昔好きだったお姉さんが不倫されたので落としに行ったら後輩からも好かれていた

九戸政景

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第十二話

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 放課後、部活動が始まる前の少し空いた時間に俺は一人で教室にいた。その理由はもちろん、昼に取り付けた白鷹との待ち合わせのためだ。誰もいない教室はシンと静まり返っていて、今朝や昼、そして授業中に他の誰かがいたのが嘘のように静寂に包まれていた。

 そして待つ事数分、律儀にノックしてから白鷹はカバンを持って教室内に入ってくると、俺の目の前で足を止めてからこれまた律儀に頭を下げた。


「柴代先輩、お待たせいたしました」
「いや、全然待ってないよ」
「……そういう台詞は恋人が出来た時のデートで言ってあげてください。そういう言葉を平気で異性に使うのはあまりよくないですよ」
「待ってないのは事実なんだけどな。それで用件はなんだ?」


 その問いかけに白鷹は顔を赤くしながら少し言いにくそうにする。傍目から見れば、その姿は誰もいない教室で白鷹が俺に告白をしようとしているそんな青春の1ページのように見えるだろうが、決してそんな事はない。天鷲が懐いているから白鷹には警戒されてないだけで、白鷹が俺の事をそういう目で見てないのはわかっているからだ。


「その……ですね。し、柴代先輩がお好きなのは、秋田先輩のお姉さんなんですよね?」
「そうだけど……それ、泰希から聞いたのか?」
「はい。それで……なのですが、部外者の私があれこれ言う事ではないのですが、やっぱりご結婚をされている方を恋慕うのは色々とよくないんじゃないかと思いまして……」


 こういう話題はあまり得意じゃないのか白鷹の顔は段々赤くなり、徐々にワナワナとし始める。苦手な話題でありながらしっかりと気持ちを伝えてくる。そんな白鷹の姿はとても可愛らしく、愛おしさすら感じるものだった。そしてふうと息をついた後、俺は白鷹の肩に手を置いた。


「あ……」
「プライベートな事だからあまりベラベラと喋る事じゃないと思うけどさ、泰希のお姉さんの夕希さんは最近離婚したんだよ」
「そ、そうなんですか……?」
「ああ、相手の不倫が理由でな。だからってわけじゃないけど、俺は捨てようとしていた恋心をまた燃やして頑張ろうと思ってる。一度諦めはしたけど、やっぱり夕希さんの事は好きだし、好きになるのは夕希さん以外にいないと思ってるから全力で落としに行くつもりだ。泰希にも応援してもらってるし、泰希達の親御さん達も俺に期待してくれてるみたいだしな」
「柴代先輩……」


 白鷹は上目遣いで俺の顔を見る。まだ幼さはありながらも大人びた印象のある白鷹の綺麗な顔立ちはやはり異性を魅了してもおかしくないもので、天鷲の見た目ばかりに目を奪われて白鷹のよさに気づけない男子達はもったいない事をしてるなと思った。

 そうして白鷹は俺の顔をジッと見てきたが、やがて少しおかしそうにクスリと笑った。


「なんというか、そういうまっすぐなところは本当に柴代先輩らしいですね」
「ん、そうかな?」
「そうですよ。何事にも全力だけど相手のために頑張ろうとするあなたらしいです。だから、あの子も……」
「あの子ってもしかして……」


 天鷲の顔を思い浮かべていると、白鷹は静かに頷いた。


「はい、朝香です。あの子はたぶん自覚はしてませんが、柴代先輩に恋をしています。だからあんなに笑顔を見せていますし、警戒せずに懐いているんです」
「え、自覚ないのにあんなにスキンシップが多いのか? それ、俺だからまだよかったけど、他の男子とかだったら結構危ないんじゃないか?」
「ええ、本当に。まったく……本当に危機感のない子で私も心配になっています。ただまあ、裏表がなくて何事にも素直なのはあの子のよさなんですが、それにしても危機感が無さすぎるんです……」


 白鷹は深刻そうに額を押えながらため息をつく。そして俺を見てから真剣な顔で再び話し始めた。


「とりあえずそれだけはわかっておいてください。柴代先輩が朝香をただの後輩としか見ていないのはわかっていますが、あの子が恋心を自覚した時はあまりの出来事に言動が暴走しかねないのでそれをどうにかしてほしいんです」
「たしかにあり得るな……わかった、その時はどうにかしておくよ」
「ありがとうございます。そしてこれは……」


 そう言うと、白鷹は少し背伸びをして顔を近づけ、首もとに軽く口づけをしてきた。


「え……」


 そのあまりの出来事に俺がボーッとしていると、白鷹は顔を赤くしながら後ろを向いた。


「お、お礼の先払いです。では、先に家庭科室に行ってますから……! 柴代先輩もご自身が異性から見て魅力的な男性なのは自覚してくださいね!」


 白鷹はドアを開けて走り去っていき、俺は白鷹が出ていった入り口をボーッと見ていた。


「まさか白鷹も俺に……いやいや、キスは外国なら挨拶代わりにすることもあるって言うし、お礼の先払いみたいだから深い意味はないだろ、うん」


 自分に言い聞かせるように言った後、俺もカバンを持って家庭科室に向かった。首もとにほんのりと残った唇の感触の余韻と仄かな温かさを感じながら。
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