上 下
99 / 196

リンゼント男爵領での戦闘(2)

しおりを挟む
 すかさず馬の胴体を蹴り距離を取る。
 それと同時に、真っ赤な血飛沫が周囲に撒き散らされると共に馬は主を失ったことに気が付いたのか走り去っていき――、残り2頭の馬も散っていった。
 
「――さて……」
 
 俺はアルバニアのマントで日本刀の刃を拭き鞘へと戻す。
 
「リルカの方はと――」
 
 視線を後方へと動かすと、森の中から「ドッカーン!」と、巨大な音と共に地響きが足の裏を通して伝わってくる。
 そして4頭ほどの馬が森の中から出てくる。
 それを暗闇の中で、ギリギリで躱す。
 
「また、派手にやったな。やったのはリルカか? それともエルナか?」
 
 急いで駆け付ける。
 森の中を走ること2分ほど。
 そこで俺は足を止める。
 視線の先にはクレーターが存在していた。
 それは、明かに人為的に作られたモノと呼べるもの。
森林の中に作られたクレーターの中心には、リルカが立っていた。
 
「エイジさん?」
「また派手にやったな」
「ごめんなさい」
「気にすることはない」
 
 俺は、リルカを中心にして倒れ伏している騎士達を見て肩を竦めながら答える。
 
「俺の方も全滅させたから、仕方ない」
「エイジさんの方も、いきなり攻撃を仕掛けてきたのですか?」
「まあな……。それよりもリンゼント男爵は、どうやら上の人間からの依頼で騎士団を動かして、俺達を亡き者にしようと行動したらしい」
「そうなのですか……。エルダ王国は、獣人族と友好関係を築く予定だとエイジさんから聞いていましたから、まさか攻撃を仕掛けてくるとは思いませんでした」
「それで、全力全開で攻撃したってことか?」
「はい」
 
 コクリと頷くリルカ。
 
「あとは――」
 
 俺は周囲を見渡す。
 
「エルナと、ディアナは、どこにいるんだ?」
「二人は、森の中に侵入してきた残りの人間を見に行っています」
「――なら、すぐに向かった方がいいな」
「はい!」
「どっちにいるのか分かるか?」
「こっちです!」
 
 リルカは、匂いを嗅ぐような動作をしたあと、すぐに走り出す。
 俺は身体強化し、リルカの後を追う。
 走り出して1分ほどで――、木が折れる音と共にメキメキッと、木が目の前で倒れる。
 
「ば、ばかな……。獣人に――、これほどの力があるなんて聞いて……」
 
 よくよく見れば、倒れた木に、兵士の体がのめり込んでいる。
鎧の腹部付近が陥没している事からも、殴られて吹き飛ばされたというのが簡単に想像がつく。
 
「神田しゃん!」
「エルナ、やりすぎだ」
「ごめんなさいでしゅ」
「まぁ、生きてるから問題はないか……」
 
 エルナの後ろ――、少し離れた場所には、鎧を着た兵士達の死体が散乱しているのが見て取れる。
 そして、その死体が散乱している場所には山猫族のディアナが立っていて――、
 
「ご主人様。適性勢力の排除に成功しました」
 
 ――と、こともなげに頭を下げてくる。
 それにしても、敵対する相手には容姿ないよな……獣人族は。
 まぁ、人間と現在進行形で戦争をしている仲だから、何かあれば恨みを晴らすとばかりに戦うようになるのは致し方ないと言ったところか。
 
「リルカ」
「はい」
「そこの木に埋まっている兵士の治療をしてくれ。リンゼント男爵について聞きたいことがある」
「分かりました」
「エルナとディアナは俺と一緒に死体を片付けるぞ」
「分かったでしゅ!」
「分かりました」
 
 生活魔法で作りだした地面の穴へと、騎士や兵士の死体を投げ入れる。
 そのあとに土を盛り、墓にした。
 
「エイジさん。兵士の方が目を覚ましました」
「分かった」
 
 リルカと共に幌馬車まで移動する。
 兵士は木に背中を預けるような形で座っていた。
 
「き、きさまは……」
 
 俺の姿を見た瞬間、男は眉間に皺を寄せて口を開くが、その声に力はない。
 リルカが治療をしたと言っても、それは完治からは程遠く会話が関の山と言ったところだろう。
 それでも、俺を忌々しい表情で見て来ているあたり、恨まれているのが分かるし、尋問をしても大丈夫と言う事だろう。
 
「俺か? 俺はベックと言う」
「――!?」
 
 隣にいたリルカが、目を見開くが口に出すようなことはしなかった。
 そこは助かった。
 
「な、なんだ……と? ベックだと? それは、一体、誰だ……」
「俺のことだが?」
 
 名前を偽る。
 しかも髪の色を生活魔法で金髪へと変える。
 
「ま、まさか……、貴様は、本当に……エイジ・カンダでは……ないのか?」
「だから言っただろう? 俺はベック! 奴隷商人のベックだ!」
 
 すまないな、ベック。
 ここは尋問のために、お前の名前を使わせてもらうぜ!
 
「つまり貴様は、エイジ・カンダの身代わりだったということか?」
「その通りだ。旦那が、何の手立ても対策も取らずに王都に向かうほどの無策だと思ったか? 大天才の策略家のイケメンのエイジの旦那が、町中で、堂々とうろついていた方こそ、おかしいと気が付くべきだったな!」
「なるほど……、どうりで膝に矢を受けた歩き方ではなかったはずだ……」
「ふっ、さすがはリンゼント男爵様の兵士だけはあるな」
 
 
 

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

冒険旅行でハッピーライフ

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:271pt お気に入り:17

異世界転移でデミゴットに!?~丈夫な身体+強化=手加減必須の破壊神!?~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:4,452pt お気に入り:527

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21,233pt お気に入り:1,321

前世の記憶さん。こんにちは。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:1,132

転生不憫令嬢は自重しない~愛を知らない令嬢の異世界生活

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:29,714pt お気に入り:1,861

処理中です...