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第四章 囚われし呪詛村の祟り編

172話

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「――で、外に俺を連れ出した理由は、どういう意図だ?」

 地下室を上がり家の外に出たあと、俺は厚木を見ながら話しかける。

「少々、困ったことになった」

 俺の問いかけに、眉間に皺を寄せ乍ら答えてくる厚木。

「困った事?」
「ああ。君は、霊力を持たないから察知できないと思っているが――、君の友人が連れている式神だが――」
「式神? 何の事だ? まさか……、あの猿のことか?」

 コクリと頷く厚木に、俺は溜息をつく。

「もしかして2匹ともか?」
「うむ。あれは、前鬼と後鬼という式神になる」
「……そういえば、純也に猿を渡すときに、安倍先生が猿の名前は後鬼だと言っていたな。それが何か困った事になるのか?」
「あれは、代々、安倍晴明から、歴代の安倍家当主が受け継いできた最強の式神になる」
「最強ね……」

 俺から見たら、普通の猿にしか見えないんだが……。

「懐疑的な目で見ているのは分かる。ただ、あの式神は当主と霊力で繋がっている。そして霊力で繋がっていなければ現実世界に存在すらできない。つまりだ――、この世界は現在、外の世界と隔絶させているということはだ――」
「ああ、なるほど」

 何となくだが理解できた。

「つまりアレだろ? この世界のどこかに、安倍珠江がいるってことか」
「うむ。だから問題なのだ。お嬢様が、この世界に居るということは、あの式神が、ここに存在しているという事は……だ。お嬢様は、無防備の状態で、この世界に居るという事になる」
「言いたいことは分かった。つまり助けが必要ということか」
「やってくれないか?」
「断る」
「――な、何故だ?」
「まず一つ目、烏丸を殺した人物が、この世界に存在していること。第二に、この世界に都を放置して見ず知らずの第三者を救助する為に動くなどありえないという事だ」
「だが! 君の妹の身の安全を私は見ていたのだぞ?」
「そいつは、旅館で生存者を発見できなかったという事で約束は終えているだろう? 新に契約を結ぶ道理にはならないし、それに結界も時間がないだろ?」
「だが……。何とかしなければ、この世界からは出ることは叶わないのだぞ……」
「その点に関しては考えてある」
「打開策でもあるのか?」
「ああ。この世界が隔絶されているのなら、隔絶している結界を破壊すればいいだけの話だからな」
「だから、それは無理だと……」
「とりあえず、俺は身内以外を助けるつもりはないし、都を危険に晒すつもりもないから、この世界からは出させてもらう」
「君は、この世界が悪化するどころか、広がっていると言う事を知っていても何もしないと言うのか?」
「広がっている?」
「そうだ。当初ほどではないが、人が歩く速度で、この世界は通常の世界を呑み込み始めている。それでも君は――」
「俺には関係ないな」

 バッサリと切って捨てる。

「そもそも俺は、俺の為に戦っているだけで他人の為に無給で働くなぞ、まっぴらごめんだ」
「君は……。それだけの力を持っているというのに……、正しい事の為に使おうとしないのか……」
「悪いな。俺は生憎、正しいとか正義って言葉は嫌いなんでな。別に爺さんが、博愛精神を持って誰かを救いたいなら俺は止めはしない。だが、俺の身内を巻き込むのは、許容できない。もし邪魔をするのなら――」

 俺は殺気を込めた眼差しで厚木を見る。

「……分かった。もういい。頼むことはしない」
「それが懸命だな」

 俺は爺さんを残し地下室へと降りる。

「お、戻ってきたか」
「純也、すぐにここから移動するぞ」
「移動って、車でか?」
「ああ。まずは、この世界から脱出する」
「脱出って、この変な世界から出る方法が分かったのか?」
「ああ。厚木さんは都市伝説に詳しいらしい。だから眉唾かも知れないが、この世界から抜け出す方法を教えてくれたから、それに沿って動こうと思う」
「――なら、すぐに行こうぜ」
「ああ」

 俺が都を背負い、純也が妹を抱き上げ、それぞれ車まで移動し後部座席に乗せたあと、シートベルトを着用させる。
 さらに台所から包丁を一本拝借し助手席に乗り込む。

「純也。とりあえず道なりに旅館とは反対側に向かってくれ」
「分かった」
 
 車は旅館とは反対側へと走り出す。
 俺は助手席から頭を出しつつ、前方を見つめる。

「優斗! 本当に、この道をまっすぐ進むだけで、この変な世界から出られるのか?」
「ああ。俺の任せておけ!」

 俺の波動結界が、この世界しか見る事が出来ないのなら――、つまり逆を言えば、この世界と現実世界との境界線をハッキリと認識できるという事。
 波動結界を展開したまま純也に返答しつつ、俺は前方を見続ける。
 5分ほど車が走ったところで、俺の波動結界が干渉できない境界を発見した。

「純也、そのまま、同じ速度で真っ直ぐ走ってくれ」
「分かったって――、え? 何しているんだ!? 優斗!」
 
 俺は助手席から、車のルーフを開けて、上半身だけを出す。

「これが大事なんだよ」
「そ、そうなのか? それが厚木さんのって!? そういえば厚木さんを置いてきたけど大丈夫なのか?」
「知らん! それよりも、まっすぐ走れ!」
「あー、もう! 分かったよ!」

 近づいてくる境界。
 俺は包丁を右手に構え、体内の生体電流を操作し――包丁へと集約させていく。
 包丁の銀色の刃が灼熱色に染まっていくと同時に、巨大なスパークが発生し――、甲高い放電現象の音が鳴り響く。

 ――そして、境界面まで近づいたところで俺は包丁を一閃し――、空間を作り出していた粒子の繋がりを斬り裂く。

 鏡が割れた音が周囲に響くと同時に、前方に裂け目が生じる。
そして俺達が乗った車は空間の亀裂の中へと飛び込む。
 
「優斗! へんな空間から出られたぞ!」

 感極まった純也の声が車の中から聞こえてくる。

「ああ。何とかうまくいったな」

 空は、青空へと戻っている。
 後ろを振り返ると、俺が破壊した結界の壁は修復させていき――、見た目からは何も変化がないように見えるが――。

「こいつは厄介だな」

 外から異常性を確認できない結界で尚且つ、着実に広がっているとなると、面倒にしかならないか。
 とりあえず――、神谷には伝えておくとするか。



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