなりの距離を開けて、三席しか置かれていないのだ。

「ん? あれ? セバスさんたちの食事の席がないですね?」

「ハルク様は館の主で、お連れ様二人は客人でございます。我々使用人は、隣の別室で、後ほど粗食を頂く形式となっています」

「あっ、そうなんだ……」

セバスさんの説明を聞いて理解する。
きっと貴族の人たちは、使用人と食事をしないのだろう。

「それでは本日のディナーをお持ちします」

それから夕食の時間が始まる。
前菜からスタートして、スープにサラダ、メインディッシュ。
次々と出来立ての高級料理が運ばれてきた。

うん、とても豪華で美味しい料理だ。

(うーん、でも……なんか、この雰囲気だと、あまり美味しく感じないような?)

たしかに料理は最高に美味しい。
でもあまりにも大きすぎるテーブルと、使用人の人たちの影ながらの動きが、どうしても気になってしまうのだ。

「ごちそうさまでした!」

そんなことを考えていたら、デザートも完食。
食事の時間が終わり、ボクたち三人は席を立ち自分たちの寝室に戻る。
後はお風呂に入って、寝具に着替えてゆっくりして就寝するスケジュールだ。

でもボクは気になることがあった。
食堂を出る前に、執事セバスさんに確認しておく。

「あのー、セバスさん。ここの食堂の配置で、少し気になるところがあるんですが、少しだけ位置を変えても大丈夫ですか? あっ、もちろんボクの方で変更して、退去前には戻しておきます」

「食堂の配置換え、ですか? はい、もちろん。この屋敷はハルク様の所有物なので、何をしても構いませんが。いったい何を?」

「特にそんな大したことないです。それじゃ、ボクは少し道具を取ってきます!」

「…………」

セバスさんは不思議そうな反応をしていたけど、位置変換の許可は貰えた。
ボクはドルトン工房に移動して、作業を開始する。



作業を終えて食堂に戻ってきた。
使用人や料理人の人は、すでに誰もいない。

「おっ、ナイスタイミングだな。よし、このまま一気にリフォームしちゃおう!」

工房で作っておいた物を、【収納】からドンドンだしていく。

ん? この壁も邪魔だな。少しだけリフォームしよう。

あっ、こっちの厨房の壁も邪魔だな。よし、こうしよう!

ボクは音が出ないように作業。使用人には気がつかれないようにしていく。

「よし、できたぞ、いい感じなだ。明日の朝食の時間が楽しみだな!」

気がつくと深夜になっていた。
思っていたよりも時間はかかったけど、お蔭で予想以上にリフォームができた。
ボクは軽く温泉に入ってから、一人で寝室に向かう。



翌朝になる。
朝日が昇る前に、ボクは起床。昔から早起きは習慣になっていた。

いつもの私服に着替えて、早めに朝食会場に向かう。

ざわざわざわ……

朝食会場では使用人の人たちが、何やらザワついている。
どうしたのだろう?

「おはようございます! 何かありましたか、セバスさん?」

「お、おはようございます、ハルク様。実は昨夜何者かが食堂に侵入して、テーブルや調度品を奪い、壁を破壊していったのです。大変申し訳ございません!」

セバスさんは腰を直角にしながら、頭を下げてきた。
屋敷の警備も担当する使用人として、責任をとると謝罪してくる。

「いえいえ、謝らないでください、セバスさん。実は食堂の配置変えをしたのは、ボクなんです」

「な……ハルク様が、ですか?」

「はい、そうです。リフォームの内容を簡単に説明しますね。まずは大きすぎるテーブルを排除して、適度な大きさのテーブルに入れ替えました! あとは、使用人の皆さんの食事場所と食堂を繋げました。それに厨房の壁も取り払い、オープンキッチン方式に。これならボクたちとセバスさんたちで、一緒に食事ができるんです!」

昨夜ボクが行ったリフォームは簡単なもの。
結論から言えば屋敷の全員で、一緒に食事できる空間にしたのだ。

何故なら昨夜はあまりにも広すぎるテーブルで、異質な雰囲気で食事をした。
だから根本的にアットホームな感じに改造したのだ。

「あっ、あと、食事の形式も変えておきます。個人皿は撤去しておいたので、これからは大皿方式になります。それなら調理の人と給仕の人も、一緒に座って食事ができます! 自分のことは自分で行う“普通”の方式。あと後片付けて皿洗いも、みんな分担で行います!」

この部分も気になっていたから改造した。
大皿形式にしたら一皿ずつ料理を作って、運ぶ手間は省ける。
屋敷の全住人が同じ時間に、出来立ての温かい料理を、全員で一緒に食べることが可能なのだ。

「で、ですがハルク様は屋敷の主で、使用人である我々は、一緒に食事に同席することは出来ません」

「あっ、そうか。それなら今日からセバスさんたちは“使用人”ではなく、“ボクの家族”です! 家族なら一緒に食事をして普通ですよね⁉」

「か、家族ですか? 我々が?」

「はい、そうです! 昔読んだ本に書いてあったんです、『同じ釜の飯を食う人は家族ファミリーである』って。あっ、でもいきなり家族は変か……それなら“同居人”とか“仲間”とか、そんな感じです。とにかく、これはボクの望んだ形なんです!」

ボクは幼い時から、基本的に一人で生活をしてきた。食事も常に一人だけで。

だからこうした大人数での生活に慣れていない。
でも読んでいた本で、大切な言葉は知っている。
『同じ釜の飯を食う人は家族ファミリーである』という言葉を。だから思いっきってリフォームしたのだ。

家族ファミリー……ですか」

何やら小さく呟きながら、セバスさんは意味深な表情になる。
他の使用人はセバスさんに注目していた。つまりセバスさんの答えが、全員の答えになるのだ。

「それならハルク様。“命令”をしていただければ幸いです」

「命令を? それならとりあえず『今日から一緒に食事をしましょう!』です!」

「……はい、かしこまりました。我々一同、本日より全力で、ハルク様と一緒に食事に同席させていただきます」

セバスさんは決意の表情で、頭を深く下げきた。
それに倣うように、他の使用人のみんなも頭を下げてくる。

「皆さん、頭を上げてください。それなら朝食の準備をしましょう! もうすぐサラとドルトンさんも起きてくるので、二人をビックリさせましょう!」

ボクも手伝って、朝食の準備を開始。
調理人や給仕の子たちと自己紹介しながら、相手の話も聞いていく。

最初、みんな緊張していたけど、一緒に準備をしていったら、段々と打ち解けていけた。

「おはよう、ハルク君……えっ、この食堂は⁉」

「ん、どうした、嬢ちゃん……な、なんだ、これは⁉」

ちょうど朝食が完成したところで、サラとドルトンさんもやってきた。リフォームした食堂を見て、言葉を失っている。

「おはよう、二人とも。それじゃ、全員で一緒に食べましょう!」

約束通り全員で一緒に食事開始。

「「「いただきます!」」」

それほど大きくないテーブルに、約二十人で一緒に座る。少し狭く感じるが、昨日よりは良い雰囲気だ。
大皿形式の料理に手を伸ばしながら、ボクは皆と話をしていく。
まだ雰囲気に慣れずに、ぎこちない人もいるけど、昨日の何倍も楽しい食事の時間だった。

「ごちそうさまでした!」

食事と後片付けが終わり、皆に挨拶をする。これからボクたちは外出の時間だ。
そんな中、セバスさんが意味深な顔で近づいてきた。

「ハル様、あなた様は……いえ、何でもありません。お気をつけていってらっしゃいませ」

「はい、それでは行ってきます!」

こうして美味しい朝食を食べ終え、ボクたちは屋敷を出発する。
向かうは今日のマリエルの活動予定地……王都の最深部にあるミカエル城だ。
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