5 / 41
第5話:冒険者ギルドの現状
しおりを挟む
家出したボクは転移装置で、遠い国に転移。
ダラクという都市国家に到着。
当初の目的地である冒険ギルドに向かい、入団試験に挑戦。
なんとか合格することが出来た。
◇
裏庭での試験が終わり、ボクたちはギルド内に戻って来た。
「おい、スーパールーキーの入団を祝うから、奥から酒を持ってこい! オレの秘蔵のやつを!」
「おい、ゼオン、いいのか? アレはお前の秘蔵の酒だろ?」
「このスーパールーキー様の祝い会だ! 遠慮はするな! だが一人、一杯ずつだぞ!」
「「「ヒャッホー! ゴチになるぜ、ゼオン!」」」
なんかギルドで酒盛りが始まりそうな勢い。
ギルドの奥の倉庫から、冒険者の人たちが酒瓶を持ってくる。
というか倉庫から勝手に、物を持ってきても大丈夫なのだろうか?
ギルドの人やギルドマスターに怒られたりしないのかな。
「あのー、ゼオンさん。ここのギルドの人は、どこにいるんですか?」
前に座る大柄のゼオンさんに、おそるおそる聞いてみる。
最初に入った時からの違和感について。
「あー、言い忘れていたな。今のこのダラク冒険者ギルドには、職員はいねぇ」
「えっ……職員がいない……ですか?」
「ああ、この国自体が、こんなになっちまったから、ギルドとして運営できていねぇんだ」
「なるほど、そんな事情が……」
言わば冒険者ギルドは、街の何でも屋さん。
ある程度の裕福さがなければ、何でも屋に依頼することは出来ない。
このダラクの国は、今や瀬戸際にある。
人々の生活は困窮して、誰も余裕がない。
だから掲示板はあっても、依頼の紙は一枚もない。
運営できないから経費もなく、受付のお姉さんがいないのだ。
「ん? ということは、ゼオンさんたちは、どうやって生活しているんですか? このギルドにいて?」
「オレたちの今の仕事は、国からの依頼が多いな。兵士や騎士も、だいぶ死んじまったからな。門番仕事や、夜間の巡回の警備、輸送馬車の護衛や城壁の修理……まぁ、国の何でも屋みたいなものだ。あとギルドの運営も、今は自分たちでやっている」
「なるほどです、そうだったんですか」
だから冒険者の人たちは、勝手に倉庫を使っていたのか。
全員が所属する冒険者であり、ギルドの運営スタッフみたいなものなのだろう。
かなり冒険譚と違う冒険者ギルドだ、ここは。
「ん? その顔は、アレだな。イメージが違っていたみたいな、感じだな? どうする?」
「えっ……? どうする……ですか?」
「ああ、そうだ。今ならお前は、まだ間に合うぞ。他の街にいって、“冒険王リック”みたいな冒険をすることも出来るぞ? どうする、ハリト?」
ピタリ。
――――ボクが辞める可能性がある。
ゼオンさんのそのひと言で、ギルド内の冒険者たちの動きが止まる。
歓迎の酒盛り準備を、中断したのだ。
「正直なところ、ここはボクのイメージとは全く違う、冒険者ギルドでした。活気もなくて、受付のお姉さんもいなくて、市民からの掲示物もないです……」
訪ねてきた、ゼオンさんの顔は真剣。
だからボクも正直な感想を述べる。
「ここに入ったらきっと、迷宮に潜り魔、物を倒してお宝ゲットしたり、盗賊団に襲われている馬車を助けることも、出来ないと思います……」
正直に話すボクに、全員の視線が自分に集中する
「でも、ボクは気が付きました。ここにいる人たちは、全員が真面目な冒険者なことを。訓練用の武器を一本一本、ちゃんと丁寧に手入れしていることを……」
これはさっきの鍛錬場で気が付いたこと。
「そしてボクは知りました。自分たちの生活のことより、ここの冒険者は市民や国の存亡のために、毎日命をかけていることを。この街を守るために、散っていった多くの冒険者の人たちの亡骸が、近くの墓地にあったことを、ボクは知っています」
「ハリト……お前ぇ……」
「「「…………」」」
ギルドの全員は思い返していた。
自分たちのことを。
生まれ故郷であるダラクの街。
大事な者を守るために、ここに残ることを選択したこと。
薄給にも我慢して冒険者を続け、街の人たちを守ってきたことを。
「だからボクは冒険者になりたいです。このダラクという街で! 国を愛する人たちが、こんなにも沢山いる、このダラク冒険者ギルドで! よそ者であるボクと、こんなにも真剣に向き合ってくれたダラクの冒険者に、ボクもなりたいんです!」
これは自分の偽りのない言葉。
たしかにダラクの街を始めて見た時は、驚きと落胆もあった。
でも多くの発見もあった。
口は悪いけど、親切な門番のおじさん。
自分の魔力が尽きるまで、市民の亡骸を浄化していた神官見習いのマリア。
そして無償に近い状態でもギルド残り、市民と国のために命を張る、ここにいる冒険者の皆さん。
この短時間で、こんなにも暖かく、熱い人たちに出会えたこと。
ボクの人生の中でも、最大級の大発見だった。
「ハリト……てめぇ……」
ゼオンさんが言葉に詰まっている。
「「「うっ…………」」」
あと冒険者の人たちから、すすり泣きが聞こえてくるような気もする。
「ハリト、本当に、ここでいいんだな?」
「はい、よろしくお願いいたします!」
「いい顔だ……よし、野郎ども、改めて歓迎会をするぞ! 乾杯の酒を用意しな!」
「「「うぉおお!」」」
ゼオンさんの一言で、またギルド内に活気が戻る。
みんなはグラスに酒を注いでいく。
でも今は戦火の中。
小さいグラスに茶色い酒を、少しだけ。
この街では、これさえも贅沢な一杯なのだろう。
こんなボクのために奮発してくれたのだ。
「よし、全員にいったな? それじゃ、乾杯するぞ。ハリト、お前も成人済みだろ? 飲めるか?」
「はい……いただきます!」
本当はお酒なんて、一度も飲んだことはない。
でもこのお酒は飲まないといけないもの。
漢として契らないと、いけない酒なのだ。
「それなら改めて乾杯をするぞ……このクソッたれなダラク冒険者ギルドに、ようこそ、ハリト!」
「「「かんぱーい!」」」
ゼオンさんの音頭で、全員で乾杯する。
ボクも一気に、茶色い酒を口にいれる。
「くぅーーーーう! これは、すごい……」
アルコールが口の中で暴れていた。
頑張って一気に飲み込む。
ふう……これが大人の酒。
冒険者たちの味なのか。
なんか、感慨深い。
よし、今日からギルドの一員として頑張っていくぞ!
「あのー、ちなみにゼオンさん。ここのギルドでは買い取りとかしているんですか?」
落ち着いたところで質問する。
冒険譚によると、冒険者ギルドでは色んな物を買い取りするらしい。
「買い取り? ああ、もちろんだ。だが今は非常時。買い取るのは決まっている。まずは食料品と生活必需品。あと武器や防具の類。ウチで買い取って、後で王家と商人の連中に、換金してもらう。その手数料がウチの運営資金にもなる」
「なるほど。まずは生活と戦いに必要な物が、必要になっているんですね」
「そうだ。あと魔道具や戦いに必須な“魔石”も買いとる。あれは不足しているから、いくらあっても困らない」
魔石は、魔物や魔獣の体内にある石。
倒した後に結晶化して、入手することが可能。
魔道具の原動力や、魔法使いの魔力補充に使うものだ。
「えっ、魔石も買い取ってもらえるんすか?」
「ああ、そうだ。ん? もしかしたら、持っているのか、ハリト?」
「えっ、はい。“少し”なら。買い取ってもらっていいですか?」
「ああ、大歓迎! 魔石は手数料も高いからな、うちのギルドも潤って助かる。ん? でも、手ぶらなお前は、どこに魔石を?」
魔石と聞いて、全員の視線がこちらに集まる。
「あっ、そうでしたね。それでは今から“出し”ます……【空間収納】!」
ポワン♪
生活魔法の一つの【空間収納】を発動。
収納していた魔石を出す。
ドッ、ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ!
あっ、でも失敗。
ちょっと量が多すぎたかもしれない。
テーブルの上から溢れて、下にも落ちてしまった。
ごめんなさい、ゼオンさん。
ん?
ゼオンさんの様が何やらおかしいぞ?
「な…………」
目を点にして、口を開けて言葉を失っている。
それに他の人たちも同じだ。
「「「な…………」」」
同じように言葉を失っている。
魔石を見ながら、全員が硬直していた。
「あの……もしかしてボク、なにか失礼なことをしちゃいましたか?」
おそるおそる訊ねる。
もしかしたら魔石の買い取りの、マナー違反をしてしまったのかもしれない。
「な、『なにか失礼なことをしちゃいましたか』じゃ、ねえぞ⁉ こ、この魔石の山は、どっから出したんだ、ハリト⁉」
「えーと、これは生活魔法の【空間収納】で、拾ってきた魔石を出しました?」
そして一気にギルド内が騒がしくなる。
「な……【空間収納】って、あの【空間収納】か⁉」
「ああ、あの伝説級の特殊魔法だぜ……」
「Sランク冒険者の中でも、ごく一部しか使えない、あの特殊魔法を……生活魔法だって⁉」
誰もがボクのことを見ながら、ザワザワしている。
なんか分からないけど、注目されて恥ずかしい。
「ふう……ハリト。お前のことは、今後は驚かないつもりだったが無理だったな、オレは。ところで『拾ってきた』って言っていたが、どこでだ?」
「えーと、この街に来る道中の山道で……あっ、たしかロッキーズ山脈です! そこで弱そうな魔物が、たくさん通せんぼうしてきたので倒したら、この魔石が落ちていました!」
その説明で更に、一気にギルド内が騒がしくなる。
「な……ロッキーズ山脈の魔物っていったら、極悪な魔物ばかりだぞ⁉」
「おい、あの魔石をよく見てみろ。あれは全部【危険度Bランク】以上の魔物の魔石ばっかりだぞ⁉」
「ま、マジか……【危険度Bランク】以上の魔物を『弱そうな魔物』って、どういうことだよ……」
「ああ……今日は悪い夢でも見ている気分だぜ……」
先ほど以上に、誰もがボクのことを見ながら、ザワザワしている。
なんか分からないけど、注目されて恥ずかしい。
そんな中でもゼオンさんだけは別。
「あっはっはっは……凄すぎて、もう笑いしか出ねぇな、こりゃ。だが、これ以上の頼もしい仲間はいなねぇな。これからよろしく頼むぞ、ハリト!」
「えっ? はい、こちらこそよろしくお願いいたします!」
ボクの冒険者ギルドの生活は、ついに幕を開けた。
でもなんか、よく分からないけど、すごく頼りにされている。
これから大丈夫かな……。
ダラクという都市国家に到着。
当初の目的地である冒険ギルドに向かい、入団試験に挑戦。
なんとか合格することが出来た。
◇
裏庭での試験が終わり、ボクたちはギルド内に戻って来た。
「おい、スーパールーキーの入団を祝うから、奥から酒を持ってこい! オレの秘蔵のやつを!」
「おい、ゼオン、いいのか? アレはお前の秘蔵の酒だろ?」
「このスーパールーキー様の祝い会だ! 遠慮はするな! だが一人、一杯ずつだぞ!」
「「「ヒャッホー! ゴチになるぜ、ゼオン!」」」
なんかギルドで酒盛りが始まりそうな勢い。
ギルドの奥の倉庫から、冒険者の人たちが酒瓶を持ってくる。
というか倉庫から勝手に、物を持ってきても大丈夫なのだろうか?
ギルドの人やギルドマスターに怒られたりしないのかな。
「あのー、ゼオンさん。ここのギルドの人は、どこにいるんですか?」
前に座る大柄のゼオンさんに、おそるおそる聞いてみる。
最初に入った時からの違和感について。
「あー、言い忘れていたな。今のこのダラク冒険者ギルドには、職員はいねぇ」
「えっ……職員がいない……ですか?」
「ああ、この国自体が、こんなになっちまったから、ギルドとして運営できていねぇんだ」
「なるほど、そんな事情が……」
言わば冒険者ギルドは、街の何でも屋さん。
ある程度の裕福さがなければ、何でも屋に依頼することは出来ない。
このダラクの国は、今や瀬戸際にある。
人々の生活は困窮して、誰も余裕がない。
だから掲示板はあっても、依頼の紙は一枚もない。
運営できないから経費もなく、受付のお姉さんがいないのだ。
「ん? ということは、ゼオンさんたちは、どうやって生活しているんですか? このギルドにいて?」
「オレたちの今の仕事は、国からの依頼が多いな。兵士や騎士も、だいぶ死んじまったからな。門番仕事や、夜間の巡回の警備、輸送馬車の護衛や城壁の修理……まぁ、国の何でも屋みたいなものだ。あとギルドの運営も、今は自分たちでやっている」
「なるほどです、そうだったんですか」
だから冒険者の人たちは、勝手に倉庫を使っていたのか。
全員が所属する冒険者であり、ギルドの運営スタッフみたいなものなのだろう。
かなり冒険譚と違う冒険者ギルドだ、ここは。
「ん? その顔は、アレだな。イメージが違っていたみたいな、感じだな? どうする?」
「えっ……? どうする……ですか?」
「ああ、そうだ。今ならお前は、まだ間に合うぞ。他の街にいって、“冒険王リック”みたいな冒険をすることも出来るぞ? どうする、ハリト?」
ピタリ。
――――ボクが辞める可能性がある。
ゼオンさんのそのひと言で、ギルド内の冒険者たちの動きが止まる。
歓迎の酒盛り準備を、中断したのだ。
「正直なところ、ここはボクのイメージとは全く違う、冒険者ギルドでした。活気もなくて、受付のお姉さんもいなくて、市民からの掲示物もないです……」
訪ねてきた、ゼオンさんの顔は真剣。
だからボクも正直な感想を述べる。
「ここに入ったらきっと、迷宮に潜り魔、物を倒してお宝ゲットしたり、盗賊団に襲われている馬車を助けることも、出来ないと思います……」
正直に話すボクに、全員の視線が自分に集中する
「でも、ボクは気が付きました。ここにいる人たちは、全員が真面目な冒険者なことを。訓練用の武器を一本一本、ちゃんと丁寧に手入れしていることを……」
これはさっきの鍛錬場で気が付いたこと。
「そしてボクは知りました。自分たちの生活のことより、ここの冒険者は市民や国の存亡のために、毎日命をかけていることを。この街を守るために、散っていった多くの冒険者の人たちの亡骸が、近くの墓地にあったことを、ボクは知っています」
「ハリト……お前ぇ……」
「「「…………」」」
ギルドの全員は思い返していた。
自分たちのことを。
生まれ故郷であるダラクの街。
大事な者を守るために、ここに残ることを選択したこと。
薄給にも我慢して冒険者を続け、街の人たちを守ってきたことを。
「だからボクは冒険者になりたいです。このダラクという街で! 国を愛する人たちが、こんなにも沢山いる、このダラク冒険者ギルドで! よそ者であるボクと、こんなにも真剣に向き合ってくれたダラクの冒険者に、ボクもなりたいんです!」
これは自分の偽りのない言葉。
たしかにダラクの街を始めて見た時は、驚きと落胆もあった。
でも多くの発見もあった。
口は悪いけど、親切な門番のおじさん。
自分の魔力が尽きるまで、市民の亡骸を浄化していた神官見習いのマリア。
そして無償に近い状態でもギルド残り、市民と国のために命を張る、ここにいる冒険者の皆さん。
この短時間で、こんなにも暖かく、熱い人たちに出会えたこと。
ボクの人生の中でも、最大級の大発見だった。
「ハリト……てめぇ……」
ゼオンさんが言葉に詰まっている。
「「「うっ…………」」」
あと冒険者の人たちから、すすり泣きが聞こえてくるような気もする。
「ハリト、本当に、ここでいいんだな?」
「はい、よろしくお願いいたします!」
「いい顔だ……よし、野郎ども、改めて歓迎会をするぞ! 乾杯の酒を用意しな!」
「「「うぉおお!」」」
ゼオンさんの一言で、またギルド内に活気が戻る。
みんなはグラスに酒を注いでいく。
でも今は戦火の中。
小さいグラスに茶色い酒を、少しだけ。
この街では、これさえも贅沢な一杯なのだろう。
こんなボクのために奮発してくれたのだ。
「よし、全員にいったな? それじゃ、乾杯するぞ。ハリト、お前も成人済みだろ? 飲めるか?」
「はい……いただきます!」
本当はお酒なんて、一度も飲んだことはない。
でもこのお酒は飲まないといけないもの。
漢として契らないと、いけない酒なのだ。
「それなら改めて乾杯をするぞ……このクソッたれなダラク冒険者ギルドに、ようこそ、ハリト!」
「「「かんぱーい!」」」
ゼオンさんの音頭で、全員で乾杯する。
ボクも一気に、茶色い酒を口にいれる。
「くぅーーーーう! これは、すごい……」
アルコールが口の中で暴れていた。
頑張って一気に飲み込む。
ふう……これが大人の酒。
冒険者たちの味なのか。
なんか、感慨深い。
よし、今日からギルドの一員として頑張っていくぞ!
「あのー、ちなみにゼオンさん。ここのギルドでは買い取りとかしているんですか?」
落ち着いたところで質問する。
冒険譚によると、冒険者ギルドでは色んな物を買い取りするらしい。
「買い取り? ああ、もちろんだ。だが今は非常時。買い取るのは決まっている。まずは食料品と生活必需品。あと武器や防具の類。ウチで買い取って、後で王家と商人の連中に、換金してもらう。その手数料がウチの運営資金にもなる」
「なるほど。まずは生活と戦いに必要な物が、必要になっているんですね」
「そうだ。あと魔道具や戦いに必須な“魔石”も買いとる。あれは不足しているから、いくらあっても困らない」
魔石は、魔物や魔獣の体内にある石。
倒した後に結晶化して、入手することが可能。
魔道具の原動力や、魔法使いの魔力補充に使うものだ。
「えっ、魔石も買い取ってもらえるんすか?」
「ああ、そうだ。ん? もしかしたら、持っているのか、ハリト?」
「えっ、はい。“少し”なら。買い取ってもらっていいですか?」
「ああ、大歓迎! 魔石は手数料も高いからな、うちのギルドも潤って助かる。ん? でも、手ぶらなお前は、どこに魔石を?」
魔石と聞いて、全員の視線がこちらに集まる。
「あっ、そうでしたね。それでは今から“出し”ます……【空間収納】!」
ポワン♪
生活魔法の一つの【空間収納】を発動。
収納していた魔石を出す。
ドッ、ジャラ、ジャラ、ジャラ、ジャラ!
あっ、でも失敗。
ちょっと量が多すぎたかもしれない。
テーブルの上から溢れて、下にも落ちてしまった。
ごめんなさい、ゼオンさん。
ん?
ゼオンさんの様が何やらおかしいぞ?
「な…………」
目を点にして、口を開けて言葉を失っている。
それに他の人たちも同じだ。
「「「な…………」」」
同じように言葉を失っている。
魔石を見ながら、全員が硬直していた。
「あの……もしかしてボク、なにか失礼なことをしちゃいましたか?」
おそるおそる訊ねる。
もしかしたら魔石の買い取りの、マナー違反をしてしまったのかもしれない。
「な、『なにか失礼なことをしちゃいましたか』じゃ、ねえぞ⁉ こ、この魔石の山は、どっから出したんだ、ハリト⁉」
「えーと、これは生活魔法の【空間収納】で、拾ってきた魔石を出しました?」
そして一気にギルド内が騒がしくなる。
「な……【空間収納】って、あの【空間収納】か⁉」
「ああ、あの伝説級の特殊魔法だぜ……」
「Sランク冒険者の中でも、ごく一部しか使えない、あの特殊魔法を……生活魔法だって⁉」
誰もがボクのことを見ながら、ザワザワしている。
なんか分からないけど、注目されて恥ずかしい。
「ふう……ハリト。お前のことは、今後は驚かないつもりだったが無理だったな、オレは。ところで『拾ってきた』って言っていたが、どこでだ?」
「えーと、この街に来る道中の山道で……あっ、たしかロッキーズ山脈です! そこで弱そうな魔物が、たくさん通せんぼうしてきたので倒したら、この魔石が落ちていました!」
その説明で更に、一気にギルド内が騒がしくなる。
「な……ロッキーズ山脈の魔物っていったら、極悪な魔物ばかりだぞ⁉」
「おい、あの魔石をよく見てみろ。あれは全部【危険度Bランク】以上の魔物の魔石ばっかりだぞ⁉」
「ま、マジか……【危険度Bランク】以上の魔物を『弱そうな魔物』って、どういうことだよ……」
「ああ……今日は悪い夢でも見ている気分だぜ……」
先ほど以上に、誰もがボクのことを見ながら、ザワザワしている。
なんか分からないけど、注目されて恥ずかしい。
そんな中でもゼオンさんだけは別。
「あっはっはっは……凄すぎて、もう笑いしか出ねぇな、こりゃ。だが、これ以上の頼もしい仲間はいなねぇな。これからよろしく頼むぞ、ハリト!」
「えっ? はい、こちらこそよろしくお願いいたします!」
ボクの冒険者ギルドの生活は、ついに幕を開けた。
でもなんか、よく分からないけど、すごく頼りにされている。
これから大丈夫かな……。
193
あなたにおすすめの小説
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!
石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。
応援本当に有難うございました。
イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。
書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」
から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。
書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。
WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。
この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。
本当にありがとうございました。
【以下あらすじ】
パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった...
ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから...
第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。
何と!『現在3巻まで書籍化されています』
そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。
応援、本当にありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる