独裁王国を追放された鍛冶師、実は《鍛冶女神》の加護持ちで、いきなり《超伝説級》武具フル装備で冒険者デビューする。あと魔素が濃い超重力な鉱脈で

ハーーナ殿下

文字の大きさ
27 / 46

第58話:適材適所

しおりを挟む
サラの買い物に付き合って、高級魔道具店に来店。
クビになりそうな男性店員を助けるために、大商人マルキンに原石当てゲームを挑む。

「信じてください、マルキンさん! エドワードさんは必ず、貴方を助けてくれます! さぁ、エドワードさんも参加してください!」

正座しながら唖然としているエドワードさんの手を取り、強制的に原石鑑定ゲームに巻き込む。今回は発案者であるボクの権利を、強引に使用する。

「エ、エドワード。お前は、本当に分かるのか⁉」

「自信はありませんが、やってみます……」

混乱しているマルキンさんの隣に座り、エドワードさんは鑑定を始める。
鑑定用のルーペを使い、一つずつ石を調べていく。更にルーペを外して、素手で石の表面を確認していく。

「お、おい、ルーペを外して、何をしているのじゃ、エドワード⁉」

「これは石の表面の些細な違いを、確認しています。二十年以上前の修業時代……職人工房の先輩だったマルキン様が、未熟な弟子の私に教えてくれた鑑定の方法です」

マルキン魔道具店は店舗の他に、魔道具製造の工房もあるのだろう。若かい頃のエドワードさんは工房で、当時まで修行中だったマルキンさんと共に切磋琢磨していたのだ。

「なっ……そんなワシの昔の言葉を、よく覚えていたのか、お前は?」

「はい、旦那様。今は色々あって販売担当ですが……魔道具製造も好きだったもので」

会話をしながらもエドワードさんは、石の鑑定を続けていく。素手で感触を確かめ、ルーペで細部を確認していた。

――――そして表情が変わる。

「これです、お客様」

エドワードさんが差し出してきたのは一番小さな石。これがガルネット原石だと答えてきた。

「な⁉ ほ、本当に、それでいいのか、エドワード⁉」
「はい、旦那様。ここを見てください。微かに原石の痕跡が。あと、ここの質感が違います」
「むっ⁉ ほ、本当じゃ⁉ よくぞ、こんな些細な部分を……」

選出した石を、二人で再確認をしている。マルキンさんは納得しながら、エドワードさんに同意していた。

よし、悪くない雰囲気。タイミング的に今が最適だろう。
ボクはリュックサックから小型のハンマーを取り出す。

「それでは正解を発表します……はい、これが正解です!」

石を半分に叩き割る。中に見えるのは、燃えるように赤いガルネット宝玉。

「さすがです、エドワードさん! ボクの目に狂いはありませんでしたね!」

見込んだとおり、エドワードさんは見事に正解を選んでいたのだ。

「おおお! 本当にガルネット原石だった⁉ ん? し、しかしハルク様はどうして、このエドワードが正解を見抜けると、知っていたのですか⁉」

喜びながらもマルキンさんは混乱していた。
大商人である自分ですら、見破ることができなった些細な鑑定ゲーム。どうして一介の売り場店員であるエドワードが見破れたのか?
そして一番の謎は初対面のボクが、どうして見込んでいたのか?

全てのことが不思議過ぎて、マルキンさんは喜ぶところではないのだ。

「ボクが見込んでいたのは、“エドワードさんの手”に気がついたからです!」

「手……ですと?」

「はい。エドワードさんの手を、よく見てください。それは『日々本気で魔道具や原石を扱っている人の手』です! だから『この人なら見破れる』とボクは予想していたのです!」

エドワードさんの手は色んなところに、細かい傷や“道具タコ”があった。畑は違うけど同じ職人だから、ボクにはすぐに分かったのだ。

エドワードさんは売り場店員。だがきっと仕事が終わった夜や、休みの日を潰して、一生懸命に作業に取り組んでいたのだろう。

その本気の手を見ただけで、ボクの目に浮かんでくる。間違いなく『エドワードさんは魔道具や宝玉の加工が大好きな人』という事実が。
それほどの人なら原石当てゲームは簡単なのだ。

「本当なのか、エドワード?」

「はい……事実です、旦那様。実は希望とは違う“売り場コーナー”に急に異動となりましたが、今でも魔道具製造が忘れられなくて……人手の足りない工房の方も手伝いをしていました」

おそらく最近のエドワードさんは無理をして働いていたのだろう。そのため疲れとストレスが溜まり、サラに酷い接客をしてしまったのだ。

「な、なんじゃと⁉ お前が強制的に売り場に異動になったことは、人事部から何も聞いていないぞ、ワシは⁉」

一方で経営者のマルキンさんも多忙過ぎて、エドワードさんの異動の事情の把握できていなかった。
つまり今回は両者のすれ違いに、ボタンの掛け違いによって、起きてしまった事故みたいなものなのだ。

「あのー、ボクから提案なんですが。明日からでもエドワードさんを魔道具工房に戻す……というのはどうでしょうか? この人ほど魔道具製造を愛している人は、それほど多くはないと思います。マルキン魔道具店に将来的に、大きな利益を生み出すと思います! あっ……素人考えですが……」

言ってしまってから、少し後悔してしまう。鍛冶のことは経験あるけど、店の経営のことが素人なことを、興奮して忘れていたのだ。

「いや、ハルク様の提案は的確ですぞ。エドワードをクビにするのは止めます! そして提案のとおり魔道具工房に異動させますぞ!」

「だ、旦那様⁉ 本当ですか⁉ 本当に、また、あの場所に戻らせてもらえるんですか⁉」

一番喜んでいたのはエドワードさん。目を大きく開いて、マルキンさんに見つめている、

「ああ、本当だ。ワシの方こそ異動の件に気がつかなくて、すまなかったな。明日からは思う存分、魔道具工房でまた頼んだぞ!」

「はい、旦那様! 本当にありがとうございます!」

二人は手を取り合い、熱い握手を交わしていた。今回のことは本当に些細なズレから生じた事件。

だが元々、この二人は若い頃から、魔道具工房で修行した先輩後輩の同士たち。当時のことを思い出しながら、心を熱くさせていたのだ。

とにかくエドワードさんのクビが取り消しになって、本当によかった。

「さて、それではボクたちは失礼しまう。あと、鑑定ゲームの景品は、ここに置いていきます」

大きめなガルネット宝玉を、テーブルの上におく。勝負の結果は、見事にエドワード&マルキン組の勝ちなのだ。

「お、お待ち下さい、ハルク様! これは受け取れません! 今回のことは私たちのことを案じてことなのでしょう? 部下の将来性を見抜いてくれた恩として、経営者としてこれは受け取れません!」

だがマルキンさんは断固として、受け取らない。大商人として、一人男として受け取れないと、宣言してきた。

うーん、これは困ったぞ。
約束はしたから、ボクも引っ込めるのは格好がつかない。

あっ、そうだ。
ゲームの景品として受け取ってもらえないのなら、対価としてならどうだろう?

「それならマルキンさん。これはどうですか? 実はボクは“欲しい魔道具”が何個かあるんです。それを買う等価として、このガルネット宝玉を受けとってもらえませんか?」

サラが『魔道具店に買い物に行く』と言い出した時、実はボクも欲しい品があったのだ。
そのことを思い出して提案をしてみる。買い物ならマルキンさんは受け取ってくれるはずだ。

「……分かりました。それなら受け取ります。ですが『ハルク様は当マルキングループでの買い物は一生無料』ということになります。これで決定ですよ、ハルク様!」

「へっ? はい、ありがとうございます?」

よく分からない条件だけど、マルキンさんに無事にガルネット宝玉を受け取ってもらうことが出来た。

その後、下の階層で欲しい魔道具を、ボクは何個か買う。
値段はマルキンさんの指示で隠されてしまったので、いったい幾ら分の買い物になったか、ボクには分からない。

でもサラの驚いた反応を見た感じだと、凄く高い魔道具だったのかな?
よく分からないけど『高価な魔道具が一生無料』となったので、結果的に得した気がする。
なにせガルネット宝玉は原石を磨けば、もっと沢山収納してあるからね。

あと店を去る前に、エドワードさんに工具をプレゼントしてきた。あの人なら上手く活用してくれるだろう。

「さて、目当ての魔道具も買えたから、新しい鍛冶道具を作ろう!」

こうして魔道具店を後にしたボクは、新しい道具……“マリエル護衛をもっと安全に行うための道具”の製造に取りかかるのであった。
しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

放逐された転生貴族は、自由にやらせてもらいます

長尾 隆生
ファンタジー
旧題:放逐された転生貴族は冒険者として生きることにしました ★第2回次世代ファンタジーカップ『痛快大逆転賞』受賞★ ★現在4巻まで絶賛発売中!★ 「穀潰しをこのまま養う気は無い。お前には家名も名乗らせるつもりはない。とっとと出て行け!」 苦労の末、突然死の果てに異世界の貴族家に転生した山崎翔亜は、そこでも危険な辺境へ幼くして送られてしまう。それから十年。久しぶりに会った兄に貴族家を放逐されたトーアだったが、十年間の命をかけた修行によって誰にも負けない最強の力を手に入れていた。 トーアは貴族家に自分から三行半を突きつけると憧れの冒険者になるためギルドへ向かう。しかしそこで待ち受けていたのはギルドに潜む暗殺者たちだった。かるく暗殺者を一蹴したトーアは、その裏事情を知り更に貴族社会への失望を覚えることになる。そんな彼の前に冒険者ギルド会員試験の前に出会った少女ニッカが現れ、成り行きで彼女の親友を助けに新しく発見されたというダンジョンに向かうことになったのだが―― 俺に暗殺者なんて送っても意味ないよ? ※22/02/21 ファンタジーランキング1位 HOTランキング1位 ありがとうございます!

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

パワハラ騎士団長に追放されたけど、君らが最強だったのは僕が全ステータスを10倍にしてたからだよ。外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

こはるんるん
ファンタジー
「アベル、貴様のような軟弱者は、我が栄光の騎士団には不要。追放処分とする!」  騎士団長バランに呼び出された僕――アベルはクビを宣言された。  この世界では8歳になると、女神から特別な能力であるスキルを与えられる。  ボクのスキルは【バフ・マスター】という、他人のステータスを数%アップする力だった。  これを授かった時、外れスキルだと、みんなからバカにされた。  だけど、スキルは使い続けることで、スキルLvが上昇し、強力になっていく。  僕は自分を信じて、8年間、毎日スキルを使い続けた。 「……本当によろしいのですか? 僕のスキルは、バフ(強化)の対象人数3000人に増えただけでなく、効果も全ステータス10倍アップに進化しています。これが無くなってしまえば、大きな戦力ダウンに……」 「アッハッハッハッハッハッハ! 見苦しい言い訳だ! 全ステータス10倍アップだと? バカバカしい。そんな嘘八百を並べ立ててまで、この俺の最強騎士団に残りたいのか!?」  そうして追放された僕であったが――  自分にバフを重ねがけした場合、能力値が100倍にアップすることに気づいた。  その力で、敵国の刺客に襲われた王女様を助けて、新設された魔法騎士団の団長に任命される。    一方で、僕のバフを失ったバラン団長の最強騎士団には暗雲がたれこめていた。 「騎士団が最強だったのは、アベル様のお力があったればこそです!」  これは外れスキル持ちとバカにされ続けた少年が、その力で成り上がって王女に溺愛され、国の英雄となる物語。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...