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第四章 囚われし呪詛村の祟り編

173話

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「優斗、これからどうする?」
「とりあえず道なりに走って南下して国道に出るのがいいっぽいな。国道340号線があるみたいだし」
「わかった」

 オートマ車の運転に慣れてきたのか、純也が運転する車は、変な挙動を取る事もなく山道を走っていく。
 しばらく縫うように山道を走ったかと思うと坂道に差し掛かる。
 それから、少しして――2車線の道路へと出る。

「純也、そこの道を真っ直ぐだ」
「おう!」

 ようやく下山し、2車線の真っ直ぐ伸びる道路を、純也が運転する車は走る。
両端には水田が広がっていて、とても長閑だ。

「やっと変な空間から戻ってきたって感じだな」
「ああ。そうだな」
「あれ?」
「どうかしたのか?」
「――いや、猿が消えているんだけど?」
「そうなのか?」
「きちんと車の後部座席に乗せていたのに、おかしいな。どこかで落としたとか無いよな?」
「それはないと思うぞ」
「でも、戻るのはマズイよな?」
「当たり前だろ」
「だよな。都と胡桃ちゃんも乗せているもんな。それより、優斗」
「ん?」
「二人には、どう説明する? あのへんな世界のこと」
「黙っておくのがベストじゃないのか? 余計な心配はかけさせたくないし――」
「でも記憶に残っていたら……」
「……」

 その時は、記憶処理をするのも致し方ないか。

「優斗?」
「――いや、何でもない」

 今――、何を考えた?
 額に手を当て自問自答しようとしたところで、車が何かに乗り上げる。

「橋か……」

 どうやら道路と橋の段差に一瞬だけ車は乗りあげたようだ。
 橋を通り過ぎたあとは、田んぼの中を真っ直ぐに伸びる道を車は走る。

「なあ、優斗。さっきから車と擦れ違わないんだけど」
「車だけじゃない。人の気配がない」

 波動結界で周囲を確認したが、山を下りてからというもの人の気配が全くない。
 明らかに異常な事態。
 その間も、俺はスマートフォンで地図を表示しながら走っている場所を確認するが――。

「国道340号線に出た。南に向かってくれ」

 一応、波動結界で安全を確認しているが、やはりというか町の中に入っても人影が一切ない。
 しばらく走ると繁華街というかシャッター街に出たところで、警察車両が3台ほど道路に停まっているばかりか、俺達の進行方向を通せんぼするかのように行動していた。

「――なあ、優斗。警官が手ぶりで停まれって言っているように見えるぞ」
「奇遇だな。俺も、そういう風に見える」
「ちなみに俺、免許証持ってないんだが?」
「……まぁ、何とかなるだろ」
「何ともならねーよ! どうするんの? 俺、無免許で捕まるんじゃねーの?」
「そこは何とかして見る」
「何とかってどうするつもりだよ……」
「とりあえず強行突破するような真似はするなよ?」
「わかったよ……」
「あとは、俺が話してみるから」
「大丈夫なのか? お前で」
「俺が、コミュ障みたいな言い方をするのは止めてもらおうか」

 警察の誘導に従って純也が車を停車させると警察官が、近づいてくる。
 俺は、ルーフから体を乗り出す。

「ちょっといいか?」
「君! ルーフから身を乗り出すと危険だぞ! それよりも、どうして、ここに居るんだ? 今、ここは立ち入り禁止地区に設定されていて避難勧告をされているはずだが? 逃げ遅れたのか?」

 そう警察官は、話しかけてくる。
 俺は、ポケットから警察手帳を取り出し、警察に見せる。

「こ、これは――」
「ちょっと静かに――」

 俺は口元に指先を当てながら、余計なことを公言しないように口留めする。
 そして車の外に出たあとは、警察官と一緒に車から離れる。

「もう一度、見せて頂いても?」
「ああ」

 俺は警察官に、支給された警察手帳を見せる。

「これは……。警視監の……。本物だよな?」
「ああ。間違いない」
「これは本物だな」

 道を封鎖していた警官たちは、俺の警察手帳の真偽を確認したあと、無線で何処に確認を取っているようだ。

「確認が取れました。桂木警視監」
「それは何よりだ。それよりも聞きたいんだが、人の姿をまったく見ないんだが、どうなっているんだ?」
「それは、現在、遠野市全域に避難命令が出ているからです」
「遠野市全域に?」
「はい。遠野市全域、26000人全てに避難命令が出ています。現在、一部の地域で通信障害だけでなく、行方不明者が多数出ており、岩手県警が封鎖を行っている真っ最中です」
「ふむ……。それよりも桂木警視監」
「何だ?」
「県警本部から、桂木警視監に本部まで出頭して頂きたいとのことです」
「分かった。ただ、俺の友人を安全な場所に連れて行きたい。その後で問題ないか?」
「それでしたら、私が桂木警視監の御友人を岩手県警までお連れします。桂木警視監は、パトカーで先に向かってください」
「仕方ないな」

 警察官が車を用意している間に、俺は純也が運転する車に戻る。

「どうだった? 優斗」
「警察官が、岩手県警本部まで来て欲しいらしい」
「それって、お縄になったりしないよな?」
「その辺は大丈夫だ。何か知らないが、この付近一帯が避難命令が出ているらしい」
「もしかして、あのへんな空間のことか?」
「たぶんな」

 それ以外に思いあたることがない。

「とりあえず、この車は警官が運転してくれるらしいから、助手席に移動しておいた方がいいな」
「あれ? 優斗は?」
「俺は、乗り切れないから別のパトカーで岩手県警本部まで移動することになった」
「そっか……。なら仕方ないな」
「だな」

 
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