バイスクル

トマト

文字の大きさ
3 / 10

その3

しおりを挟む

 談話室からでたトモを追う。
廊下の突き当たり、薄暗いといったその通りの場所にあるスタンド式の灰皿とソファー。トモはそこに座ってタバコに火をつけていた。

「あの……」
「はい?」

 しまった。どうはなしかけたらいいんだ。

「あ、タバコですか?セブンスターでよければありますよ」

 そうか。喫煙所で知らない人がはなしかけたら、タバコをほしがっているとおもうのが普通なのか。

「いえ、タバコはすわないので。えっと、ここは、教育学部ですか」

「そうですよ……きみは新入生?」

いぶかしそうに首をかしげるトモにあわてて答える。

「ここの学生ではないんですが、知り合いが通ってまして」

「なるほど。教育学部の子ならよんできましょか。せまいんで、すぐ、みつかるとおもいますよ」

「いいですいいです。教育学部の子じゃないです。待ち合わせに早くきすぎちゃったんですが、外でぼけーっと立っているのも、不審者みたいかなと、目に付いた建物にはいりこんだだけで・・・」

 だめだ。なにをいってるんだ。勝手に建物に入るほうが、よほど全力全開の不審者じゃないか。

 トモはくすりと笑いながらタバコを消した。

「君みたいな真面目そうな子、不審者にはみえませんよ。でも、時間があるなら、コーヒーにつきあってくれませんか。すぐそとに、学食があるんです。おごりますよ。」

 自分の分は自分でだします。といいかけて、財布らしきものをどこにも、もってないのに気づいた。

 広い学食の中は、時間帯がずれているせいか、まばらにしかひとはいなかった。トモはテーブルの端にそっとトランプをおいて座る。

「それって、手品とかで使うトランプですか?」

「ええ。『バイスクル』っていいます。紙製なんですよね。トランプゲームの『ナポレオン』ってしってます?」

「ええ、あまりやったことないですが。」


「トランプって、なんどでもつかえるプラスティック製しか知らなかったんだけど、趣味人の友達がこれを持ってきてね。はじめてみたときは、さわっていいの?ってかんじだったんですよ。」

 ブラックコーヒーを飲むトモをじっとみつめる。ユキがしっているトモはミルクも砂糖もたっぷりいれている。ブラックコーヒーを飲むトモは少し不思議なかんじがする。

「なんだか高級そうな感じがしてね。紙でできてるし、『スピード』とかは、こわくてできなかったんだけど、『ナポレオン』は、荒っぽいゲームじゃないんで、大丈夫かなと。去年は毎日談話室で仲間達と遊んでました。」

紙のケースから、カードをすべり落とすと、ひろがったカードの中から、一枚をつまみあげて、ユキにみせる。

「でもね。白熱すると、パシッて、机にたたきつけたりするから、結局ほら。少し、破れちゃったりするのもあって。トランプは目印ついちゃうと、もうつかえないですよね」

 破れたカードはスペードのエースだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

竜華族の愛に囚われて

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
近代化が進む中、竜華族が竜結界を築き魑魅魍魎から守る世界。 五芒星の中心に朝廷を据え、木竜、火竜、土竜、金竜、水竜という五柱が結界を維持し続けている。 これらの竜を世話する役割を担う一族が竜華族である。 赤沼泉美は、異能を持たない竜華族であるため、赤沼伯爵家で虐げられ、女中以下の生活を送っていた。 新月の夜、異能の暴走で苦しむ姉、百合を助けるため、母、雅代の命令で月光草を求めて竜尾山に入ったが、魔魅に襲われ絶体絶命。しかし、火宮公爵子息の臣哉に救われた。 そんな泉美が気になる臣哉は、彼女の出自について調べ始めるのだが――。 ※某サイトの短編コン用に書いたやつ。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...